EurActiv 2009年4月28日
欧州議会
ナノテクノロジーの厳格な規制を支持


情報源:EurActiv, 28 April 2009
MEPs back tougher rules for nanotechnology
http://www.euractiv.com/en/science/meps-back-tougher-rules-nanotechnology/article-181695

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/EurActiv/euractiv_090428_MEPs_back_nano.html


背景
 ナノスケール物質の独自の特性と挙動、及びその特別の機能を持つ特徴は産業と日常生活を一変させることを意味する。
 しかし、ナノテクノロジーに関連する倫理的、法的及び健康の問題が提起されている。欧州委員会は、2008年2月にナノテクノロジーの安全な成長を目指して行動計画を作成し、ナノテクノロジーの責任ある研究のための行動規範を発表した。

 いくつかのプロジェクトがこの新興テクノロジーの将来に関する意見を引き出し議論を促進する途上にあり、ナノテクノロジーの規制とガバナンスに関する利害関係者の対話を支援する FramingNano などがある。

 本年1月に欧州議会の環境委員会が、欧州委員会に対し、全てのの法令が見直しをされるまで、全てのナノ物質について、”ノーデータ・ノーマーケット”原則を実施するよう要求する報告書案を発表した時に大きな動揺が起きた(EurActiv 2/2/09)。

 これは、ナノテクノロジに関する事実上のモラトリアムということになり、製品のあるものは市場から撤去ということになる。
関連文書リンク
関連記事
 欧州議会は先週、スウェーデン緑の党(Green)欧州議会議員カール・シリターが作成した欧州委員会にナノ物質に対する姿勢を変えるよう求めた議論ある報告書を支持し採択した。議員らは、すべてのナノ物質は新規物質とみなされるべきであり、既存の法(訳注:REACHのこと)はナノテクノロジーに関連するリスクを考慮していないと述べた。

 環境及び消費者グループはこの採択を歓迎したが、産業グループは、”不適切”な規制はヨーロッパの成長産業のひとつを妨げると警告した。

 この自主的(own-initiative)報告書は賛成 391、反対 3、欠席 4という圧倒的多数で採択された。この議会の決議には法的拘束力はないが、欧州委員会は、そこに含まれる批判に対してまだ公式に反応していない。

 シリターは欧州議会の総会で採択されたこの決議は、”欧州委員会及び化学産業に対する強い警告である”と述べた。

 彼は、EU執行部はナノ物質に対する姿勢を変え、全ライフサイクルを通じてナノ物質の全ての応用の安全性を保証するために、関連する全てのヨーロッパの法律を見直さなくてはならないと主張した。

 この報告書はまた、ナノ物質を含む消費者製品は”ナノ”とラベル表示されなくてはならず、欧州委員会はナノ物質を扱う従業員を保護するために労働者保護の法律を見直さなくてはならないと要求した。

 欧州委員会は、ナノテクノロジーのリスク評価に関するパブリックコメントを実施しているというニュースがある。欧州委員会は本年9月10日に予定されているこの問題に関する公聴会に先立って利害関係者からのオンラインでのコメント提出を求めている。


立場:
 スウェーデン緑の党カール・シリターは、欧州委員会のナノ物質規制に対する”様子見(wait-and-see)”の態度は受け入れることができないと述べた。彼は2年以内に関連する法の徹底的な見直しを求めた。

 ”使用と安全についてほとんど情報がないままにそのような製品を市場に出すことを許すのは安全ではなく責任もない。またそれらが有害ではないことを確実にする具体的な法的条項もない”。

 ”欧州委員会が、一般的な共同体の法令はナノ物質のリスクをカバーしていると示唆するのは無責任である。共同体の法令にはナノに特定した条項がないために、そのリスクに対して事実上、盲点となっているのだから、我々が最も必要としていることは現在の法の実施を改善することである”と彼は述べた。

 シリターは、欧州委員会は、’ノーデータ・ノーマーケット’原則を実施すべきであると付け加えた。”我々は、ナノ物質が安全評価なしに又は不十分なままに市場に出されることを許すことはできない”と彼は述べた。

 この採択はまた、透明性と追跡性を確実にするためにナノ表示を要求していた欧州環境局(EEB)によって歓迎された。”我々はこの投票結果に非常に満足しており、何らかの真のフォローアップを見たいと望んでいる”とEEBのナノテクノロジー政策担当ドラゴミラ・ラエバは述べた。

 ”欧州委員会がナノ物質に関連する全ての法令の見直しを2年以内に了することを確実にすることが特に重要である。この行動は、これらの微細な物質が市場で爆発的に増加する前に、正しい枠組みがそれらの安全な製造と使用のために設定されることを保証するであろう”。

REACHforLIFE訳注1)は、この報告書は新興の技術の発展を後退させるものであると警告し、感激しなかった。REACHforLIFEは、’健全な科学(sound science)’がナノテクノロジーの政策策定を支えるべきであると述べた。同組織は増大する投資を魅了しているが、不適切で矛盾する法令はヨーロッパの活力があり発展中の領域を危うくする結果となる”と述べた。

 ヨーロッパの消費者団体 BEUC はこの採択を歓迎し、ナノ物質に関する具体的な法の枠組みを求めて次のように述べた。

 ”特に食品と化粧品のような消費者製品中のナノ物質について、その安全な使用を確実にする方法でEUの法の枠組みを改める必要がある。本日採択された決議は、ナノ物質に対する安全で持続可能なアプローチのための道をひらくものである。欧州委員会が議会の賢明な言葉に耳を傾けることを期待したい”とBEUCの理事長モニク・ゴエンスは述べた。

 投票前のEurActivとのインタビューで、化学産業団体CEFICの研究革新部門の長ゲルノット・クロッツ博士は、ナノ物質の特定ラべリングは”混乱を招き、やり過ぎである”と述べた。

 彼はまた、既存の法令はナノ物質をよくカバーしていると述べた。”現在の規制の枠組みはナノ物質の安全性をカバーするために十分である。この件に関しては、我々は欧州委員会の立場に同意する。しかし我々はまた、ある場合には、新たな確固とした科学的知識に対応するために、これらの規制を実施するためのテスト方法が必要かもしれない。我々の長期研究イニシアティブ( Long-range Research Initiative (LRI) )の主要な部分の一つはOECDの作業に対する貢献を展開することであり、ナノ物質のテストと評価にあるギャップを埋めることである”とクロッツ博士は述べた。

 EurActivに対し、欧州委員会は議会で採択された決議を、欧州議会議員らによって提案された食品と化粧品に関する規則の修正とともに、注意深く検証するであろうと述べた。

 欧州委員会報道官は、欧州委員会はナノ物質に関連するリスクは原則として既存の規則によってカバーされていると考えているが、欧州委員化はそのコミュニケーションの中で、健康、安全、環境の保護に関する法令の特定部分についてさらに調べ、必要なら規制の修正を提案すると説明していると述べた。

 ”REACHに関連してそのような作業計画はすでに進行中である。同時に、欧州委員会はナノ物質に関して既存の法令の実施改善に取り組むであろう。これはナノ物質の使用と必要なデータの収集に関連してリスクの評価に役立つであろう文書の開発を含む。

 ”現在進行中の研究開発と国際的標準化作業の結果が重要であり、欧州委員会は積極的に関連する指針文書の更改及び/又は開発、特に定義、テスト手法、暴露データ、及び既存のリスク評価の脚色を行っている”と欧州委員会は述べた。

 さらに報道官は、主要な優先事項は、十分な情報が入手可能であり、安全性が関連法令の条項に従って示された物質と製品だけが市場に出されることを確実にすることである。

 さらに、欧州委員会は、知識のギャップを埋める作業を続け、共同体の科学委員会及び機関からの潜在的なリスクに関する科学的知識の進捗を考慮するすることが重要であると考える”。


次のステップ:
6月19日:欧州委員会オンライン・パブリックコンサルテーションへの意見提出締切
9月10日:リスク評価とナノテクノロジーに関する公聴会


リンク
European Commission:
Public consultation on risk assessment of nanotechnology (27 Apr. 2009)
European Commission: Introduction to nanotechnology
European Parliament: Nanomaterials - MEPs call for more prudence (24 April 2009)
European Parliament: MEPs set new rules on novels food

Think-Tanks
FramingNano project

Industry federations and trade unions
European Environmental Bureau: MEPs support NGOs call for tighter rules on nanotechnology (31 Mar. 2009)
CEFIC: Position on nanomaterials


訳注:関連記事
訳注1
REACHforLIFE


化学物質問題市民研究会
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