欧州労働組合連合(ETUC)2012年3月30日
工業ナノマテリアルの潜在的なリスクから
労働者を保護するためのWHO/NANOH 指針によって
対応されるべき主要な疑問を提案する背景文書に関する 欧州労連のコメント


情報源:European Trade Union Confederation (ETUC), Brussels, 30th March 2012
ETUC comments on the background paper proposing key questions to be addressed by WHO/NANOH Guidelines on Protecting Workers from Potential Risks of Manufactured Nanomaterials
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ETUC/120330_ETUC_comments_on_WHO_background_paper.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2012年4月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ETUC/120330_ETUC_comments_on_WHO_background_paper.html


世界保健機関宛:

 欧州労連(ETUC)は、工業ナノマテリアルの潜在的なリスクから労働者を保護するためのWHO/NANOH 指針によって対応されるべき主要な問いを提起する背景文書にコメントすることができて幸いである。2008年以来、ETUCはナノテクノロジーの議論に積極的に参加しており、2008年と2010年に、執行委員会によって採択されたナノテクノロジーとナノマテリアルに関する二つの決議を発表している[1]。

 欧州労連(ETUC)にとって重要な論点は、特定のナノマテリアルのライフサイクルを通じてナノマテリアルに曝露するかもしれない労働者の健康と安全を保証することである。したがって、背景文書の中の7つの問いは、十分に詳細に扱われなくてはならず、多くの重要な問題がさらに検証される必要がある。

 欧州労連(ETUC)は指針中の主要な問いに意見を述べる。

1. −初めに

 世界中の労働者は、ナノマテリアルに曝露しており、WHOの提案は、世界中でナノマテリアルに潜在的に曝露する全ての労働者のための、全てを含んだ指針であるべきである。
 予防原則とその実施が述べられているが、特定のナノマテリアルへの曝露を管理するためにWHOの指針の中で、予防原則はどのような役割を演じるのか? そしてその指針は公式の規制とどのように関連付けられるのか?

2. −一般的工業ナノマテリアル

 最も広く使用されているナノマテリアルを特定することは困難な課題であり、いくつかの欧州諸国では、ナノマテリアルの登録を制度化しようとする取り組みが行なわれているが、この指針ではこれらの取り組みで収集されたデータをどのように考慮するのか? OECDリストは出発点として利用できるであろうが、それは決定的なものであるとすべきではない。
 労働者が曝露する特定のナノマテリアルの性状はどのようなものであり(自由、マトリックス結合、溶液結合、等)、重要な曝露経路は何か?
 特定のナノマテリアルのライフサイクル中のどの時点で、懸念ある労働者の曝露が生じるように見えるか?
 この問いは、ライフサイクルを通じてのナノマテリアルの追跡性という観点で役に立つか?

3. −ハザード評価

 このプロセスは、評価者もまたハザードに直面しているかどうかにより、異なる結論がもたらされる傾向がある。したがって、ひとつの不可侵の原則は、ハザードに直面している人がその評価プロセスに完全に参加しなくてはならないということである。多くのナノマテリアルのための職業的曝露限界(Occupational Exposure Limit(OEL))がない状況でハザード又はリスクを決定するために、どのようにしてコントロール・バンディングが用いられるのか?

4. −暴露評価

 実際に、工業ナノマテリアルへの曝露の職場での測定はほとんど行なわれていない。指針は、労働者のナノマテリアルへの潜在的な曝露の特定に対してどのように向き合うのか?
 指針は国家の労働者登録制度の確立を勧告するのか?
 曝露はどのように評価されるのか?、また低及び中レベル歳入国のために勧告されるべき従来の曝露評価技術の代替でナノマテリアルに利用できるものはあるのか?

5. −リスク軽減

 2012年、14カ国のナノマテリアル会社の国際的な調査[2]が、ナノ特有の安全措置の実施に対する重大な障害として”情報の欠如”を報告している。これらの会社はまた、広く利用可能な指針の間に矛盾がある実施方法、及び範囲が狭いナノ特有の健康安全プログラムについて報告した。このような状況を知っているときに、
 リスク軽減措置はどの様に評価されるのか?
 WHO指針の中で代替はどのような役割をは演じるのか?
 重要な全ての曝露シナリオについて、従来の制御の階層が推奨されるのか?

 呼吸防護及びその他の個人防護装置(PPE)は、リスク軽減の取り組みにおいてどのような役割を演じ、低及び中レベル歳入国における呼吸防護及びその他の個人防護装置(PPE)の使用に関して差別はあるのか?
 指針は、事故やプロセス異常及びその他の緊急事態によるナノマテリアル曝露から生じる労働者保護の問題に対応しているのか?

 さらに、WHO指針はナノマテリアルのリスクから労働者を保護するという目標を適切に満たすために次の主要な側面を考慮すべきであると、欧州労連(ETUC)は信じる。

1.- ナノマテリアルに曝露するかもしれない可能性のある労働者のための適切で定期的な訓練

 労働者は、安全データシートの内容の理解はもちろん、ナノマテリアルを取り扱う作業に伴うハザード、曝露経路、曝露を制御するために用いられる手法、呼吸保護具の使用、及び作業実施を理解すべきである。訓練はまた、労働者の技能向上に対応すべきである。

2.- 長期的な健康調査

 健康調査と医学的健診は曝露する労働者の健康を評価するうえで重要な要素であり、曝露に起因する有害な健康影響を特定するために役立てることができる。ある種のカーボンナノチューブについての現在の毒性学的証拠に基づけば、科学的文献はナノマテリアルに曝露する労働者を保護するために長期的な健康調査の必要性、及び労働者のプライバシーと権利を保護しつつ、曝露登録の編集の必要性を勧告している。

3.- WHO指針の作成への労働者の参加

 職場の指針を作成する時に、労働者の参加が本質的に重要である。WHO指針の作成に労働者の代表はどのように関与できるのか?

4.- 指針の再評価と改訂

 どのような健康安全指針でもその有効性を評価することが、指針がもたらそうと意図した適切な保護を労働者が受けているかどうか決定するために極めて重要である。WHO指針は、そのような見直しについての何らかの議論を含めることを考慮すべきである。このことは、指針の利用者は彼等の実施努力を評価することの価値を理解し、彼等の見直しが妥当なら、労働者を保護することができるよう、プログラムを改訂することができることを意味する。

 欧州労連(ETUC)のナノテクノロジーとナノマテリアルに関する決議を想起しつつ、欧州労連(ETUC)は、もし労働者の代表がWHO指針の作成と監視に参加する場合には、WHO指針を喜んで支持するであろう。


原注
[1] ETUC 1st Resolution on Nanotechnologies and Nanomaterials
http://www.etuc.org/a/5163
欧州労連執行委員会2008年6月25日採択ナノ技術とナノ物質に関する欧州労連決議
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ETUC/080625_ETUC_Resolution_nano.html

ETUC 2nd Resolution on Nanotechnology and Nanomaterials
http://www.etuc.org/a/8047
http://www.etuc.org/IMG/pdf/13-GB_final_nanotechnologies_and_nanomaterial.pdf

[1] Engeman, C et al (2012) Governance implications of nanomaterials companies' inconsistent risk perceptions and safety practices. J Nanopart Res 14:749



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