国際環境法センター (CIEL)2016年5月17日
ナノ粒子が赤ちゃん用粉ミルク中に

情報源:Center for International Environmental Law (CIEL), May 17, 2016
Nanoparticles in Baby Formula
http://www.ciel.org/nanoparticles-baby-formula/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年5月23日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/CIEL/CIEL_160517_Nanoparticles_in_Baby_Formula.html

 本日(5月17日)、地球の友アメリカ(FoE US)は、全米でよく売られている乳児用人工乳がある工業ナノ粒子を含んでいることを明らかにした報告書、”Nanoparticles in Baby Formula (ナノ粒子が赤ちゃん用粉ミルク中に)” を発表した。 FoE はカリフォルニア州のサンフランシスコ・ベイエリアの小売店から集めた 6 種類の乳児用人工乳のサンプルをテストした。それら 6 種類全てのサンプル中に、潜在的に懸念のあるナノサイズ構造物質及びナノ粒子が見つかった。すなわち、針状のナノ水酸化燐灰石(nano-hydroxyapatite)及び非針状の同物質、酸化鉄球状ナノ粒子、ナノ二酸化チタン、及びナノ二酸化ケイ素 (ナノ二酸化チタン、及びナノ二酸化ケイ素の結果は決定的ではない)である。

 その報告書中で概要が示されている最近の研究は、これらのナノ物質は、もし摂取されたり吸入されれば、人の健康にリスクを及ぼすかもしれないことを示している。従ってその製品は、赤ちゃんの摂取によるリスクの可能性はもちろん、それらの製造に関わる作業者、赤ちゃん、両親、そして介護者らに、吸入による有害影響を及ぼす可能性がある。
報告書”‘Nanoparticles in Baby Formula’からの抜粋
’ナノ物質は、食品産業に多くの新しい機会を提供する独特の特性を持っている。それらは栄養添加剤、香味料、着色料、固化防止剤、又は食品容器のための抗菌成分として用いることができる。しかし、食品産業での用途に魅力を与えるナノスケールで示す同じ特性がまた、人の健康と環境に大きな有害性をもたらすかもしれない。
 乳児用人工乳 6種のうち 3種で見つかったナノ水酸化燐灰石(nano-hydroxyapatite)に関連して、EU の消費者安全科学委員会(SCCS)は 2015年10月に次のような意見を発表した。”利用可能な情報によれば、針状のナノ水酸化燐灰石は潜在的な有害性に関連して懸念がある。従って化粧品中で使用されるべきではない”。

 化粧品中で使用されるべきではないという物質は、食品中での使用はもちろん、特にそれが粉状で売られているならなおさら吸入リスクが増して、大きな懸念を呼び起こす。

 これらの調査結果は、ナノ物質に関する広範な懸念に関連付けられる。国際的に認められた標準と測定方法がなく、またナノテクノロジー産業の透明性が欠けるので、工業ナノ物質がどこで使用されているのか、そして潜在的な暴露経路及び毒性学的影響は何なのかを理解することには非常に大きな困難がある。

 EU の規制当局は、食品中でのナノ物質の使用を規制するために、工業ナノ物質を含む食品容器のラベル表示を2014年12月以降(第55条)求めることにより、わずかな前進を示した。さらに、工業ナノ物質を食品中で使用する前に特定の認可が、2018年1月1日から(第6条及び第36条)求められるであろう。しかし、紙の上ではよく見えても、これらの規則は適切ではない。その規則には重大な欠陥があり、例えば、そこで使用されている定義は実施を非常な困難なものにする。規則中で使用されている定義(訳注1)は、2011年に欧州委員会によって、その勧告の中で提案された定義(訳注2)に比べて、非常にあいまいで範囲が狭いものとなっている。その定義は、工業ナノ物質の定義は欧州委員会の食品産業のための勧告より厳格であることを示唆している欧州食品安全機関(EFSA)の勧告からもかけ離れている。規則に示されている定義は、範囲とナノ特定条項を制限し、多くのナノ物質が規則の範囲外になることを許している。さらに、規則は製造プロセスをカバーしておらず、他のギャップを生成し、規制の適用可能性を制限している。

 実施を難しくしているもうひとつの弱点は、製造者は、自分たちが市場に出そうと意図する食品が規則の定義と範囲に該当するナノ物質を含むのかどうかを自分たち自身で確かめることに責任があるということである。定義のあいまいさは、この実施への自主規制アプローチと相まって、製造者がナノ特定規則を回避することを容易にしている。その結果、そして我々が知る限り、ナノ食品のラベル表示条項は少しも実施されていない。

 ラベル表示を含んでナノ特定規制条項の効果的な実施は、規制当局による強制への重い約束が必要であろう。今までのところ、他のもっと古い分野的規則、例えば 2013年7月以来施行されている化粧品規則のナノ特定条項の強制の欠如によって示されたように、この種の約束が足りないように見える。化粧品規則の第16条10項に従い(訳注3)、欧州委員会は市場に出されている化粧品中で使用されている全てのナノ物質のカタログを2014年1月までに発行しなくてはならなかったはずである。しかし今日まで、欧州委員会はそのようなカタログを発行していない。欧州委員会は、これは受け取ったナノ物質を含む化粧品に関する矛盾した産業側の届出のためであり、よってカタログの発行を不可能としていると言明した。しかし、欧州委員会は、規則の実施を強制するために、完全な届出を適切に受け取るまで、製品を市場に出させないというような措置をとっていない。このことは、化粧品規則の法的拘束力という特性にもかかわらず、実施と強制は公衆の健康と安全及び環境を確実なものにするための鍵であることを示している。


訳注1
REGULATION (EU) 2015/2283 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 25 November 2015 on novel foods
Article 3 Definitions
2 (f)‘engineered nanomaterial’ means any intentionally produced material that has one or more dimensions of the order of 100 nm or less or that is composed of discrete functional parts, either internally or at the surface, many of which have one or more dimensions of the order of 100 nm or less, including structures, agglomerates or aggregates, which may have a size above the order of 100 nm but retain properties that are characteristic of the nanoscale.

Properties that are characteristic of the nanoscale include:
(i) those related to the large specific surface area of the materials considered; and/or
(ii)specific physico-chemical properties that are different from those of the non-nanoform of the same material.

訳注2
欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告

訳注3
Article 16 Nanomaterials
10. The following information shall be made available by the Commission:
(a) By 11 January 2014, the Commission shall make available a catalogue of all nanomaterials used in cosmetic products placed on the market, including those used as colorants, UV-filters and preservatives in a separate section, indicating the categories of cosmetic products and the reasonably foreseeable exposure conditions. This catalogue shall be regularly updated thereafter and be made publicly available.



化学物質問題市民研究会
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