ZMWG 2010年12月14日
アジア太平洋地域における余剰水銀の
環境的に適切な管理のためのオプションの
アジア保管研究分析に関するコメント


情報源:Zero Mercury Working Group, 14 Decemer 2010
Comments on the revised Asian Storage Study Analysis of
options for the environmentally sound management
of surplusmercury in Asian and the Pacific (November 2010)
http://www.zeromercury.org/UNEP_developments/
101214_ZMWG%20comments%20on%20Asian%20Storage%20Study.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma (Citizens Against Chemicals Pollution (CACP))
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年12月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/zmwg/ZMWG_101214_comments_Asian_Storage_Study.html

訳注:本報告書は2010年12月1日にドイツのブラウンシュヴァイクで開催されたUNEP水銀保管会議に参加したZMWGが作成したものであるが、2009年3月4−5日にバンコクでも、「アジア水銀保管プロジェクト ワークショップ」 が開催され、当研究会も参加した。両会議とも主要報告のひとつがドイツの民間研究組織であるGRS によるものであり、その出典がコンコルド社の2008年の研究なので、同じ内容が報告されたと考えられる。当研究会のバンコク会議の参加報告は下記からアクセスできる。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/Storage/0903_04_05_asia_workshop.html

 ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)は、2010年12月1日にドイツのブラウンシュヴァイクで開催されたUNEP保管会議で発表された修正アジア保管第1次ドラフトに関するコメントを提出するこの機会を歓迎する。現段階では会議における全ての報告書の詳細を分析するためには時間的制約があるので、これらのコメントは、この会議で示されたエグゼクティブ・サマリーとプレゼンテーションに主に基づいている。

 報告書が完成する前に、下記の点が考慮されることを願う。

  1. エグゼクティブ・サマリーの中で、どのようにそしてなぜこの報告書が作成されたのか説明する必要がある。− 最初のAIT 研究を強化 (AIT:アジア工科大学か?)

  2. 今回の報告書(GRS研究)で、AIT研究への参照はいつなされたのか、新たな提案はいつなされたのかを明確にしなくてはならない。

    訳注:GRS(the Gesellschaft fur Anlagen- und Reaktorsicherheit)は、ドイツを拠点とする独立系研究組織であり、2009年3月4〜5日にUNEP/ZMWG 主催の下にバンコクで開催された「アジア水銀保管プロジェクト ワークショップ」でも報告を行なった。
    http://www.chem.unep.ch/mercury/storage/GRS-Germany%20T%20Brasser.pdf

  3. 勧告やこの報告書も原則としてこの研究の開発に関わったアジア太平洋諸国政府の理事会やその他の組織によって討議されたことを考慮して、発見された事実についての短いまとめとAIT報告とのギャップもまた報告書の最初かアネックスに含めるべきであった。

     GRS研究で、アジア太平洋研究の主要な目的は余剰水銀の管理であったということが明確にされなくてはならない。ラテンアメリカ及びカリブ海地域会合(LAC)で提起された水銀含有廃棄物の管理と関連するオプションの議論は、関連性はあるが、最初のアジア太平洋−AIT研究では研究することを求められなかった。したがって、新たな”廃棄物”の概念の導入及び有害廃棄物の埋立の議論と分析は注意深くそして選択的に議論されるべきである。どのような地域における廃棄物管理は、金属水銀を隔離することの重要性を低めることなく補完的な勧告をもって対応されるべきである。
     余剰水銀を管理するための優先度はエグゼクティブ・サマリー及び中心となる報告書に明確に反映されるべきである。

  4. AIT と GRS の研究は、2008年に コンコルド(Concorde) によって実施された”アジアにおける余剰水銀の評価 2010-2050”(訳注)に基づいている(2009年5月発表)。

    訳注:Excess Mercury supply in Asia, 2010-2050 / Peter Maxson of Concorde East/West Spr
    http://www.chem.unep.ch/mercury/storage/Maxson_Asian%20Excess%20Mercury.ppt

    いくつかのシナリオがこの評価で議論された。留意されるべきことは以下の通り。
    1. コンコルド報告書は条約交渉会議を開始することとなった管理理事会決議25/5より前にさかのぼるので、政治的な文脈の中で読まれるべきである。
    2. 著しい余剰水銀は2029年だけであるとの予測を仮定する第2シナリオは、小規模金採鉱(ASGM)に目を向けた供給管理を仮定しておらず、10年間でわずか50%の削減、及びその後2050年までに5%の削減を仮定しているだけである。
    3. 第3シナリオは、10年後にASGMでの水銀使用に抑制することを仮定している。このシナリオは、”2017年までに、又はそのすぐ後に、いくらかの限定された保管”を必要としている。
    4. コンコルドによれば、この地域における供給と需要は、条約がなくても2017年に概略均衡する。したがって現状の開発で、供給の制限が政策ツールとしてこの時期に用いられるなら、そしてASGMに水銀が行かないなら、この地域のいくらかの水銀が保管されるに違いない。
    5. 同じく重要なことは、国家レベルでは、保管オプションをすぐに必要としている国は日本とインドネシアであるように見えるが、それはこれらの国がASGM以外での需要を超える水銀を副産物として生産しているからである。

     その結果、余剰水銀のための管理オプションの必要性は、GRS研究が示していることとは反対に、長期的というよりむしろ短中期にあるといえる。上記の問題は、仮定と実施された基礎研究を正確な状況に置くために議論が必要である。

  5. 上記に関連して、暫定的又は限定的措置として現在GRSによって提案されている”輸出オプション”は真剣に再検討されなくてはならず、またAIT研究を議論した時に、アジア太平洋地域の政府によって議論され、歓迎されるオプションのひとつであったということが考慮されなくてはならない。このオプションは、少なくとも同等のオプションとして、安定化と固化水銀の地下処分に目を向けられるべきであり、両方とも関連するコスト又はサブシナリオを含んで議論され分析されなくてはならない。

     ラテンアメリカ・カリブ海地域(LAC)関連会合でも議論されたように、安定化は、コストやその他の制約のために開発途上国で適用することはまだ難しいかもしれないという懸念がある。開発途上国では、水銀の保管オプションに関連する安全、監視、保守に関連する懸念が提起される。これは、なぜ輸出オプションがこの報告書で十分に議論される必要があるかの理由である。そのような懸念はエグゼクティブ・アマリーと報告書本体に反映されるべきである。

  6. 水銀廃棄物(金属水銀を除く)の安定化技術に関する広範な議論は研究という文脈では必要ないかもしれないが、それは開発されており、情報としては有用であろう。しかし、それは、報告書本体ではなく、アネックスで参照され、そこに含まれるべきである。

  7. 処分オプションが議論される時には、我々は、液体金属水銀について、水銀を含む廃棄物について、又は固化水銀について、いつ討議するのかを明確にするべきである。このことはまた、我々が現在ヨーロッパで持っている経験を議論しつつ、液体廃棄物ではなく固体有害廃棄物に言及して、この章の初めで地下処分について討議するときに強調される必要がある。

  8. 地下保管オプションの議論はこの報告書では非常に広範に示されている。このオプションはアジア太平洋地域は追求しないと決定されていたことを考慮すれば、一般的な背景情報は有用であるが、多くの時間と努力がこのことに費やされたことは疑問である。

     12月1日の会議の間に議論されたように、地下処理施設での固化水銀の処分を議論するときに、コスト及びその他の課題があるので、また現在は地下施設が存在しないということが事実なら、そのような処分は水銀だけのために実施されそうにはないということを考慮するべきである。ラテンアメリカ・会部地域がまさにこの理由により地下オプションを優先しないということを考慮すれば、アジア太平洋地域がそのようなオプションをもう一度検討することを決定するかどうか見極める必要がある。

     第5項のコメントは上記に関連して考慮されるべきである。

     各国はそのような地下施設の開発に潜在的に投資することの広範な利益を評価する必要があるので、固体有害廃棄物のよりよい管理のために、そのような考慮が現在の研究に含められるべきである。

  9. 上記の理由及び、固化と地下保管解決がこの地域にもたらすかもしれないそれぞれの困難のために、この地域における期間限定の水銀保管及び外国の施設への水銀の輸出が、少なくとも地下処分オプションの検討と同等の深さでコスト見積りを含めて分析される必要がある。

  10. コスト見積りと全ての提案オプションのコスト比較のために、全ての家庭が明確に記述され、要素は分解されることが望ましい。そうすれば、これらは必要があれば組み合わせることができる。例えば、アジア太平洋地域での金属水銀と固化水銀の暫定的な保管、及び処分のための外国施設への輸出、又は暫定的保管と固化と処分のため外国施設への輸出。

     この地域には効果的な収集のための既存のインフラがないということを念頭におけば、全体の余剰水銀管理オプションにおけるこの要素に関連するコストを含める必要がある。

  11. さらに、提案された全ての潜在的な解決に関連して、これらはこの地域の政府間のあるレベルの協力を前提としているので注意を要するが、残念ながら今日までそのようなことが表面に現れたことはない。短期間にある地域の水銀及び/又は廃棄物の安定化施設を追求することは非常に困難な課題かもしれない。有害廃棄物処理、水銀回収、水銀の暫定的保管、及びこの地域の金属水銀管理のための資金調達オプションのためのこの地域における既存の能力(民間分野の役割を含む)の利用可能性を決定するという概念は強い動機を与えるであろう。したがってある場合には、オプションと経済が国家レベルで考慮される必要がある。そのような議論もまた報告書に示される必要がある。
  12. もし輸出オプションが選択されたなら、アジア太平洋地域内又は地域外へどのように輸送するのか、そしてこのことは水銀を廃棄物とするバーゼル条約との矛盾を伴うかどうか、あるいは考慮する必要はなく国家だけによって決定されるのか? なぜなら金属水銀は隔離され、したがって、廃棄物分類(エレメント・ペーパーの第4条)に関わりなく管理されるからである。バーゼル条約との調整に関する疑問は、国の責任なので、このペーパーの中で決定されるべきではない。ラテンアメリカ・カリブ海(LAC)での関連会議で起きたように、もし水銀がその法的枠組みの中で管理されるなら、アジア太平洋地域の解決がバーゼル廃棄物輸出条項と衝突する場合もあるかもしれない。

  13. この報告書は、民間分野が余剰水銀と水銀含有廃棄物のための管理解決において責任を持ち参加する必要があることを考慮して、汚染者支払い原則をもっと議論する必要がある。

  14. 最後に、ひとつの解決ではなくオプション一式の勧告がアジア太平洋地域になされるべきである。金属水銀の管理が必要とされる時期もまた、上述した通り、長期よりも短中期で検討されるべきである。余剰金属水銀管理のための勧告が主に示され、水銀を含む廃棄物管理は補完的に又は関連事項として示されるべきである。アジア太平洋地域でどのように行なうかに関する方針や実際的な状況は注意深く検討され議論されるべきである。それは提案されている技術的なアプローチよりも重要であるからである。



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