|
米国立健康環境科学研究所ジャーナル
EHP 119(7) 2011年7月号 Correspondence メチル水銀の環境健康研究の示唆 津田敏秀、賴藤貴志、原田正純 情報源：EHP 119(7) Jul 2011 Correspondence Environmental Health Research Implications of Methylmercury Toshihide Tsuda, Takashi Yorifuji, Masazumi Harada Department of Environmental Epidemiology, Okayama University Graduate School of Environmental Science, Okayama, Japan, E-mail: tsudatos@md.okayama-u.ac.jp, Department of Epidemiology, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, Okayama, Japan, Department of Social Welfare Studies, Kumamoto Gakuen University, Kumamoto, Japan Citation: Tsuda T, Yorifuji T, Harada M 2011. Environmental Health Research Implications of Methylmercury. Environ Health Perspect 119:a284-a284. doi:10.1289/ehp.1103580 Online: 01 July 2011 http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.1103580 T.T. and M.H. have provided expert testimony on Minamata disease. The other author declares he has no actual or potential competing financial interests. （T.T. と M.H. は、水俣病に関する専門家証言を行なった。 他の著者は、実際に又は潜在的に財政的利害関係に抵触しないことを宣言する。） 訳：安間 武 （化学物質問題市民研究会） http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日：2011年7月2日 このページへのリンク： http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/research/EHP_July_2011_Methylmercury.html 『メチル水銀の有害影響：環境健康研究の示唆 EHP 118(8) 2010年8月（Adverse Effects of Methylmercury: Environmental Health Research Implications）の中で、Grandjean et al. (2010) （訳注1）』は、水俣病事件の歴史を含んでメチル水銀曝露からもたらされる健康リスクの科学的発見をレビューした。彼等の表題は、”研究の示唆（research implications）”であるが、著者等は事件からのいくつかの重要な警告を伝えていない。 第一に、Grandjean et al. (2010)は、この事件があたかも”正確な原因（メチル水銀）”の正式な認知の重大な遅れが対応措置を遅らせたように説明している。しかし、病因物質の認知は予防にとって必要条件ではない(Goodman et al. 1990)。たとえ病因物質がわからなくても、曝露源と伝達が特定されれば、それらは取り除かれなくてはならない。水俣病の場合には、最初の患者が特定された1956年にはすでに、汚染された海産物を摂食することが病気の原因であることは判明していた。それは病因物質が特定される3年前のことであった(Tsuda et al. 2009)。Grandjean 等（2010）は、Harada (2004)を引用したが、彼は次のように書いた。
第二に、Grandjean et al. (2010)は、メチル水銀中毒事件の”診断の困難さ”を述べている。食中毒としての水俣病事件の調査の欠如が不必要な診断の困難をもたらした。そのような困難さは、通常、日本における食中毒事件では生じない。水俣病の場合には、1977年に、日本の環境省（JME）は診断基準を確立したが、それはJMEによって唱えられた、医学的には訂正されるべき、症状の組み合わせを求めるものである。しかし事実は、JMEは基準に医学的証拠が欠如していることを認めていたということである [Committee on Research and Human Rights/Japanese Society and Psychiatry and Neurology (CRHR-JSPN) 2003]。さらに、日本の医学研究者らが、その基準は医学的に間違っていると指摘していた(CRHR-JSPN 1998)。”診断の困難さ”はおそらく、誰が影響を受け神経学的兆候を持っていたのかを曖昧にしたであろう。 第三に、Grandjean et al. (2010)は、”2009年に、被害者の残りのグループのほとんどの人々に補償を与える（provide compensation）ための法律が制定された”と述べている。しかし、それは補償（compensation）ではない。水俣病について、影響を受けた人々が上述の基準によって診断されなければ、彼等は患者として勘定に入れられず、従って適切に補償されない。約2,200人が水俣病として診断され、補償されていたが、メチル水銀中毒の神経学的症状の特徴を持つ少なくとも数万人の被害者が患者として認められず、適切に補償されていない(McCurry 2006)。 第四に、Grandjean et al. (2010)は、1959年のネコの実験の、40年遅れて発表された”科学的重要性”を述べている(Eto et al. 2001)。しかし、この報告書は、病理学的発見だけを提供しており、ネコの実験の詳細な説明はすでに1965年に発表されていた(Tomita 1965)。後者のものが予防と管理のためには十分であったであろう。 最後に、JMEと自治体は水俣病訴訟の被告であったために、JMEと自治体から出た研究資金は、ことによると利益相反（conflicts of interest）を引き起こし、研究者の態度に影響を与えたかもしれない。 References CRHR-JSPN (Committee on Research and Human Rights/Japanese Society and Psychiatry and Neurology) 1998. An opinion on the criteria on acquired Minamata disease Psychiatr Neurol Jpn 100:765?790. Find this article online CRHR-JSPN (Committee on Research and Human Rights/Japanese Society and Psychiatry and Neurology). 2003. An opinion about Minamata disease accreditation system and medical specialists’ involvement [in Japanese]. Psychiatr Neurol Jpn105:809?834. Eto K, Yasutake A, Nakano A, Akagi H, Tokunaga H, Kojima T.. 2001. Reappraisal of the historic 1959 cat experiment in Minamata by the Chisso factory. Tohoku J Exp Med 194(4):197?203. Find this article online Goodman RA, Buehler JW, Koplan JP. 1990. The epidemiologic field investigation: science and judgment in public health practice. Am J Epidemiol 132:91?96. Find this article online Grandjean P, Satoh H, Murata K, Eto K.. 2010. Adverse effects of methylmercury: envionmental health research implications. Environ Health Perspect 118:1137?1145. Find this article online Harada M. 2004. Minamata Disease (Sachie T, George TS, translators). Tokyo:Iwanami Shoten. McCurry J.. 2006. Japan remembers Minamata. Lancet 367:99?100. Find this article online Tomita H.. 1965. Minamata disease 12 Goka 7:346?353. Find this article online Tsuda T, Yorifuji T, Takao S, Miyai M, Babazono A.. 2009. Minamata disease: catastrophic poisoning due to a failed public health response. J Public Health Policy 30:54?67. Find this article online 訳注1 EHP 118(8) 2010年8月号 メチル水銀の有害影響：環境健康研究の示唆 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/research/EHP_Aug_2010_Methylmercury_Lessons_Learned.html EHP_118(8)_Aug_2010 Adverse Effects of Methylmercury: Environmental Health Research Implications http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.0901757 訳注2（参考） 国立水俣病総合研究センター 「水俣病に関する社会科学的研究会」報告書 水俣病の悲劇を繰り返さないために －水俣病の経験から学ぶもの－ 平成11年12月 水俣病に関する社会科学的研究会 第2章 水俣病の原因究明及び発生源確定の過程（その1）（PDF版33ページ） http://www.nimd.go.jp/syakai/webversion/pdfversion/028041_2shou.pdf 「・・・県衛生部は、食品衛生法第4条第2号の規定に準じた状況であると判断し、捕獲や摂食を禁じる知事告示を出すという方針を決め、同年8月16日、厚生省に食品衛生法の適用の可否を照会した。 ところが、同年9月11日、厚生省公衆衛生局長から熊本県知事に届いた回答は、「水俣湾特定地域の魚介類を摂食することは、原因不明の中枢性神経疾患を発生させるおそれがあるので、今後とも水俣湾の魚介類が摂取されないよう指導すること。然し、水俣湾内特定地域の魚介類のすべてが有毒化しているという明らかな根拠が認められないので、当該特定地域にて漁獲された魚介類のすべてに対し食品衛生法第4条第2号を適用することはできないものと考える」というものであった。・・・」 |