Sacramento Bee 2012年12月9日
ペルーの熱帯雨林
現代のゴールドラッシュが環境を破壊する

スチャート・レブンワース

情報源:The Sacramento Bee, January 3, 2013
Stuart Leavenworth: In the rain forests of Peru,
a modern gold rush poisons the environment
By Stuart Leavenworth, Editorial page editor
http://www.sacbee.com/2012/12/09/5040004/stuart-leavenworth-in-the-rain.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年1月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/121209_Peru_modern_gold_rush.html


アマゾン熱帯雨林のペルー、マドレデジオス地域の泥水の川。金採鉱者らは高圧放水で土壌を掘り起こし、川に流してを汚泥で満たす。金抽出のために有毒な水銀を使う。
 我々の飛行機がペルーアンデスを越えるときに、私は窓の外に目をやり、初めてアマゾンの源流を見た。熱帯雨林の緑の覆いが全ての方向に広がっていた。しかしよく見ると、切り開かれた土地や傷跡を残した川岸により、その野生はひどく損なわれ、川は汚れた泥水で褐色になっていた。

 何も知らない我々旅行者、すなわち私の妻、ミカエラ、そして私は先月から、ボリビアとの国境に近いペルー南東部のマドレデジオス地域に向かう旅を始めている。我々の目的地は、地球上で最も生物多様性に富んだ場所のひとつであると考えられている豊かな聖域、タンボパタ国立保護区であった。着陸後、我々はボートでタンボパ川をさかのぼり、そこで3晩を蚊帳とロウソクを備えた丸太小屋で過ごした。

 我々のタンボパタ訪問は予想をはるかに超える野性的なものであった。数日間に我々は珍しいサルやたくさんのオウム、コンゴウインコ、その他の鳥を見た。そして蛇や大型のクモ、カイマントカゲ、カピバラ(世界最大のげっ歯類)、その他多くの生物に出くわした。

 しかし、我々は保護された熱帯雨林のこの島は包囲されていることに直ぐに気が付いた。記録的な高値の金価格が金採鉱志望の数千人の困窮者をマドレデジオスに引き寄せていた。カリフォルニアのゴールドラッシュを思い起させる風景の中で、彼等は森を切り開き、高圧放水で露出した土壌から鉱石を掘り出し、有毒な水銀で金を抽出していた。

 ”彼らは、基本的にはマドレデジオスにやってきたアンデスからの貧しい農民である”と、アマゾン金採鉱の影響を調査している科学チームの一員でスタンフォード大学の客員研究者であるルイス E. フェルナンデスは述べた。”彼等は、水銀の彼等自身への、そして環境へのリスクについて知っていない”。

 採鉱者らが金を町に持ってきて、プエトロマルドナドに急速に増えた数多くの小さな店でそれを売ろうと試みる。支払う金の重量を正確にするために、店の主人は、金を加熱して残留水銀(水銀は金より重い)を飛ばすので、周囲に水銀蒸気が漂う。

 多くの地元の人々は、、金の最終的な購入者はコカインで得た金を洗浄する(launder)コカイン売買人であるという。麻薬密輸業者も採鉱者もお互いに不法な採鉱を取り締まるために散発的に手入れを行なう政府当局の介入排除に関心がある。


Miguel Vizcarra/Associated Press file, 2012
 3月には、約1万2千人の採鉱者が暴動を起し、警察と戦い、約9万人の人々がいるプエトロマルドナド市の公共の建物を占拠しようと試みた。AP通信によれば、政府が採鉱者を規制ししようとして、3人が銃で殺され38人が暴動で怪我をした。

 2週間前、マシンガンを持った8人の男がプエトロマルドナドの空港に侵入し、旅行者と空港従業員に地面に伏せるよう命じた。

 そして金10キログラムをひとりの乗客から奪い、空に発砲して逃走した。この強奪で二人が怪我をしたが、それは私の妻と私がプエトロマルドナに降り立つ二日前のことであった。

不法採鉱の横行

 ミカエラと私は金の結婚指輪をつけている。しかし、多くの人々と同様に、我々はその金がどこで産出したのか、あるいは金は現在どこで採鉱されているのかについて深く考えたことはなかった。

 現在金価格は1オンス1,700ドルまで高騰し、それは2001年9月10日の価格の6倍以上なので、採鉱志望者は、全ての可能性ある金鉱を探しまわっている。それは見たところカリフォルニアにあるシエラ山麓のような歴史的廃鉱跡地もある。しかしもっとしばしば探し回るのはインドネシア、ガーナ、ボルネオ、そしてアマゾンにあるような遠方の鉱脈である。

 ナショナルジオグラフィックによれば、世界の金の4分の1は不法な採鉱によるものである。

 タンボパタ国立保護区を訪れている間、我々は幸運にもひとりの現地の案内人、プエトロマルドナドの26歳の先住民ジョージに森を通って案内してもらった。野生生物と薬草の鋭い観察者であるジョージは、彼の故郷は彼の生きている間に、良くも悪くも劇的に変化したと述べた。

 新たな大陸横断ハイウェーが町を横断し、新たなつり橋が広いマドレデジオス川を横断するフェリーに取って代わった。その新たな基盤整備のおかげで旅行者がプエトロマルドナドにやってくるようになったが、それは外来者、特に採鉱者らもくるようになり、彼等は生態系を劇的に変えた。

 かつては一年の大部分、澄んでおり、お茶の色をしていた河川は、現在では泥でにごって、大量の堆積物を運んでいる。”基本的に採鉱者らは川岸を爆破して、全ての泥を川に落とす”とフェルナンデスは述べた。その結果、川はカプチーノ(エスプレッソコーヒー)が流れているように見え、沈殿物が多くの生物種が生きるのに必要とする光をさえぎると彼は述べた。

 しかし、それは地元の人々が最も懸念する目には見えない川の中の出来事である。

 私がカリフォルニアの古い鉱山からの水銀汚染について書いた経験があることジョージに言うと、変えは矢継ぎ早に私に質問を浴びせた。

 ”スチュアート、水銀は我々の魚や、動物の中に入り込んでくるの?”彼は訊ねた。

水銀の有毒影響

 2008年以来、フェルナンデスとカーネギー研究所の地球生態系部門の彼の同僚は、マドレデジオスの金採鉱の研究に没頭した。最も注力したのは水銀であり、採鉱でどのように使用されるのか(半分は環境中に消える)、そして採鉱者により川や湖に投棄され、金商人により焼かれた後に水銀に何が起きるのかということであった。

 極めて有毒な金属、水銀は接触すると有毒であり、環境中で分解してメチル水銀になり、食物連鎖に入り込むと、特別の問題を引き起こす。水銀曝露は、水銀で汚染された魚を食べる小さな子どもや妊娠中の女性に特別の脅威をもたらす。高い曝露レベルならひどいことになり、子どもは生涯、神経生涯を持つことになる。

 現在までのところ、フェルナンデスと彼のチームは魚に蓄積する水銀を検査し、プエトロマルドナの大気サンプルをテストし、水銀を検査するために1,000人のヘアーサンプルを入手した。今日までの結果は、プエトロマルドナの一部の人々は米環境保護庁の産業曝露基準より20倍高いレベルの水銀に曝露していることを示していると、彼は述べた。

 最終結果はさらに数ヶ月経たないと準備できないかもしれないが、ヘアーサンプルテストは地域の子どもたちと大人の水銀レベルが高いことを示している。もし、これらの結果が継続するなら、”子どもたちは曝露している水銀レベルが高いので、生涯を通じての問題をかかえることになる”と、彼はペルーのリマからスカイプを通じて私に述べた。

 金採鉱はまた、マドレデジオスのかつては豊富であった野生生物を脅かしている。航空写真を用いて、カーネギー研究所は、1999年以来127平方マイル以上を根こそぎにしている地域の単一最大森林破壊原因として採鉱を特定した。そして、たとえ森林は損なわれていなくても、ワシからカイマンカゲ、ジャガーに至るまで無数の過敏な生物種が、彼等が食べる魚や川からのその他の生物に由来する水銀に曝露している。

 タンボパタ保護区での滞在中に、我々はジャングルを通って、川の近くにある古い湾曲により形成された原始的な三日月湖コココカ(Cocococha)にいたる2時間のハイキングをした。一時間以上カヌーで湖をこいで回わった後、我々はついに探検のご褒美として、ジャイアント・カワウソを見た。

 アマゾンの最上位捕食動物であるジャイアント・カワウソは、長さ5フィート以上あり、カイマントカゲやその他の肉食動物をかわすのに十分な強い歯と顎骨を持っている。毛皮のために数十年間、狩をされ、世界的な絶滅危惧種に指定されており、生き残った集団は、タンボパタのようなアマゾンの保護区域に生息している。

 八頭のカワウソが我々のカヌーの近くに突然現われ、歯をむき出して我々を避けようとした。これらの生物が水銀により脅かされているということをまだ誰も知らない。しかし、カワウソは大量に魚を食べるので、また、ある魚は三日月湖と川との間を移動するので、研究者等はカワウソが水銀で汚染され、生殖に害を及ぼすことを懸念している。

 この国の歴史の中で、この現代のゴールドラッシュは特にペルーでは悲劇的である。1500年代初期にスペインの征服者らが侵略しくる以前は、インカやその他の先住ペルー人は金を儀式的な美として尊んだが、今日、ウォールストリートや金商人が行なっているようにそれを商品として売買することはなかった。征服者等は全てを変えて、インカの寺院を略奪し、精巧な芸術品を溶かして、戦利品としてスペインに多くを送り出した。

 フェルナンデスによれば、ペルー政府は、現在はその一部がブラックマーケットに消えている金を税収として回収するために、マドレデジオスの不法採鉱を規制して公式化しようとしている。金価格が現在のように高ければ、南アメリカの各国政府はアマゾンの略奪を完全に防ぐことはできそうにない。金に走るのは、世界の金融は破綻しても、金だけは安全な投資であるという歪められた妄想の、直接的な結果である。この妄想は、議会、ウォールストリート、欧州連合、その他の金融機関が行動を共にしたときにのみ、緩和されるであろう。

 それまでは、金を求める開拓時代の西部のような状況は、アマゾンのような場所を破壊しながら、繁栄するであろう。


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