2011年6月26日
環境省主催「水銀条約を考える会」参加報告
日本語版pdf英語版pdf

掲載:化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年6月29日
更新日:2011年7月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/minamata/MoE_Minamata_Meeting_110626_jp.html


 本報告書は、環境省が水俣市民に水銀条約について説明するために2011年6月26日に水俣市で開催した「水銀条約を考える会」の概要を報告するものです。
 (参照:環境省報道発表資料 平成23年5月24日「水銀条約について考える会」の開催について(お知らせ)
 環境省が水銀条約に関して水俣市民とこの種の会合を持つのは初めてのことです。
 環境省は水銀条約に関し、特に2010年5月に水俣市民に事前の通知もなく提案のあった、"水俣条約"という命名について、水俣市民に説明する必要性を感じていたということが想像されます。
 私は、オブザーバーとしてこの会議を傍聴しましたので、その概要を報告します。
 私は、水俣病被害者及びその支援者になり代わり、彼らに連帯を示された世界中の全ての方々と団体に対し、お礼を申し上げます。(参照:IPENの”水俣を敬う” ウェブページ (日本語訳版)参照


■環境省主催「水銀条約を考える会」
日時:2011年6月26日午後2時〜4時
主催:環境省
参加者数:約100名

1.議題
(1) 開会
(2-1) 水銀条約制定に向けた国際交渉の動向(環境省地球環境審議官 寺田達志 氏)
(2-2) 水銀条約骨子案の概要と我が国の対応(環境省環境保健部環境安全課長 早水輝好 氏)
(3) 水銀条約に関する熊本県の取組みについて(熊本県環境生活部政策審議監 内田安弘 氏)
(4) 水俣病の教訓の世界への発信と新たなまちづくり(水俣市)
(5) 質疑応答・意見交換
(6) 閉会

2.環境省、熊本県、水俣市の説明

(1) 環境省は、日本と世界における水銀の状況、水銀条約に関する政府間交渉のスケジュール、条約の目的、予想される水銀条約の骨子、日本の立場と取り組み、2010年5月に鳩山由紀夫首相(当時)が提案した水銀条約を水俣条約と命名するとした件、などについてパワーポイントを使用して説明を行なった。

(2) 環境省は、水銀条約により水銀輸出が禁止又は制限されることになれば、日本にとっての主要な課題は、非鉄金属精錬や水銀含有製品から回収される余剰水銀の保管の問題であると述べた。

(3) 日本の水銀条約への基本的対応
(@) 世界各国において水銀対策の強化を進めるべき。
(A) 途上国を含めて、できる限り多くの国が参加可能な国際的な枠組みの構築を目指す。
(B) 製品や生産プロセス中の水銀使用や貿易を制限し、可能な場合には廃絶していく。
(C) 最良の技術の導入により環境への排出の削減。
(D) 水俣病と同様の健康被害や環境破壊が世界のいずれの国でも繰り返されることがないよう、条約作りに積極的に貢献していく。

(4) 熊本県と水俣市は外交会議が2013年に熊本県で開催されることを歓迎したが、水銀条約という命名については多くを語らなかった。

3. 質疑応答
(1) "水俣条約"という命名には反対であるとの発言があったが、全体としては"水俣条約"という命名に関する議論は特になかった。

(2) 何人かの参加者から、水銀へドロの埋立地やその他の水俣湾周辺の汚染場所についての懸念が提起された。

(3) 水俣湾埋立地は、水俣湾から浚渫された高い水銀濃度(25ppm以上)の大量(151万m3)の汚泥で埋め立てられ、長い歳月(14年)と莫大な費用(約485億円)をかけて1990年に完成した。

(4) 約34年前の工事初期段階における工事実施主体の事業所長であった小松聡明氏は、設計施工は当時の政府によって示された暫定指針に基づいて実施され、護岸用に使用された鉄パイルには寿命(50年以下)があり、地震に対する埋立地の安全性の考慮が設計時になされていなかったという懸念を提起した。

(5) 小松氏は、その暫定指針は現在も有効なのかどうか、及び当局は鉄パイルの腐食及び想定される地震に対して埋立地は安全であると考えているのかどうか、について質問した。

(6) 暫定指針について環境省は有効であると明確に回答したが、埋立地の安全性については誰も明確に答えなかった。

(7) 他の何人かの参加者もまた、水銀のような有害物質も含む高いアルカリ性の大量のカーバイド残渣により汚染されている、八幡残渣プールと呼ばれる他の汚染場所の安全性について質問した。しかし、この八幡残渣プールの安全性についても明確な回答はなかった。


患者団体代表が環境省寺田審議官に要望書を手交
(8) 水俣の被害者及び市民の5団体が署名した環境大臣宛の新たな要望書(注1)が紹介され、環境省の寺田審議官に手交された。要望書は、水俣問題が2013年に外交会議が開催される時までに解決されていなければ、その条約は影響力を失うであろうと述べている。

(9) 要望書は、2011年1月に千葉で開催されたINC2において発表された水俣病被害者・支援者の声明(注2)と基本的には同じである次の5点を求めている。もし要望書が挙げる点について真の解決なしに条約の署名儀式が水俣で行なわれるなら、その儀式は皮肉であり、滑稽ですらある。

  1. 水俣病被害の全容を解明すること
  2. 全ての被害者へ補償すること
  3. 汚染企業を擁護するのでなく、「汚染者負担の原則」が確実に実施されることを保証すること
  4. 水俣及び不知火海の水銀汚染を浄化すること
  5. 被害者が地域社会で安心して暮らしていける医療や福祉の仕組みを確立すること
■世界のNGOが注目
 国際NGOの連合体IPENは、「世界水銀条約を被害者に因んだ名前にする前に水俣問題を解決せよ」とするプレスリリースを6月23日付けで発表し、また世界15カ国からのNGO17団体が各国日本大使館前などで撮影した水俣被害者の要求支持を表明する写真をウェブに掲載しました。 IPEN水俣ウェブ 日本語版


注12011年6月26日付け 環境大臣 松本龍殿宛 水俣条約に関する要望書
注22011年1月23日付け 水銀条約を“水俣条約”と命名するとの日本政府の提案に対する水俣被害者団体及び支援者団体の声明


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る