IPEN 2017年9月25日 プレスリリース
水俣病と水銀汚染:過去、現在、そして将来
情報源:IPEN Press Release, September 25, 2017
Minamata Disease and Mercury Pollution: Past, Present, and Future
http://ipen.org/news/ipen-press-release-minamata-disease-
and-mercury-pollution-past-present-and-future


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年9月26日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/COP1/IPEN/IPEN_Press_170925
_Minamata_Disease_and_Mercury_Pollution_Past_Present_and_Future.html

【ジュネーブ、スイス】健康環境NGOの世界的ネットワークである IPEN は、水俣からの水銀汚染の生存者と、世界中からの妊娠可能年齢の女性の憂慮すべき体内水銀レベルを明らかにした研究者らを引き合わせた。水俣湾の工業水銀で被害を受けたり死亡した数千の人々のように、汚染された魚を食べたお母さんの胎内で水銀に暴露した坂本しのぶさんが水銀条約 COP1 で証言をした。坂本さんは、水俣条約の政府代表者らに対して世界中の水銀汚染を終わらせ、水俣の悲劇が再び起きない様、強い措置をとるよう要請した(訳注1)。

 特に、条約代表者らは小規模金採鉱に供給される水銀の世界的貿易を終わらせ、石炭火力発電所からの水銀排出を引き下げ、汚染サイトを浄化しなくてはならない。水銀に関する水俣条約は、水銀の壊滅的な影響を思い起させ、また将来の水俣病を防ぐ行動を促進するために、日本の水俣湾で起きた世界で最も悪名高い水銀中毒の被害を受けた人々を偲んで命名された。

 水俣病被害者の地域社会で過去40年以上、支援活動を行っている谷洋一氏は、”水俣は未だに汚染サイトであり、多くの水俣病被害者が認定と補償を求めて戦っている。水俣の状況は未だに解決されていない”と、述べた。

 研究『25か国の妊娠可能年齢女性の体内水銀』(訳注2)の著者であるリー・ベル氏(MA ESD)及びデビッド・エバー博士は、彼らが発見した妊娠可能年齢の女性の危険で広範な水銀汚染、及び将来世代への影響について論じた。6大陸、25か国、37箇所の妊娠可能年齢の女性1044人から毛髪サンプルの分析は、サンプル収集された女性の42%は、それ以上のレベルでは脳損傷、IQ 低下、及び腎臓損傷が起こるかもしれないとする米国EPAの健康助言レベルである 1ppm 以上の平均水銀レベルであった。

 さらに調査された全女性の53%が、胎児の神経系損傷の発症に関連する水銀レベル 0.58ppm 以上であることが発見された。暴露は水銀使用の金採鉱場所近くの地域社会、太平洋諸島、及び工業水銀汚染場所近くの地域社会でより高く、広まっていた。

 ”我々は、水銀の公衆健康危機が拡大していることを見ている”と研究の著者であり IPEN の水銀政策主担当であるリー・ベルは述べた。”もし、我々が真に水銀汚染を終わらせることに関与するなら、我々は水銀をその源から断たなくては ならない。このことは、水銀による海洋、魚及び魚に依存する人々の汚染の原因である石炭火力発電をクリーンな発電に代替することを意味する”。

 ゴールドマン賞の受賞者であり、IPEN の ASGM/採鉱問題の主担当であり、バリフォクス(BaliFokus)財団の顧問であるユーユン・イスマワティ氏は、インドネシアの小規模金採鉱(ASGM)の地域社会における女性と子どもたちの高い水銀レベルに注目した。そこでは毛髪をテストされた女性の95%が1 ppm (米国EPAの健康助言レベル)を超える水銀レベルであった。

 金採鉱活動による水銀への胎児期及び小児期の暴露による痛ましいい神経系及び身体的影響を持った子どもたちの写真と証言を示しつつ、イスマワティ氏は、水俣条約の下でまだ許容されている水銀貿易と ASGM での水銀使用をとめるための世界的な共同行動を要請した。

 ”水銀条約は、水銀の国際貿易の継続を許し、その結果、金採鉱活動が行われている国への水銀流入が継続することにより、金採鉱者の金採鉱への生計依存の立て直しに失敗した。過去5年間、世界的に取引された水銀の量は減少しているにもかかわらず、安価で、地域で生成され又は入手される水銀が、インドネシア、メキシコ、及びラテンアメリカ諸国の採鉱者らの手に容易に入る。女性、子ども、そして将来の世代の犠牲の下に、地域社会にはわずか利益をもたらすだけで、金の取引業者は大きな利益を上げ続けるであろう”。

 太平洋諸島は、石炭火力発電危機におけるカナリヤであると運動家らは言う。クック島の島嶼持続可能連合のイモゲン・イングラム氏は、彼女自身の水銀レベルが米国EPAの基準値(1ppm)以上であることを知った。テストを受けた女性10人中8人の水銀レベルが1ppm を超えている太平洋諸島の女性の状況に目を向けて、イモゲン氏は、”母親が、知らないうちに有害な水銀を彼女らの発達中の胎児に伝えていたということを後で知らなければならなかったということがあってはならない”と述べた。


訳注1:COP1 における坂本しのぶさんに関する日本メディアの報道 訳注2:IPEN の新たな調査



化学物質問題市民研究会
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