欧州環境事務局(EEB) プレスリリース 2022年7月21日
有害なオムツにさらされた赤ちゃんは
後の人生で深刻な疾病の脅威に直面する


赤ちゃんの 90% が非常に有害なオムツにさらされている
人生の後半で深刻な病気の脅威に直面するとフランスの当局者は言う
EUは消費者保護に消極的で法的な期限を守らない

情報源:EEB Press Release, 21 July 2022
Babies exposed to highly toxic nappies
face severe disease threat later in life


90% of babies exposed to highly toxic nappies
Severe disease threat later in life, say French officials
EU resists consumer protections, missing legal deadlines

https://eeb.org/babies-exposed-to-highly-toxic-nappies-
face-severe-disease-threat-later-in-life/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年8月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/news/220721_EEB_Babies_exposed_
to_highly_toxic_nappies_face_severe_disease_threat_later_in_life.html

 フランス当局によると、ヨーロッパの赤ちゃんの 90% は、近年ヨーロッパ全体で販売されているオムツに含まれる”非常に有害な”化学物質にさらされており、後に”非常に深刻な病気になる可能性のある”リスクにさらされている。

 フランスの国立食品環境労働衛生安全庁(ANSES)は 最もよく売れている使い捨てオムツをテストし、ヨーロッパ全体で販売されているオムツ[2]から 38 の”非常に危険”な化学物質 [1] を発見した。ほとんどの化学物質はホルモンをかく乱すると当局者は言い[3]、これは安全な暴露レベルがないことを意味する[4]。

 ANSES は、1,400 万人を超えるヨーロッパの子どもたちが、”がん、内分泌かく乱、生殖毒性の作用など、生涯にわたって生活の質に影響を与える潜在的に非常に深刻な、変化しやすい、潜伏性の病気”に苦しむ可能性があると推定している[5]。世界保健機関によると、子どもたちは化学物質に対して特に脆弱である。

 ANSES は 2020 年に 9 つの銘柄をテストすることによって徹底的に調査し、発がん性物質であるホルムアルデヒドを発見した。ANSES は、汚染が再び起きる可能性があるとして EU にオムツの化学物質を厳しく制限するよう求めた

 しかしその提案に対して、EU 機関は抵抗を示している。欧州化学物質庁(ECHA)は 潜在的なリスクは認め6]、その化学物質は存在すべきではないと述べたが、フランスの提案は子どもへのリスクを適切に証明できなかったと主張している。その見解には欠陥がある、と NGOs は言う。昨日、欧州委員会はフランスの提案に対応するための法定期限[7]に間に合わず、消費者保護は数か月又は数年にわたって引き延ばされることになった [8]。

 欧州環境局 (EEB)、HEAL、ClientEarth を含む 21 の NGOs は欧州委員会に書簡を送り、子どもたちへの健康への影響は不可逆的である可能性があり、委員会は予防権限(precautionary powers)を使用してその化学物質を禁止する必要があると述べた。

 EEB の化学物質担当副マネージャー、ドロレス・ロマノは、次のように述べた。”毎日、毎週、信じられないほど敏感な新生児や幼児は、地球上で最も有害な物質にさらされている可能性がある。 信じられないことに、この状況は完全に合法である。フランスの圧力により、製造業者は自分たちの行動を一掃することを余儀なくされ、それが完全に可能であることを示した。 しかし、検査官がいなくなるとすぐに、問題が再発する可能性がある。 だからこそ法律が必要なのである。欧州委員会は最近、子どもたちを化学物質の危険から保護することを約束した。このオムツの脅威を真剣に受け止め、時間を無駄にするのをやめ、有害なおむつをなくさなければならない。”

 環境、公衆衛生、食品安全に関する欧州議会委員会の副委員長であるアーニャ・ハゼカンプは次のように述べた。”ヨーロッパの何百万人もの新生児や子どもたちが、まだおむつをしている間にすでに危険な化学物質にさらされていることは非常に憂慮すべきことである。この証拠にもかかわらず、公式の EU 化学物質庁が、これらの幼い子どもたちの健康を守るための安全制限を支持するのではなく、業界の経済的利益を守ることを選択していることは、さらに懸念される。 私たちは、すべての市民の生涯を通じて、そしてもちろん若くて最も脆弱な年令の時に毒性のない環境を実現するための戦いを続ける。”

 欧州議会の環境、公衆衛生、食品安全に関する委員会のメンバーであり、化学物質問題の運動家でもあるマリア・アリーナは、次のように述べている。”毎日、親はオムツを交換するだけで、生まれたばかりの赤ちゃんを有害な化学物質にさらす危険がある。使用しているオムツが有害であるかどうかを親が知る必要はない。 これらの物質の有害な影響はよく知られているのだから、育児用品に使用することは許可されるべきではない。 EU は、オムツに含まれるこれらの物質の使用を禁止し、すべての人に無害の環境を確保しなければならない。”

 環境、公衆衛生、食品安全に関する欧州議会委員会のメンバーであるティリー・メッツは、次のように述べている。”なぜ EU は、彼らを保護するための行動を取るのにこれほど遅く、消極的なのか? 私は欧州委員会に対し、これを早急に是正し、より健康的な使い捨てオムツのために高い EU 基準を設定するよう要請する。”

 欧州議会議員で薬剤師のユッタ・パウルスは、次のように述べている。オムツに含まれる有害物質による生涯にわたる潜在的なダメージから子どもたちを守ることは私たちの義務である。”

 フランスによると、毎分 1,000 枚のオムツがヨーロッパで製造されている。市場は年間 70 億ユーロ(約 9,800億円)の価値があり、パンパース (36%) とハギーズ (26%) の 2 つのブランドが支配していると彼らは言う。ヨーロッパの親の 90% 以上が フランスにより EU 27か国に導入された1990年代からそれらを使用しており、2015年に 32億個が販売された。EU 27か国外では英国により導入された。フランスの当局者は、この制限がビジネスに大きな損害を与えることはなく、ビジネスを改善することさえできると述べている。しかし産業界は、化学物質の制限はビジネスに悪いと言って不満を漏らした。

 オムツ以外にも、日用品に含まれる合成化学物質への毎日の暴露は、がん、生殖系障害、糖尿病や肥満などの代謝計疾患の増加に寄与している。科学者たちは、赤ちゃんは”汚染された状態”で生まれてくると言う。化学汚染は最近、惑星の境界を越えた、と彼らは言う。公式の世論調査では、ヨーロッパ人の 84% が製品に含まれる化学物質の健康への影響を心配しており、90% が環境への影響について心配していることがわかった。

 4月には、オムツを含む消費者製品から何千もの悪名高い化学物質を禁止する EU の計画について、国際的なメディアの報道があった。フランスの提案はその計画の最初のテストであると EEB は述べた。

 EU は、その中心的存在である REACH 規則を手始めに、化学物質管理の広範な改革を計画している。当局が”許容できないリスク”という今日の法的基準ではなく、”高い懸念”を証明するだけでよかったなら、REACH は有害なオムツを防ぐことができた可能性があると NGOs は言う。

ノート

[1] ANSES は、ホルムアルデヒドに加えて、4 つの化学グループに属する 37の物質 (フランス語で 99〜103ページ、または英語で (137 ページを参照) が産業プロセスからの残留物としてオムツに含まれていることを発見した。 ANSES は、それらすべてが”非常に深刻な有害特性”を持っていると考えてい る(74 ページ)。

 ホルムアルデヒドは、ヒトでは発がん性と変異原性があり、またアレルギー性皮膚反応を引き起こすと分類されている。おもちゃやその他の消費者製品への使用は禁止されている

 PAH 一族の 10 種類の化学物質は、ヒトに対する発がん性があると分類されている。 PAH はまた、ホルモンを混乱させる。

 12の PCB 類は 1987 年以来、すべての製品で禁止されており、肝臓、免疫系、神経系、代謝系、内分泌系への毒性影響を含む深刻な健康への悪影響を引き起こすことが知られている。生殖への悪影響;変異原性の影響;および遺伝毒性の影響。

 密接に関連する PCDD (ダイオキシン) および PCDF (フラン) ファミリーの 15 の化学物質。これらの化学物質は、次のような深刻な健康への悪影響を引き起こすことが知られている。肝臓、免疫、神経、代謝、内分泌毒性への影響。生殖毒性;変異原性;および遺伝毒性の影響。

[2] 2018 年と 2019 年に、フランスは、いわゆる環境に優しいオムツを含む、最もよく売れている赤ちゃん用オムツの 51 個のサンプルをテストした (16〜19 ページ)。彼らは、サンプルがヨーロッパ全体のオムツ市場を代表するものであり (136 ページ)、強力な加盟国間貿易により、有害なオムツが全域でのリスクであることに注目している (41 ページ)。 ANSES は、ブランドごとの汚染に関する情報を公開していない。

[3] 75〜78ページと 103〜107ページを参照。

[4] 内分泌学会は、内分泌かく乱化学物質はどのような濃度でも危険であると述べている

[5] フランスの提案の 14 ページ: 「使い捨ての赤ちゃん用オムツが広く使用されていることを考えると、書類一式提出者は、提案された制限により、毎年ヨーロッパの赤ちゃんの 90% (つまり、1,450 万人の赤ちゃん) がオムツに含まれる危険な化学物質類にさらされるのを防ぐことが期待されると考えている。”

[6] ECHA のリスク評価委員会は、「…使い捨てオムツにこれらの物質による潜在的なリスクがないと結論付けるのは不可能である…」(9 ページ) と判断した。化学物質は”…可能な限り/実行可能な低レベルに維持する必要があり、できればまったく存在しないようにする必要がある”ことがわかった。 (10ページ)

[7] 欧州委員会は、化学物質制限の法的文書を提案するために 3か月の猶予を与えられ、その後、加盟国の代表による投票にかけられる。第73条を参照のこと。

[8] 欧州委員会の産業部門である DG GROW は化学物質保護に対して緩い態度をとっており、法律が 2007 年に施行されて以来、3か月という期限を一度も満たしたことがない。その後、欧州環境事務局 (EEB) による新しい研究によると、欧州委員会が制限案を採択するのに通常 19か月かかり、最も遅い記録では 3年 10か月かかっている。企業は、欧州委員会が制限を承認するまで、国家当局が危険と見なす製品でも自由に販売し続けることができる。


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る