ユトレヒト大学 2022年9月23日
小さなプラスチック粒子が
胎盤に入り込む可能性はあるか?
それはどれほど危険か?

ハンナ・ドゥシャ(Hanna Dusza)と仲間の毒物学者らによる
Environmental Health Perspectives での出版物

情報源:Utrecht University, 23 September 2022
Can small plastic particles end up in placenta and how dangerous is that?
Publication by Hanna Dusza and fellow toxicologists in Environmental Health Perspectives
https://www.uu.nl/en/news/can-small-plastic-particles-
end-up-in-placenta-and-how-dangerous-is-that


オリジナル論文: Uptake, Transport, and Toxicity of Pristine and Weathered
Micro- and Nanoplastics in Human Placenta Cells

Hanna M. Dusza, Eugene A. Katrukha, Sandra M. Nijmeijer,
Anna Akhmanova, A. Dick Vethaak, Douglas I. Walker, and Juliette Legler
21 SEPTEMBER 2022ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年1月12日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehp/220923_Utrecht-U_
Can_small_plastic_particles_end_up_in_placenta_and_how_dangerous_is_that.html



胎盤細胞における蛍光ポリスチレン粒子の内在化
@Hanna Dusza

 マイクロ及びナノプラスチック (MNP) は、私たちの環境のいたるところにある。 最近の研究によると、これらの小さなプラスチック粒子は最終的に肺や血液に入りこむ。 しかし、MNP が健康に及ぼす影響についてはほとんど知られていない。特に懸念されるのは、妊娠と発育中の胎児に対する MNP の影響である。 胎児は環境汚染物質に非常に敏感である。環境中の有害物質は母体の血液とともに胎盤に到達し、子宮内の赤ちゃんにまで運ばれることさえあるが、これはマイクロプラスチックやナノプラスチックにも当てはまるのか? もしそうなら、MNPは胎児の発育にどのように影響するのか?

 ”正常に機能する胎盤は、妊娠中の胎児の発育と母体の健康に不可欠であるため、胎盤への MNP の影響を研究することは非常に重要である”と、胎盤細胞における MNP の取り込みと影響を研究しているハンナ・ドゥシャ(Hanna Dusza)は述べている。

胎盤への MNP の影響の測定

 MNP の母親と胎児への影響を直接研究することは、現実的かつ倫理的に困難である。しかし幸いなことに、これを理解するためのより間接的な方法が他にもある。たとえば、胎盤細胞をイン・ビトロ(ペトリ皿)で増殖させ、実験室で MNP の取り込み、輸送、及び毒性を研究することができる。 このような研究は、ハンナ・ドゥシャ(Hanna Dusza)と彼女の同僚らによって行われた。彼らの調査結果は、Environmental Health Perspectivesに掲載され、今週マーストリヒトで開催された国際毒性学会で発表された。

 この研究では、サプライヤーから直接購入した手付かず(pristine)の MNP だけでなく、環境風化を模倣するために実験室で風化させた粒子も調査した。全ての粒子は、2 つの重要な胎盤細胞によって取り込まれた。”興味深いことに、手付かずであるが風化していない粒子は、ホルモンの産生と代謝に関与する特定の遺伝子の発現に微妙な影響を示した”とドゥシャ は言う。 胎盤は、胎児の健康と発育に重要なステロイドホルモンを産生する活発な内分泌器官である。

風化は化学組成を変えることができる

 ”私たちが観察した影響は興味深いものであり、風化によって粒子の化学組成が変化する可能性があること、及び手付かずの粒子から浸出して胎盤のステロイド産生に影響を与える可能性がある化学物質があることを示唆している”。 しかし、これが人間がさらされる濃度で起こるかどうかはまだ不明であると彼女は付け加えた。

 ”MNP が私たちの健康に与える影響、特に胎児の発育などの脆弱な段階での影響については、まだ知られていないこと(知識のギャップ)が多い。母親と胎児への潜在的な健康リスクを推定する前に、母親の暴露の程度と MNP の毒性についてもっと知る必要がある”とドゥシャは言う。

【動画】MOMENTUM Interview |Hanna Dusza(ハンナ・ドゥシャ)

知識のギャップへの対処

 この論文の上席著者であるジュリエット・レグラー(Juliette Legler)は、これらの知識のギャップは、AURORA やオランダ健康研究開発機構(ZonMw)、オランダ保健省(Health~Holland)及び様々な公的及び民間組織により資金提供された官民連携プロジェクトMOMENTUM など、現在進行中のプロジェクトで対処されつつあると付け加えた。”今後数年間で、人間が MNP にさらされた場合の健康リスクは何かという質問に答える準備が整うでしょう”。

 この研究は、オランダ健康研究開発機構 (ZonMw) によって、マイクロプラスチック及び健康プログラムの下で支援された。 Project Grant No. 458001003(40-45800-98-106)。


訳注

 EHP のオリジナル論文についての解説は、本記事以外に EHP サイエンス・セレクションに掲載されたシルケ・シュミット(Silke Schmidt)による解説があり、その日本訳を当会ウェサイトでも紹介しているが、内容が専門的なのでより平易なユトレヒト大学のニュース記事も紹介することにしました。
EHP サイエンス・セレクション 2022年11月1日 安全性の欠陥? マイクロ及びナノプラスチック粒子の胎盤取り込み シルケ・シュミット



化学物質問題市民研究会
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