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Chemical Brain Drain - News 2014年3月3日
おじいちゃん、証拠?それとも予防?

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
Proof or precaution, Grandpa?, 3 March 2014
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2014/03/proof-or-precaution-grandpa/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2014年4月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Proof_or_precaution_Grandpa.html

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【2014年3月3日】 次世代の脳を有害化学物質から保護する目標の設定は、慎重な意思決定に基づかなくてはならない。我々は、正しい選択をしており、重要な製品の製造や使用を禁止したり制限したりしないための合理的な確実性がほしいという一方で、もし我々が完全な証拠を得ることを目指すなら、そのための研究は、長期にわたり、コストのかかるものになるであろうし、その間に子どもたちは暴露し続けることになるであろう。我々はこの難問をどのように解決すればよいのか?

 おじいさんが彼の世代の産業化学物質の楽観的な使用を孫に話して聞かせるように、我々は一歩ずつ話を進めていこう。疑われた化学物質リスクが後に無害であることが分かったという事例はどの程度起きたのであろうか? ”誤った肯定(false positive)”(訳注1)かもしれないと疑われた88の事例が組織的に見直された結果、真に”誤った肯定”であり、高価な社会的損失をもたらしたものは、わずかに4つの事例(脳汚染に関連するものはない)だけであった(訳注2)。初期の社会的なパニックが誇張されたが、どの様な過剰反応もすぐにコントロールされた。88のリスクのうち(マグロ、PCBs、トリクロルエチレンのような)約3分の1が、すぐに真のリスクであることが示された。もう少し多くのものはまだ不確実-陪審員は外(協議中)−であり、他の物質は規制されていなかったので該当しなかった。したがって環境的な脅威への過剰反応は、明白に一般的な出来事ではない。しかし、最近の Lancet Neurology(ランセット神経学)の記事で提案されたように、もし脳汚染化学物質の規制がもっと強化されれば、ある取り組みは方向を間違えるというリスクがあり得るであろう。それは支払う価値があるであろうか?

 化学産業界はランセットの記事を支持しないようである。米国化学工業協会(ACC)は、最近のプレスリリースで、ランセット報告書は、”これらの重要な問題の先進的な理解の信頼性と有用性を損なういくつかの重大な欠陥を持つ”と主張した。その声明はまた、その記事の”主張は真の科学的理解の促進のために何の役にもたたず、混乱と不安をあおるだけである”と述べている。

 結構なことだが十分か? 米国化学工業協会(ACC)によれば、我々は必要な証拠を持つにはほど遠い。”報告書は、暴露と有害性の強さの基本的な原理を無視している。言い換えれば、著者らは、化学物質がどのように使用されるのか、子どもたちは実際にそれらに暴露するのか、どの程度そしてどのくらいの期間暴露するのか、というような重要な要素をについて軽視している”。この様にして米国化学工業協会(ACC)は、化学的脳汚染が数百万の子どもたちに影響を与えているということ、及び既知の12の脳汚染物質が暴露した子どもたちの脳の発達にダメージを与えることが知られていることについて真剣に認識していない。

   しかし化学産業界はこの証拠を認めていないのか? 多分そうかもしれないが、より良い証拠を求めるために金銭的な動機があるのかもしれない。ある場合には、金銭的権益が、脅威の構成要素を成すどの様な科学的証拠をも妨害しようしてきた。大規模なタバコ会社風のキャンペーン(Big Tobacco-style campaigns)は最近、内分泌かく乱化学物質に関するありがたくない研究を葬り去るキャンペーンを立ち上げた。では脳毒性物質は違うのか?

 脳は、我々や我々の孫たち全てを存在させるものであり、化学的脳汚染は特定の集団だけに限定されるものではない。ある化学物質曝露は、生活が貧しい労働者やその家族により大きいが、その他の化学物質の中には、裕福な家族の中で暴露がより顕著であるものもある。化学物質リスクはまた、国境を重んじているようには見えない。我々の子どもや孫はリスクにさらされており、我々が会社の社長であろうと工場の労働者であろうと関係ない。おじいちゃん、予防はやはり必要ではないか? と言ってください。


訳注1
誤った肯定(false positive)
「早期警告からの遅ればせの教訓:予防原則 1896-2000」 欧州環境庁編  5章 アスベスト:魔法の鉱物から悪魔の鉱物へ (安間 武 訳)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/late_lessons/5_asbestos.html

 現在の科学では"誤った肯定"(false positive)を犯すまいとする姿勢が強い(このため逆に"誤った否定"〈false negative〉を犯すことが多くなる)が、この傾向から離れて、2種類の誤りがバランス良く生じる方向に転換させることにつながるだろう。  このことにより、後で安全だとわかるかもしれない物質または行為を制限するコストが発生する機会が増大するであろう。しかしながら、アスベストの例は、"誤った肯定"の発生〔たとえばグラスファイバーを発がん性ありとした判断〕と"誤った否定"の発生〔たとえばアスベスト疾患を否定したこと〕との間に、倫理的に受入れ可能で経済効率的なバランスがあれば、社会が全体として利益を得るということを強く示唆している。

訳注2
欧州環境庁(EEA)2013年1月 レイト・レッスンズ II 2. 予防原則と誤った警報−教訓 (概要編)
Steffen Foss Hansen and Joel A. Tickner (安間 武 訳)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/LL_II/02_False_alarms_summary.html



化学物質問題市民研究会
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