グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2013年2月4日
予防的決定が必要

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
Precautionary decisions needed, 4 February 2013
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2013/02/precautionary-decisions-needed/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2013年8月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Precautionary_decisions_needed.html

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 数年間の準備の後、欧州環境庁は本年1月下旬に、”早期警告からの遅ればせの教訓(Late Lessons of Early Warnings)”に関する新たな研究論文をついに発表した(訳注1)。

 この750頁に及ぶ報告書は、新たな技術は非常に有害な影響をもたらすかもしれないが、多くの場合、早期の警告的兆候は隠されるか無視されてきた。一連の事例研究は、危険な兆候が無視された時には、死、病気、そして環境破壊をもたらし得ることを示している。

 ふたつの章が、脳に影響を与える有害化学物質(chemical brain drain)−鉛と水銀に焦点を当てている。我々は、これらの事例から学ばなくてはならない(訳注1)。加鉛ガソリンが導入された後、鉛汚染に関する独立の研究は数十年間、実質的にはなされず、主要な情報源は産業自身と産業側から金の出ている研究者であった。

 1960年代及び1970年代になって初めて、独立系の科学者たちは、例えば、人間活動から生じる鉛の体内汚染は、産業界が主張するように”正常”ということはなく、産業革命以前に比べて数百倍も高く、したがって有害であるらしいことを示した。それまでに、子どもに関する研究が、鉛に関連する知能(IQ)の欠陥を報告していた。かくして、鉛の毒性からの保護に関する決定は、数十年遅れていた。

 水銀に関する章は、メチル水銀で汚染された魚による中毒であり、死亡又はひどい精神的及び身体的影響をもたらした水俣病に焦点を当てている。水俣のある工場からの廃水が明らかにこの病気の原因であったが、情報が十分ではないという理由から、そして重要な産業権益を守りたいという願望から、長年なんら措置が取られなかった。

 この報告書はまた、多くの研究、おそらく多すぎる研究が良く知られている問題に向けられ、新たな情報が特に必要な潜在的な有害性についての研究は少なかった。そこで、学究的な研究は惰性に影響された。さらに悪いことには、その結果を解釈する時に、決定的な証拠がないことが、しばしば有害性はないという証拠であると誤解された。

 しかし、誤った肯定(false positives)、すなわち、無害な化学物質を危険とする主張はないであろうか? このEEAの報告書は、非常に多くのそのような可能性ある誤った肯定を調べたが、それらのうちのひとつがマグロの水銀であった(それは誤った肯定ではなかったことを現在は知っている)。これらの可能性あるリスクのいくつかは、現在でもまだ不確実であるが、誤った警告であったと知られているものはわずかである。したがって一般的に我々は、理由もなしに”狼が来たと叫んでいる”わけではない。

 EEAは、我々は生物系及び環境系の複雑さを考慮するよう勧告している。ひとつの要因を切り離し、それが有害性を引き起こしていることを 疑いの余地なく証明することはますます難しくなっている。リスク評価は不確実性をもっと広く取り入れ、わかっていないことを認めることによって、改善されるべきである。このようにして、適切な研究が利用可能ではないときに、”有害性の証拠がない”ことが、”有害性がないことの証拠”であることを意味するとしばしば誤解されている。特に、新規に出現している技術が大規模な場合には、政策策定者は早期の警告にもっと迅速に対応すべきであると、この報告書は述べている。


訳注1
欧州環境庁(EEA)2013年1月 レイト・レッスンズ II 早期警告からの遅ればせの教訓 科学、予防、革新



化学物質問題市民研究会
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