BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル) 2017年4月5日
コカ・コーラの
医学及び科学ジャーナリストへの秘密の影響

ポール・サッカー

情報源:BMJ, 5 April 2017
Coca-Cola's secret influence on medical and science journalists
By Paul Thacker, freelance journalist
http://www.bmj.com/content/357/bmj.j1638.full

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年4月13日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_17/
170405_BMJ_Coca-Cola's_secret_influence_on_medical_and_science_journalists.html

肥満に関する一連のジャーナリズム会議は、コカ・コーラから秘密の財政的支援を受けていた。
ポール・サッカーが調査

 肥満対策のための運動は、砂糖摂取より大きな問題があるというメッセージをもってジャーナリストに密かに影響を与えるために産業側の金が使用されたことを、情報公開法の下に入手された文書が示している。それらの文書はコカ・コーラが、砂糖入り飲料に好意的な記事を書かせるために、どの様にしてアメリカの大学で開かれたジャーナリズム会議に財政的支援をしたかについて、詳細に記述している。一連の会議への財政的支援について問われる時に、関与した大学人は、産業の関与について公表しようとしなかった。

 コカ・コーラのような飲料メーカーにとって、消費者が運動をする限り、彼らの製品を消費するということは申し分ないという考え方は重要である。オタワ大学の医学部准教授ヨニ・フリードホッフが BMJ に、次の様に話した。”’エネルギーバランス’というメッセージは、その基礎をなす推論が、清涼飲料の摂取者にとってさえ、肥満は清涼飲料を定期的に飲むことより、むしろ運動不足の結果であるというメッセージなので、コカ・コーラにとっては大事にすべき重要なメッセージである”。

 これらのジャーナリズム会議への財政的支援のための 6桁の勘定書き(訳注:10万ドル/1千万円のオーダー)は、好意的な記事で報われるもの以上であったと、批評家は言う。産業のメディアに対する秘密の影響についての文書による証拠は稀である。2014年に研究者らは、タバコ訴訟の間に暴露された秘密文書を検証した。米・環境保護庁の受動喫煙に関する1993年報告書の影響をそらそうと試みて、タバコ産業は、”少なからぬ合理的な疑いを作り上げて、特に消費者にその疑いを持たせるのに役立てる”ために、その報告書の”科学的弱点”についての記事を主要な印刷出版物に掲載させることに成功したと、研究者らは書いた[原注1]。彼らは、ジャーナリストさえ、その広報に用いられた科学の質にかかわらず、うまく仕組まれた広報の犠牲になり得ると結論付けた。


コカ・コーラのコロラド大学における財政的支援
 そもそもの話は、昨年、ニューヨーク・タイムズとAP通信の、 肥満危機(obesity crisis)と取り組むためのコカ・コーラと大学の科学者らとの間の、現在は存在しない”科学ベース”の共同研究のためのグローバル・エネルギー・バランス・ネットワーク(Global Energy Balance Network) に関する記事から始まる[原注2]。コカ・コーラは、グローバル・エネルギー・バランス・ネットワークの会長であり、小児科学教授のジェームス・ヒルが所属するコロラド大学に100万ドル(約1億1,000万円)を寄付した。専門家らが、そのネットワークは肥満の原因についての公衆の認識を、食事と砂糖入り飲料から運動不足に変えるためのコカ・コーラの策略のためのネットワークであるとして批判した後、そのネットワークは2015年に閉鎖された。コロラド大学は後に、その金をコカ・コーラに返却し、同社は現在、外部組織への財政支援をウェブサイト上で宣言している。

 コカ・コーラから財性的支援を受けてコロラド大学が実施しているいくつかのジャーナリズム会議についてはまだ報告されていない。情報公開法の下に BMJ が入手したeメールと文書は、コカ・コーラはジャーナリストの意見を動かそうとして、2011年初旬に同大学の教授らに接触を開始していることを示している。その戦術は功を奏した。ひとつの例では、2014年及びその後のジャーナリズム会議に参加した CNN の記者は、肥満の原因は運動不足であり、砂糖入りソフトドリンクの摂取ではないと主張する記事を書いた。批評家は BMJ に対し、その特定の会議のためのコカ・コーラの3万7,000ドル(約410万円)の支援と、その結果としての記事は、CNN のウェブサイトに出す広告より安い買い物であったと述べた。

 ヒルとコカ・コーラとの間の 2011年のeメールは、2012年2月初旬に開催されたジャーナリズム会議のための計画を詳述している。20名近くのジャーナリストが、ワシントン DC を拠点とする非営利団体であるナショナル・プレス基金(National Press Foundation)から支援を受けて参加した。

 その会議の数か月後、ヒルはコカ・コーラの重役にメールし、その会議は”ホームラン”であったと述べ、”ジャーナリストらは、これは素晴らしい催しであり、彼らは多くの記事を書いた”と付け加えた。ヒルはさらに、”あなたは基本的に今年の会議を支援してくれた。来年はもっと多くのスポンサーを関与させることができるであろうと私は思う”と続けた。

 数か月後、同社は更なる支援として4万5,000ドル(約500万円)コロラド大学基金に送ることに同意した。

 2013年、ヒルはナショナル・プレス基金(National Press Foundation)と開催する肥満に関するもう一つのジャーナリズム会議についてコカ・コーラにeメールした。同基金へのeメールと質問は、同基金はコカ・コーラとのこれらの会話について知らなかったことを示唆している。ヒルは同社に次の様に書いた。”会議は大成功であり、昨年よりも良かった。これらのジャーナリスト達は、肥満についてもっと現実的な理解を得て、帰ったはずだ。あなたの支援にもう一度、感謝します”。コカ・コーラの重役が”報告書を全部読んだ。すばらしい。来年も仲間に入れてくれ”と返答したので、ヒルはどうやら、会議の報告書を添付したらしい。


ジャーナリストの不平
 しかし、一人のジャーナリスト、クリスティン・ジョーンズはこれらの会議はどの様に資金調達されたのかについて懸念するようになり、ナショナル・プレス基金に不平を言った。同基金の会長、ボブ・マイヤーズは彼女の懸念をヒルと仲間の教授ジョーン・ピータズに伝えた。マイヤーズは、教授たちに、ジョーンズは彼女が参加した2014年のジャーナリズム会議にコカ・コーラが1万ドル(約110万円)を提供したと聞いて狼狽したことを告げ、彼がジョーンズに”資金調達について我々が知っていることの全ては、それがコロラド大学基金から出たということである”と告げたとを加えた。

 その後、ピーターズはナショナル・プレス基金にeメールで”その資金は我々の一般的教育助成金”から出たと告げた。一月後、ピータズはコカ・コーラの重役らに 2014年のジャーナリズム会議に関する報告書をeメールし、”この仕事を支援する教育助成金”について彼らに感謝した。

 ”私は騙されたような気がする”とジョーンズは BMJ に告げた。ジョーンズはもはやジャーナリストとしては活動せず、コカ・コーラの資金調達を自分が知っていたらその会議に参加しなかったであろうとジョーンズは述べた。

 ナショナル・プレス基金の2014年の会議の詳細報告書は、会議に参加した記者のコメントを含めており、また彼らが後に書いた記事をリストした。報告書の冒頭には、CNN の記者ジェン・クリスティンセンの派手な文言を引用した。”皆さんは全て、肥満の話題についてのロックスターを得た。あなたが選ぶ講演者らの質は驚くべきものである。そのように有益な連帯意識を私はかつて持ったことがない”。会議の数か月後、クリステンセンは CNN に、”清涼飲料メーカーは”カロリーの低減を望むが、ダイエットは本当に良いのか?”と題する記事を寄稿したことについて、その報告書は言及している[原注3]。

 クリスティンセンも、その会議に参加したナショナル・パブリック・ラジオの記者も、この件についてコメントするよう再三依頼したが、応答がなかった。


儲かるビジネス
 オタワ大学のヨニ・フリードホッフは次の様にコメントした。”コカ・コーラが、同社に友好的な独断的意見でジャーナリストを教化することに資金を投入することは儲かるビジネスであり、彼らの関与を隠してコカ・コーラを支援した専門家らにとって、多分明確な事実であると私は思う”。

 ナショナル・プレス基金のための会議の主催者は、すでに同グループを去っていたボブ・マイヤーである。彼はコメント要請に応答しなかった。同基金は現在、サンディ・ジョンソンによって運営されており、彼はeメールで次の様に述べた。”ジャーナリスト訓練プログラムのもっと適切なスポンサーは、2016年2月に正にそれを行ったメイヨー・クリニックのような組織であろう”。

 2014年最終報告書を含んで、 BMJ が入手した文書のいくつかをレビューした後、ニューヨーク大学の栄養学と公衆健康学の教授マリオン・ネスレは、講演者の顔ぶをれと演題から判断して、ジャーナリストらはこのプログラムは産業側の催しであったということを認識すべきであったと述べた。例えば、マクドナルドとコカ・コーラからの代表者らが肥満に関する彼らの共同の取組について語るひとつのパネルで、ジャーナリストらは誤解させられたように見えるが、彼らはそのように騙されるべきではなかったとネスレは付け加えた。”全体としてこれは、科学を装った産業側の会議であり、ジャーナリストはそれに巻き込まれたように見える。コカ・コーラは、かかったお金を取り戻した。

 あるコカ・コーラの代表は、2015年9月に同社は2012年の春にジャーナリズム訓練プログラムのためにコロラド大学に4万5,000ドル(約500万円)を出したことを同社のェブサイトで明らかにしたと述べた。2015年以前は、そのジャーナリズム・プログラムの金がどこかから出ているのか明確ではなかった。コロラド大学は BMJ に対して、同大学がグローバル・エネルギー・バランス・ネットワークのために、主にコカ・コーラ社により提供された3万7,5000ドル(約413万円)を2014年ジャーナリズム会議に出したと述べた。同大学の報道担当は BMJ に、”本質的に会議のための金はコカ・コーラからの贈与であった”と、述べた。

 ヒルとピータズは、 BMJ のコメント要請に対し応答しなかった。

補足説明

 利害関係:私は BMJ の利害宣言に関する方針を読み理解し次の様に宣言する。私は、ハーバード大学から大学の研究における汚職について講演するために、そしてトロント大学法学部から大学の研究における汚職及び医師支払いサンシャイン法について講演するために、旅費を受けとった。私は、情報管理法の要求及び訴訟に関してジャーナリスト及びその他を支援するアメリカの団体であるジェームス・マディソン・プロジェクトの無給の評議員である。私は脳研究についての支援に関して、ある研究に助言している。私は、ニューヨークタイムズ、ロサンゼルスタイムズ、ラッキーピーチ、及びハフィントンポストを含んで、いくつかのジャーナリズムの一団に記事を書いて支払いを受けている。私は製薬産業に関する今度のドキュメンタリーについて助言し、書くことに対する支払いを受けつつある。

References

1. Muggli ME, Hurt RD, Becker LB. Turning free speech into corporate speech: Philip Morris' efforts to influence U.S. and European journalists regarding the US EPA report on secondhand smoke. Prev Med2004;357:568-80. doi:10.1016/j.ypmed.2004.02.014?pmid:15313097.

2. O'Connor A. Coca-Cola funds scientists who shift blame for obesity away from bad diets [blog]. New York Times Aug 2015. http://well.blogs.nytimes.com/2015/08/09/coca-cola-funds-scientists-who-shift-blame-for-obesity-away-from-bad-diets.

3. Wilson J. Soda makers want to cut calories: but is diet really better? www.ksl.com/?sid=31705716&nid=1010&title=soda-makers-want-to-cut-calories-but-is-diet-really-better.


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