Sydney Morning Herald 2016年10月22日
コカ・コーラ 秘密の計画 
シドニー大学の研究者 リサ・ベロを監視

マーカス・ストローム

情報源:The Sydney Morning Herald, October 22, 2016
Coca-Cola's secret plan to monitor Sydney University academic Lisa Bero
by Marcus Strom
http://www.smh.com.au/technology/sci-tech/cocacolas-secret-plan-
to-monitor-sydney-university-academic-lisa-bero-20161020-gs6m4a.html


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年10月29日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/
161022_Coca-Cola_secret_plan_to_monitor_Sydney_University_academic_Lisa_Bero.html

Coca-Cola.jpg(11536 byte)
Illustration: Simon Letch
 コカ・コーラは、民間会社が肥満のような分野における公衆健康研究の結果に対して、どの様に影響を及ぼすかを検証するシドニー大学で実施されている健康研究を監視するために、秘密の計画を持っていることを暴露された。

 流出した内部メールの中で、金をもらっているコカ・コーラ南太平洋のコンサルタントは、”この世界的な清涼飲料製造会社にとって重要な活動は、チャールズ・パーキンス・センター(CPC)を通じてリサ・ベロのプロジェクトに関連する研究プロジェクトの成果を監視することである”と書いた。

 将来の監視は、”肥満、糖尿病、及び心血管系疾病”の治療と予防に関して計画されている研究を含めるべきである”とそのメールは述べている。

 シドニー大学のチャールズ・パーキンス・センター(CPC)で研究するベロ教授は、産業側資金提供の研究の高潔性、及びそれが公共政策に影響を与えるためにどの様に用いられているかを調査している。彼女はアメリカにいた時に、タバコ会社の健康議論に及ぼす影響を明らかにするために活動した。これらの手法は現在、コカ・コーラのような会社が、どのように公衆健康研究に影響を及ぼそうとしているかを検証するために用いられている。

  シドニー大学の副学長マイケル・スペンスは次のように述べた。”我々は、直接的であろうと秘密裏であろうと、我々の研究者に対するどのような脅迫も許さないし、リサ・ベロ教授の研究を完全に支援する”。

 チャールズ・パーキンス・センター(CPC)のセンター長であるステファン・シンプソン教授は、監視に驚かないが、”それは気味の悪いことである”と述べた。

 コカ・コーラ南太平洋の報道担当者は、”研究プロジェクトの結果が公表される時に、後れを取らないようにすることに関心がある”と述べた。

 彼は、”コカ・コーラは定期的に研究者と会話を持っており、実際、我々はチャールズ・パーキンス・センターの研究者らと個人的に会っている”と述べた。

 コカ・コーラは、批評家たちが”アストロターフィング(一般市民を装ったやらせ)(訳注1)”と呼ぶ、自発的な研究であるように見せるやり方で、ある立場を支持する意見をひそかに醸成するために、”運動の健康への影響に関する研究” に対して大口の寄付をしている

 肥満の主な原因は飲食の選択ではなく、運動不足であると主張する組織に、コカ・コーラが広範に秘密の資金を供与していたことをニューヨークタイムズ紙が暴露した後、昨年、同社は金を供与した組織を明らかにさせられた。

 ベロ教授の研究についての私的なメールに関して、コカ・コーラは、”そのeメールが真実ではないと信じる理由はないように見える”と Fairfax Media (訳注:Sydney Morning Herald) に述べた。その報告はコカ・コーラが健康研究に影響を及ぼそうとすることを強く批判するアメリカの栄養学者マリオン・ネスレによる1月のチャールズ・パーキンス・センターでの講演に触れている。

 オーストラリアでのe-メール報告は、最終的には1月28日にコカコーラ本社の公共問題担当副社長マイケル・ゴルツマンに送られた。

 そのメールは、オーストラリア砂糖産業連盟、砂糖オーストラリア、及び砂糖研究支援サービスのために働いているシドニーの広告会社 Appetite Communications のアンドレア・モルテンセンによって書かれたものである。

 モンテンセンの報告は、ベロ教授を監視することはもちろん、コカ・コーラはその信頼戦略と透明性イニシアティブを強調し、ネスレ教授の講演ツアーに関するソーシャル・メディアを監視し、会議の発表資料と影響力ある主要人物の議論を監視する必要があると述べていた。

 彼女の会社のウェブサイトで、モルテンセンは彼女自身を、”美味しく手軽で健康によい食事のアイディア発見することが好きな二児の忙しい母親”と述べている。彼女は Fairfax Media からの問い合わせに答えなかった。

 アンドレア・モルテンセンにより送られたe-メール報告(英語)(画像)

(日本語訳)
メール1:From Pablo Largacha To Global Pac Leadersjip Team 2016年1月28日午前8時4分
Subject:連絡 マリオン・ネスルの南太平洋ツアー・・・
 下記は、昨日のシドニー大学でのマリオン・ネスルのプレゼンテーションの概要です。これは彼女が参加する・・・ニュージランド?(判読不明)二番目の講演会です。彼女はオーストラリアでさらに4つの講演会を行いますが、もっと多くの人々が・・・(判読不明)なので、疑いなくより多くの聴衆を魅了するでしょう。

メール2:From アンドレア・モルテンセン To:Michelle Carfrae 2016年1月28日午後2時33分 Subject:ネスルのプレゼンテーション
 これは昨日、CPC でのプレゼンテーションで提起され議論された主要な問題点の概要です。プレゼンテーションは、・・・(判読不明)により主催され、彼らのAGM(年次総会)に先立ち行われました。CPC の研究者(例えば、Tim Gill, Vicki Food, Stewart Trust ・・・(判読不明)・・・栄養学者(例えば、Cath Saxelby, Rosemary Stanton)及び産業側栄養学者(例えば、Gina Levy, Kellog; Michelle Broom, GLNC and Bro・・・(判読不明)を含む約 80人が出席しました。
 マリオンは、CPCの”客員研究者”であり、栄養研究の品質−透明性に関してリサ・ベロ教授と共同作業をしています。
http://sydney.edu.au/pharmacy/about/people/profiles/lisa.bero.php 、及び下記の彼女の経歴(BIO)からの要点・・・

 コカ・コーラのためのアンドレア・モルテンセンによる報告(英語) (画像)

(日本語訳)
重要な行動
  • 信頼戦略と透明性イニシアティブの重要性を強調すること。それぞれの研究者/組織と(全体像の中で捉えるために)透明性イニシアティブについて討議し、彼らがもつタイミングに関する及び明らかにされた情報に関するどのような疑問にも答えることが重要である。
  • ソーシャル・メディアを監視すること(昨日のプレゼンテーションからは非常に限られた情報だけが触れられている=ソーダ税問題)。
  • 会議のプレゼンテーションおよび影響力ある主要人物の議論を監視すること。
  • CPCを通じて研究プロジェクトの成果を監視すること。(リサ・ベロのプロジェクト関連:計画されている現在及び将来の作業は・・・(判読不明) 肥満、糖尿病、及び心血管系疾病の治療と予防を含み、また健康研究プログラムを伝えるための品質証拠の使用の促進は、設計、実施及び(判読不明)への文化的、社会的、政治的、及びその他の影響に焦点を合わせるであろう。)
更なる討議を期待しています。

アンドレア・モルテンセン
ディレクター

 コカ・コーラは、”健康と福祉の専門家が関わる行事に定期的に参加している”と述べた。

 コカ・コーラの秘密計画は、DC Leaks の内部告発者サイトに今月発表された、この清涼飲料会社の多くの内部eメールで明らかにされた。これらのeメールは甘味飲料への課税を止めるためのコカ・コーラのキャンペーンと米大統領選のためのクリントン・キャンペーンの間の密接な関係を示していた。クリントン陣営のアドバイザーであるカプリシア・マーシャルはまた、コカ・コーラのアドバイザーでもある。

 2014年にサンフランシスコのカリフォルニア大学からシドニー大学に移ったベロ教授は、”歴史は繰り返している”ように感じたと述べた。

 ”タバコ産業の文書がアメリカで発表されて、それらは私の研究が監視されており、1993年にすでにタバコ会社に報告されていたことを明らかにした”と、彼女は述べた。

 ”独立系の研究を監視することは企業権益の間では常套手段である”。

 チャールズ・パーキンス・センター(CPC)のセンター長ステファン・シンプソン教授は次のように述べた。”コカ・コーラが彼らのビジネスに影響を及ぼすかもしれない研究者の活動を追跡することは驚くべきことではない。ベロ教授の研究を追跡したいと望むということは、我々の研究の品質と影響力の証である。しかし他方、それは一種の気味悪さがある”。

 ネスル教授は1月にはチャールズ・パーキンス・センター(CPC)の客員研究者であった。彼女はアメリカでは”ソーダー税”として知られている清涼飲料の消費を減らすための課税を支持している。コカ・コーラやその他の甘味飲料製造者らはその課税に反対している。

 ネスル教授は彼女のブログ上で、”私は監視されていた!” と述べた。彼女は、”現在まで、私はコカ・コーラの誰かが私の講演の全てを記録し、本社に報告していると推定している”。

 コカ・コーラ社内のeメール暴露はアメリカでは新聞種となったが、それはそれらのメールがコカ・コーラの”ソーダー税”反対キャンペーンとヒラリー・クリントン大統領選キャンペーンの上席アドバイザーとの関係を示したからである。カプリシア・マーシャルはコカ・コーラへの助言とともに、クリントン・キャンペーンにも助言している。クリントン一族のコカ・コーラとの関係はネスル教授の著作『ソーダ・ポリティックス(Soda Politics)』で報告されている。

 ネスル教授は Fairfax Media に次のように述べた。私はコカ・コーラからの誰かがいることは知っていたが、彼女がノートを取り、それを地球の向こう側にまで送っていることは知らなかった”。

 ”そのノートは正確であった。しかしもっと興味深いことは、私のその後の講演、メディアとのインタビュー、及びソーシャル・メディアをフォローし、リサ・ベロの研究を追跡して、ノートの中で助言していることである”。

 これらの特定のeメールと残りの収集物の中のものが明らかにすることは、コカ・コーラがその販売と利益を守るための世界戦略を持っており、彼らに対抗するかもしれないどの様に小さなことに対しても注意を払うということである。

 ”これらの全ては、公衆健康の取組と戦うソーダ産業が描く彼らの取組の大きな絵に適合する。ソーダ産業の取組とは、規制に反対するロビーイング、課税反対のイニシアティブ、都合の良い研究への資金提供、地域社会組織への寄付、そして『ソーダ・ポリティックス(Soda Politics)』の中で私が述べた他の全ての手法である。

 ベロ教授は、 コカ・コーラ計画の発覚は、”我々の研究の結果について懸念しているかもしれないグループによって、それはこと細かく見られるであろうことを我々は知っているので、我々の研究を強化することになるであろう”と述べた。

 ベロ教授は、彼女の研究を監視する計画によって脅されてはいないが、そのような監視は独立系研究者ら、特に若い研究者らを委縮させる効果があると述べた。

 シドニー大学副学長スペンス博士は次のように述べた。”チャールズ・パーキンス・センター(CPC)は、堅固な思考を追い求め、社会の最大の健康問題のあるものを解決することを追求して、従来の英知を転換するために設立された。そのような挑発的な研究は改革に反対する人々を不安にさせる”。

 コカ・コーラ南太平洋の報道担当者は次のように述べた。”今回の場合、コカ・コーラのメンバーがコンサルタントと一緒に講演に出席したが、両者ともその講演会を主催したオーストラリア栄養学会(NSA)の会員である。これらの詳細は、彼らの会員登録の一部として、また彼らの講演会参加登録の中で明らかにされている”。

 ”講演会は全てのオーストラリア栄養学会(NSA)会員に開かれているので、約80名の学生、研究者、栄養士、他の主要会社からの食品飲料業界代表によって盛況であった”。

 オーストラリア栄養学会(NSA)は Fairfax Media に、人々は彼らの講演会に特定の組織や会社の代表としてではなく、個人として参加すると述べた。

 いうまでもなく、研究が発表された時に、コカ・コーラは下記の問いに対して具体的に何も答えなかったということは興味深いことである。
  • コカ・コーラは、マリオン・ネスルの講演ツアーの間に、どのくらいの数の会合で、出席しノートをとる人に金を払ったのか?
  • コカ・コーラは、大学及び/又は研究所における他の会合に参加し、それらに関して報告する他の人々に金を払うのか?
  • コカ・コーラは、チャールズ・パーキンス・センター及び特にリサ・ベロの監視に関与しているのか?
  • コカ・コーラは、チャールズ・パーキンス・センター、シドニー大学及び/又はリサ・ベロを将来も監視する計画を持っているのか?

訳注1:アストロターフィング(Astroturfing)
アストロターフィング/ウィキペディア
 団体・組織が背後に隠れ、自発的な草の根運動に見せかけて行う意見主張・説得・アドボカシーの手法である。人工芝運動や人工草の根運動、偽草の根運動(Artificial/Fake Grass Roots)などとも言われる。政治的目的に限らず、商業的な宣伝・マーケティングの手法として、一般消費者の自発的行動を装ったやらせの意味でも用いられる。

訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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