ES&T 2009年4月29日
初めて市販の過フッ素化合物が
ヒトの血液中で見つかる


情報源 ES&T Online News - April 29, 2009
First commercial perfluorochemicals found in human blood
Rebecca Renner
http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/es9011417

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2009年5月26日



ファーストフードの包装紙は、しばしばdiPAPs処理されている。JUPITERIMAGES
 初めて、食品包装に用いられる過フッ素化合物のあるグループがppbの低レベルでヒトの血液中で特定された。ポリフルオロアルキルリン酸ジエステル(diPAPs)と呼ばれるこの化学物質はまた、下水汚泥中で約100倍の濃度で検出された。トロント大学の大学院生ジェシカ・デオンと同僚らによりES&T (DOI 10.1021/es900100d) に発表されたこれらの発見は、人の過フッ素化合物への暴露及びこれらの化合物の運命と移動について、さらなる複雑な調査についての手がかりを与えると学界の科学者らは述べている。

 とりわけパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びパーフルルオロオクタン酸(PFOA)などの過フッ素化合物はいたるところに存在し、ヒトと野生生物への潜在的な毒性についての懸念は暴露及びその発生源について多くの疑問を提起している。、これらの化学物質は通常市販製品として販売されておらず、製品の分解又は他の市販化学物質を作るために用いられるプロセス助剤なので、その暴露源を決定することは複雑であった。

 diPAPsはそれ自身が市販製品なので、暴露と暴露源をさかのぼって追跡することが容易であるとデオンは述べている。”食品包装と血液中のこれら diPAPs 存在との関係は明らかである”と彼女は言う。アイオワ大学の環境技術者ケリ・ホーンブックルは同意する。”紙製品中にこれらの化学物質を見つけることは製品からヒトの血液への関連を示すことになる。下水汚泥からそれらを見つければ他の関連を示すことになり、もし暴露を減らそうと思うなら、このことは非常に重要である”と彼女は述べている。

 現在進行中の米食品医薬品局(FDA)の研究は、撥油性食品包装紙を作るために用いられる diPAPs と他の過フッ素化合物は、現状のFDA承認指針より数百倍高いレベルで食品中のあるものに移動することができることを示している(Food Addit. Contam., Part A 2008, 25, 384 - 390)。このことは、見過ごされるが潜在的に重要なヒトへの暴露源を示唆している。

 他の過フッ素化合物と同じように、diPAPS は acidic head group についた長いフッ素化炭素を含むフッ素化界面活性剤である。PFOA や PFOS とは違い、diPAPs 中の fluorinated tail 及び acidic head はりん酸エステルで結合され、自然界に広く存在する酵素により分解されやすいエステルリンクを作るとデオンは言及した。

 デオンは以前、オスのラットを使用したラボ実験で、diPAPs を一度摂取させると、それは生物学的利用能(訳注1)が高く、PFOA及びその他の過フッ素カルボン酸に代謝されることを示した。diPAPs はまた、それらが分解するとPFOAやその他の過フッ素カルボン酸塩を形成することを知っているので、ヒトの体内のPFOA汚染に寄与している”と共著者で同じくトロント大学のスコット・マブリーは述べている。

 diPAPs から PFOA 及びその他のカルボン酸塩への段階的分解はフルオロテロマー・アルコールを含む。フルオロテロマーの肝臓細胞への毒性は最近、アルバータ大学(カナダ)のジョナサン・マーチンによって示された。

 しかし、この新たな発見はヒトの体内と環境中のPFOAの運命を理解することを複雑にするように見えると米EPAの上席環境技術者で共著者のローレンス・リベロは述べている。ヒトの体内と環境中のPFOAを追跡するためには、今後、diPAPsを考慮しなくてはならないからである。”この発見は、我々は、環境とヒトの体内の過フッ素化合物を理解するのに一つの化学物質又はその同族だけを見るだけでは十分ではないということを明らかにしている”。

 デオンと彼女の同僚らは米国中西部で19〜70歳の男女の提供者から採取した共同利用血液サンプルの様々な血液タイプを使用した。各血液サンプルは少なくとも10人の提供者の血液からなっていた。10種の共同利用サンプルは2004年と2005年に採取され、他の10種のサンプルは2008年に採取された。同チームはまた、2002年にカナダのオンタリオ州の排水処理施設から採取した6つの下水汚泥サンプルからの抽出物を分析した。

 ”diPAPs はPFOAに匹敵するレベルで血中に存在する。我々は diPAPs が体内に長い間存在しないことを知っているので、これは重要でかなりのPFOA源であることを示唆している”とマブリーは述べている。
レベッカ・レンナー(Rebecca Renner)


訳注1:生物学的利用能
訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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