EHP 2007年5月号 フォーカス
パーフルオロアルキル酸(PFAAs):
証拠が我々に告げていることは何か?


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 5, May 2007
Focus
Perfluoroalkyl Acids: What Is the Evidence Telling Us?
http://www.ehponline.org/members/2007/115-5/focus.htmle

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年6月2日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/07_05_ehp_PFAAs.html

 3M社の人気の防汚剤スコッチガードの主成分であったパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)が環境中のいたるところや人々の体の中から非常に低濃度で見つかっているということが広く科学界によって知られるようになったのは2000年のことであった。その時以来、環境科学者と毒物学者は PFOS、その同族類であるパーフルオロオクタン酸(PFOA:デュポン社のテフロン製品中で使用されていることで知られる)、そしてその他の同族パーフルオロアルキル酸(PFAAs)について、以前にまして多くの関心を寄せるようになった。より多くのテストが行われるにつれ、実験動物は(PFAAs やその関連物質に対して非常に異なる反応を示すことがわかり、そのことがその反応に潜むメカニズムを正確に指摘することを難しくした。しかし、毒物学者らはこれらの化合物についての理解、すなわち人々や動物から見出されるレベルで影響を及ぼすかもしれないということを示唆する新た研究に基づく重要な事実についての理解を深めるようになった。

 ヒトや実験動物が PFOA を体内から排出できる速さが非常に様々であるということは、これらの化合物が体内でどのように処理されているかを理解することがなぜ難しい課題であるかを示す一つの例である。”メスのラットは数時間、オスのラットは数日間、サルは数ヶ月間、ヒトは約4年間と様々である”と EPA 汚染防止・毒物事務所の主任、ジェニファー・シードは説明している。

 ”この相違をもたらす生物学的出来事が何なのかを正しく理解していない”と EPA 国家健康環境影響研究試験場(NHEERL)の主任研究生物学者クリストファー・ラウは述べている。”結合たんぱく質に相違があるのであろうか?ヒトは動物とは異なる代謝メカニズムを持つのであろうか?”ラウはこれらの理解のギャップを”ブラック・ホール”と呼んでいる。

 これらのギャップはある生物種から他の生物種に外挿するという毒物学者の目標を”非常に複雑な状況”にするとシードは述べている。この理由のために、PFAAs への暴露によって引き起こされるヒトのリスクを解くことが主要な課題であるとラウは述べている。”我々は有害影響を引き起こすことの背景となる出来事を特定するために次のステップに進む必要がある”と彼は述べている。

PFAA の構造

 商業的な過フッ素化合物製品に使用される成分は時にはそれらが含む炭素原子の数によって特定される。日本の城西大学の毒物・応用薬理学部準教授ナオミ・クドウ(工藤なをみ)によれば、一般に、炭素鎖の長さが長くなればなるほど、より長く PFAA が体内に残留する。例えば、炭素数4のパーフルオロブタンスルホン酸(PFBS)はヒトの体内から1ヶ月ほどで排出されるが、PFOA と PFOS(炭素数8でC8化合物と呼ばれる)はそれぞれ3.8年と5.4年で排出される。炭素数6のパーフルオロへキサンスルホン酸(PFHxS)はこのルールの例外であり、排出するのに8.5年かかる。

 3M 社は最早 PFOS を製造しておらず、その化合物は現在、相対的に少量が、半導体製造のような入手できる代替のない用途にのみ使用されている。現在、PFOA を使用している全8社、Arkema, Asahi, Ciba, Clariant, Daikin, DuPont, 3M/Dyneon, 及び Solvay Solexis は PFOA 排出を2010年までに95%削減し、2015年までにそれらの使用を止めることに同意している。

 非営利団体であるエンバイロンメンタル・ワーキング・グループによれば、PFOA 及び PFOS の代替として導入されている新しい化合物は3つの一般的なグループに分類される。すなわちパーフルオロアルキルスルホン酸(PFOSを含むグループ)、パーフルオロアルキルカルボン酸(PFOAを含む)、そしてフルオロテロマーアルコールであり、このテロマーアルコールは過フッ素界面活性剤及びヘアケア製品、食品と直接接触して使用される紙製品、じゅうたん洗浄剤、及び自転車、園芸用ツール、ジッパーなどの潤滑油を含む製品のためのポリマーを製造するために用いられる。3M社は、炭素数の少ない化合物として、PFBS などの新たな PFAA 製品を開発しているが、その理由はヒトの体内における半減期が短いからであると3M社の医学部門の毒物学者ジョン・ブテンホフは述べている。

 しかし、新たな代替化合物のあるものはそれ自身が問題を引き起こすかもしれない。20以上の異なるそのような化合物が2007年2月14日〜16日に開催された 「PFAAs と関連化学物質のトキシコキネティクス及び作用様態に関する米国毒性学会 Society of Toxicology (SOT) 」の会議で討議された。例えば、フルオロテロマー・アルコールは環境中における PFOA の主な発生源として出現している。これらやその他の”残留”化合物は代謝や環境的生物分解の結果として PFOA や PFOS に変換することがありえる。SOT会議でのプレゼンテーションでブテンホフは、実験室でラットに与えられた8-2フルオロテロマー・アルコールの全用量の1%がPFOAに代謝された。同様に、他の研究者らは、紙やボール紙に使用されるコーティングの成分である N-ethyl-N-(2-hydroxyethyl)パーフルオロオクタンスルホン酸アミドは環境中でPFOSに変換され得ることを観察した。また大気中でPFOAを生成するかもしれない。

 環境中で検出されているその他の PFAAs もまた多くの注目を浴びている。CDC の国立環境健康センター主任研究化学者アントニア・カラファトによれば、CDC は PFOS や PFOA だけでなく、パーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、パーフルオロノナン酸(PFNA)、及びパーフルオロオクタンスルホン酸アミドを1990〜2000年全米健康栄養試験調査(NHANES)で PFAAs 分析を行った全てのアメリカ人の血液サンプル中で検出した。Environmental Science & Technology 2007年4月1日号に掲載された論文によれば、CDC の研究者は、界面活性剤中で繊維、紙、及び室内装飾材料(upholstery)に用いられる二つの化合物、2-(N-ethyl-perfluorooctane sulfonamido) acetic acid 及び 2-(N-methyl-perfluorooctane sulfonamido) acetic acid をサンプルの90%以上から検出したと彼女は述べている。同様に、パーフルオロブチレート(炭素数4の化合物)が地表水及び公共及び個人の井戸から検出された。ラウは PFOS 及び PFOA は PFAA 製造プラント及び廃棄物処理施設の近くの地域で検出されていると付け加えた。

ホッキョククマ、パンダ、そしてヒト

 PFAAs に目を向けた研究の数が増えているがPFOAとPFOSは今日まで、最もよく研究が行われてきた。両方の化合物は、グリーンランドに住むホッキョククマから中国のジャイアント・パンダ、そして太平洋中部のミッドウェー環礁のアホウドリまで、環境中のいたるところで見いだされる。3M 社によれば、これらの化合物はまた地表水中にも広く拡散している。

 2月のSOT会議において、ニュージャージー州環境保護局(NJDEP)の研究者らは23か所の水処理プラントの78%の飲料水中に PFOA を、また57%の飲料水中 にPFOS を検出したと報告した。この発見により NJDEP は2007年2月に同州が水中の PFOA を規制する方向に動くよう勧告した。現在、ニュージャージー州は飲料水中のPFOA濃度を 0.04ppb 以下とするよう勧告している。

 この値は、ウェストバージニア州にあるデュポン社のワシントン・ワークスの施設により影響を受けたオハイオ州とウェストバージニア州の飲料水のために、米EPAがデュポン社に対して出した同意命令 (Consent Order)で定めた 0.5ppb という場所特定行動レベル(Site-Specific Action Level)の値よりはるかに低い。(この行動レベルはウェスト・バージニア州和解に関連してデュポン社だけに適用されるものであり、連邦レベルでの飲料水中の PFOA 基準はない。)ペンシルベニ大学のエドワード・エメットらにより実施されたよく知られた C8 研究は、ワシントン・ワークスのプラント近辺に住むオハイオ州とウェスト・バージニア州の住民の飲料水暴露について検証している。Journal of Occupational and Environmental Medicine 2006年8月号にエメットが発表した報告書によれば、研究を開始した当初は、オハイオ州リトル・ホッキングの住民の臍帯血中の PFOA 濃度はアメリカの平均値より最大89倍高かった。現在ではこの研究の調査員らはボトル飲料水の使用が住民らの体内濃度を低減していたかどうかの結果を発表したいと望んでいる。

 NJDEP の発見は”、PFOA は、点源によって特に汚染されたと知られているわけではない公共の水供給系に共通して存在することを示唆している”と同局の毒物学者グロリア・ポストは述べている。さらに、エメットの Journal of Occupational and Environmental Medicine の論文は飲料水中の PFOA の濃度がたとえ低くても、一般の人々の体内のレベルに著しく寄与するかもしれないということを示している。

 人々はまた、廃棄処分の方法に問題があるため にPFOA と PFOS の暴露している可能性がある。ドイツで、高濃度の PFAAs に汚染された産業廃棄物がリサイクル業者により土壌と混ぜらた。この混合された土壌は”土壌改良”として違法であると後に宣言されたが、北ライン・ウエストファーリア州(North Rhine Westphalia)のアーンスブルグ農業地域の農民によって使用されたと同州の環境保全農業消費者保護省のマーティン・クラフトは述べている。クラフトがSOT会議において発表したポスターによれば、PFOAとPFOSが環境中でどのように広がっているかを分析したときに、彼らはこの二つの化合物の濃度が共に地表水中では148ppb、飲料水中では0.6ppbに達していたことを発見した。マス、コイ、ウナギなどの食用魚の濃度は最高1.2ppmに達し、中央値は133ppbであった。対照的に汚染されていない水での同種の魚の濃度は平均4ppbであった。

 PFOA はこの地域の人々の臍帯血から検出された主なな化合物であったが、臍帯血中の平均レベルは同じ郡内の暴露されていない地域の人々に比べて6〜8倍高かったとクラフトは述べている。2007年3月15にドイツ語で発表されたドイツ政府の文書の中で、クラフトらはアーンスブルグの子どもたちの臍帯血中の平 均PFOA 濃度は22.1ppb、女性は24.9ppb、男性は27.4ppbであったと報告している。

 アメリカ国民については、CDC 研究者は、初の全国を代表する PFAAs 調査をするためにを1999年〜2000年に収集された全米健康栄養試験調査(NHANES)のサンプルを分析したが、これらのデータはベースラインとみなされることを意味しているとカラファトは述べている。12歳以上人々から採取された1,562 の臍帯血サンプルにおける PFOS の平均濃度は30.4ppbであり、一方 PFOA の平均濃度は5.2ppbであった。男性のレベルは女性に比べて若干高く、またこれら化学物質の濃度が最も高い人々は最高学歴の人々の集団であった。

 PFOAとPFOSはまた、人の母乳及び赤ちゃんの血液からも検出されている。EHP2007年2月号に掲載されたスウェーデンの研究は、授乳中の乳児に移る PFAAs の合計量は約 200ng/day であると計算した。

 3M 社の研究者らは、PFOS 等の物質の製造をやめ、2002年までにPFOAの使用を大幅に減らすという同社の決定がすでに3年後にはこの化合物のレベルに影響を与え始めているという証拠を収集した。Chemosphere 2007年5月号に発表されたパイロット研究で、3M社の研究者らは、2005年にミネアポリス−セントポール地域の40人のアメリカ人赤十字献血者から採取した血清サンプルの PFOA と PFOS の濃度を、それより5年前に同じ一般集団から採取した100サンプルと比較した。彼らは、献血者サンプル中の PFOA と PFOS の平均濃度は両方とも5年間で50%以上低下していることを発見したと3M社職業医学部門のスタッフ科学者ゲーリー・オールソンは述べている。

 3M社のパイロット研究から収集された情報は、任意サンプルであり統計的にアメリカ国民の代表ではないので、1999年〜2000年全米健康栄養試験調査(NHANES)と直接比較することはできないということをオールソンは認めている。しかし彼は、EHP2003年12月号に発表された、2000年の6都市におけるアメリカ赤十字社の献血者 PFOA・PFOS 濃度調査は、CDC が同じタイム・フレームで報告したものとほとんど同等である数を示していると指摘している。3M社は、同じ6都市からのサンプルを含む2006年に実施したフォローアップ調査から得たサンプルの分析をちょうど完了したところであり、今年の後半に発表することを予定している。同社はこれらの新しいデータがパイロット調査で見られたPFOA濃度の低下を正当化することを期待しているとオールソンは付け加えている。

動物研究における健康影響

 動物研究で、毒物学者らは、PFOSとPFOA共に高用量においては、がん、身体的発達遅延、内分泌かく乱作用、及び新生児死亡を引き起こすということを観察している。この中で新生児死亡の影響は恐らく、PFOSとPFOAの動物実験の中で最も劇的な結果である。”動物は生まれると非常に健康そうに見えるが急速に死亡する”とシードは述べている。他の研究は化合物が成長と発達に影響を与え、体の内分泌系や免疫系をかく乱することがあり得ることを示している。

胎児期にPFOS及びPFOAに暴露した実験マウスは暴露しないマウスに比べて発達が遅く新生児死亡率が高い(下)。
PFOAに暴露したマウスが成獣になると肥満気味になる(上)。
images: Chris Reuther/EHP
 成獣では毒物研究は、これらの化合物が肝臓と膵臓に腫瘍を引き起こすことを示している。多くの研究が PFOS 及び PFOA が発がん性に関連する一群の受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARs)に結合する能力を立証している。実験動物に見られたがんの原因として調査されたことに加えて、PPAR 活性因子は胎児の成長と免疫機能に影響を与えると信じられている。

 今日までになされた研究の多くは PFAAs が、主要な同型 PPAR-αへの反応の引き金となることにより PPAR 作用物質として働く能力に焦点があてられてきた。新たな研究はこの化合物が体の生物化学の他の側面に影響を与えることを示し始めているとシードは述べている。実際、FPOA と PFOS の両方は複数の作用メカニズムを持っているかもしれない。

  NHEERL の研究生物学者バーバラ・アボットは、遺伝子操作により PPAR-αを持たないマウスを使って、PFOA 暴露によって引き起こされる新生児死亡と同型(isoform)であることを示唆した。PFOA はかなり強力な(PFOSに比べてはるかに) PPAR-α作用物質なので、この研究は異なるメカニズムが動物に見られる PFOS 誘引新生児死亡に関与していることを示唆している。”PFOS と PFOA の両方とも新生児死亡を引き起こしており、それらは同じ作用様式を持っているということを示唆したくなるが、実際には全く違うかもしれない”と NHEERL 生殖毒性部門の発達生物学ブランチの主任ジョーン・ロジャーズは指摘した。

 SOT 会議において、クドウ(工藤)は、オスのラットが低用量の PFOA を処理する仕組みと高用量を処理する仕組みが異なること示した。これらの研究は、この化合物が優先的に肝臓に吸収され、高用量時にのみ肝臓から胆汁に排泄される傾向があることを示している。クドウの研究は、高用量で暴露した実験ラットは速やかにその化合物を体外に排出するのに、低用量で暴露した 3M 社の工場労働者がそのように長い期間体内にこの化合物を保持する傾向があったのかを説明するのに役立つかもしれないと彼女は述べている。バッテンホッフによれば、この研究はまた、メスのラットがオスに比べてそのように速く PFOA を体外に排出することができることを説明するかもしれない。

 科学者らはいかに PFOA と PFOS が実験ラットに新生児死亡を引き起こすかについての理解をある程度進めた。EPA の研究者らは呼吸することが不可能なように見えたこれらの物質で処理された新生マウスは生物化学的には十分発育しており、遺伝子的には正常であると確認したと、ロジャーズはSOT会議で述べた。最新の仮説は、PFOS は肺を膨らませるために必要な内皮細胞表面膜(endogenous pulmonary surfactant)の機能を妨げるというものであると彼は述べている。

ヒトへの健康影響

 これらのこと全ては人の健康に対して何を意味するか?ヒトのデータを動物研究から得られた知見と比較するのにもっと役に立つ文脈を提供するために、実験動物で研究する研究者らは、単に投与された用量を報告するよりもむしろ、彼らのテスト対象の体内の PFAAs 濃度を決定すべきであるとハムナー健康調査研究所コンピュータ生物部門ディレクターであるメルビン・アンダーソンは強調した。

人の赤ちゃんのPFOSとPFOAへの胎内暴露は赤ちゃんの体重と頭囲に変化を与える。
生後の授乳による暴露の影響は不明である。
images (left to right): Don Bayley/iStockPhoto; Eyewire
 実験動物で有害影響を示す研究のほとんどは、PFOS 及び PFOA のレベルは実際にヒトや動物に見られるレベルよりもはるかに高いレベルで行われており、環境的に関連する暴露でヒトに影響を与えるかもしれないということを示唆する研究はまだ発表されていない。

 ブルームバーグ公衆衛生校の小児科医及び疫学者であるリン・ゴールドマンによれば、ジョーンズ・ホプキンズ大学の研究者らは、ボルチモアで生まれた赤ちゃんのへその緒から2004年及び2005年に収集した血清サンプル297個中、PFOA は100%、PFOS は99%、検出した。全体としてはそのレベルは成人より低かったが、検出された PFOS 最高濃度は34.8ppbであったとゴールドマンは述べているが、彼はこれらの未発表の結果は確認される必要があると強調している。赤ちゃんの血中の PFOS の源ははっきりしないが、International Archives of Occupational and Environmental Health オンライン2007年1月12日号に発表された研究は胎盤を通過する移動がその原因かも知れないと示唆している。
 高レベルのPFOS 及び PFOA をもって生まれた赤ちゃんと低出生体重及び短頭囲の統計的に有意な関連をが判明したことに加えて、ジョン・ホプキンス研究はこれらの化学物質と赤ちゃんの体重を測定し、栄養状態の概要を知ることができる胎児の赤ちゃんの肥満度(ponderal index)との関連性を明らかにした。”肥満度が低いほどへその緒血清中のPFOSとPFOAの濃度が高い”とゴールドマンは述べている。他の研究は、低出生体重は後の肥満、糖尿病、心臓血管疾患のリスク要素かもしれないと示唆した。

 ジョーンズ・ホプキンズの研究者らはまた、赤ちゃんのPFOA(PFOSではない)濃度と全循環チロキシン(訳注:甲状腺から分泌されるホルモン)レベルとを関連付けたとゴールドマンは述べている。PFOAとPFOSの濃度が高いほど懐胎期間が長くなる。このことはこれらの化合物が妊娠後期に急速に移行するのか、あるいは妊娠中に胎児に蓄積するのかという疑問を提起するとゴールドマンは述べている。

 CDC研究とは異なり、ジョーンズ・ホプキンズの研究は、両親の社会経済的状態と子どもの血中PFOAとPFOS濃度との関連を見いださなかったが、ゴールドマンが言うにはこのことは"非常に注目すべきこと"である。赤ちゃんは広範な社会経済的範囲の家族から生まれること、及び他の研究が消費者製品がこの化合物の汚染源であると指摘していることから、ゴールドマンは、この新たな調査は、もし消費者製品が汚染源なら、それらは我々の調査グループの誰でもが使用している製品である”ことを示唆している述べている。

 もし、PFOAとPFOAのレベルが高いほど肥満度が低いというゴールドマンの研究における関連が正しいならば、ある研究者らは、もしこの発見がPFOAレベルの高いげっ歯類の子どもが後に肥満になるとする新たな証拠とどのように結びつけることができるのか不思議に思っている。今日までの研究は暴露した妊娠マウスの子孫は、用量が増大すると肥満が増大するという関連を持っているとロジャーズは説明している。”それらが肥満になるまでに PFOA ははほとんど体内に残留しておらず、肝臓は正常のサイズに復帰している”と彼は述べている。

 このことが起きることについてのひとつの仮説は、ロジャーズによれば、PFOA は hypolipidemic agentとして作用して脂肪酸の代謝を増大する。言い換えれば、PFOA処理は本質的に子宮内で栄養不良状態の環境を作り出す。

 我々は、これらの化合物が脂肪酸代謝に影響を与えることを知っている”とシーズは述べている。”恐らく、エネルギー代謝のプログラムを阻害する何かが発達組織の中で起きている。”

 ロジャーズは、これは人の胎児における fetal programming syndrome として知られるものとよく合致するが、そこでは胎児が慢性的に栄養不足の胎内環境を経験し、その後豊富な食物で育てられると体重過多にになりやすい。”脂質代謝への影響をもたらすどのようなことが起きているのか、PPAR-αを通じてなのか又はその他のものを通じてなのかは、非常に重要である”と彼は述べている。”我々は代謝プログラムという見地から胎児に起きていることについてほとんど知らない。発達の非常にクリティカルな期間に環境は代謝に影響を与えるか、あるいは生涯にわたり代謝を変えるかもしれない。”

 しかしラウは、PFOAは成人の肥満に関連する多くの環境汚染物質のひとつに過ぎないと指摘する。フォローアップ研究は肥満をもたらす出来事をもっと注意深く特定することが目的であり、恐らくテスト動物の生涯の早い時期の遺伝子発現又はadipogenesisのたんぱく質マーカーを観察することによって行われる。
 マウスの胎内PFOA暴露と成獣の肥満との関連に関する研究の多くを実施したEPA研究生物学者のスザーナ・フェントンはもっと多くの研究が必要であるということに同意している。彼女は、最新のデータはこの影響が体重1kg当たりPFOA 1mg 以下の用量で見られることを示唆していると述べている(動物の血中の実際のPFOAの量は決定されなかった)。彼女の研究はまた、卵巣、乳腺、脾臓などマウスの他の組織内におけるPFAA誘引の異常を明らかにした。

免疫毒性:大西洋イルカのケース

 PFOA及びPFOSはともに強力な適応性免疫系の抑制を引き起こすことを示唆する研究に照らして、2006年にEPA科学諮問委員会(Science Advisory Board)は免疫毒性をもっと多くの研究対象にすべきことを求めた。EPAは現在、そのような研究を実施しており、PFOA は主要な免疫反応を抑制することを示す発見を再現していると NHEERL 免疫毒性ブランチの研究生物学者であるロバート・リューブクは述べた。研究者らはPPAR-α の活性を探しているが、他のものが作用しているかもしれないことを示す兆候があると彼は述べている。彼と彼の同僚らは処理されたマウスの副腎腺は幾分大きくなっており、PFOA 処理された動物ではコレストロイドのレベルが上昇するという報告と合致することに気がついた。

 サウス・カロライナ医科大学小児科海洋生物医学環境科学センター準教授マーギー・ペデンアダムスによれば、野生動物で検出されているPFAAsのレベルは、かつて報告された野生生物種の中でPFOSレベルが最も高いと信じられているバンドウイルカを含んで、動物達の免疫系に影響を与え得るということを示唆した。SOT会議において、彼女は、サウスカロライナ州チャールストンの近く及びフロリダ州インディアン川にすむ89頭のイルカから収集した血液サンプルを分析した国際チームと共に彼女の研究を討議するポスターを発表した。Environmental Science & Technologyの2006年10月1日号にゲルフ大学の研究者らのチームによって発表された分析によれば、この動物はCDCがアメリカ市民の中に見出したより約2倍のPFOA濃度を持ち、PFOSの平均濃度にいたっては20〜40倍高い。

 クレムソン大学とミスティック水族館の共同作業に関連して、ペデンアダムスはバンドウイルカの免疫機能をテストするための一揃いの分析システムの開発を支援した。”我々はPFAAsに関連して圧倒的な抑制は見いださなかった”と彼女は述べている。例えば、研究者らはT細胞拡散あるいはNK細胞の作用の変化は何も観察しなかった。しかし、リソチーム(訳注:lysozyme/卵白・鼻粘液・涙液などに存在する酵素で, 細菌の細胞壁に作用して溶菌を引き起こす)作用が抑制され、B細胞拡散が刺激され、様々なリンパ球の数が増大した。”免疫系は非常に補償的であり、ひとつが抑制されると他が増大する”と彼女は述べている。

”正常なホメオスタシス(訳注:生物体が体内環境を一定範囲に保つはたらき)からの可能性ある免疫効果の連続体に関するどのような逸脱も変化であるとみなされる”とペデンダムスは強調する。”抑制された免疫機能は病原体に対する脆弱性を増す結果となり得るが、強化された免疫機能もまた、過敏反応、アレルギー、自己免疫反応をもたらして、有害となり得る。”

 比較のために、ペデンアダムスらは、イルカで見いだされた濃度に匹敵する濃度で PFOS を B6C3F1 マウスに投与した。マウス中に見られた抗体生成に関する影響は PFOA と PFDA (パーフルオロデカン酸)の研究に基づいて予期されたことであり、コントロールに比べると環境的に関連する暴露レベルで起きた・・・”と彼女は述べている。今日まで PFOS の免疫影響を決定した研究はなく、”我々は他の研究所でこれらの影響を評価しているということは承知していないので”、この新たな研究は注目すべき価値のあるものであるとペデナダムスは述べている。

PFAA 研究の次のステップ

 今日まで行われてきたPFAAsの毒物学的研究は、”テスト動物の生物化学に重大な変化”を示しているとアンダーセンは述べている。”私は、反応のほとんどはある受容体介在性プロセスによるという仮説を持つのに十分な研究がなされていると信じている。”したがってアンダーセンは、研究者らが免疫毒性及び生殖毒性などの影響に関連する遺伝子又染色体の変化を探すために試みる低用量研究の方向に動くということは道理にかなっていると提案する。ロジャーズは、そのような低用量研究を実施することは、その影響が微妙でありまたその実施には数百の実験動物を使うことになるので非常に難しいと指摘しながらも、そのことに同意している。

 ”もっと多くのヒト集団の研究を行うことがもうひとつのアプローチである”とゴールドマンは述べ、毒物学者と疫学者の密接な連携がそのような取組に大いに役立つと付け加えた。動物研究では毒物学者は”バイオマーカーや脳、腎臓、及び肝臓などヒト研究において望むどのような場所の分子変化をも直接的に見ることができるが、我々は研究対象に過大な負荷をかけずには入手することができないようなことがらによって制限される”と彼女は述べている。

 ”もし我々が密接に調査対象を持ち寄ろうとするなら、我々はメカニズムにもっと焦点を当てるヒトの疫学調査を行うことが必要である”とゴールドマンは付け加えている。例えば、もし毒物学者がリスクを示すヒトの血清中のバイオマーカーを特定する方向に研究を進めるなら、環境健康研究は疫学者にとってもっと関連性があるはずである。”もし我々がヒトにどのような影響があるかについて関心があるなら毒物学と同じようにヒトの行動様式について考えはじめることである”と彼女は結論付けている。

ケリン S. ベッツ(Kellyn S. Betts)



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