NRP 2009年2月12日
新たなフタル酸エステル禁止法 全てが”おもちゃの国”によいわけではない 情報源:NPR (National Public Radio) Morning Edition, February 12, 2009 New Safety Law Doesn't Mean All's Well In Toyland by Sarah Varney http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=100038395 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2009年2月14日 このページへのリンク: 子ども用のおもちゃや製品中でフタル酸エステル類と呼ばれる化学物質の使用を禁止する新たな連邦法が今週、発効する(訳注1)。この禁止法は子どもの健康にとって勝利であると喝采されたが、製品が安全であることを保証するものではない。 それは、会社は現在、フタル酸エステル類の代わりに使用する化学物質を公表することを求められておらず、最も広く使用されている代替物質のひとつの健康影響についてはほとんど知られていないからである。 フタル酸エステル類は、プラスチックを柔らかくし柔軟性を持たせるために使用されてきた。しかし、この化学物質はプラスチック製品から漏れ出して我々の体に入り込むが、ある科学者らはそれらが体内でホルモンのように働くと疑っている。フタル酸エステル類は実験動物でオスの生殖系の発達に影響を与えることが示されており、少ない研究ではあるが、男の幼児の生殖器における微妙な影響と関連しているかもしれないことを示唆しているものがある。 連邦政府の禁止法に備えて製造者らは、赤ちゃん用ガラガラやプラスチック製おもちゃに対するフタル酸エステル類の代替物の使用を検討している。しかし禁止法はフタル酸エステル類の代替物として使用できる化学物質を示していない。 交渉に近い消息筋によれば、世界最大のプラスチック可塑剤製造会社のひとつであるエクソンモービル社によるすさまじいロビーイング活動の後、会社に対してより安全な代替物質を選び出すことを求めるという条項はこの法律から取り除かれた。エクソンモービル社の報道官クリス・ウェルベリは、同社が製造するフタル酸エスエル類は安全であり、したがって新たな法や条項は必要ないと述べている。そして彼は、アメリカは知られている化学物質をほとんど知られていない化学物質で代替しようとしていると述べている。 カリフォルニア州は同様なフタル酸エスエル類禁止法を1月1日発効させた(訳注2)。その法律は、発がん性や生殖毒性が知られていない代替物質を使用するよう製造者に求めているが、同法は他の有害な健康影響を持つかもしれない代替物を禁じていない。 ”市場には8万種の化学物質がある”とカリフォルニア州環境保護庁の毒物学者ステファン・ディジオは述べている。”我々はそのうち、約400種くらいの毒性について何がしかを知っている。このことは、何が起きるか分からないようなものが市場で動いているを意味している”。 化学物質の連邦政府による評価 連邦法の下では、会社は製品中の化学物質を公表することを求められておらず、又は、フタル酸エスエル類のように禁止された化学物質を新しい化学物質に換える場合に政府機関に申告することも必要ない。 米環境保護庁は新規、又は既存の化学物質リスク評価を日常的に実施していないが、評価が必要であるとみなされる化学物質のショートリストを持っている。 EPA報道官によれば、現在までのところ、どのようなフタル酸エスエル類の代替物質もそのリストに追加されていない。 たとえ、あるものが追加されても評価に数年かかり、禁止にまでいたることはほとんどない。 NRPは数十のおもちゃ会社にフタル酸エステル類の代替の使用について質問したが、ほとんどの会社は使用している可塑剤について述べず、又は製品の成分は企業秘密であると述べた。 二つの会社、ラーニング・カーブ社(Learning Curve)とバービー、フィシャープライス、アメリカンガール、タイコ製品のメーカーであるマテル社(Mattel)は、クエン酸ベースの可塑剤及びディンチ(DINCH)と呼ばれる新たな化学物質を使用していると明確に述べた。 クエン酸塩又はクエン酸エステル類は広くテストが行われており、2005年には、欧州の規制当局はそれらは子ども用製品で使用しても安全であるとみなした。この添加物はまた、プラスチック・ラップや容器のような食品に接触する製品での使用がアメリカ及び欧州で承認されている。 ディンチ(DINCH)の公開されている毒性データが欠如 ドイツの巨大化学会社 BASF は2002年に可塑剤ディンチ(DINCH)の販売を開始したが(訳注3)、同社幹部の一人は、それは世界で最も広く使用されているフタル酸エステル類の代替物質であると述べている。 しかし、ディンチ(DINCH)の毒性に関してはピアレビューされて公表されたデータは存在せず、広く知られていることは製造者によって実施され欧州食品規制当局に提出された動物研究に由来するものである。これらの研究で、BASFはラットとラビットでこの化学物質をテストし、その結果は、動物の腎臓にあるリスクを及ぼすらしということを示唆した。 ほとんど全ての化学物質は十分高い用量で与えられれば有毒であり、したがって科学者らは通常、低又は中用量における毒性を調べる。BASF の研究におけるオスのラットは中用量から腎臓損傷を起こした。そのことが欧州規制当局にヒトが毎日暴露しても許容される限界値を設定させた。 欧州の許容レベルの評価は困難 しかし子どもたちがおもちゃや他の製品からどのくらいの量を暴露するのか知ることは難しい。 一方、BASFの研究は、ディンチ(DINCH)がプラスチック・ラップや食品容器からどのくらいの量、移動するのか示唆しているが、赤ちゃんが歯固めからどのくらいの量のディンチ(DINCH)を摂食するのか適切な推定をしていない。 幾人かの毒物学者らは、ディンチ(DINCH)は子ども製品のためにフタル酸エステル類よりはベターな選択のように見えると述べた。 ディンチ(DINCH)の安全性を評価するためには数年かかりりそうであるが、それは科学者らが潜在的に有毒な化学物質によって及ぼされる健康リスクを評価するために使用する手法はある場合には半世紀も前の古いものであるということもひとつの理由である。 透明性に向けての動き カリフォルニアでは、二つの新たな州法が最終的には会社に対して、公衆が入手可能なオンライン・データベースに彼らの製品中に含まれる化学物質を掲載することを求めるであろう。そして会社は、これらの化学物質を市場で販売することを許される前に、それらが安全であることを証明しなくてはならなくなるように見える。 そして、フタル酸エスエル類の禁止−それはカリフォルニアで始まった−が指針となるなら、全米の製造者らもまた、いつの日にか、同じような要求に直面するかもしれない。 (サラ・バーネイ、KQEDの基地局からの報告 (Sarah Varney reports for member station KQED.) 関連NPR記事
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