ES&T ポリシーニュース 2007年6月27日
胎児及び幼児の暴露に対する行動を
科学者らが訴える

情報源:ES&T Policy News - June 27, 2007
Scientists urge action against prenatal and early infancy exposures
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2007/june/policy/bw_faroe.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年6月29日


 深刻な健康問題と胎児期及び幼少期における様々な化学物質への暴露が関連するという証拠が積み重なる中で、科学者、医師、及び研究者らによる国際会議は”行動を起こすべき時であると”述べている。

 5月20〜24日まで、ノルウェー海と北大西洋の間の北部ヨーロッパに位置するフェロー諸島(デンマーク自治領)の首都トルシャウンで開催された会議(訳注:胎児プログラミング発達毒性に関する国際会議)の終わりにその公開宣言は発表された。5大陸からの毒物学者、生物学者、化学者、疫学者、栄養学者、小児科医、環境健康専門家など多分野の200人近くの人々により支持された”フェロー声明(Faroes Statement)”は、これら発達の初期段階における汚染物質の影響に関する数十年間にわたる多様な科学に少なからぬ重みを加えるものである。

 同声明は、発達中の胎児と幼児に影響を与え、農薬 DDT、アトラジン、メトキシクロル、ビンクロゾリン等も含み、その数がますます増大する物質に言及している。他に疑われるものとして、プラスチックとエポキシ樹脂成分であるビスフェノールA、フタル酸エステル類と呼ばれるプラスチック可塑剤、そしてかつて流産防止やその他の妊娠にかかわる問題を防ぐために用いられたジエチルスチルベストロール、また水銀、鉛、ヒ素、有機スズ、PCB類、一酸化炭素、微粒子、タバコ煙、及びアルコールなどが含まれる。

 ”現在まで、この問題に関して合意があるのかどうか知ることは難しかった”とこの会議に参加したシンシナチー子ども病院医療センターのブルース・ランフィアー教授は述べた。

 同声明は、ヒト、実験動物、またはその両方の多くの研究結果をハイライトしている。公衆健康担当官は、後の人生における主要な健康問題に関連するかもしれないある種の化学物質に、たとえ非常に低いレベルであっても初期段階で暴露することについて懸念している。それらの疾病には、がん、糖尿病、肥満、及び免疫系、生殖系、心臓血管系、神経系、内分泌系、及び呼吸器系の障害が含まれる。  同声明はまた、比較的新しい分野であるエピジェネティックスに光を当てているが、それは遺伝子の構造の変化だけではなく、その機能の変更を通じての多数の遺伝性変化を見いだしている。ワシントン州立大学生殖生物学センター代表ミカエル・スキナーによるエピジェネティックスにおける研究は、ラットの胎児期における殺菌剤ビンクロゾリンへの暴露によって引き起こされる、例えば、乳房腫瘍、腎臓疾患、免疫異常などの疾患は、引き続く子孫が直接暴露を受けなくても、少なくとも4世代にわたり受け継がれることを見いだした (Endocrinology 2006, 147 [12], 5515?5523; 5524-5541)。  スキナーと彼のチームはまた、すでに発表されている研究(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2007, 104 [14], 5942-5946)の中で、暴露を受けていない少なくとも3世代のメスは、オスの選択と展開の影響を示唆しつつ、暴露していないオスを好むことを見いだしている。

 同声明は政府に対し、暴露を防ぐことに役立てるために政策と規制を変更すること;ヒトの暴露と環境発生を評価するために基準テスト(baseline testing)を改善し拡張すること;そして疾患プロセス、メカニズム、暴露タイミング、混合化学物質の影響、社会経済的要素のような非化学物質影響を実施すること−を要求している。

 同声明は会議の前に28人国際委員会によって作成されたが、それはどのようなグループからも公式には署名されていなかった。それでも会議の後援者には世界保健機関(WHO);欧州環境庁、米疾病管理予防センター(CDC);米国立健康研究所(NIH)とその二つの機関である国立環境健康科学研究所(NIEHS)及び 国立子どもの健康と人間発達研究所(NICHD)が含まれている。

 WHO は仕事を共に行う諸組織に同声明をすでに回覧し始めている−と会議の共同議長であり、南デンマーク大学及びハーバード大学公衆健康のフィリップ・グランドジーンは述べている。

 全米子ども調査(NCS)訳注1)の計画担当者は、NCSはこの声明を検討すると述べている。2008年中頃に開始し、NICHD、NIEHS、CDC、及び米EPAによって資金調達されることとなっている同調査は、広範な健康問題のために受胎前(preconception)から21歳まで10万人の子どもたちについて長期的なケース・コントロール調査を実施することが計画されている。NCSのコーディネータであるサラ・ケイムは、”我々は常に最新の考え方を反映して我々の計画を更新し、提起された多くの疑問に答えたい”と述べている。

 しかし、同声明によって向けられた情報を政策と規制に反映することは時間と手間のかかるプロセスであるように見えるとランフィアーは述べている。ヨーロッパでにおいて6月1日に発効した REACH として知られる新たな化学物質規制は、胎児期及び幼少期暴露について限定された方法でのみ目を向けているとグランドジーンは述べている。しかし、欧州議会は農薬の再承認手続き時にこの問題を検討することが可能であると彼は述べている。

 最終的な声明は6月末までに The journal Basic & Clinical Pharmacology & Toxicology のウェブサイトに掲載されることになっているとグランドジーンは述べている。

ロバート・ウェインホールド(ROBERT WEINHOLD)


訳注1:全米子ども調査関連記事


化学物質問題市民研究会
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