電子廃棄物の爆発的増加(その2)
電子機器リサイクルの難しさ

情報源:Environmental Health Perspectives
Volume 110, Number 4, April 2002
e-Junk Explosion / Clogging the Waste Stream
Charles W. Schmidt
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/epdf/10.1289/ehp.110-a188
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年10月20日
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https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_02/02_10/e-junk-2.html



電子機器リサイクルの難しさ

 欧州委員会(EC)によれば、電子廃棄物は自治体の扱うごみの中で最も急速に増大している。シリコンバレー有毒物質連合(SVTC)によれば、アメリカにおける消費者向け電子機器から出る重金属は、埋立地で見出される重金属の70%を占め、鉛は40%を占める。全ての有毒電子廃棄物を廃棄物処理の流れから取り除くことが環境政策の優先事項である。
 「我々が重大な危機に直面しているとは言わないが、新らしいテレビジョン技術やコンピュータ関連機器が市場に素早く出回るので、いずれ大きな問題が生じるであろうことは予測している」とマサチューセッツ州廃棄物対策ビジネス部門の副部長ジェームス・ドーセットは述べた。

 マサチューセッツ州当局の目指すゴールは、全く他の当事者と同様に、電子廃棄物をできるだけ多く再利用するあるいは安全にリサイクルするということである。しかしアメリカでは電子機器リサイクル産業はほとんど発達していない。
 「この国ではリサイクル産業が生まれたのは1994年のことであり、取扱量はまだ非常に少ない。全体のわずか数パーセントである」とイリノイ州シカゴを拠点とする”電子機器リサイクル業連合”の副代表ローレン・ローマンは述べた。
 国立安全協会(National Safety Council's -NSC) の『1999年電子機器製品回収とリサイクル基礎報告;アメリカにおける電子機器製品のリサイクル』によれば、1998年にアメリカで廃棄処分となった2,000万台のコンピューターのうち、リサイクルされたものは11%である。(他の機器については比較するデータが存在しない)。
 ローマンはこの数値は過大であると疑っている。NSCがリサイクルされたとする大きな数値(パーセンテージ)には、多分海外に輸出されたものも含まれているとして、「アメリカにはリサイクル業者としての明確な基準は存在しない。もしあなたが電子廃棄物をコンテナーに詰め、中国に輸出するブローカーなら、あなたは立派なリサイクル業者である」と彼女は述べた。

 アメリカで生成される多くの電子廃棄物のたどる道はミステリーに包まれている。専門家は、その多くは埋めたてられ、焼却され、輸出され、あるいは単に放置されていると推定している。リサイクルされる少数のものですら、追跡することは困難である。
 それは、リサイクル産業が文字通り入り組んだ専業者のジャングルだからである。
  • 転売のために製品を整備する一次リサイクル業者
  • 金属、プラスチック、ガラスなどの原料を取り出すために製品を分解する第二次リサイクル業者
  • 金属を取り出すためにCRTガラスなどを溶解する精錬業者
  • 使い古しの製品を分別し修繕して販売したり寄付したりする、いわゆる”第三者”再販業者。典型的にはNPO(非営利団体)など
 これらの定義は異なる文書では異なった意味で使われることがあり、また業者間の製品の流れを定義する基準などもない。その結果、アメリカでリサイクルされる電子機器の行き着く先を示す資料など事実上は存在しない。

 確かなことは、リサイクルのパイプを流れる容量は、そこを流せる容量に比べてはるかに少ないということである。
 例えば、家庭用電子機器は、ほとんどリサイクルされることがない。なぜか? 州及び自治体の収集システムはほとんど存在せず、またアメリカ人の大部分は古いコンピュータをどのように処分したらよいのか分からないので、その4分の3は自宅のクローセットに押し込まれているからである。また、家庭用電子機器は一般的に古くて再販価値がほとんどないことが多い。典型的な消費者はテレビを買って15年間使用する。耐用期限が来るころにはそのテレビの商品価値はほとんどない。古いコンピュータについても同様である。
 「時代遅れのコンピュータから取り出す金属、回路基板、電源などを合わせても、1ドルになるかどうかである」とニューヨーク州スケネクタディの廃品管理回収会社の副社長ピータ・ベニソンは述べた。

 ビジネス用電子機器のリサイクルも同様に微々たるものである。資源保護回収条例(RCRA)により、会社が大量の電子部品ををゴミとして出すことは違法である。しかし、それらを有償で引き受けたリサイクル業者は国内での利益は非常に少ないので、しばしばそれらを非常に安い単価で海外に輸出している。
 主なるコストは輸送費であり、電子機器は重くてかさばるので移動すると高くつく。例えば、190,000平方フィートのCRTガラスをペンシルベニア州ホールステッドにあるエンバイロサイクル社のような特別なショップにトラックで運ぶより、船積で遠隔地に輸送する方が安くつく。
 「我々の設備の稼働率は20〜25%である。もし100%の稼動ができないなら、そのロスを何かで補償しなければならなず、通常それは何もしないよりも高くつく」とエンバイロサイクル社の副社長グレゴリー・ボールヒーは述べた。

 他の多くの大きなリサイクル会社と同様に、エンバイロサイクル社は地方の企業との契約で比較的新しく一様な電子廃棄物を安定した量で確保している。このようなアレンジが現状のリサイクル会社の典型であり、それは一握りのキーパーソンに依存して運営されている。
 国立安全協会(NSC)から入手できる最新のデータは1998年のものであるが、それによれば上位10社のリサイクル会社がリサイクルする量は、アメリカでの全リサイクル量の75%を占めている。

 しかし電子機器のリサイクルで最も難しいのはプラスチックである。食品容器に使われるプラスチックとは異なり、電子廃棄物から回収されるプラスチックには目印がついているわけではなく、目視作業で仕分けるのは至難の業である。不幸なことに、回収プラスチックを購入する業者は、再生原料として常に純粋で一様なものを求める。用途にもよるが、少量でも混合が許されないプラスチックが紛れ込むと全体の純粋な回収プラスチックを台無しにすることがある。

 これらの問題を解決することがマサチューセッツ州メドフォードのタフツ大学ゴードン研究所の研究員パトリシア・ディロンの役目である。ディロンは、プラスチック供給業者70団体の代表者の連合体である”廃棄電子機器からサーモプラスチックを回収する事業者懇話会”の計画部長である。
 最近、同グループは、商品の事前の仕分け(例えば異なるタイプのプラスチックを使用しているテレビとパソコン)、及びそれらの解体時に、簡単な工程で廃棄プラスチックを純粋なものにする方法を示したガイドライン(案)を作成した。

 ディロンのグループはまた混合プラスチックの市場開発、例えばそれらを道路の舗装材に使う、あるいはコンクリート混合材に使うなどを産業界と共同で行っている。しかしこれらの市場は形成後、間もないので、彼女は、ほとんどの廃棄プラスチックが輸出され、埋め立てられ、廃棄物−エネンルギー変換プラントで燃焼されることはやむをえないとしている。

(その3に続く)

(訳: 安間 武)



化学物質問題市民研究会
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