「シップリサイクルシステム構築に向けたビジョン(案)」に関する
当研究会意見と国土交通省回答


化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
安間 武
掲載日:2009年5月 8日
更新日:2009年5月14日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/iken/2009/090508_shiprecycle_reply.html

 当研究会は国土交通省パブリックコメント 「シップリサイクルシステム構築に向けたビジョン(案)」に対し2009年3月21日に意見を提出しましたが、それに対する国土交通省の回答が2009年5月1日付で公表されたので、以下に紹介します。黒字が当研究会の意見、赤字が国土交通省の回答、青字が回答に対する当研究会の追加コメントです。
 尚、パブリックコメントの提出は、当研究会を含めて2件でした。

「シップリサイクルシステム構築に向けたビジョン(案)」に対するパブリックコメントの募集の結果について/国土交通省 (2009年5月1日付)(pdf版)
当研究会意見(pdf版)
■参考資料

「シップリサイクルシステム構築に向けたビジョン(案)」についての
当研究会意見と国土交通省回答


1.意見公募の期間と時期に関する意見

(1) 行政手続法によれば原則として30 日以上の意見提出期間を定めて広く一般の意見を求めるとなっているのに、本件意見提出期間は3 月10 日〜3 月22 日の13 日間ときわめて短い。このような短期間では国民が意見公募を知り、意見提出のために対象を十分に検討することはできない。特に問題のあるシップリサイクル条約(案)の検討は、13 日間では到底できない。

⇒今次意見公募は、行政手続法によるものではなく、「任意の意見募集」です。

(2) IMOのシップリサイクル条約が本年5月採択予定であるにもかかわらず、わずか2ヶ月足らず前に、条約の採択とその発効前後までに集中的に対応すべき課題を整理した「短期的ビジョン」の意見を求めており、意見公募の時期をこの時期まで遅らせた理由が理解できない。

⇒「短期的ビジョン」は、およそ条約発効前後までの期間を対象としており、少なくとも本条約発効には数年は要するものと思われ、その期間の取り組み方策を纏めるには今が最適であると思われます

(3) このような短い意見提出期間と条約採択間際の意見募集時期から判断すると、国は国民に対する情報提供と国民の意見の政策への反映をまじめに考えているとは思えない。短い意見提出期間と条約採択間際の意見募集の理由を明確に説明願いたい。

⇒ご指摘は真摯に受け止め、さらなる情報提供と国民の意見の反映に努めてまいる所存です。

2.シップリサイクルシステム構築に向けたビジョン(案)に対する意見

2.1 解撤現場の労働者の健康と環境の保護を第一とすべきこと

 解撤現場の労働者の生命、健康、安全及び環境の保護は、産業権益の保護よりもはるかに重要であり、解撤国の産業構造及び管理能力の如何にかかわらず、すべてに優先させるべきである。そのためには労働者の生命、健康、安全及び環境に有害影響を及ぼす可能性のある要因をその源から除去することが必須である。
 途上国の貧しい人々に、貧困を選ぶか危険を選ぶかという選択をさせてはならない。どちらも容認できない。貧困問題は先進国及び途上国が一体となって解決すべき世界の最重要課題であるが、その解決のために人々の生命、健康、安全及び環境を犠牲にしてはならない。
 短期的ビジョンで「リサイクル条約がバーゼル条約に比して規制の実効が上がることは自明」としているが、労働者の生命、健康、安全及び環境を守る観点からはバーゼル条約の理念の方がはるかに優れている。

⇒ご指摘いただいた理念は最優先に考慮すべきものと考えます。
「リサイクル条約がバーゼル条約に比して規制の実効が上がることは自明」としているのは、船舶は海上を自由に移動できるため、バーゼル条約を適用する上で必要な廃棄物になる時期や、廃棄物の輸出国の特定が困難という問題があり、これがバーゼル条約の抜け穴(ループホール)と指摘されています。シップリサイクル条約は、この抜け穴を塞ぐことを目指していることから、バーゼル条約に比べ実効性に優れているものと認識しています。


バーゼル条約ではアスベスト、廃油、PCB類、有毒塗料など有害物質を含む鋼材回収目的の廃船は有害廃棄物とみなして輸出を規制しており、抜け穴(ループホール)ではない。逆に条約案は、ビーチング方式の禁止、事前浄化の義務付け、国際的な監査など、人の健康と環境を守るための重要な規定がないために抜け穴(ループホール)となっている。(当研究会追加コメント)

 下記をビジョン及び条約に織り込むべきである。


このようなビーチング方式を禁止することが、なぜ適切ではないのか?
(1)労働者の生命、健康、安全及び環境を著しく脅かすビーチング方式は完全に禁止すること。

⇒ビーチング方式でも、適正な安全対策等を取ることにより、労働者の生命、健康、安全及び環境を脅かすことなく解体することは可能と考えます。最近のインドのアラン地区におけるビーチング方式による解体は、労働安全面や環境面への対策が取られ、過去に比べて格段の改善が見られます。ビーチング方式による解体で問題が生じている国があることは確かですが、それをもってビーチング方式を完全に禁止することは適切ではないと考えます。

ビーチング方式はクレーン等の重機、搬送機器、救急設備などの重機を船側に近付けることができず、すべて人手作業となり、極めて危険である。確実な安全対策は到底取れない。また有害廃棄物が解体中にそのまま海に排出されて環境汚染、生態系の破壊を起こしている。日本の海岸でビーチング方式の解体が許可されないのに、国際条約で禁止することがなぜ適切でないのか?(当研究会追加コメント)

(2)汚染者負担の原則に基づき、解撤用船舶はアスベスト、PCB類、フロン類、重金属類、残渣油などの有害物質及びバーゼル条約 附属書[ A表に掲げられる有害廃棄物を事前浄化し、除去した後でなければ輸出できないようにすること。
 この事前浄化は解撤労働者の生命、健康、安全及び環境を守るためだけでなく、条約案が船舶リサイクル施設から離れた所で行うさらなる処理や廃棄は条約対象としていないので、有害廃棄物輸出とならないようにするために必須である。

⇒我が国のシップリサイクル施設においては、現状でも、船舶の有害物質を適切に処理しているため労働者の生命、健康、安全及び環境を守る上で、ご指摘の事前浄化を強制する必要はないと考えます。なお、新条約では、有害物質の処理が適切にできない施設には、船舶の引渡しは認められないこととなります。

我が国(先進国)でできても、途上国で実質的にできるとは限らない。国際的第三者機関による船舶リサイクル施設の監査が義務付けられていないので、特に途上国において実際の運用が条約の要件を満たしていることは保証されず、条約案のループホールとなっている。人の健康と環境に従来と変わらぬ大きな被害を及ぼす可能性が十分にあり、事前浄化は必要である。(当研究会追加コメント)

(3) インベントリー作成の対象となる有害物質は、ビジョン案に掲げられた搭載禁止・制限の4物質及びその他の9物質だけでは不十分である。少なくともバーゼル条約 附属書[ A表に掲げられる有害廃棄物を含むこと。

⇒有害物質の選定は、国際海事機関の会議の場で、バーゼル条約会議事務局も参加した上で、幾度と無く審議が行われ、船舶の実情を踏まえて現実的に一本化されたものとなっており、条約発効後は一定の手続きを経て、有害物質の追加変更が可能となっています。

2.2 シップリサイクルの国際的なスキームを再構築すること

 船舶解撤を全て市場原理に任せて途上国の労働者の生命、健康、環境の犠牲に依存するという現状のリサイクル市場のシステムは容認されるべきではない。安全な船舶解撤を確保するための国際的な仕組みを再構築すべきである。

(1)解撤現場の検定と監査を実施する国際的な独立機関を設立すべきである。

⇒監査については審議の結果、条約中第15規則に規定されました。すでにサブスタンダード船などの問題が指摘されている他の国際海事関係条約においても、任意の監査スキームの試行が始まったところであり、国際的な独立機関の設置は今後の課題かと思います。

15規則3では、「・・・所管官庁または締約国により承認された機関によって実施される監査スキームを含んでもよい・・・」と記述しており、義務付けておらず、特に途上国において実際の運用が条約の要件を満たしていることは保証されず、条約案のループホールとなっている。(当研究会追加コメント)

(2)汚染者負担の原則に基づき、船主及び船主国がコストを負担する義務的な基金メカニズムを設立すべきである。義務的な基金は、港湾手数料、義務的な保険スキーム等を通じて、船舶のIMO登録又は船舶の全ライフタイムを通じての操業に関連付けて賦課することで実現すべきである。

⇒他の廃棄物と異なり、シップリサイクルでは解体船舶が有価物として商取引されており、有害物質処理のコストは船舶の売買価格の中に内部化されています。このため、基金の設立は不要のものと考えています。

汚染者負担及び拡大生産者責任の原則に基づき、船主側が支払うべき船舶解体のコストは内部化されておらず、現実に解体事業者、最貧の労働者、及び環境の犠牲の上に賦課されている。(当研究会追加コメント)

(3)わが国の外航船の約80%が利用しているといわれる便宜置籍船システムは、便宜置籍船の解撤に関わる責任の所在をあいまいなものにしている。便宜置籍船国はインフラ整備、技術力、法整備、人材、資金などが十分ではない可能性があり、インベントリー作成、有害物質/廃棄物の事前浄化などを含む船舶解撤に関わる実施及び管理能力を十分に期待することは難しく、また本来、便宜置籍船システムはそのような責任を求められるシステムではないはずである。便宜置籍船のリサイクルに関する責任は実質的な船主/船主国が負うことを明確にすべきである。

:2009年3月26日の国交省との面談時における説明ではもっと多く、日本の支配外航船約 2,000 隻のうち日本の旗艦は 80 隻足らずで、残りは便宜置籍船とのことである。

⇒シップリサイクル条約では船籍国の責任は明確に規定されています。また船舶は他の締結国の港等において当該締結国からの監督を受ける措置が設けられており、条約要件を遵守していない船舶には是正措置がとられます。

便宜置籍船国がシップリサイクル条約の加盟国になるとは限らない。非加盟国を便宜置籍船国とすることも禁じられていない。非加盟国船籍の船舶は条約の対象とならず、抜け穴となることがこの条約の致命的な欠陥のひとつである。このことが、便宜置籍船のリサイクルに関する責任は実質的な船主/船主国が負うべきとする主張の根拠である。(当研究会追加コメント)

(4) 国内の解撤施設の整備拡充を行い、内航船だけでなく外航船の解撤も国内で実施する政策とすべきである。今後、解撤船舶量は増大するが条約が求める基準を満たす解撤場が逼迫することへの対応としても必要である。

⇒国としても国内における船舶リサイクル施設の整備は必要であると認識しています。このため、先進国型シップリサイクルシステムの構築として、北海道室蘭市等をモデルに事業性評価等の調査研究を実施し、今後の事業化に向けて検討を進めているところです。

2.3 その他ビジョン案及び条約案に求めること

 解撤現場の労働者の生命、健康、安全及び環境の保護を実現するために、所定トン数以上の全ての解撤船舶にリサイクル条約を適用すべきである。

(1) 国家自身が所有する商船以外の船舶、戦艦なども例外とすることなく、シップリサイクル条約及び本件ビジョンの対象とすべきである。

⇒シップリサイクル条約は、艦船等の政府所有船は適用外となっていますが、合理的かつ可能な限り条約に準拠するよう求めています。この規定に基づいて、これらの船舶を国内で解体する場合も、条約規定と同等レベル以上に解体されることが事実上求められることとなります。

(2) シップリサイクル条約の締約国と非締約国との間の解撤を目的とする船舶の輸出入は明示的に禁止すべきである。これは、非締約国によるダンピングによるシップリサイクル条約の基準を満たさない船舶解撤を許さないとする締約国の強い意志を示すためにも必要である。

⇒シップリサイクル条約では、締約国の船舶は条約に従って承認されたリサイクル施設のみでしか解体できません。この措置により、現在問題となっている一部の途上国における不適切な解体事業者への売り渡しは制限できることになります。
非締約国の船舶を締約国の承認されたリサイクル施設で受け入れることについては、条約の要件を満たせば許されることとなります。これは条約への批准や受諾が進まない途上国(他の海事関係条約でも批准や受諾が進まない国が数多く存在するが寄港国監査で是正している。)の船舶を拒否するのではなく、厳しく条約要件への適合を要求した上で受け入れることが船舶が非締約国のリサイクル施設に売られることを防ぐ意味から有益と判断されるからである。


締約国と非締約国の輸出入だけでなく、非締約国と非締約国の輸出入も問題である。たとえば、解撤国のバングラデシュが締約国になるとは限らない。この様な問題を回避するためにも、「便宜置籍船のリサイクルに関する責任は実質的な船主/船主国が負うこと」 が必須である。(当研究会追加コメント)

以上



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