米化学会 C&EN 2010年7月8日
EPA 報告 拡散剤毒性データを追加
BP原油流出:拡散剤は内分泌かく乱さ作用を示さず


情報源:ACS Chemical & Engineering News, July 8, 2010
EPA Report Adds To Dispersant Toxicity Data
Oil Spill: Dispersants show little endocrine disruption activity
By Elizabeth K. Wilson
http://pubs.acs.org/cen/news/88/i28/8828news5.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年7月11日


 米環境保護庁(EPA)の8種類の商業用流出油拡散剤に関する新たな調査は、それらのうちのどれも恐れられていたような内分泌かく乱作用を引き起こしそうには見えないとする結論を下した。ただし、拡散剤は同じような細胞毒性を示した(Env. Sci. & Tech.; DOI: 10.1021/es102150z)。

 この報告書は、同じ8種類の拡散剤のどれにも小魚やエビ類には毒性がないことを示した先週のEPAの報告書への追加である(C&EN, DOI: 10.1021/cen062910120805)。

 石油会社BPは、数百万ガロンの拡散剤(Nalco dispersant Corexit 9500)を原油流出で汚染したメキシコ湾に投入しているので、研究者らは拡散剤の環境影響の調査を急いでいた。4月20日のBPのメキシコ湾深海原油採掘装置の爆発は作業員11名の死亡をもたらし、米国史上最悪の油流出事故となった。

 EPAの調査が急がれていたが、それは、成分については企業秘密となっている拡散剤のあるものにはノニルフェノールエトキシレイト類(NPEs)が含まれているのではないかという恐れがあったためである。NPEsは、ノニルフェノールに分解することができ、内分泌かく乱作用を示す。

 ノースカロライナにある米EPA研究機関リサーチ・トライアングル・パーク(Research Triangle Park、RTP)のリチャード S. ジャドソンと彼の同僚らは、インビトロ高速分析手法を用いて拡散剤がエストロゲン及びアンドロゲン受容体に結合する能力及び、細胞を殺す能力についてテストした。

  Corexit 9500に加えて、同グループは、U.S. Polychemical's Dispersit SPC 1000, Mar-Len Supply's Nokomis 3-F4 and Nokomis 3-AA, Z.I. Chemical's ZI-400, Alabaster Corp.'s Sea Brat #4, Saf-Ron International's SAF-RON GOLD, Globemark Resource's JD 2000 についても分析した。

 その結果は、どの拡散剤もアンドロゲンかく乱作用は示さず、ふたつの拡散剤 Nokomis 3-F4 and ZI-400 だけが弱いエストロゲンかく乱作用を示した。Corexit 9500 は NPEs を含んでいなかった。さらに、6種の拡散剤は同じレベルの細胞毒性を持っていたが、JD2000 と SAF-RON GOLD HA は際立って他のものより細胞毒性が弱かった。

 拡散剤の潜在的な有害性をめぐる問題は複雑である。EPAはもともと、Corexit 9500 の代替を見つけるようBPに求めていた。しかしBPはEPAにより示唆された Sea Brat #4 のような代替は NPEs を含んでいる可能性があると主張して、Corexit 9500 を使用し続けている。

 メリーランド大学の環境科学教授キャリス・ミチェルモアは、拡散剤自身は本質的に有毒ではないかもしれないが、それらは流出油をもっと広範に分散させると警告している。拡散された油は海洋環境系の広範な生物に接触し、より大きな害を及ぼす可能性があると彼女は述べている。


訳注:関連情報



化学物質問題市民研究会
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