国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)
第3回準備会合 包括的方針戦略ドラフト


情報源:SAICM/PREPCOM.3/3, 12 July 2005
Strategic Approach to International Chemicals Management (SAICM)
Draft overarching policy strategy


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年11月22日

包括的方針戦略ドラフト
■事務局による覚書

1. 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチの開発のための準備委員会の第2回準備会合において、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)は3つの要素、ハイレベル宣言、包括的方針戦略、世界行動計画、で構成することが提案された。準備委員会は議長によって提案された下記の構造に基づく包括的方針戦略を討議することに同意した。

  1. スコープ
  2. 必要性の声明
  3. 目的
   (a) リスク削減
   (b) 知識と情報
   (c) ガバナンス
   (d) キャパシティ・ビルディングと技術協力
   (e) 不正な国際取引
  4. 財政に関する考慮
  5. 原則とアプローチ
  6. 実施と進捗の評価

2. 委員会は、SAICMの開発に関する作業を促進する目的でスコープに関する声明を暫定的に採用し、地域SAICM会議で検討された後に第3回準備会合で再び取り上げることに同意した。

3. 委員会は事務局が議長と協議して、第2回準備会合中のコメントに照らし、会合の間に準備された必要性の声明、目的としてのリスク削減、知識と情報、ガバナンス、キャパシティ・ビルディングと技術協力、不正な国際取引に関する文書を修正すること、及び準備会合の報告書の付属書(annex)に統合された包括的指針戦略ドラフトとして追加することに同意した。暫定的に合意されたスコープに関する声明を含んで統合されたドラフト文書は、報告書 SAICM/PREPCOM.2/4 付属書 VII で見ることができる。

4. 委員会の要求で、事務局は、第2回準備会合の報告書の付属書 VII に含まれる修正された包括的方針戦略ドラフトにコメントができるようにした。2005年2月から開催された5つの地域協議の報告(SAICM/PREPCOM.3/INF/23; SAICM/PREPCOM.3/INF/24; SAICM/PREPCOM.3/INF/25; SAICM/PREPCOM.3/INF/26; SAICM/PREPCOM.3/INF/27; )及びその他の提出書類(SAICM/PREPCOM.3/INF/22)を考慮して、またスウェーデンのサルツジョバーデンで2005年6月28日から7月1日まで開かれた拡大事務局会議からの勧告に基づいて、議長はハイレベル宣言と世界行動計画との一貫性を確実にし重複を避けることを目的に、さらに包括的方針戦略ドラフトを修正した。そのように修正されたドラフト戦略がこの覚書の付属書に記されている。

5. 委員会の第3回準備会合でのさらなる検討のための、議長の包括的方針戦略ドラフトの修正の目的は、戦略を最終的に完成させるための協議を進めるための良いベースを委員会に提供するという希望の下に、準備期間中に受領した多くの提案をできる限り包括的にそして一貫性をもって反映させた文書を用意することであった。地域グループの報告書及び個人提出文書の中の多くの提案に目を向けて、議長は必然的に、お互いから分離されて作られた異なる見解と勧告を調停することの困難に直面した。これらの不一致を解決するために、彼女は、第2回準備会合で委員会によって暫定的に合意されており、その後の地域協議で支持されたスコープに関する声明の変更、及び委員会によって討議のためのベースとして合意された文書の構造や小見出しの変更を伴う少数の提案は脇に置いた。多くの競合する提案がある場合には、彼女は、詳細なあるいは遠大な提案は合意を得られにくいという前提の下に、最も簡単で最も中立であると見える意見を採用した。文書は委員会による検討のためにドラフトのままであり、代替提案は上記で引用したように地域報告書及び提出書の中に記録されている。


付属書(Annex)
包括的指針戦略ドラフト

T.序言

1.この包括的指針戦略は国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)ハイレベル宣言で表明された公約に由来するものである。戦略的アプローチの実施は、戦略的アプローチの実施のための世界行動計画によって導かれるが、それは、関連する活動、主体者、目標、タイムフレーム、進捗の指標を想定した”具体的な措置”の提案を企図するものである。戦略の構造は下記の通りである。

T. 序言
U. スコープ
V. 必要性の声明
IV. 目的
 A. リスク削減
 B. 知識と情報
 C. ガバナンス
 D. キャパシティ・ビルディングと技術協力
 E. 不正な国際取引
X. 財政に関する考慮
Y. 原則とアプローチ
Z. 実施と進捗の評価

付録:ヨハネスブルグ実施計画第23項本文
訳注:関連する国際環境会議・宣言
(ヨハネスブルグ実施計画、リオ宣言、アジェンダ21、国連ミレニアム宣言、 国連人間環境会議UNCHE(ストックホルム)、バイア宣言)

2.地方、国家、地域、そして全世界のレベルで全ての関連する分野と関係者が参加することは透明でオープンなプロセスの実施と意思決定における公衆の参加、特に女性の役割の強化を図るので、戦略的アプローチの目標を達成する鍵(キー)であるように見える。戦略的アプローチにおける主要な関係者は、農業、環境、健康、産業、労働、科学を含む全ての関連分野でライフサイクルを通じて化学物質の管理に関与する政府、政府間組織、非政府組織、そして個人であると理解される。個人の関係者には消費者、処分者、雇用者、農民、製造者、規制者、研究者、供給者、運送者、そして労働者を含む。

U.スコープ

3.戦略的アプローチは、持続可能な開発を推進し製品中を含む全てのライフサイクルにおける化学物質を包含する観点をもって、少なくとも下記をカバーし、しかしそれに限定しない広い範囲を持つ。

(a) 化学物質の安全に関わる環境、経済、社会、健康、そして労働の分野
(b) 農業及び産業用化学物質

4.戦略的アプローチは今日まで策定されてきた法的文書とプロセスを考慮に入れつつ、特に化学物質の軍事的用途を取り扱うフォーラムでの取り組み等の重複を避けながら、新しい措置とプロセスも取り扱えるよう柔軟なものであるべきである。

V.必要性の声明

5.戦略的アプローチの確立のための主要な推進力は、化学物質の安全を管理するための異なる国々のキャパシティ間のギャップ、既存の合意とプロセスの間のギャップ、そして望みと現実との間のギャップが増大しているとの認識である。戦略的アプローチは進展したが、さらなる必要性が特定されている。戦略的アプローチを確固とした成功をもたらすことに役立つ正しいガバナンスのための必要性である。”ギャップとガバナンス”という成句は、戦略的アプローチの推進力を言い表した成句であるということができる。

6.国際的なレベルでの化学物質の適正な管理のための方針とプログラムの策定と実施において、この数十年間にかなりの進展がなされたが、下記のことが認識されている。

(a) 化学物質のための既存の国際的な政策の枠組みが不適切である。

(b) 確立された国際的な政策の実施 が不公平である。

(c) 既存の制度やプロセスの間の一貫性と相乗作用 が欠如>している。

(d) 現在使用されている数千の化学物質に関し、情報が限定されている、あるいはない、又は既存の情報にアクセスできない。

(e) 国家的、準地域的、地域的、世界的レベルでの化学物質の適正管理に対して現在要求されていることを実施するための、全ての開発段階の国々の能力が欠如している。

(f) すべての国の化学物質安全性の問題に目を向けるために、特に先進国と途上国および経済移行国の間に広がるギャップの解消のために利用できる資源が不適切である。

7.リスク削減(リスクの防止、削減、修復、最小化、及び除去を含む)は、化学物質を含有する製品及び成形品を含む、化学物質のすべてのライフサイクルを通じた適正管理を遂行する上でキーとなるニーズである。子ども、妊婦、生殖能力のある集団、老人、貧困その他脆弱なグループの健康に及ぼす化学物質の有害影響を防止するための措置は不適切である。がんやその他の悪性疾病を引き起こす化学物質の有害影響を流通から排除する又は制限するための措置が必要である。さらに、より安全な代替品、経済的に利用可能な持続可能な技術や特定の懸念のある化学物質の代替は、十分な速さで開発されていない。

8.知識、情報、及び公衆が知ることは、化学物質を含有する製品や成形品を含む化学物質の適切な管理についての意思決定のための基本的なニーズであり、下記のことがらが認識されている。

(a) 科学に基づく基準、調和の取れたリスク評価と管理原則と方法論、及びハザードとリスク評価の結果は全ての活動主体に有効ではなく、科学的研究のペースは非常に遅い。

(b) 化学物質のライフサイクル全ての側面に関し、地域の言語で利用可能な時宜を得た適切な情報が欠如している。

9.ガバナンスは、化学物質の適正管理を行う上で、国家的、地域的、世界的レベルで対処される必要がある重要な問題である。

(a) 化学物質の適正管理は、国家的・国際的レベルの双方において、分野横断的な問題であることを認識する必要がある。関係者、特に女性は、化学物質の適正管理に関係した意思決定のすべての側面においてまだ参加していない。

(b) 拘束力のある法的文書および他の関連した取り組みをも含め、化学物質の適正管理の現在の国際的制度の実施は不公平であり、この制度の中でのギャップは適切に対応されていない。これらの化学物質の活動には重複と二重作業があり、国家的、地域的、国際的レベルでの利用可能な資源の十分かつ有効な使用を確実にするために、強化された統一、一貫性、及び共同作業の必要がある。多くの国々は、地域的及び世界的な法的行拘束力のある法律文書やその他の関連する取り組みを批准していない又は実施しておらず、国家の化学物質制度にあるギャップに対応しておらず、化学物質の活動の協調のための国家のメカニズムを開発していない。

(c) 法的義務、補償および是正の問題を含む、化学物質の人の健康、社会、環境へ及ぼす影響の社会的・経済的側面は適切に対応されていない。

(d) 化学物質問題は、開発援助計画又は戦略、持続可能な開発戦略、適切であれば、貧困の削減戦略を含む国の行動計画等、関連する国の政策文書にたまに特集されるだけである。

10.キャパシティ・ビルディングと技術的財政的援助は化学物質の適切な管理の全ての面に関連する活動に当てはまり、地球規模での適切な化学物質管理を求める戦略的アプローチを成功裏に実施するために重要である。

(a) すべての国が持続可能な開発に関する世界首脳会議の実施計画第23章(原注)で述べられている目標−”2020年までに化学物質は人間の健康と環境に及ぼす著しい有害影響を最小にする方法で使用され製造されなくてはならない”(ヨハネスブルクサミット2020年目標)−に向かって前進するには、先進国と開発途上国および経済移行国の間の能力上の広がるギャップを埋めなければならない。しかしながら、先進国もまたヨハネスブルクサミットの目標を達成するよう励むために能力上の問題に直面している。

原注:第23章は本文書の付録(appendix)に示されている。

(b) 技術的及び財政的援助による化学物質と有害な廃棄物の適切な管理のために開発途上国と経済移行国のキャパシティを強化することを目指す協力のための枠組みが必要である。

11.有害な物質や危険な製品の不正な国際取引は多くの国々にとって緊急の問題である。

12.すべての発展レベルの国がヨハネスブルクサミットの2020年の目標を追及する上で直面するであろう課題のひとつは、適切な化学物質の管理を達成するために必要なかなりの財政的資源等に対するアクセスを得ることである。

W.目的

13. 戦略的アプローチの目的は世界行動計画に設定される活動の実施を通じて達成されるであろう。

A. リスク削減

14. 2020年までに化学物質は人間の健康と環境に及ぼすリスクを最小にするやり方でのみ、製造され、使用され、排出され、又は製品又は成形品中に組み込まれるということを確実にするために、科学に基づくリスク削減に関する戦略的アプローチの目的は下記の通りとする。

(a) 化学物質のライフサイクルを通じて、労働者を含む人の健康と環境へのリスクを最小化すること。

(b) 化学物質に関する意思決定の際に、特に化学物質に対して脆弱なまたは暴露しやすい人、生態系および環境生物を考慮し、保護することを確実にすること。

(c) 化学物質への安全でなく不必要な暴露を避けるため、化学物質に関する安全上の指示とともに、リスク削減、リスク廃絶および汚染防止を目指した、包括的で効率的かつ効果的なリスク管理戦略を実施すること。

(d) 化学物質の環境や健康への影響に関し、十分な科学的確実性に欠ける場合も、懸念についての合理的根拠がある場合は、予防的措置を適用すること。

(e) 予防的措置の適用を優先的に検討すること。

(f) 世界の懸念である内分泌かく乱物質や水銀その他重金属によって脅かされるリスクを削減するための必要性など、新しい及び現在発生中の問題に十分に対応できる世界的な協定の存在を確実にすること。

(g) 有害廃棄物の発生量を削減し、そのような廃棄物の有毒性を削減すること。

(h) 代替、入手できる最良の技術、そして最良の環境的実践を促進するために、よりクリーンな製造、より安全な代替、負担できる持続可能な技術、及び特別な懸念ある化学物質の代替の、開発と実施、及びさらなる革新を確実にすること。

(i) 危険な化学物質に対する環境的に適切な代替の研究、開発、及び実施の促進と支援を行うこと。

B. 知識と情報

15. 戦略的アプローチの知識と情報に関する目的は下記の通りである。

(a) 化学物質とその管理に関する知識と情報が、ライフサイクルを通じて全ての関係者により化学物質が安全に取扱われることが可能になるよう十分に提供されること。

(b) 全ての関係者のために下記を確実にすること。

 (@)製品中の化学物質(すなわち混合物及び成形品)を含む化学物質、それらの固有の特性と人間の健康と環境に及ぼす影響、それらの潜在的な用途、それらの代替、及び保護的措置と規制の必要性に関する情報が、有効であり、アクセスすることができ、適切であり、調和がとれており、妥当であり、使用者に使いやすいものであること。

 (A)それらの情報は、化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)や多国間環境協定などの取り組みの下にハザード・コミュニケーション・メカニズムを十分に活用しつつ、使用者がコストを負担することなく適切な言語で流布されること。

(c) 子ども達のための化学物質のハザードとリスクの評価に関連することも含め、化学物質政策に関連するハザード評価とリスク・ベースの意思決定への適切な統合のために客観的な科学的情報を有効にすること。

(d) 科学ベースの基準、リスク評価と管理手順、及びハザードとリスク評価の結果は全ての主体者が入手可能とすること。

(e) 化学物質の影響とそれらの影響の管理を改善するためのツールを特定し、新たな出現中の問題を特定し対処するために科学的研究が継続され促進されること。

(f) 化学産業界の合法的経済利益を保護するために法により機密が保護されている場合、化学物質に関する商業的及び産業的知識と情報の機密を確保すること。

(g) 化学物質の人間と環境への影響を特定し評価すること及び新たに出現する問題に対処することに関する科学的研究のペースを速め、化学物質に対する安全な代替とクリーン技術に関する研究と開発を実施すること。

(h) 高度に有毒な物質を特定するための共通の定義と基準を促進すること。

C. ガバナンス

16. 戦略とアプローチのガバナンスに関する目的は下記の通りである。

(a) 包括的で、効果的で、効率的で、透明性があり、一貫性があり、全てを含んだ、国、地域、及び国際的な制度によりライフサイクルを通じて適切な化学物質の管理を達成し、また、国々の、特に開発途上国及び経済移行国の状況と必要性を考慮に入れて説明責任を確保すること。

(b) それぞれの関連分野の中での化学物質の適切な管理、及び全ての分野を横断しての化学物質の適切な管理のための統合されたプログラムを促進すること。

(c) 化学物質管理活動のための優先度を特定するために関係者に指針を提供すること。

(d) 化学物質管理に関する国の法と規制の実施及び国際的な協定の順守、及び、企業の環境的及び社会的責任を含んで行動規範(codes of conduct)のような関連法的文書の実施を確実にすること。

(e) 化学物質の安全に関する規制及び意思決定における民間社会の全ての分野による意味ある活発な参加を確実にすること。

(f) 化学物質政策及び管理における意思決定に女性の平等な参加を確保すること。

(g) 非合法な国際取引を防止することを含めて適切な化学物質管理の実施のための効果的な多分野の制度的枠組みを確立すること。

(h) 戦略的アプローチの実施のための要求に従い、国際レベルで支援供給活動を調整すること。

(i) 貿易と環境の相互補完を促進すること。

(j) ビジネスが製品を開発し改善し、貿易の技術的障壁によって引き起こされる障害を克服するコスト効果のある時宜を得たやり方でそれらの製品を市場に出すための枠組みを提供し、それを可能とするよう支援すること。

(k) 関連する政府、国際的機関、事務局、機関、民間分野、及び民間社会の間での連携と相乗効果を強化すること。

D. キャパシティ・ビルディングと技術協力

17. キャパシティ・ビルディングと技術協力に関する戦略的アプローチの目的は下記の通りである。

(a) 全ての国々でライフサイクルを通じて化学物質の適切な管理のためのキャパシティを増大させること。

(b) 先進国と開発途上国及び経済移行国の間のキャパシティに関し、広がっている格差を狭めること。

(c) 技術協力とキャパシティ・ビルディングのためのバリ戦略計画(Bali Strategic Plan for Technology Support and Capacity-building)で相乗効果を最大にしつつ、戦略的アプローチの条項にしたがった援助プログラムの開発による開発途上国と経済移行国との間において、また、先進国、開発途上国、及び経済移行国の間で、技術協力と適切なクリーンな技術援助の提供のための連携とメカニズムを確立又は強化すること。

(d) 実際的な訓練プログラムを含む開発途上国と経済移行国における持続可能なキャパシティ・ビルディング戦略を開発し実施し、また、先進国及び開発途上国と経済移行国の間の協力を推進すること。

(e) 化学物質の適切な管理と透明性を強化するためにキャパシティ・ビルディングの調整を確実にすること。

(f) 国家の持続可能な開発戦略、貧困削減戦略文書、及び国の援助戦略を含む社会経済開発戦略の中の重点項目として化学物質の適切な管理を含めること、及び化学物質を国家の政策の中で重要な部分に位置づけること。

(g) 関係者が化学物質の安全に関する自身のプログラムを開発し推進することを奨励すること、そして、開発途上国と経済移行国においてキャパシティ・ビルディングの支援を行うこと。

(h) 開発途上国と経済移行国が、既に他の国々や国際的機関によってなされた作業及び既に確立された化学物質管理モデルを活用することを促し、それが容易にできるようにすること。

(i) 戦略的アプローチの実施のための適切な財政的メカニズムを確立すること。

(j) 貧困の撲滅と発展のための化学物質の安全の社会性の、提供国、多国間組織、及び関連する主体者への周知を促進すること。

E. 不正な国際取引

18. 不正な国際取引に関する戦略的アプローチの目的は下記の通りである。

(a) 有毒で、危険で、禁止され、厳しく制限されている化学物質と化学製品及び廃棄物の不正な国際取引を防止すること。

(b) 不正な国際取引の防止に関連する条項を含む既存の多国間協定を支援する管理メカニズムを強化すること。

(c) 不正な国際取引の管理のために、国家レベルで、開発途上国と経済移行国と情報を共有しキャパシティを強化すること。

X. 財政に関する考慮

19. 意味あるものとするために、戦略的アプローチは化学物質の適切な管理を進めるための世界の取り組みに対する新たなアプローチでなくてはならない。この新たなアプローチは、全ての国で戦略的アプローチの目標を実施するためにケーパビリティとキャパシティの強化を促進するための適切な [新たな及び追加的] 財政資源の動員を含まなくてはならない。

(a) 戦略的アプローチ目標の財政を支援するための国家レベルでの活動は下記を含む。

 (@)全ての国で政府の予算措置にこれらの目標を統合すること。

 (A)政府は、適切な化学物質管理に関連して化学物質製品の製造者と使用者の財政的責任分担を明確にするとともに、戦略的アプローチ目標の実施を推進するために必要な変更を特定するという意図の下に現行の法律、政策、及び規制を評価すること。

 (B)政府は、関連産業内での適切な化学物質管理のコストの内部化を促進できるよう、国家レベルの追加の経済的制度を評価し採用すること。

 (C)政府は、適切な化学物質管理プログラム及び関連する措置のための国家政府にかかるコストを関連産業内で内部化することを推進するために、国際レベル又は世界レベルで経済制度を活用することの可能性を調査すること。

(b) 戦略的アプローチ目標実施における産業側の財政参加の強化は下記を含む。

 (@)戦略的アプローチ目標実施に関連する多くの課題に産業側を参加させることを目的として、現在の自主的な産業側の取り組みを検証し強化するために産業側を招聘すること。

 (A)戦略的アプローチ目標実施のために意味があり時宜を得た新たな産業側の自主的な取り組みを開発するために産業側を招聘すること。

 (B)良好な企業の社会と環境への責任と一致するプロジェクト活動を強調しつつ、戦略的アプローチへの財政的貢献をさせるために産業側を招聘すること。

(c) 戦略的アプローチ目標の多国間又は二国間開発援助プログラムへの統合を下記によって行うこと。

 (i) 開発途上国と経済移行国は、開発援助計画及び国家予算措置に影響を与える国家政策文書の中に戦略的アプローチ目標を重点項目として位置づけること。

 (A)提供国政府は、受領国が戦略的アプローチ目標を適切な国家政策文書に統合するための努力を支援するために適切な財政的及び技術的援助を可能にすること。

 (B)提供国政府は、持続可能な開発を支援する二国間援助機関プログラムの重要な要素のひとつとして、戦略的アプローチ目標を描くこと。

 (C)戦略的アプローチ目標を彼らのプログラムの中で優先事項に位置づけるために国際財政機関と政府間組織を招聘すること。

 (v) 政府は、戦略的アプローチ作業プログラムの一部として、(地球規模で)不適切な化学物質管理に関連した持続可能な開発に及ぼす現状のそして計画中の財政的及びその他の影響を見積もることを目指して、調査への貢献及びピアレビューを行うために世界の全ての地域から主導的専門家を招集する機会を含む、目標となる調査の早期開発を支援すること。

(d) 既存の多国間基金財源を活用し構築することは下記を含む。

 (@)戦略的アプローチ目標の実施を支援することができる分野での現状の活動を特定し構築するためにモントリオール議定書の実施のための地球環境施設多国間基金を招聘すること。

 (A)供与国は、これらの既存基金財源の適切で持続可能な補給を支援すること。  (B)地球環境施設への供与国は、戦略的アプローチ目標の実施のために受領国内での優先ニーズの基金に関連して、目標をもった適切で持続可能な化学物質に目を向けた分野及び/又は他の追加的プログラム活動を確立する方向で働くこと。

(C)戦略的アプローチ目標の実施のために受領国内での優先ニーズの基金を支援することができる現状の財政制度と手順を強化し、新たに確立する作業を供与国及び受領国が行うために国際的な財政機関と政府間組織を招聘すること。

(e) 戦略的アプローチ目標の実施を支援する世界的なパートナーシップ基金の設立は下記を含む。

 (@)財政的能力に応じた基金への政府の保証

 (A)基金を保証する産業を招聘すること。

 (B)主導的スポンサーと協力しながら基金の設計と確立を促進することに着手するために、戦略的アプローチ・プロセスの特性と制度的アレンジメントを十分に考慮しつつ、[地球環境施設]と[世界銀行]を招聘すること。

 (C)この基金を支援するために他の国際的財政機関や政府間組織を招聘すること。

(f) 戦略的アプローチの財政的アレンジメントのガバナンスは戦略的アプローチの全体的制度アレンジメントと一貫性があること。

(g) 戦略的アプローチ実施のための資源動員のために、戦略的アプローチ事務局内に効果的なケーパビリティとキャパシティを確立すること。

Y.原則とアプローチ

20. 世界行動計画を含んで、戦略的アプローチを開発し実施するに当り、政府とその他の関係者は下記の原則とアプローチによって導かれるべきである。

(a) 一般的適用のために当初から開発されているもの (訳注:文字強調は訳者による)

 (@)環境と開発に関するリオ宣言の原則 3 を含む適切な条項に述べられている世代間公平(Inter-generational equity)

 (A)環境と開発に関するリオ宣言の原則 15 に述べられている予防(Precaution)

 (B)環境と開発に関するリオ宣言の原則 4 に反映されている釣り合い(Proportionality)

 (C)アジェンダ21と環境と開発に関するリオ宣言の原則 16 に述べられているコストの内部化(汚染者支払い)(Internalization of costs (polluter pays))

 (D)環境と開発に関するリオ宣言の原則 10 に述べられている公衆の参加(Public participation)

 (E)環境と開発に関するリオ宣言の原則 10 に述べられている知る権利(Right to know)

 (F)国連ミレニアム宣言とヨハネスブルグ実施計画第4項に述べられている良いガバナンス(Good governance)

 (G)環境と開発に関するリオ宣言の原則 7 に述べられている国家間の協力(Cooperation among States)

 (H)環境と開発に関するリオ宣言とアジェンダ21に体現されているパートナーシップ・アプローチ(Partnership approaches)

 (I)人間環境に関するストックホルム宣言の原則 22、及び環境と開発に関するリオ宣言の原則 13、原則 16 で勧告され、国連国際法委員会の国境を越える害に関する文書が留意している責任と補償(Liability and compensation)

(b) 特に化学物質管理の脈絡の中で開発されたもの、又はさらに開発されるもの (訳注:文字強調は訳者による)

 (@)アジェンダ21の第19章と第20章で勧告されている化学物質と廃棄物の適切な管理のための調整され統合されたアプローチに基づく統合化学物質管理(Integrated chemicals management)

 (A)アジェンダ21の第6章、第19章、第20章に述べられている防止(Prevention)

 (B)アジェンダ21の第19章、第20章に述べられている代替(Substitution)

 (C)アジェンダ21の第19章に述べられている世代間平等(Inter-generational equity)

 (D)多国間の化学物質や廃棄物協定で詳しく述べられ定義されている予防(Precaution)

 (E)アジェンダ21の第19章でさらに展開されている知る権利(Right to know)

 (F)化学物質の安全に関するバイア宣言でさらに展開されているパートナーシップ・アプローチ(Partnership approaches)

VII. 実施と進捗の評価

21. 戦略的アプローチの実施は国家レベルで始まるであろう。戦略的アプローチの関係者は管理組織(oversight body)によって用意される指針を考慮しつつ、その実施には段階的アプローチをとるであろう。各国の状況に応じて実施は異なるフェーズで始めることができる。戦略的アプローチの下における行動計画は国家及び地域レベルにおいては政府によって、また政府間組織及び国際的財政機関によって開発されるであろう。関係者間のパートナーシップは実施の支援として遂行されるであろう。

22. 戦略的アプローチの実施と進捗の評価を支援するための制度的アレンジメントは国家の調整を含み、国際レベルでは管理組織(oversight body)と事務局を含む。

23. 化学物質管理への統合的アプローチを支えるために、それぞれの政府は、全ての関連する省庁や関係者の利害が代表され、全ての関連する領域に目が向けられるよう戦略的アプローチを実施するための省庁又は機関を横断した中央組織を設立すべきである。コミュニケーションを図るために、国家としてまた国際的に、各政府は、会議に参加するための招待や情報の流布を含んで、戦略的アプローチ関連事項に関する情報経路として機能する活動拠点(focal point)を定めるべきである。戦略的アプローチ国家活動拠点は国の省庁間又は部局間のアレンジメントが存在するなら、その代表であるべきである。国の活動拠点は十分に高いレベルであり、理想的には異なる省庁又は機関がそれぞれ交代することが望ましい。

24. 戦略的アプローチ管理組織(oversight body)に要求される機能は下記の通りである。

(a) 合意された目標と戦略的決定に対する進捗を検証し必要に応じてアプローチを更新しつつ、戦略的アプローチの実施の監視結果を評価すること。

(b) 戦略的アプローチの実施の進捗を報告し、他の政府間組織に勧告をすること。

(c) 戦略的アプローチの実施に関する政策指針を提供すること。

(d) 既存の国際協定文書とプログラムの順守を促進すること。

(e) 国際、地域、及び国家レベルでのガバナンスの一貫性を推進すること。

(f) 国家の化学物質管理のキャパシティの強化を図ること。

(g) 実施に必要な財政的及び技術的資源を確保するために働くこと。

(h) 戦略的アプローチのための財政的メカニズムの能力を評価すること。

(i) 新たな政策課題が発生したならそれに対応し共同作業の優先度に関する合意を創出すること。

(j) 科学的知識のギャップの特定を支援すること。

(k) 情報交換と科学的及び技術的共同作業を促進すること。

(l) 多くの関係者や多くの分野の化学物質管理問題に関する議論と経験の交換のための国際フォーラムを開催すること。

(m) 定期的に会合し、中間作業を必要に応じて設定すること。

25. 戦略的アプローチによって実施される機能には下記のものがある。

(a) 最大の関係者の参加をもって、またその報告と勧告を流布して、戦略的アプローチ管理組織とその下部組織の会議と中間作業を推進すること。

(b) 全ての参加者による戦略的アプローチの実施プログレスを監視し、その結果を戦略的アプローチ管理組織に報告すること。 (c) 国家、地域、場合によっては政府間及び非政府組織、国際の各レベルで戦略的アプローチ関係者のネットワークの設立と維持を促進すること。

(d) 関係者による戦略的アプローチの実施を支援するために指針資料の開発と流布を促進すること。

(e) 関係者のプロジェクト提案の発議を支援すること。

(f) 情報交換サービスを提供すること。

(g) 関連する科学的及び技術的情報の交換を促進すること

(h) 各分野の専門性を引き出すために”化学物質の適切な管理のための組織間プログラム”の参加組織との作業関係を確立し維持すること。


付録(Appendix)
ヨハネスブルグ実施計画第23項本文

 ヨハネスブルグ実施計画はSAICM包括的方針戦略の基礎をなす重要な政治的公約である。その計画では、”政府、関連する国際的組織、民間部門、及び全ての主要なグループは、持続可能ではない消費及び製造パターンを変えるために積極的な役割を果たすべきである”ということが合意された。これは同計画の第23項で述べられている全てのレベルにおける行動を含むであろう:

23.人の健康と環境とともに持続可能な開発のために、特に、透明な科学ベースのリスク評価手順と科学ベースのリスク管理手順を使用しつつ、環境と開発に関するリオ宣言の原則 15 に述べられているように、予防的アプローチを考慮しつつ、化学物質は人の健康と環境への著しい有害影響の最小化に導く方法で使用され製造されることを2020年までに達成することを目指しつつ、アジェンダ21で推進されているように、ライフサイクルを通じての化学物質と有害な廃棄物の適切な管理に対しその使命を新たにする。開発途上国を技術的及び財政的に援助して化学物質と有害廃棄物の適切な管理のための彼らのキャパシティ強化を支援すること。このことは全てのレベルにおいて下記の行動を含む。

(a) 有害な化学物質と農薬の国際貿易のための事前同意手続に関するロッテルダム条約が2003年までに発効し、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が2004年までに発効することができるようにすることを含んで、化学物質と有害廃棄物に関する国際的な法律文書の批准と実施を促進すること、及び、開発途上国の実施を支援するとともに協調を促し改善すること。

(b) 化学物質の安全に関する政府間フォーラムの2000年以降に向けたバイア宣言および行動優先課題に基づき、2005年までに、国際化学物質管理に対する戦略的アプローチをさらに発展させること、及び、国連環境プログラム、政府間フォーラム、化学物質管理を扱うその他国際的組織、及びその他関連国際組織と主体者がこのことに関し適切である限り密接に協力するよう促すこと。

(c) 化学物質の分類およびラベリングに関する新たなグローバル統一システムをできる限り早く実施し、2008年までにこのシステムを全面的に運用するよう各国を促すこと。 (d) 多国間の環境協定を実施しつつ、化学物質と有害廃棄物に関連する問題を知らしめつつ、追加的な科学的データの収集と使用を促しつつ、化学物質と有害廃棄物の環境的に適切な管理を強化することを目指した活動を促進するようパートナーシップを促すこと。

(e) 有害化学物質と有害廃棄物の国際的な不法取引を防止し、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約のような国際的法律文書の下での責務と整合した方法で、有害廃棄物の国境を越えた移動と処分の結果生じるダメージを防止するための取り組みを促進すること。

(f) 国家の汚染物質排出移動登録のような化学物質に関する一貫した統合された情報の開発を促すこと。

(g) 国連環境計画の水銀とその化合物の世界的評価のような関連する調査の検証を行うこと含んで、人間の環境と環境に有害な重金属によって及ぼされるリスクの削減を促進すること。


訳注:関連する国際環境会議・宣言
日本語訳及びオリジナルを参考までに示します。

■1972年 国連人間環境会議UNCHE(ストックホルム)
国連人間環境会議(ストックホルム会議:1972 年)人間環境宣言(環境省訳)
Declaration of the United Nations Conference on the Human Environment

■1992年 リオ宣言
環境と開発に関するリオ宣言 (環境省訳)
Rio Declaration on Environment and Development (United Nations Environment Programme)

■1992年 アジェンダ21
アジェンダ 21行動計画(日本政府版)
アジェンダ21行動計画
Agenda 21 (United Nations Environment Programme)
Agenda 21 by Information Habitat: Where Information Lives - http://habitat.igc.org/index.html

リオサミット関連資料/CASA

■2000年 バイア宣言 (Salvador da Baha, Brazil, 15 - 20 October 2000)
Bahia Declaration on Chemical Safety

■2002年 持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)
持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)外務省

■2002年 ヨハネスブルグ宣言
持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言(仮訳)(外務省)
Johannesburg Declaration on Sustainable Development

■2002年 ヨハネスブルグ実施計画
持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画(和文仮訳)(外務省)
Johannesburg Plan of Implementation (HTML)
Plan of Implementation of the World Summit on Sustainable Development (PDF)

WSSD リオからヨハネスブルグへ/CASA

■2000年 国連ミレニアム宣言
ミレニアム宣言(外務省訳)
United Nations Millennium Declaration

■国際環境法・環境条約の解説
Maurice Strong と1972 国連人間環境会議UNCHE(ストックホルム)
ローカルアジェンダ21 策定状況及びその内容等に関する調査報告書((財)地球・人間環境フォーラム)
ストックホルム、リオ、そしてヨハネスブルク (松下和夫 京都大学大学院教授)


化学物質問題市民研究会
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