2006年2月6日
IPEN ドバイ宣言
有害物質のない未来のための宣言


情報源:International POPs Elimination Network (IPEN)
Dubai Declaration: IPEN Declaration for a Toxics-Free Future
Dubai, United Arab Emirates, 6 February 2006
http://www.ipen.org/ipenweb/saicm/dubai.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma (Citizens Against Chemicals Pollution (CACP))

掲載日:2006年2月10日
Posted on February 10, 2006
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm/ipen/ipen_Toxic_Free_060206.html(html版)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm/ipen/IPEN_Dubai_Declaration_jp.pdf(pdf版)


IPEN 有害物質のない未来のための宣言

 本日の政府及び関係者による、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)の決議の採択に際し、国際 POPs 廃絶ネットワーク(IPEN)は、全ての化学物質は人の健康と環境への有意な有害影響をなくす方法で製造され使用され、残留性有機汚染物質(POPs)及び同等の懸念ある化学物質は最早我々の地域や地球環境を汚染することがなく、そして最早我々の地域、我々の食物、我々の体、又は我々の子ども達及び将来の世代の体を汚染することがない”有害化学物質のない未来”のために活動し、2020年までにそれを達成するという拡大された公約を宣言する。

 IPEN 参加団体として、我々は、地域、労働者、そして他の関連する民間団体とともに、そして政府及び政府間組織と協力して、有害物質のない未来のために活動し、2020年までに実現するために、以下を我々の固い決意として宣言する。

1. POPsおよび同等の懸念ある他の化学物質、及び、生殖及び発達障害(先天的欠損症及び行動障害や知的障害などの神経発達障害を含む)、がん、遺伝的変異、及び免疫不全及び内分泌かく乱など著しく健康影響に寄与するものを含むPOPs及びその他の有害副産物を生成し排出する物質、製品、及びプロセスの製造と使用を廃止し禁止すること。

2. 発達中の胎児、乳幼児、及び、子どもは発達の過程において有害化学物質の有害影響に対し特に脆弱であるということを認識しつつ、至高の目標として子どもの健康を促進すること。

3. 可能な場合には非化学物質の代替を優先しつつ、有害副産物の生成と排出を避けるクリーン・プロダクション、クリーン・テクノロジー、そしてグリーン・ケミストリーを含んで、よりクリーンな製品、材料、プロセス、及び実施の代替を推進し、求めること。

4. POPs及び他の懸念ある化学物質を含む古い備蓄品及び廃棄物を特定し、確保し、そして、完全な分解を確実にし(すなわち化学的変換)、それ自身有害汚染物質を生成又は排出せず、又は労働者と周囲の地域集団の健康、安全、又は安寧を脅かさない方法で適切に破壊すること。汚染された土地と貯蔵所を浄化し、改善すること。POPsの古い備蓄品とその他の懸念ある化学物質の将来の蓄積を防ぐ措置をとること。

5. 廃棄物と汚染した土壌と堆積物の焼却及びその他の環境的に不適切な処理方法をやめること。

6. 国際的に合意された条約、プログラム、行動規範、及び行動計画の実施を含み、しかしそれに限定しない化学物質安全性に関連する意思決定プロセスにおいて、影響を受ける地域集団、地方政府、及び公益NGOsとその他の民間団体(最も脆弱なグループを含む)による時宜を得た完全で効果的な公衆参加を確実にすること。容易にアクセスできる情報、能力構築、周知の徹底、公衆の知る権利、及び地方レベルに関連する重要なメカニズムを通すことを含んで、意思決定に対する透明な多数関係者アプローチを確実にするために、政府、公益団体、学界、産業界、その他の間の協力を促進すること。

7. 有害な化学物質、汚染行為、又は有害な技術が廃止される時はいつでも、特に発展途上国及び移行経済国における女性、農民、及び先住民やその他の地方の集団を含む影響を受ける労働者らの保護に対し、特別の注意が払われることを確実にするために、移行のための準備を行うこと。

8. 全ての国において現状の国の化学物質法、化学物質政策、及びその実施に関し、この宣言で述べられる基準と整合し又はそれを上回る抜本的な改正を達成すること。それらは特に下記の条項を含むこと。
  • 行為とその結果の因果関係の証拠が決定的ではなくても、合理的な懸念の根拠がある場合には、防止措置がとられることを確実にするために、化学物質の安全性に関連する全ての意思決定に予防原則を導入すること。
  • 市場にある及び製品中にある全ての化学物質に対し、人の健康と環境のための化学物質の安全性の評価のために十分に情報のあるハザード、用途、及び曝露データを含む包括的なデータを要求することにより、”データがなければ市場に出さない(no data, no market)”原則を実現すること。
  • 特に多くの化学物質が世代にわたり環境中に残留することについて注目しつつ、また、多くの化学物質がヒトの胎芽や胎児の健康な発達をかく乱し、遺伝子構造を損傷し、生殖系に影響を与えていることについて注目しつつ、将来の世代に関する化学物質関連の政策決定の影響を考慮することによって世代間平等の配慮を反映すること。
9. 全ての国で、化学物質の固有の特性と人の健康と環境汚染に及ぼす影響に関するデータ、より安全な代替物質に関する情報、及び事業所内外に移動する廃棄物に関する情報を含んで、市場や製品中、廃棄物中に存在する全ての化学物質についての情報に、十分に、自由に、容易に、時宜を得て、公衆がアクセスできることを確実にする汚染物質排出移動登録(PRTR)を含んだ包括的な知る権利法を採択し実施すること。これらの法律は、人と環境の健康と安全に関係するどのような情報も企業秘密とはみなされないということを明確に述べるべきこと。

10. 特に、化学物質を製造し、使用し、廃棄する者は、人の健康と環境に及ぼす危害に関する全てのコストを支払い、そのような危害の犠牲者が速やかにそして完全に補償されることを確実にするために、利用しやすい、入手可能な、そして有効な責任補償制度の確立を通じて、汚染者支払い原則を実施すること。

11. 強固な化学物質安全プログラムを確立し維持するために政府やその他が負担している全ての適法なコストを化学物質製造産業が負担すること。さらに、有害化学物質の流出や有害化学物質の貯蔵や有害廃棄物に責任がある者が、その復旧や浄化のコストを負担することができない場合にその支払いに充当する政府管理の基金に対し、法的強制力の下に産業が貢献することを要求すること。

12. 水銀とメチル水銀の人為的汚染源を最小にし廃絶すること。

13. 環境、健康、労働、農業、産業、開発、教育、その他の全ての関係省庁による協力と調整の下に、全ての政府は、特に開発途上国及び移行経済国の政府は、効果的な国家の統合化学物質安全プログラムと基盤を確立し、維持することを確実にすること。この目的の遂行に役立たせるために新たな又は追加的な二国間及び多国間資金援助を用意すること。

14. 女性、子ども、及び先住民とその他の地域集団を含む特に脆弱なグループに対する特別の注意を払いつつ、開発途上国及び移行経済国の貧困削減戦略と開発議題に、化学物質の安全配慮を組み込むことを促進すること。

15. ”揺りかごから揺りかごまで”戦略の推進を含み、また、化学物質そのものだけではなくその副産物、分解生成物及び反応生成物を含んで、その全ライフサイクルの各段階において化学物質の影響を考慮して全ての化学物質のためのライフサイクル・アプローチを採用すること。化学物質の設計、製造、使用、及び再使用の過程で考慮すべきは、製品、廃棄物、生態系及び人の体の中の化学物質の存在と化学物質の環境中の最終的な運命である。

16. 特に低所得層グループ、農民、及び先住民集団にとって、健康で、環境的に持続可能で、資金的に負担できる実施方法を通じて高い生産を目指す有機農業、農業における農薬とその他の化学物質の使用の進取的代替、地域集団全体が取り組む統合有害生物管理、害虫防除の農業生態学的手法、及びその他の持続可能な農業手法を含んで、持続可能で生態学的な農業を推進すること。

17. 経済的に負担可能で環境的に適切であり、また時宜を得て情報を与えられた地域集団の参加を考慮する効果的な公衆保健を達成するために、害虫と媒介動物の管理は影響が少なく統合された手法に代替すること。

18. 廃棄物発生源からの削減を推進することにより、廃棄物の量と毒性の両方を削減するために容器包装を含めて材料と製品の設計、製造、購入、使用及び消費を変えることにより、そして、有害ではない製品と材料の再使用とリサイクルを最大化することにより、廃棄物発生を削減し、なくすことを目指すこと。

19. 地球規模の環境悪化と化学物質による健康影響に対する異なる寄与と脆弱性、及び異なる財政的及び技術的リソースという観点から、全ての政府と産業、NGO、労働者及びその他の関係者にとって共通の、しかし区別された責任を認めること。

20. 国際的な化学物質や廃棄物に関する条約や取組の下に、開発途上国及び移行経済国がそれらの約束の全てを完全に実施することを可能とする新たな及び追加的な財政的及び技術的支援を諸国及び諸機関が寄贈国や寄贈機関となり提供することを促すこと。

21. 地球環境ファシリティー(GEF)が提供するPOPs運用プログラムを含むだけでなく、SAICMの中で求められている化学物質管理に対する統合的アプローチとともに、他の化学物質条約の実施を支援する追加的な運用プログラムを含めるために、地球環境ファシリティー(GEF)の中に新たなそして追加的な基金を持った化学物質安全活動拠点を確立すること。

22. ストックホルム条約、及び事前情報に基づく同意手続に関するロッテルダム条約有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分に関するバーゼル条約及び禁止修正( Ban Amendment)、廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約に対する1996年議定書(ロンドン条約)、職場における化学物質の使用の安全に関する条約(第170号)を含む他の化学物質と廃棄物に関する条約の全ての締約国による批准を確実にすること。

24. 開発途上国又は移行経済国での通常の使用条件下で人の健康と環境に危険をもたらすクリソタイルアスベストを含みしかしそれに限定しない全ての化学物質と農薬を含めるために、事前情報に基づく同意手続に関するロッテルダム条約(PIC)によってカバーされる化学物質リストを迅速に拡張すること。時代遅れの汚染をもたらす技術と輸出国で禁止されている化学製品の開発途上国及び移行経済国への輸出を防ぎ、禁止すること。

25. 化学物質輸入国での実施、及び不適切に分類は又は表示されている化学物質の輸入を禁止するというGHSに内在する本質的な権利に関する特別の強調をもって、化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)の国家による完全で効果的な実施を推進すること。

IPEN ウェブサイト
http://www.ipen.org/



化学物質問題市民研究会
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