IPEN 2017年2月
IPEN クイック・ビュー:
2020年以降の SAICM のための第1回会期間プロセス会合

情報源:IPEN, February 2017
IPEN Quick Views: 1st Beyond 2020 Intersessional Process Meeting
http://ipen.org/sites/default/files/documents/IPEN%20
Quick%20Views%20Beyond%202020%20%231_2%20Feb%202017.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年2月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm/ipen/Beyond_2020/
Feb_2017_IPEN_Quick_Views_1st_Beyond_2020_Intersessional_Process_Meeting.html


はじめに

注:”2020以降”プロセスに関連するIPENの政策論文は http://ipen.org/documents/ipen-beyond-2020-perspectives で読むことができる。

見通し、範囲、将来展望
  • 現在、化学物質の工業生産と使用は開発途上国及び移行経済国に移っており、この移行は農薬の継続的な使用の増大、及び有害化学物質を含有する製品の使用の増大をもたらしっている[1]

  • SAICM は、実質的には化学物質関連の条約によってカバーされない有害化学物質の全ての暴露源に目を向けており、多くの場合、これらの暴露源によって引き起こされる危害は開発途上国と移行経済国に不釣り合いに影響を及ぼしており、残留性有機汚染物質(POPs)や水銀等と同様に深刻である。

  • 世界の最も緊急を要する化学物質の安全に関する懸念の大部分に対応するための参加型の国際的枠組みは存在しないのだから、SAICM の広い範囲は維持されるべきである。

  • 持続可能な開発目標12.4(SDG12.4)(訳注1)には2020年という目標期限があるが、それはまた、化学物質の安全と持続可能な開発との間の固有の関連と調和する2020年以降の目標のための確固とした見通しを提供する[2]
法的拘束力のない多様な利害関係者及び多様な部門アプローチ
  • SAICM の多様な利害関係者及び多様な部門アプローチは、政府担当官、公益 NGOs、地域組織、国連機関、民間部門、医療部門、労働組合、その他の関係者が、適切な化学物質管理目標を支持して、お互いが交流し協力することを可能にしてきた。

  • 前に進めるにあたり、SAICM の枠組みの中で、より強い多様な部門活動が必要となる。例えば、保健大臣、農業大臣、労働大臣の活動はほとんどなされてこなかった。このことはまた、資金調達と関係する。

  • 多様な利害関係者及び多様な部門の取組は、持続可能な開発のための 2030アジェンダ(訳注2)の合意された要素(例えば持続可能な開発目標 SDG16)である。
資金調達
  • SAICM 実施のために、関連する SAICM 利害関係者がアクセスできる十分で予測可能な資金を持つ特定の資金調達メカニズムが必要である。

  • 援助国政府開発援助機関は、特に SAICM は適切な化学物質管理を持続可能な開発に関連付け、2030アジェンダを支持する中で測定可能な目標を開発することになるので、化学物質の安全のための可視性と財政的支援を大いに向上させるべきである。

  • SAICM クリアリングハウス・メカニズムは、適切な化学物質管理のための開発援助を公的に追跡すべきである。

  • 全ての関連する SAICM 利害関係者によるアクセスを可能にするために国連特別プログラム(Special Programme)は補足されるべきである。

  • 化学物質の安全のための持続可能な資金調達を確保するうえで重要なことは、関連する製造者産業内にコストを内部化することである。

  • 世界の化学産業の年商は約4.1兆ドル(約470兆円)であり、0.1%の徴税でも適切な化学物質管理のために40億ドル(約4,7000億円)が生じる[3]

  • 国連環境計画(UNEP)は、適切な化学物質管理のために政府が堅固なプログラムを実施するためのコストを関連産業内に内部化するための、市場経済原理に基づく手法(market-based instruments)をどのように実施するかについて調査すべきである。生成される資金配分の大部分は、開発途上国及び移行経済国の化学物質安全活動を支援するために向けられるべきである。その調査は、利害関係者からの情報を含め、環境と開発に関するリオ宣言の第16原則(訳注3)と調和する世界的及び地域的なアプローチを含むべきである。
SAICM の安全政策の優先度を高める
  • RIO+20 サミット(訳注4)において各国政府は、”化学物質と廃棄物の適切な管理に与えられる政策的優先度を高めるための取組”の必要性に同意した[4]

  • 化学物質の使用と生産は拡大し続けているので、有害化学物質の製造、使用及び廃棄、並びに廃棄物に関連する健康、環境及び経済への危害が増大するという課題の重要性に鑑み、SAICM は改良されるべきである。

  • SAICM の中で勧告されている省庁間委員会と多様な利害関係者の調整の公式化と資金調達は、SAICM の政策優先度を上げるであろう。

  • これを実行するためのひとつの方法は、国のオゾン担当部署の役割を拡大し、化学物質安全担当部署として機能させることにより、国レベルで相乗効果を創出することであろう。もし資金調達されるなら、これらの担当部署は調整、規制、資金調達/推進、法令順守、ニーズ評価、報告、及びその他の役割を果たすことができる。
新たに出現する政策課題への対応
  • 現在出現している政策課題と懸念の課題(訳注5)は、さらに前進させるべきである。それらは次のものを含む。塗料中の鉛(SDGs 3, 16)、有害性の高い農薬(SDGs 2, 3, 8)、製品中の化学物質(SDGs 3, 8, 16)、電子機器中の有害物質(SDGs 3, 8, 12)、内分泌かく乱化学物質(SDGs 3, 16)、ナノテクノロジーと工業ナノ物質(SDGs 3, 16)、及び環境中に残留する医薬品汚染物質(DGs 3, 7)。

  • 現在及び新たな SAICM の取組のための測定可能な指標の参照をご覧ください[5]
2030アジェンダ訳注2
  • 化学物質の安全は、SDGs 2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 及び 17 を達成することに貢献することができる。

  • 2030アジェンダを支持する目的は、成功と課題の評価を実施するのに役立つ適切な数量的及び定性的指標により、明確に測定可能とすべきである[5]

  • 5つの新たな取り組みが2030アジェンダを支持する中で開発されるべきである。ゼロウェイスト(SDGs 11, 12, 13)、職場における知る権利(SDGs 3, 8, 16)、アグロエコロジー(SDGs 2, 3, 4, 5, 6, 8, 12, 13)、プラスチック(SDGs 11, 12, 14)、及び女性と化学物質の安全(SDGs 2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17)[5]
女性と化学物質の安全
  • 懸念ある課題として女性と化学物質の安全を採択することは、2030アジェンダ内の多くの SDGs をた制するために重要な貢献となるであろう(SDGs 2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17))[5]

  • SAICM、ストックホルム条約、及び水俣条約は全て、化学物質暴露の女性への影響を低減することの重要性に言及している。

  • 多様な女性利害関係者と化学物質安全作業部会は、SAICM の新規政策課題と懸念ある課題を導く作業計画に含まれている女性と化学物質の安全に関連する行動のための勧告を展開するために、2020年までに設立されるべきである。

  • 環境、健康及び農業関連の女性大臣は、関連する利害関係者と協力して、全ての国連地域からの事例研究と懸念、及びその報告書の勧告に基づく宣言を含む女性と化学物質の安全に関する 2020年に発表されるべき SAICM のための報告書を作成すべきである。
グリーンケミストリーと持続可能なケミストリー
  • グリーンケミストリーと持続可能なケミストリーの両方とも、2020年以降のプロセスに有用であるが、どちらの概念も適切な化学物質管理、又はレガシー問題への対応の必要性にとって代わるものではない[5]

  • グリーンケミストリーは、有害性の削減に焦点を当てる[6]。持続可能なケミストリーは、資源効率を達成するための取組に最も頻繁に関連する。両方の概念ともに、化学物質の工業的使用とアグロエコロジーの実施に非常に関連性がある非化学的代替に関して弱い。

  • グリーンケミストリーは、有害性削減が完全に持続可能なケミストリーの概念に織り込まれるよう、持続可能なケミストリーの義務的な一部であるべきである。

  • 持続可能なケミストリーの社会的側面は、、ILO の中核的労働基準を含んで、きちんとした安全な労働環境を含み、人権と労働者の権利を重視すべきである。
パートナーシップ
  • パートナーシップは、資金調達メカニズムの機能又は化学物質製造産業内でのコストの内部化の必要性を置き換えるものではない。

  • パートナーシップは:国際的に合意された目標の実施を促進し;国内法、開発計画、及び戦略と一貫性があり;国際法を敬い、合意されている原則と価値に調和し;透明性と説明責任があり;付加価値を供給し;政府によってなされる約束を置き換えるよりむしろ補足し;確実な資金調達の基礎を持ち;異なるパートナーのために概要が示された明確な役割をもって、多様な利害関係者により推進されるべきである[7]

  • 国連事務局長の原則によれば、”ビジネス分野との協力は透明でなくてはならない。主要な協力協定の特性と範囲に関する情報は関連する国連機関内及び公衆全般に利用可能であるべきである”[8]

  • パートナーシップは、国連グローバル・コンパクト及び国連ビジネスと人権に関する指導原則を含んで国連のガイドラインと一致するビジネスとのみ運用されるべきである。これらは、”ビジネスは環境的課題に対する予防的アプローチを支持すべきであり”、”ビジネスは結社の自由及び団体交渉の権利を実効あるものにする”というような関連する化学物質安全原則を含む。

  • パートナーシップは、公衆の必要より私利益にしたがって公共政策を再設計すべきではない[8]

  • 鉛含有塗料の廃絶に取り組む国際活動(GAELP)を実施してきた国レベルのパートナーシップは SAICM 内でのパートナーシップの好事例である[9]
科学と政治のインターフェイス
  • 可能性ある関連組織が有用であるために、全ての適切な利害関係者団体が完全に参加することができるようにし、化学物質の安全に関連する科学分野及び公衆健康分野の全領域が積極的に関与することを確実にするために、正確な委託事項が必要とされるであろう。
脚注
[1] UNEP’s Global Chemicals Outlook notes that one-third of all chemical consumption may be in developing countries by 2020 and that, “the prospect for widespread and multifaceted exposures of communities and the environment to chemicals of high and unknown concern also increases.”

[2] SDG12.4: “By 2020, achieve the environmentally sound management of chemicals and all wastes throughout their lifecycle, in accordance with agreed international frameworks, and significantly reduce their release to air, water and soil in order to minimize their adverse impacts on human health and the environment.”

[3] United Nations Environment Programme (2012) Global Chemicals Outlook

[4] United Nations (2012) Resolution adopted by the General Assembly on 27 July 2012: 66/288. The Future We Want, Para 223, A/RES/66/288 https://sustainabledevelopment.un.org/futurewewant.html

[5] http://ipen.org/documents/ipen-beyond-2020-perspectives

[6] The definition of green chemistry is “the utilization of a set of principles that reduces or eliminates the use or generation of hazardous substances in the design, manufacture and application of chemical products.”

[7] Beisheim M, Simon N (2016) Multi-stakeholder partnerships for implementing the 2030 Agenda: Improving accountability and transparency, Analytical Paper for the 2016 ECOSOC Partnership Forum ? March 11, 2016

[8] UN Secretary General (2015) Guidelines on a principle-based approach to the Cooperation between the United Nations and the business sector, The Guidelines were first issued in 2000, revised and reissued in 2009, and revised in 2015 as requested by GA Resolution A/RES/68/234

[9] GAELP characteristics include: participation of all stakeholders to accomplish meaningful change by obtaining mandatory legal limits, not voluntary approaches; hazard-based; opportunities for broader engagement during the International Lead Poisoning Prevention Week of Action and Regional Workshops; some funding for coordination; only responsible industry stakeholders that remove lead from paint are given a seat at the table.


訳注1:持続可能な開発目標(SDGs)
  • 持続可能な開発目標(SDGs)に関するオープン・ワーキング・グループ成果文書(IGES仮訳)
    持続可能な開発目標
    • 目標 1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
    • 目標 2. 飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
    • 目標 3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
    • 目標 4 . すべての人々への包括的かつ公平な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
    • 目標 5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女子のエンパワーメントを行う
    • 目標 6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
    • 目標 7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーへのアクセスを確保する
    • 目標 8 . 包括的かつ持続可能な経済成長、およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワーク(適切な雇用)を促進する
    • 目標 9. レジリエントなインフラ構築、包括的かつ持続可能な産業化の促進、およびイノベーションの拡大を図る
    • 目標 10. 各国内および各国間の不平等を是正する
    • 目標 11. 包括的で安全かつレジリエントで持続可能な都市および人間居住を実現する
    • 目標 12. 持続可能な生産消費形態を確保する
    • 目標 13. 気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる*
      *国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識している。
    • 目標 14. 持続可能な開発のために海洋資源を保全し、持続的に利用する
    • 目標 15. 陸域生態系の保護・回復・持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・防止および生物多様性の損失の阻止を促進する
    • 目標 16. 持続可能な開発のための平和で包括的な社会の促進、すべての人々への司法へのアクセス提供、およびあらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包括的な制度の構築を図る
    • 目標 17. 持続可能な開発のための実施手段の強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
  • SDG 12: Ensure sustainable consumption and production patterns (UN ESCAP)
訳注2:2030アジェンダ
訳注3:環境と開発に関するリオ宣言
  • 環境と開発に関するリオ宣言(環境省 参考資料)
    第16原則
     国の機関は、汚染者が原則として汚染による費用を負担するとの方策を考慮しつつ、また、 公益に適切に配慮し、国際的な貿易及び投資を歪めることなく、環境費用の内部化と経済的 手段の使用の促進に努めるべきである。
訳注4:RIO+20 サミット
訳注5:現在出現している政策課題と懸念の課題



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