EHP 2003年11月号
化学の安全性を求めて手を伸ばす (REACHing)

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 111, Number 14, November 2003
Spheres of Influence / REACHing for Chemical Safety
Valerie J. Brown
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1241736/pdf/ehp0111-a00766.pdf

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
Translated by Takeshi Yasuma (Citizens Against Chemicals Pollution)

掲載日:2003年11月6日

このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/usa/03_11_ehp_reach.html


 欧州連合(EU)が検討中の新たな化学物質政策が、もし実施されれば、世界第2の経済規模の中で行われている産業化学物質の規制のあり方を大きく変えることになるであろう。それは世界で最も包括的な政策であり、EU でビジネスを行う全ての諸国や産業に影響を与えるだけでなく、他国の化学物質政策の変更をも促進することになるかもしれない。その提案−化学物質の登録、評価、認可−(REACH) は、今年の末に欧州議会に提出されることとなっている。もし、それが現在の提案内容のままで通過すれば、新たな REACH の要求が約10年かけて、最初は最も危険な化学物質及び年間製造量又は輸入量が1,000トンを超える、いわゆる高製造量化学物質 (HPV) から段階的に取り込まれていく。

 欧州連合 (EU) の執行機関である欧州委員会 (EC) は、1998年に REACH の開発に着手した。2001年2月、 EC は提案システムの詳細を記述した ”白書” 『将来の化学物質政策のための戦略』 を採択した。それ以来、世界中の化学産業界、環境非政府組織 (NGOs)、及び他国政府 (特にアメリカ政府) を含む、関心を持つ団体が賛否ともども REACH を検討してきた。REACH のほとんどの条項も白熱した議論と政治工作の対象となった。

 重要な問題がたくさんある。化学産業界は世界的大ビジネスの中の最大の業界である。”白書”によれば、世界の化学物質生産量は、1930年の100万トンから今日の4億トンまで急増している。欧州化学産業協議会は、1999年の世界での化学物質販売実績は 1兆6,000億ドル(約200兆円)に達し、そのうち EU 分はは29%、4,740億ドル(約60兆円)である。他の2%は非 EU の欧州諸国分であり、西ヨーロッパの産業化学物質の製造量は世界最大でる。EU は約300万人分の雇用を化学製造と関連ビジネスに依存している。
 アメリカ化学産業界は第2位で27%、4,840億ドル(約約60兆円)が1999年の製造高であった。アメリカ商務省によれば、アメリカ企業は化学物質を毎年、200億ドル(約29兆5000億円)、ヨーロッパに輸出しており、4,000億ドル(約50兆円)が川下製品となっている。

歴史的先例

 EU においてはアメリカと同様に、化学物質規制は歴史的な先例に基づいている。1981年以前から EU の市場に出ている化学物質は適用から除外されていた。すなわち、それらは人間及び環境に安全であることを証明するためのテストを行うことなく使用し続けることができた。”白書”によれば、1981年以来、新たに市場に投入された化学物質はわずかに2,700種である。しかし、EC により保守されているデータベースである ”ヨーロッパ既存商業用化学物質目録” にリストされている約100,000種の化学物質のうち、約80,000種が現在 EU 内で使用されていると考えられている。すなわち、現在使用されている化学物質の大部分がリスク又は危険性評価を受けていないことになる。さらに、”白書”によれば、1981年以降、EU に導入された2,700種の新しい化学物質の70%が、 EU 指令 67/548 の定義によれば、 ”危険” であることが判明した。EU 指令 67/548 では、化学物質が、腐食性、引火性、突然変異誘発性、発がん性、発達毒性、その他、有毒性、刺激性、過敏性がある場合に危険であるとみなされる。

 アメリカでも同様な状態である。1998年4月、環境保護局(EPA)の ”化学物質危険性データの入手可能性調査” によれば、アメリカでは3,000種近くの化学物質が HPV 状態(年間の製造量又は輸入量が100万ポンド(約450トン)以上という EPA の定義)であるが、その中で ”完全基本毒性 (急性毒性、準慢性毒性、慢性毒性、発達毒性、生殖毒性、及び突然変異誘発性)” を有するものでデータが入手できるものはわずか 7%しかなかった。

 この問題は長年認識されていたことであり、化学物質の毒性とリスク情報の収集と体系化の努力が行われているところであると世界保健機関(WHO)の ”化学的安全性に関する国際計画(IPCS)” の科学者レスリー・オニオンは述べている。化学的危険性とリスク情報のギャップを埋めるために実施しなければならない動物テスト数についての懸念が広がっているので、IPCS では、 ”化学物質の危険性に関する現在使用されていない既存の情報、例えば、日常的な診察や職業上の健康と安全の診療を通じて得られる観察的な人間データなど” を収集するとともに、それらのデータへのアクセスの向上を図る作業を行っているとオニオンは述べている。

 全ての EU 加盟国を含む先進30カ国とアメリカからなる経済協力開発機構(OECD)は、化学物質の限られたデータを国際的に取り扱う努力の中で最も重要な役割を果たしている。OECD は広範な化学物質テスト・ガイドラインを開発し、化学産業界の自主的参加を得て 1,500 HPV (ここでは HPV の定義を年間 1,000トン以上とする)の化学物質を評価中である。
 またアメリカ EPA は、アメリカで使用されている3,000 HPV の化学物質の急性毒性、慢性毒性、発達及び生殖毒性、突然変異誘発性、生態毒性、及び environmental fate 情報を含むスクリーニング情報データ・セットを開発中である。
 さらに EPA は ”自主的子どもの化学物質評価プログラム” を開発し、23化学物質(ベンゼン、トリクロロエチレン、及びエチレンジクロライドを含む)の製造者がこれらの化学物質への曝露に対する子どものリスクを評価している。

REACH 規制案

 REACH は既存40の EU レベルの規制を置き換え、国内で製造される及び国外から輸入される化学物質の双方に適用される。
 REACH が適用される以前は、化学物質の毒性、突然変異誘発性、内分泌かく乱作用の可能性、発がん性、残留性、生体蓄積性、及び人間と環境への曝露の程度と可能性に関する決定の責任は政府にあった。
 REACH 適用の下では、化学物質の安全性の立証責任は主として製造者に移った。もし、化学物質が製造者の予期しない方法で、例えば、コンピュータ・メーカー、塗料メーカー、繊維輸入業者など、川下ユーザーに用いられる場合には、彼ら川下ユーザが安全性を立証しなくてはならない。

 REACH の下では、製造者又は輸入者毎に年間1トン以上が市場に導入される全ての化学物質の登録(Registration)が要求されるが、これには30,000物質が該当すると見積もられる。これらのうち約80%のものは、製造量が少ないので、それ以上の行為は求められない。
 年間100トン以上製造される化学物質については、加盟国専門家及び、 REACH が可決したら設立される新たな EU 化学物質機構による、動物テストデータの検証を含む評価(Evaluation)が求められる。
 ”非常に高い懸念のある物質” と呼ばれる化学物質、すなわち、発がん性物質、突然変異誘発性物質、生殖毒物質、及び、残留性又は生体蓄積性のある物質 (内分泌かく乱物質及び残留性有機汚染物質を含む) は、用途ごとに認可(Authorization)が求められる。EU ”白書”は、約1,400種あると見積もっている。ある化学物質は完全に禁止されるかもしれない。

 REACH は、ある物質が人間の健康又は環境に有害であるかもしれないと示唆する科学的証拠が存在する場合で、その有害性の種類や程度はまだわからない時には、科学的な疑問が解決されるまで、その物質を使用しないことが望ましい−と明示的に予防原則を引き合いに出している。また、 REACH は、もし危険性のより少ない化学物質が入手可能な場合には、それへの代替を推奨しているが要求はしていない。
 また、数値モデル化技術の適用、及び、試験管内での実験データ及び全く新たなテストを要求するのではなく、既存のテスト結果の使用により、可能な限りテストで使用する動物の数を減らすことを目指している。また、サプライチェーンにおけるデータの共有が推奨されている。
 またその枠組みは、REACH が例えば、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約、世界貿易機構の政策、及び、OECED 化学物質テスト基準など、他の国際的な化学物質条約を支持し、整合することを意図している。

テストについての議論

 テスト実施は、REACH の条項の中で最も議論を引き起こすものの一つである。登録書類は、科学物質の固有特性、人間の健康と環境へのリスク、予想する用途、可能性ある曝露シナリオ、リスク管理手法、、及び、安全性データ・シートを含まなければならない。
 産業界は、これらのドキュメントを化学物質ごとに完全にそろえなくてならないことにしり込みし、化学物質の危険性はその便益に応じて重みを勘案すべきであり、もし、その化学物質への曝露のリスクが低いのなら、テスト基準は完璧さを必要としないのではないかと述べている。

 世界最大の化学会社の一つである BASF の法規及び製品安全担当副社長ウォルフ・ルディガー・ビアスは、何も情報のない新たな化学物質をテストするためには448,000ドル(約5,600万円)かかり、このような物質は年間10〜100トン製造されていると見積もっている。「このコストは、この規模の製造量ならどのような物質でも10年間かけて得る利益に相当する。従って会社の利益に劇的な影響を与える」とビアスは述べている。

 産業界は特に中間体 (他の化学物質を製造するために使用されるもので、従って最終製品にはそれ自体は存在しない) 及びポリマー(プラスチックやその他の化合物に用いられる大きくて安定した分子) について懸念している。これらまでを含めるとテストしなくてはならない化学物質の数が大幅に増大するからである。現状の REACH は、ほとんどの中間体とポリマーについてほとんどのテスト要件を免除しているが、簡素化した登録は必要である。

 化学物質の生物学的影響に関する情報は欠乏しているが、化学産業界は彼らの製品は安全であると主張している。 「公衆に危険であるとわかっている化学物質を市場に出すということは、アメリカを含む世界中のどの会社にとってもためにならないことである。実際には、会社はすでに、彼らの製品を市場に出す前の広範なテストを含む予防的措置 (precautionary measures) をとっている」 とアメリカ商務省欧州通商政策担当局長セボル・デ・キャゾッテは述べている。さらに 「今回、会社は、科学的に証明されているリスクを管理するのではなく、自身のコストで新たな欧州化学物質機構に自分たちの製品にはリスクがないと証明する責任を自身で負うことになる。官僚による保証は物質を安全なものにするものではない。それをするのはリスク管理の健全な原則の適用である」 と彼は付け加えた。

 「化学会社によって行われている非公開のテストデータの現状の程度は不明である。それはほとんどの化学会社が自身のテストデータを公開することに反対するからである。「我々は所有権のある情報を競争会社と共有したくない。また、この情報が外に漏れないことを保証するシステムを確立することは容易ではない」 とビアスは述べている。

 しかし、国連環境計画の化学物質計画部長ジム・ウィリスは 「だれも健康と安全に関するデータが秘密情報であるとは考えない。もし、産業界が安全性テストを実施したのなら、それを公開するのが同然である」と反論している。
 REACH 提案では、登録書類中の所有権のない危険及びリスク情報は、新たに設立される化学物質機構によって管理されるデータベースとして公開される。

 化学産業界は重複した、整合性のないテストに懸念を抱いているが、REACH 提案では OECD 基準が適用されると述べている。OECD は ”相互データ受諾(Mutual Acceptance of Data)” として知られるシステムを開発したが、OECD 環境健康と安全部門長ロバート・ビザーは、これはテストの重複と通商障壁を回避するものであるとしている。
 発がん性、あるいは生物分解性のような評価項目 (end point) 毎に一つの標準テストを実施するということについては、OECD の全ての加盟国によって了解されている。各国は他の評価項目についてさらなるテストを要求することができるが、 OECDE の標準テスト以外のテスト要求については、他の OECD 加盟国から受け入れられない。

コスト:月まで届くのにどのくらいかかるか?

 2003年5月7日に EC メモに添付されて発表された 『新化学物質政策 REACH に関するQ&A』は、登録とテストに関し産業界に発生する直接コストは、多分、42億ドル(約5,300億円)くらい、間接費を含んだ産業界及び社会全体に発生するコストは、2020年までに160〜180億円(約2兆円〜2兆2,500億円)と推定している。
 2003年1月の世界自然基金(Worldwide Fund for Nature (WWF) )の REACH 分析 『ヨーロッパの新化学物質政策−産業界にとっての新たな機会』によれば、REACH の導入期間中、産業界にとって最悪の場合のコスト82億ドル(約1兆円)は、ヨーロッパ化学産業界の年間売上高の約0.1%であるとしている。

 REACH のような化学物質規制措置は、また化学物質に関連するの医療コストを削減する。潜在的なコスト削減に関するいくつかの経験に基づいた推定がある。EC 白書によれば、1999年、ドイツの環境審議会はヨーロッパにおけるアレルギーの年間コストは340億ドル(約4兆2,500億円)と推定している。
 ニューヨーク市にあるマウント・シナイ医学校子どもの健康と環境センター部長フィリップ・ランドリガンらによる最近の研究が、環境健康展望(Environmental Health Perspectives )2002年2月号に掲載されたが、それによれば、アメリカにおける小児鉛中毒、ぜん息、小児がん、及び、神経行動障害のためのコストは、549億ドル(約6兆9,000億円)と算定している。研究者らは、これらの病気の原因として環境中の有毒物質が占める割合が大きいとしている。
 『新化学物質政策 REACH に関するQ&A』も同様に、職業に関連する健康利益として、30年間で210〜630億ドル(約2兆6,000億円〜7兆8,000億円)に達するとしている。

 化学産業界自身も、治療よりも予防(An ounce of prevention is worth a pound of cure)ということがわかるであろう。”地球の友 UK " の上席研究員メアリ・テイラーは 「長期的には、我々は、化学物質の影響を受けた個人や団体による訴訟が増大することを視野に入れつつ、科学が特定の化学物質と特定の病気との間の因果関係をもっと明確にすることを期待する」と述べている。
 WWFの報告書は、 「EU 基準で評価した」 という文言がお墨付きとなり、世界中のユーザーが EU の化学物質を購入するようになる−と示唆している。

 批評家は、増大するテスト費用、登録・認可のための事務手続き、及び予防原則の適用は技術革新の意欲をそぎ、しばしば最も革新的である多くの中小企業を破産に追い込むとしている。しかし WWF は REACH の分析の中で、中小企業は生き残ることができると主張する。それは、古いシステムでは、既存の化学物質はテストが要求されないので、革新の意欲が生じないからだとしている。
 REACH は、製造量に基づき、全ての化学物質の登録とテストに同一の基準を適用することにより、同じ土俵とする。従って、もはや古い化学物質を使い続け、新しい、おそらく、よりグリーンな化学物質の製造を抑制しようとする誘因はなくなるはずである。
 REACH はまた、物質を登録する前の研究と開発のために10年までの猶予期間を設けており、取扱量のしきい値を現在の年間10kgから1トンに引き上げた。基本的な科学的研究と医療用の化学物質は完全に免除される。

化学の政治力学

 化学物質産業界は、現行の恣意的で煩雑なシステムを新しいシステムに替えるという考えには賛成しているが、産業界の代表の中には REACH はとても実現できない(REACH goes too far)と考える人もいる。 「当初は、規制プロセスを合理化するということで、この立法は非常によいアイディアであった。そのアイディアは簡素化し入手可能な科学に基づいてより良いものを市場に出すというものであった」 とアメリカ商務省欧州通商政策担当局長セボル・デ・キャゾッテは言う。しかし、産業界にとっては面倒でコストがかかると見える行為を要求することによって、このコンセプトは 「ハイジャックされた」と環境ロビーストである彼は付け加えた。

 ”アメリカ商務省(U.S. Chamber of Commerce)を始めとするヨーロッパ化学産業協議会(European Chemical Industry Council)やアメリカ化学協議会(American Chemistry Council (ACC) )などの産業グループは、REACH の産業界への影響を和らげるために、REACH は、広範な失業を引き起こし、アメリカ経済にボデー・ブローを浴びせ、ヨーロッパは製造業を発展途上国に奪われて産業の空白化を招くと大々的なロビーイング・キャンペーンを展開した。
 ACC は REACH に対する公式な批判を5月〜7月のオンライン・コメント期間中に提出しているが、それはウェブサイト http://www.accnewsmedia.com/ に掲載されている。ACC は REACH を”煩わしく、高くつき、非現実的である”と呼んでいる。今回のこの記事のために ACC に繰り返しインタビューの申し込みをしたが、ACC からの返事はなかった。

 WWF、地球の友、グリーンピースなどの NGOs は、個々にもまた、EU 審議会への情報提供を正式認可されている欧州環境事務局(European Environmental Bureau)の傘の下で、REACH は人間と生態系の健康を保護する上で大きく一歩踏み出したが、産業界の圧力で薄められていると主張している。この件に関して、彼らは、「産業界はアメリカ政府内に強力な友人を持っている」と言っている。

 ブッシュ政権は、「REACH を弱めるために非常な努力をした」 と WWF の有毒物質計画担当ダリル・ディッツは述べている。2003年5月18日のニューヨーク・タイムズの記事で、情報規制担当事務所長官ジョン・グラハムは EU 調査委員への話の中で、ブッシュ政権は予防原則について、「考慮すべき重要なものは何もない。架空の概念、多分、ユニコーンのようなもの」とみなしていると語った。
 そして、9月にニューヨークを拠点とする NGO である ”Environmental Health Fund (EHF)” が発表した報告書 『アメリカのEU化学物質政策への干渉 US Intervention in EU Chemical Policy』は、ブッシュ政権が REACH の弱体化を図るために不適当なやり方(inappropriate means)をしたとして糾弾している。この報告書は、 ”企業が政府へ与えた影響に関する議会の徹底的な調査” を要求している。
(訳注:上記報告書の当研究会による日本語部分訳 及び 原文PDF を参照ください)

 EHF 報告書は、2002年3月、国務長官コリン・パウウェルが好奇心をそそるタイトルの文書 『 EU 化学物質政策に関するアメリカの "Nonpaper"』 を EU 加盟各国駐在アメリカ大使に回覧して、この文書を加盟国の環境大臣及び通商大臣に送付するよう求めたと報じている。 "Nonpaper" とは、アメリカ政府のレターヘッドのない白紙に印刷された署名のない文書のことである。
 この文書は、REACH は世界の市場を歪め、世界貿易機関(WTO)の原則を踏みにじるものであり、予防原則は、アメリカの化学製品を "政治的意図による禁止" という結果をもたらすと述べている。
 EHF 報告書は、その文章の一部に ACC による声明と酷似した部分があること、及び、"Nonpaper" とほとんど同じ記事がアメリカ通商代表部(U.S. Trade Representative )の署名入り記事として ACC の雑誌 『化学ビジネス Chemistry Business』 2002年6月号に掲載されていることを発見した。

 汚染防止毒性事務所(Office of Pollution Prevention and Toxics)の EPA 当局者(名前を明かすことは拒否)によれば、 EPA は、アメリカ通商代表部、国務省、及び商務省とともに我々の ”経験とアプローチ” を共有し、REACH 開発者たちに直接会ったが、取り仕切ったのは大部分他の機関の人たちであった。その EPA 当局者は、 「提案されているように、REACH は本質的に高くつき、煩雑であり、非常に複雑な手続きが必要である。我々は、実施にあたってそれが本当に有効に機能するのか懸念している」 と述べた。
 商務省は、アメリカ政府の REACH に対する立場についてのインタビューの申し込みに対して回答しなかった。

 9月下旬、産業界と政府の圧力が功を奏して、2003年5月のドラフトは変更され、環境 NGOs は落胆した。変更されたドラフトは NGOs とジャーナリストに洩れ、 EU はその件についてコメントしなかったが、 EU のスポークスパーソンは、2003年9月24日のエンバイロンメント・デイリーの記事は”事実として正しい”と認めた。
 その記事は、変更されたドラフトの変更点を次のように挙げている。
  • 化学物質の川下ユーザーは彼らの製品を登録することを要求されず、輸入者は、化学物質が危険であると分類され、かつ、製品から放出されることが意図されている場合にのみ、彼らの商品を登録しなくてはならない。
  • 登録データベースの透明性は、登録会社名を自動的に匿名とすることになり、不明瞭となった。
  • ポリマーはほとんど全て除外されることとなった。
  • 年間製造量が10トン以下のものは、化学的安全性レポートが要求されなくなった。
 唯一、変更で環境派にとって歓迎される点は、認可プロセスでの関門となる代替物に関し、 ”よりグリーンな” 代替物での置き換えを奨励すること−要求ではない−が強調されたということである。

 これらの変更にもかかわらず、 ACC は変更ドラフトでもまだ受け入れることができず、2003年10月9日にプレスリリースを発表し、RERACH は、混乱し、無駄で、非効率的な官僚主義であると述べた。

将来に手を差し伸べる

 化学政策の改革は時の勢いなので、ほとんどの関係者は REACH が何らかの形で立法化されるであろうと信じている。投票が2004年の中頃以前に行われることはないと予想されるが、それ以前にある EU の選挙で欧州委員会と欧州議会の様相が著しく変わるかもしれない。さらに2004年5月には EU の加盟国が15カ国から25カ国に飛躍する。キプロス、チェコ共和国、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、及びスロベニアの加盟である。
 しかし、これらの変化 も REACH の通過のチャンスに対し急激な影響を与えることはないと予想されている。たとえ影響を受けても、いかに RREACH が政治のプロセスから浮かび上がるか正確に予想することはできない。

 2003年5月16日の ”新たなヨーロッパの化学物質政策会議(New European Chemicals Policy Conference )” において REACH に対するコメントを要請した演説で、EU 環境委員マルゴット・バルストロームは、 「新たに生まれた赤ちゃんは、父親の目と母親のつま先を持っているかもしれない。しかし、その子どもはまた、血液の中に、我々のモダンな生活様式から”受け継いだ”合成化学物質のカクテルを持つであろう」と述べた。
 もし、生物学的な有害性が特定されているわずかな化学物質について何かがすでにわかっているのなら、そのカクテルが人間の健康に与える影響について知ることは有用であろう。
 EU がこれまでの状態を保つのか、それとも新たな規制の大殿堂をこの地上に築き上げるのか、その決定は世界中に反響を及ぼすであろう。

バレリー J. ブラウン
Valerie J. Brown



化学物質問題市民研究会
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