EU プレスリリース 2005年4月27日
産業界によるREACH 影響評価についてのEU高官協議

情報源:EU Press Release Date: 27/04/2005
REACH: High Level Group meets to assess new impact studies

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年5月21日


 欧州委員会副委員長/企業・産業担当グンター・フェアホイゲンと欧州委員/環境担当スタブロス・ディマスの共同議長の下にREACHの影響評価の今後の作業に関する高官協議団が、欧州委員会が合意した枠組みの中で産業界が委託した影響調査 (訳注:KPMG 調査)の結果を討議するために本日、会合した。これらの調査は、化学、自動車、軟包装材と無機(金属、セメント、紙、パルプなど)、及び電子分野の個々の企業によって提供されたデータを基に、サプライチェーンに対する影響を見るものである。4番目の分野である電子産業の結果も、すぐに報告されることになっている。協議団はまた、新規EU加盟国の一般的状況調査に関する報告を聞き、今回の作業は、今後、ポーランド、チェコ共和国、及びエストニアの個々の企業についての調査結果に関する報告を加えることによって補完されるということを了承した。

 調査について、企業・産業委員グンター・フェアホイゲンは次のようにコメントした。
 ”中小企業を含むヨーロッパ産業界の競争力を改善するために、REACHが リスボン戦略の目標(訳注)と両立できるよう、バランスの取れた実行可能性ある解決を達成するために必要な変更をよりよく評価するために、この報告書は重要な貢献をした。欧州委員会は、これらの結果が議会の共同決定手続きにおいて考慮されるべきであり、欧州議会及び理事会と密接に協力して、その意図を再確認すべきであると信じている。”

 環境委員スタブロス・ディマスは次のようにコメントした。
 ”全ての関係者は、我々がREACHの実際的な影響についての調査と評価を十分に実施したということを認めるであろう。これらの調査結果は、REACHのコストと影響が管理可能な範囲にあるということを再度保証するものである。しかし、そのことに自己満足する理由はない。我々は、REACH実施を容易にするための特定の指針とツールを開発する努力を続ける必要がある。それらは全ての企業にとって、特に中小企業にとって役に立ち、彼らの懸念を軽減することになるであろう。”

 この調査から得られた主な点は下記のとおりである。

  • 高生産量物質はREACH登録要求の結果、影響を受けるという証拠はあまりない。しかし、低生産量物質(100トン以下)は、REACH要求によって利益が少なくなる又はなくなるなどの影響を最も受けやすい。
 一回の登録コストは、化学物質製造会社、特に中小企業に対して、相当なキャッシュ・フローの負担をもたらす。一回分の登録コストが企業の年間収益に対し大きな割合を占める場合には、ある物質は登録しないという選択をするかもしれない。このことは主に、化学物質供給者が彼らの顧客にとって技術的に重要ではないと考える物質に当てはまるであろう。しかし、このことは調合者や川下ユーザーにおいては調合の変更を必要とすることになり、新たな革新のために調合者の選択意思によって調合物質の数を減らすことになるかもしれない。
  • 川下ユーザーが、彼らにとって技術的に非常に重要な物質が供給されなくなる、という事態が生じるという証拠はほとんどない。
 この調査は、化学物質供給者と調合者は、彼らの製品体系を維持し、もし、回避されなければ彼らの顧客に転嫁されることになる調合の変更及び/又は再設計によって生じる潜在的なコストを回避するために、川下ユーザーにとって技術的に重要な物質だけを登録したいと望むことを示している。これはまた、REACHの下で商業的に影響を受けやすいとみなされる限られた数の物質にも当てはまる。サプライチェーンの中で情報伝達が限定されている場合には、ある限られた物質が市場から実際になくなるかもしれないというリスクをなくすことはできない。
  • 中小企業は、その限られた資金能力及び市場での力が弱くコストを他に転嫁できないということを考慮すると、REACHによって影響を受ける可能性がある。
 中小企業は一般的に新たな法規制を実施するためのリソースが限られている。この調査では、中小規模の化学物質供給者の中には、REACHに従うことで、特に同時に多くの物質を登録しなくてはならない場合には、資金的な困難に直面する企業があるとしている。中小企業による低生産量物質は利益が少なくなる又はなくなるなど影響を最も受けやすい。中小企業はテスト費用を川下ユーザーに転嫁することがより難しいということが示された。
  • REACHによて利益を得る会社もある。
 調査したサプライチェーンの中で、特に調合者や川下ユーザーの中には、REACHによって利益を得る企業があることが示された。いくつかの会社によって述べられた利益の源泉は、調剤中の物質の特性と危険な成分に関するよりよい情報、より容易なリスク管理、及び、取り扱う物質の合理化にある。

 REACHに関する欧州委員会の結論とさらなる情報の完全なリストは下記ウェブサイトで見ることができる。

 EU企業・産業:http://europa.eu.int/comm/enterprise/reach/index.htm
 EU環境:http://europa.eu.int/comm/environment/chemicals/reach.htm


訳注:KPMG 調査
 欧州委員会が合意した枠組みの中で産業界が委託した影響調査。
KPMG:オランダに本部を置く国際的なコンサルティング会社 KPMG International

訳注:リスボン戦略
 2000年3月、リスボンで開催された欧州理事会で設定されたEUの10か年戦略。この戦略の下で、持続可能な発展と充実した社会を確実にする社会政策及び環境政策と並んで、より強い経済が雇用を生み出すことができるとした。
 産業側(欧州委員会内も含む)がEU内企業の競争力を理由にREACHに揺さぶりをかける時に必ず引き合いに出される。

関連情報:
REACH ワークショップ:REACHはヨーロッパの競争力を損なうものではないと議長国(EU議長国プレスリリース)
REACH 影響評価:産業界が重要で安全な化学物質を失うことはない(EEB / WWF 概要説明)


化学物質問題市民研究会
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