EEB / WWF 概要説明 2005年4月27日
REACH 影響評価:
産業界が重要で安全な化学物質を失うことはない


情報源:REACH Impact Assessment: Business will not lose essential and safe chemicals
EEB and WWF Briefing 27 April 2005
http://www.eeb.org/activities/chemicals/REACH-IA-EEB-WWF-briefing.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年6月5日


 環境団体であるWWFEEB (欧州環境事務局) は、下記について勧告することを目的として2004年4月に設立された欧州委員会ワーキング・グループのメンバーである。
  1. 産業界が主張しているようにREACHの登録コストによって製品が市場から消えることがあるかどうかを評価するために欧州化学工業会/欧州産業連盟(CEFIC/UNICE)が金を出して KPMG (訳注)に実施させた調査
    (訳注)KPMG:オランダに本部を置く国際的なコンサルティング会社 KPMG International
  2. 新規加盟国へのREACHの影響に関する欧州委員会合同研究センター(JRC)と将来技術調査研究センター(ITPS)による調査
 ワーキング・グループは2005年4月13日に最終会議を開き、そこで調査結果が発表され討議された。(我々は支持しない)偏向した手法−体系的に産業側の便益を排除し、欧州委員会の想定より最大4倍も高い誇張したテスト・コスト・シナリオを用いたにもかかわらず、KPMGは重要な化学物質が経済的理由によって市場から消えるということは見出せなかった。

 訪問した19の会社及び評価した74の化学物質から得た経済的及び資金的データに基づいてKPMG調査は次のような結果を出した。
  • 登録コストが理由で重要な化学物質が市場からなくなることはない。
  • 登録コストは大部分がサプライチェーンに転嫁されるか吸収される。
  • 製品体系の変更はありそうもない。
  • 研究開発費の流用は限定される。
  • ただひとつの化学物質輸入者(中国製化学物質を輸入している販売事務所)において、姿を消す可能性がある物質がいくつか認めらた。
 IPTS/JRC調査は、最悪ケースの影響をを想定しても個々の会社に対するコスト影響は大きくない。

 産業各分野の意見及び会社が述べた懸念に基づいて作成されたKPMG及びIPTS/JRCの調査報告は、会社はより良いデータと管理上の便益があることを認める一方で、REACHの経済的な影響は詳細なケース・スタディにより特定されたものより大きいのではないかという懸念が産業界内にあるとしている。前者は注目に値するが、後者はREACHに関する偽情報が意図的に産業界内に流されているとするなら、驚くに値しない。

KPMG調査の結果

 KPMG調査では合計152の物質を調べた。これらのうち9物質は影響を受けそうであることがわかったが、それらの全ては輸入物質である。KPMG調査では4つの産業分野、すなわち、自動車、(無機)物質(訳注)、軟包装材、及び電子である。電子産業の結論はまだ出ていない、すなわち、欧州委員会ワーキング・グループの正当性と有効性の確認がまだ終わっていない。
訳注)(無機)物質:欧州委員会プレスリリースによれば、金属、セメント、紙、パルプなど
  • 調査された中で全ての重要物質はREACHに対し”て脆弱ではない”。
  • 非常に不可欠な物質が市場から消えることはないように見えるが、それは継続的供給、信頼、品質、消費者コミュニケーションが供給者にとって重要な必須事項であるためである。
  • 直接コストはサプライチェーンの中で吸収されるが、最初のコスト増大は6%から20%の間であるとしている。しかし、これらの数値は誇張されたテスト費用に基づいており、それは欧州委員会が想定したものより4倍も高いので、最初のコスト増大はもっと低く、最終製品の価格増加は最小に抑えられるはずである。さらに、全体コストを 24.4%削減できる必須データ共有の重要性に目を向ければ、データの共有を行うことで、コストはもっと削減されるであろう。
  • 中小企業6社が調査に参加した。輸入を行う中小企業1社において、あるひとつの物質が影響を受ける可能性があることがわかった。他の中小企業では、中国で製造される化学物質を輸入している10〜20人規模の強力な販売事務所であるが、調査した製品体系のうち17%が影響を受けやすいということがわかった。新規加盟国に関する調査では、REACHにより非EU諸国の製造者の競争力が弱まり、したがってその影響はEU内化学物質製造者にとって少なからぬ恩恵を得る可能性があるかもしれないことがわかった。さらに、その当該化学物質は唯一無二というわけではないので、中小企業のための必須データ共有(OSOR)の重要性を強調しつつ、コンソーシアムの形成がひとつの選択となる。
  • 会社はREACHのために市場でのシェアを失うとは考えていない。
  • REACHに起因する資本の流出は起こりそうもない。資本は域内で投資され、消費者との近接は重要である。
  • REACHの実施で、生じ得る研究開発リソースの他への流用は限定されたものである。
  • より良い情報とリスク管理のような一般的利益が認識されている。
  • REACHのために主要な原材料が消えるということはありそうにない。(無機)物質分野の結果は誤解を招く。この分野が述べたREACHの解釈についての不確さに対応して、起こりえない最悪シナリオが設定されており、調査結果はこの分野の政治的な目的の影響を受けている。
REACH及び新規加盟国に関する
欧州委員会合同研究センター(JRC)と
将来技術調査研究センター(ITPS)による
調査結果(2005年4月7日の結論)

 欧州化学工業会/欧州産業連盟(CEFIC/UNICE)の要求で、この調査は特殊化学物質に焦点を当て、合計419物質について調べた。KPMG調査とは対照的に、ITPSはケース・スタディの結果を新規加盟国の化学物質分野の詳細な分析に適用した。
  • REACHのテスト及び登録のためのコストは化学物質製造者の競争力には非常に限定された影響しか与えない。
  • 原材料コストでは非常に限定されたコスト増しか認められないので、REACHは調剤製造者の競争力には顕著な影響は与えない。
  • 製造分野及び消費者市場における川下ユーザーへのREACHのコスト影響は、全ての想定例においてほとんど無視できる。特定されたREACHの影響はほとんど全てのケースにおいて限定されたものなので、REACHは各社の製品体系に大きな変化を及ぼさない。
  • 各社は、健康、安全、及び健康という観点から、特に重要な要素である安全データシート(SDS)の保守という点を指標として見るならば、REACHの採用により相対的によい状況となる。
  • 他国への移転やプロセス及び製品の撤退に対する懸念は調査したどの会社にもなかった。
  • いくつかの会社(6社中3社)はサプライチェーン中で扱われる化学物質に関する情報交換を改善する必要性を認めている。このことは、会社がREACHの下で確立しなくてはならないであろう本質的な新たな要素のひとつになるであろう。
  • REACHによりEU製造者の競争力が改善されるので、ロシア及びウクライナからの輸入化学物質の価格に関連する有利さを失うであろう。
  • 各社へのコスト影響は、最悪のケースを想定しても、穏やかである(顕著ではない)。
 影響評価プロセスに関するの詳細な批判(2005年1月)は、要求すれば入手可能である。その中で我々がそのプロセスを支持しない理由を述べている。結論として、EEBとWWFは、現時点ではこれ以上の影響評価は不要であると信じる。その代わり、当局の運営能力を増強し早急に実施ガイダンスの開発を行う必要性を特に考慮しつつ、化学物質の安全管理に対する強固で透明性のある産業界の責任を実現するために、欧州委員会の提案が、EUで早急に立法化なされるべきである。

訳注:関連情報
産業界によるREACH 影響評価についてのEU高官協議(EUプレスリリース)

REACH ワークショップ:REACHはヨーロッパの競争力を損なうものではないと議長国(EU議長国プレスリリース)



化学物質問題市民研究会
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