EU 新化学物質政策 REACH Q&A パートU

情報源:Questions and Answers on REACH Part II / 22.11.2004
http://europa.eu.int/comm/environment/chemicals/pdf/qa_reach_part2-2004_11_22_en.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
更新日:2005年5月31日 )

訳注:
■このQ&AパートUは上級者向けとして作られていますが、一般向けのQ&Aも2003年10月29日に出されており、EU 新化学物質政策 REACH Q&A として当研究会で翻訳していますので、こちらもご覧ください。

免責事項(欧州委員会):
この文書は情報目的としてのみ発行されており、欧州委員会の提案に関する法的解釈ではない。


目 次
1. 予防原則7. 分類と表示
2. 登録8. 欧州化学品局と所管当局
2.1. 登録とは何か9. 実施
2.2. 誰が登録するのか10. 規定の見直し
2.3. 要求される情報11. 審理される権利と提訴の権利
2.4. 化学物質安全評価/化学物質安全報告12. REACH 及び他の共同体法令と国際条約との関係
2.5. 登録の優先度12.1. 廃棄物法
2.6. テスト結果の相互承認12.2. 国際条約とプログラム
2.7. 完備性チェック13. 競争力
2.8. 費用13.1. 機密
2.9. 成形品13.2. 中小企業
2.10. ポリマー13.3. 貿易問題
2.11. 中間体13.4. 革新
3. データの共有13.5. 影響評価
4. 川下ユーザー
5. 物質の評価付属略語と定義
6. 認可A. 略語
6.1. 認可手続B. 定義
6.2. 代替


1. 予防原則
(問い)
1.1. 予防原則は提案の中で明示的に述べられているか?
(答え)
 Art. 1(3)で明示的に述べられている。
 Art. 1(3):REACH 規制は予防原則で補強されている。
 Art. 1(3)脚注:COMMUNICATION FROM THE COMMISSION on the precautionary principle (COM(2000)1)を参照している。

訳注:
予防原則に関するECコミュニケーション COM2000(当研究会訳)
(問い)
1.2. 規定は予防原則によってどのように補強されるのか?
(答え)
 REACH規制は予防原則に基づいており、その要求は予防原則に関する欧州委員会からのコミュニケーション(COM(2000)1)に述べられている原則を履行することである。
 どのように予防原則が履行されるかについての例を以下に示す。
  • 安全評価: もし、科学的な証拠に不確実性があれば(例えば、矛盾するデータが存在する)、安全評価は通常、最も高い懸念を引き起こす証拠に基づくべきである。予防原則に関するコミュニケーションで規定されている諸原則もまた、REACHを実施する産業側と当局を支援するために開発されるガイダンスの中に反映されるべきである。

  • リスク管理措置: 会社が特定の危険に関するテスト・データが出るのを待っている間、その潜在的なリスクのためのリスク管理措置が適切であること及び安全評価の中でこれらの措置を記述することが確実になされるべきである。PBT(難分解性・蓄積性・毒性)及びvPvB(高難分解性・高蓄積性)の特性を有する物質の場合には、産業側は常に曝露を最小とするよう要求される(参照: Annex I, Section 6.5)。

  • 認可: 産業側は、リスクを管理するための措置がとられていても、非常に高い懸念のある物質の使用には認可を求めることが要求される。

  • 制限: 当該化学物質の使用に関連して深刻なリスクの兆候がある場合には加盟諸国と欧州委員会は速やかに制限を提案することができる。このようにして、予防原則は、科学的評価のために必要なデータを確立するのに非常に長い時間を要する場合、あるいは十分な確実性をもってリスクを決定するにはデータが十分でない場合に適用することができる。

2. 登録

2.1. 登録とは何か?

(問い)
2.1.1. どのくらいの数の物質が登録されることになるのか?
(答え)
 約30,000物質が登録されると見積もられている(輸送中の中間体を含む)。これらの物質の多くは複数の会社によって製造及び/又は輸入されるので、もっと多くの登録受付がある可能性がある。
(問い)
2.1.2. 100,000以上の既存化学物質中の約30,000化学物質物質が登録されると規制案に述べられているが、これらの化学物質のリストを提供することができるか?
(答え)
 生産量1トン以上の既存物質の数は30,000と見積もられている。欧州既存化学物質目録((EINECS)が全ての既存化学物質100,106種をリストしている。EINECSは、OfficialJournal of the European Community (OJ C 146A of 15 June 1990: またECBのウェブも参照のこと http://ecb.jrc.it/existing-chemicals/)に発表されている。これらの物質のうち、1トン以上製造又は輸入される物質のみが登録される必要がある。EINECS上の全ての物質について正確な(製造/輸入)量については承知していないので、登録されるであろう全ての物質のリストをECが用意することはできない。しかし、EUの既存化学物質データーベースIUCLID(International Uniform ChemicaL Information Database)にリストされている物質は、年間10トン以上市場に出ている既存物質をよく示しており、これらは登録の必要があるであろう。このデータベースの内容については下記ウェブサイトを参照のこと。
http://ecb.jrc.it/existingsubstance/IUCLID (訳注:リンク切れ)
訳注: http://ecb.jrc.it/ のSite Map からIUCLID ( International Uniform ChemicaL Information Database )へ

訳注:
■日本および海外における新規化学物質の届出制度の概要については社団法人 日本化学物質安全・情報センター(JETOC)の下記ウェブサイトを参照:
http://www.jetoc.or.jp/existinfo.html

■EINECS(European Inventory of Existing Commercial Chemical Substances)
1971年1月1日から1981年9月18日までの期間にEC域内に上市された100,196種の化学物質がリストされている。
EINECSにリストされていない化学物質は新規であるとみなされ、届出の対象となる。
ELINCSにリストされていても、その物質を以前届け出た者でない限り、その物質をEC域内に上市しようとする新たな輸入業者または製造業者は届出をしなくてはならない。
Existing Chemicals

■ELINCS(European List of Notified Chemical Substances)
1981年11月以降にEC域内に届け出られ上市された届出化学物質のリスト、約3,000種。
New Chemicals

(問い)
2.1.3. どの物質が登録を免除されるのか?
(答え)
 現在の法規制で免除される物質:Annex II が、現在のExisting Substances Regulation (Reg.793/93)の下で、登録義務を免除される物質のリストを再掲している。2.1.4. も参照のこと。

 ある基準を満たす物質:Annex III が登録義務を免除するための基準のもっと一般的なリストを用意している。Annex III の基準は現在の新規物質指令 (Dir. 67/548/EEC)運用における経験に基づく。他の法で規制される物質の使用は免除される(Art. 4(1))。

 製造又は輸入量が1トン未満の物質は登録の必要がない。(注意:認可、制限、又は分類と表示に関しては生産量ベースの免除はない。)

 免除に加えて、新規物質指令67/548/EECにしたがって届けられた物質は登録されたと見なされるが、もし届け出られた物質の生産量が上位の生産量閾値に達したら追加情報が提出されなくてはならない。一般に、殺生物剤と殺虫剤もまた登録されているものと見なされ、更なる登録は要求されない。
(問い)
2.1.4. 既存物質に関する現状のEU規制は免除リストとして Annex II があり、ブドウ糖のような物質が挙げられている。REACH規制案のAnnex II も同じ免除リストである。どのような基準が背景にあるのか説明いただけるか?
(答え)
 規制 793/93はその詳説の中で、”そのような情報を用意する要求は、その物質の固有の特性に基づき、そのリスクが最小であると一般的に認められるような物質には適用されるべきではない”と述べているが、これがリストの背景である。欧州委員会は、1995年の規制 793/93の Annex II を改訂することを考えたが、専門家の検討の結果、そのような追加は正当化されないと感じた。2002年、REACH提案のAnnex II はインターネット・コンサルテーションにかけられた。そこでも、このリストに物質を追加することの正当性についてコメントは得られなかった。REACH の Annex は、もし適切な物質があれば、コミトロジー手続き(訳注)を経て改訂されるであろう。

訳注:
■コミトロジー手続:欧州委員会が加盟国の代表等からなる専門委員会のようなものを設けて、事実上その場で内容を決定し、欧州委員会指令として採択するプロセス。手続き的に議会や理事会の審議プロセスを経ない。
(問い)
2.1.5. 化学物質はその生産量又は輸入量にしたがって登録されるべきと理解しているが、川下製品中の化学物質の量はどのように算出するのか、特にオリジナルの化学物質そのものではない川下製品の場合はどうか?
(答え)
 塗料、接着剤などの化学物質調剤(混合物)に含まれる物質の割合を計算することは比較的容易である。現在のEUの法の下では、輸入される調剤の成分は、既存物質規制規制(規制793/93)、新規物質届出指令(指令67/548/EEC)、分類・表示及び安全データシート法(指令1999/45/EC及び指令91/155/EEC)に基づくデータ提出に関する既存の義務に合致することがすでに求められている。
 成形品中に含まれる物質の計算はもっと大変かもしれない。暫定戦略(Interim Strategy)の下に作成されているガイダンスはこの問題を含むであろう。(ガイダンス作成の詳細については、http://ecb.jrc.it/REACH/参照。)成形品中に含まれる物質の登録又は届出義務は、一連の条件が揃った場合にのみ生じるということに留意すべきである。成形品の種類毎に1トンの閾値というのは、これら条件の中の1条件に過ぎない。しかし、もし他の条件のうちの一つが合致しなければ(例えば、物質は使用中に放出されない)、登録又は届出義務は生じないので、正確な量(トン)を知る必要はない。
(問い)
2.1.6. 製造者は、多くの化学物質を含む調剤の登録をどのようにすればよいのか?
(答え)
 REACHにおける登録は物質だけであり、調剤や成形品ではない。調剤や成形品に含まれる物質は潜在的に登録の対象である。
注意:調剤の安全データシート(SDS)が作成される時に、登録者は、調剤中の個々の物質毎ではなく、Annex IB にしたがって調剤のための化学物質安全評価を行うことを選択してもよい。しかし、これは登録の一部として提出はされないであろう。
(問い)
2.1.7. 川下ユーザーがプラスチック、布、おもちゃなどの完成品を用途として、化学物質を登録するために、もっと細かいルールはあるのか?
(答え)
 ない。しかし、化学物質安全報告書(CSR)は、川下ユーザーから製造者又は輸入者に提出される成形品(例えば、ラスチック、布、おもちゃなどの完成品)の製造における物質の用途及びこれらの成形品の消費者の用途を含む特定された用途が記載される必要がある。特定された用途のために、CSRはまた、物質の製造者又は輸入者が川下ユーザー又は消費者に実施を勧告する廃棄管理措置を記載しなくてはならない。欧州委員会は、加盟国や関係団体とともに、CSR作成支援のための技術ガイダンスの作成を計画している。(ガイダンス作成の詳細については、http://ecb.jrc.it/REACH/参照。)さらに、成形品中の物質の登録のための特定のルールがある。
(問い)
2.1.8. 調剤の輸入者は、危険調剤指令(1999/45/EC)とSDS指令(91/115/EEC)で定義される物質だけを登録すべきなのか?
(答え)
 REACHによれば、1トン以上の調剤中に存在する全ての物質は、それらの分類がどうあろうと登録する必要がある。単独物質又は調剤中の量が輸入者年間当たり1トンの閾値を越える場合には、技術書類一式が必要である。しかし、その物質が(危険物として)分類されえいなければ、曝露評価をする必要はない。
備考:REACHは現在の指令のSDS要求を継承する。
(問い)
2.1.9. ある製造工場では、ラバー(=ポリマー、エラストマー)に添加剤(多くの調剤)を混ぜ合わせて混合物とする。この混合物をA工場で製造し、一部をさらに加工してひとつの成形品を製造し、他の部分はB工場に輸送するとする。この場合、この混合物を登録する必要はあるか? また、工場Bが同じ会社かどうかで、何か差異はあるのか? 登録が必要なら、化学物質安全評価のためにどのような情報が使用されなくてはならないのか(個別物質、個別調剤、混合物)?
(答え)
 A工場で製造される混合物は調剤であり、これらは登録されるべきではない。この調剤になる個別の物質は製造者によって登録される必要がある(製造/輸入量が1トン以上の場合。ポリマーは免除)。もしA工場では単に混合だけで、物質を製造していなけられば、A工場は川下ユーザーである。A工場は、製造者からの情報(SDS)に基づき、調剤のリスク評価を行い、製造者によって特定されたリスクよりも高いリスクとはならないことを確認しなくてはならない。
 このことは、A工場が成形品を製造するのか又は調剤をB工場に販売するのかに関係なく適用される。B工場がこの調剤を受け取ったたら、同様にその用途が登録によってカバーされていることを確実にする必要がある。A工場とB工場が同一の会社かどうかは問題ではない。
備考:添加剤中の物質は登録の対象となる。もしA社がその添加物を輸入しているのなら、A社は年間1トン以上輸入される物質(添加剤中の物質)を登録する責任がある。
(問い)
2.1.10. 調剤の輸入者は登録すべき全ての物質が申告されているということを知ることができるのか?
(答え)
 現在、ある場合には、どのような物質がEU以外の製造者によって供給されているのかを明確にすることは難しいということを我々は認める。しかし、既存の共同体の法の下でも、輸入者はどの物質が輸入しようとしている調剤に存在するのかということを知る必要がある。REACH規定の順守を確実にするために、サプライチェーンの中でのコミュニケーションを改善することは、産業界の仕事である。
(問い)
2.1.11. 明確な製品グループ毎の登録ができるようにする必要がある。現在、我々の数百の製品は”化学的には同類”であるが、商品としては異なっている。産業界によって定義された製品グループはほとんどなく、したがって、例えば用途に基づく製品グループがあれば、問題解決となり、金と労力の節約となる。
(答え)
 REACHは、提案の中で物質を定義しつつ、物質毎の登録を要求している。しかし、Annex IX では、同じデータを共有できる物質のカテゴリーを作ることが許される。この場合、化学物質安全報告書(CSR)の大部分は、そのカテゴリーの中の全ての物質をカバーすることができる。
備考:調剤として理解される製品(物質の混合物)は登録する必要はない。登録は個々の物質だけである。
(問い)
2.1.12. 流体ガラスと固体ガラス製品は、REACHの下では物質か、調剤か、成形品か?
(答え)
 流体ガラス(ガラスの製造過程)は調剤である。鉱物であり、プロセスの中で化学的に変化しない(そして危険物としての分類基準に当てはまらない)流体ガラス中の物質は登録の必要がない。着色/脱色剤、コーティング剤、製品潤滑剤などのガラス変更剤などの物質は登録が必要である。ガラスは最終的な形(例えばビン)が出来上がった時に成形品となるが、更なるプロセスのために冷ましてガラスの塊となったものは依然として調剤である。
(問い)
2.1.13. 金属は登録する必要があるのか?
(答え)
 ある。金属はREACHの対象である。金属は、1967年以来、EUの法の下では化学物質と見なされており、国際的にもそのように認められている(例えば、国連の分類と表示に関する世界的に調和されたシステム(GHS))
(問い)
2.1.14. 鉄やその他の合金を登録する必要があるか? (答え)
 REACHの下で、合金は調剤である。したがって、合金は登録する必要はないが、個々の金属要素は1トン以上の製造/輸入量なら、登録しなくてはならない。しかし、Art. 13(2)で参照されている濃度限界以下で調剤中に存在する物質に関しては、化学物質安全報告書(CSR)の必要はない。
(問い)
2.1.15. 物質XはREACHの下ではどのように扱われるのか?
(答え)
 我々はREACHの下で、個々の化学物質状態についての問い合わせに対し、詳細に回答する立場にない。その理由は:
  • REACHはEU内における共同決議手続き(co-decision process)中に変更される可能性があり、現在、物質の詳細分析を行うことは時期早尚である。
  • 30,000以上の物質と数百万の調剤がある。それらの全てについての質問に回答することは多分できないであろう。
  • 産業界は、欧州委員会への便宜としてそのような基準を用意することとなっている(REACH提案に記述されている)。産業界は自分たちの化学物質について最もよく知っているので、彼らがある化学物質が特定のREACH要求に当てはまるのかどうかを判断するのに最適な立場にある。
  • 現段階では、特定の物質が認可対象となるかどうかを述べることは非常に難しい。会社は、REACH提案のAnnex XII の中の基準に照らして、彼らのデータを評価することが推奨されるが、PBT(難分解性・蓄積性・毒性)及びvPvB(高難分解性・高蓄積性)の特性を有する物質、又は同等の懸念を生じさせる特性を持つ物質を含むべき決定が委員会の手続きを経てなされるということを知っていなくてはならない。
 様々な手順に関する非常に簡単なこのリストは、REACHの施行に先立ち、そして科学的評価を行うのに適切な情報を入手する前に、化学物質の判断を開始することは得策でないということを例示している。
2.2. 誰が登録するのか

(問い)
2.2.1. 誰が物質を登録できるのか(物質自身又は調剤中の物質)
(答え)
 EUの製造者、輸入者、及びEUに拠点を置く非EU製造者の代理者(以下、代理者(only representative)と呼ぶ)。
(問い)
2.2.2. 我々は多くのEC諸国で同じ製品を製造しているが、国毎ではない、”汎ヨーロッパ”登録手続きとは何か? 汎ヨーロッパで登録すると登録料は安くなるのか? 何か制限はあるのか?
(答え)
 登録は欧州化学品局に送られるので、すべての登録が”汎ヨーロッパ”である。我々はこの質問を”異なる加盟国で製造するひとつの物質はひとつの登録でカバーすることができるのか”という意味に解釈する。同じ法人が異なる国で代表しているならひとつの登録は可能である。もし、異なる法人なら、ひとつのコンソーシアムを組むことができる。しかし、物質(substances)を登録しているということを頭に入れておく必要がある。”製品(products)という用語はREACHには存在しない。”最初の原則に立ち返れば、登録するのは製造者又は輸入者である。単一登録あるいはコンソーシアム登録の方が多くの登録を行うより安いであろう。
(問い)
2.2.3. コンソーシアムを組むと会社はどのような恩恵が得られるのか?
(答え)
 コンソーシアムの会員なら登録料を削減できる。また、登録書類の作成の負担を他社と共有することで節約できる。しかしコンソーシアムを管理するためにリソースが必要である。
(問い)
2.2.4. 会社は新規参入者の登録を排除するためにコンソーシアムを利用できるか?
(答え)
 コンソーシアムは加入を希望している会社を拒否することができるが、コンソーシアムの会員が有する動物テストのデータを(公正な対価で)共有することを拒否することは許されない。新規参入者は常に自身の登録を行うことができる。登録は個々の登録者に対しては常に個別である。
 新規参入者は登録料一式を払わねばならないが、これは主要なコストではない。彼は他の新規参入者を誘ってコンソーシアムを組むことができる。
(問い)
2.2.5. 非EU企業がEUの企業と共同で登録することはできるか?
(答え)
 できない。しかし、輸入者又は非EU企業の代理者のみが、他のEU製造者、輸入者、又は代理者のみと共同で登録することができる。コンソーシアムが推奨され、異なる登録を組み合わせることができる。
(問い)
2.2.6. EUに所在しない産業連合体が、特定の産業のために共同で登録することができるか?
(答え)
 産業連合体は、会社が登録書類を作成するために非常に貴重な支援をすることができ、手続きを調整する手助けができる。しかし、実際の登録は製造者又は輸入者によってなされねばならず、産業連合体がすることはできない(法的権利を有しない)。登録者は常に、輸入者又は代理者の場合でも、EU内に拠点を持たなくてはならない。代理者には、当局が物質の実際的な取り扱いに関する十分な知識を持った人と情報交換をできるこという、特定の要求が求められる。
(問い)
2.2.7. 基本的な化学物質はヨーロッパの製造者によって登録されている。国際的によく知られた化学物質でもやはり輸入者によって登録されなくてはならないのか? もちろん、量などのある種の発表は必要であろうが。
(答え)
 ひとつの理由は、”ただ乗り”をなくすためである。なぜ、EUの製造者はある物質の登録のコストを払わなければならず、輸入者は登録料なしの特典を得るのか? もうひとつの理由は、これらの物質の使用は、輸入者又はその顧客にとって特有であるかもしれないので、輸入者が輸入する物質の安全使用に責任を持つことを確実にするためである。もちろん、非EU製造者は、代理者を通じてEU製造者又は他の輸入者とともにコンソーシアムを形成することができる。
(問い)
2.2.8. 同じ製品を異なる第三国の異なる製造者(複数)から輸入する時、EUの輸入者は異なる製造者のために繰り返しの登録をする必要があるのか? 関連する所有権は誰に属することになるのか?
(答え)
 その必要はない。もし、物質IDが同じなら、輸入する物質毎の登録である。テスト結果の所有権はREACHによって影響されない。会社は他の登録者と動物テストデータを共有しなくてはならないが、そのような場合は、公正な金銭的対価が伴われなくてはならない。REACHは、他の法と衝突することはない。登録から10年後でも、提出されたデータは、同一物質の他の登録者も利用可能である。物質IDに関するガイダンスは今後開発される。(ガイダンス作成の詳細については、http://ecb.jrc.it/REACH/
(問い)
2.2.9. グループ会社とその支社、及び持ち株会社は、登録所有権を共有し、ひとつの登録料を払うということは可能か?
(答え)
 ひとつの法人はひとつの登録をでき、ひとつの登録料を払うことができる。異なる法人はコンソーシアムを組み登録料の1/3を支払うことができる。
(問い)
2.2.10. 非EUの調剤又は成形品の製造者が代理者を指名してもよいのか?
(答え)
 代理者は非EUの物質の製造者により指名される。厳密な言い方では、調剤又は成形品の製造者は、彼らもまたそれらに含まれる物質の製造者でなければ、代理者を指名することは許されない。
 調剤と成形品に含まれる物質の登録は輸入業者を通じて行われなくてはならない。
(問い)
2.2.11. 従来の独占代理者(sole representative)の役割と、Art. 6aで述べる代理者(only representative)の役割の違いは何か?
(答え)
 代理者(only representative)は物質の実際の取り扱いに関する十分な背景とそれらに情報を持っている必要があるが、独占代理者(sole representative)は、非EU製造者によって指名されなくてはならないというだけのことである。
(問い)
2.2.12. なぜ、非EU製造者は代理者を使用すべきなのか?
(答え)
 非EU製造者は、代理者を指名するのか、又は輸入者に物質の登録をしてもらうのか自由に選択できる。代理者を選ぶことで、製造者は登録手続き全体を管理することができ、輸入者に詳細な情報を開示することを回避することができる。また、EU輸入者にとって、代理者は好都合である。輸入者は代理者のおかげで、REACHの下での登録者としての責務から開放される。
(問い)
2.2.13. Art. 6aは、代理者に非EU製造者の責務を代行する権限を与えるのか?
(答え)
 その通りである。個々の輸入者に別々の登録をさせたり、非EU製造者とコンタクトさせるのではなく、非EU製造者は、EUに輸入される総量をカバーする登録義務を満たすために、誰か(代理者)を指名することができる。そのような場合には、非EU製造者からの輸入者はもはや輸入者としての登録義務はない。
(問い)
2.2.14. 代理者を通じての非EUの化学物質製造者は、REACHの下で輸入者に課せられる全ての義務が求められるのか?
(答え)
 代理者はEUにおいて求められる法的責任を持つ。
(問い)
2.2.15. 代理者は製造者の”代理”を意味するのか?
(答え)
 事実上、代理者は輸入者を代理する。
(問い)
2.2.16. Article 6a.3は、輸出者は、”同じサプライチェーン中の輸入者”に代理者の指名を伝えなくてはならないと規定している。これらが意味することは何か?
(答え)
 共同体外の輸出者が代理者を指名した場合には、その物質の輸入者はREACHの下で登録者としての義務から開放される。輸入者はだれが登録者の役割を演ずるのかを知る必要がある。代理者は、他の非EU製造者が製造する同一物質の登録を行う義務はないということに留意すべきである。もし輸入者が多くの非EU製造者から物質を入手するのなら、その輸入者はやはり登録者であることが求められる。
 ”同じサプライチェーン”の概念は、ひとつの物質が製造者又は輸入者からひとつの川下ユーザー又は複数の川下ユーザーに移動し、さらにそれから川下ユーザーに移動し、おそらく調剤又は成形品に取り込まれ、それが小売業者に届いて消費者に提供されるまでの概念である。
2.3. 要求される情報

2.3.1. 純度が変更(物質の品質向上)されるたびに新たな登録が要求されるのか? 革新を阻害しないか?
(答え)
 もし、登録が、不純物のレベルを狭い範囲で、又はひとつの数値で定義しているなら、登録は更新されなくてはならない。
(問い)
2.3.2. もし、20の製造者と輸入者が同じ化学物質を年間50トンのレベルで製造又は輸入しているとすれば、これらの登録はAnnex VIIIで求められる情報を提出することが要求されるのか?
(答え)
 その必要はないが、物質の評価の時点で要求されるかもしれない。評価に当たる所管当局(Competent Authority (CA))は、物質評価巡回計画において、その物質の総トン数を根拠にその物質のリスクに疑念を抱き、その物質に関する更なる情報の必要性を特定するかもしれない。所管当局は、その疑念を明瞭にするためにもっと多くの情報が必要であると特定することができる(これは、例としてAnnex VIII の中で挙げられている全てのテストについて要求されるわけではない)。情報要求は、REACH合意手順をよく調べる必要がある。
(問い)
2.3.3. Article 10 と Title III は成形品の製造者と輸入者に適用されるのか?
(答え)
 その通りである。
(問い)
2.3.4. 輸入者は、EUに輸入しようとする調剤又は成形品の中に含まれる物質についての情報を持っていないかもしれない。
(答え)
 今日の化学物質法規制の下では、調剤の輸入者は輸入する調剤中の物質に関する情報を用意する義務があり、この点に関しては従来となんら変更はない (1981年以降上市された物質のための指令67/548/EEC、及び既存物質のための規制793/93)。REACHは、人間の健康と環境のためのリスクを適切に管理するために、現在のデーダのギャップを埋めることを意図している。輸入者はまた、指令76/769/EECに示される既存市場と使用制限に関して順守しなくてはならない。
(問い)
2.3.5. 化学物質製造者は、ユーザーから連絡された特定の用途について登録することを拒否できるか(特定用途)?
(答え)
 製造者と輸入者は、もし、川下ユーザーが製造者/輸入者に曝露シナリオを作成することを可能にする適切な情報を知らせた場合には、知らされた登録用途をカバーする責務がある。しかし、下記のような状況においては、製造者/輸入者は曝露シナリオを作成する責務はない。
  • その用途のためには川下ユーザーに売らないことを選択した場合
  • その用途はリスクが高すぎて、その用途では曝露シナリオを作成することができない場合
 後者の場合には、これらの用途は、安全データシート(SDS)の中で”16.用途に関する推奨される制限”という見出しの下に記述することができる。この問題と製品チェーンの複雑さについては、ガイダンス作成時に注意深く考慮されるであろう。
2.4. 化学物質安全評価/化学物質安全報告

(問い)
2.4.1. 年間10トン以上の非段階的導入物質(訳注:新規物質 non phase in substance)は、製造者又は輸入者にREACH発効60日後の適切な時期に化学物質安全報告書(CSR)を出すよう求めているとのことであるが、このことは正しいかどうか確認してほしい。
(答え)
 その通りである。CSR提出を含む非段階的導入物質の登録要求は、REACH発効60日後に発効する。製造者又は輸入者は非段階的導入物質をそれらが登録されてから3週間後に製造又は輸入することができる。
(問い)
2.4.2. 段階的導入物質(phase in substance 訳注:既存物質)については、CSRは、物質の登録が年間10−100−1000トンの区切りで要求されるとのことであるが、このことは正しいか。
(答え)
 その通りである。REACH発効後、3年、6年、11年でCSRが要求される。

訳注:
 ■3年以内:高生産量化学物質(年間1,000トン以上)及び、1 トン以上の CMRs
 ■6年以内:生産量が100〜1,000トン
 ■11年以内:低生産量化学物質(10〜100トン)
(問い)
2.4.3. もし、適切ならば発効20日後から全ての物質/調剤(段階的導入及び非段階的導入)について、強化された安全データシート(SDS)が要求されるとのことであるが、これは正しいか?
(答え)
 我々は、”強化されたSDS”とは曝露シナリオ(ES)を付属として含めたSDSのことであると理解する。
 化学物質安全報告(CSR)が実施される場合には、関連する曝露シナリオが安全データシート(SDS)の付属書として添付されなくてはならない。このことは、もしCSRが登録規定により要求されないのなら、SDSには付属書はないということを意味する。さらに、段階的導入物質に対しては、必要なら、生産量に応じて発効後3年、6年、11年で、曝露シナリオ(ES)がSDSに付属されなくてはならない。
(問い)
2.4.4. 物質と調剤
 化学物質安全評価(CSA)/化学物質安全報告(CSR)/曝露シナリオ(ES)の要求によれば、調剤を評価する義務がない。物質の評価だけが求められている。
 調剤の処方者(例えば川下ユーザー)は、(年間10トン以上製造/輸入される物質に対し)安全データシート(SDS)にカバーされない用途に対して曝露シナリオを作成しなくてはならない。処方者は、製造者/輸入者から物質のSDSをいずれ提供される。処方者は、川下ユーザーに供給する調剤のためのSDSをどのようにして作成するのか? 注意:REACHが発効した時には、調剤の安全データシート(SDS)は、今と同じように、調剤の安全使用を記述すべきなのか? 言い換えれば、CSR/暴露シナリオ要求は、調剤のSDS要求と衝突するように見える。
 同様に、物質毎の評価は、化学物質(物質と調剤)が安全に使用されることを要求する指令98/24を順守していない。処方者は何をすべきか? 調剤を供給する処方者は調剤を評価する必要があるのか?

(答え)
 化学物質安全報告(CSR)及び曝露シナリオ(ES)に関するREACH要求は、物質レベルで実施されるべき評価を要求しているだけである。安全データシート(SDS)に関連するREACH要求は、SDSが調剤の安全使用に関する指針を与えるということである(今日と同じ)。
 物質の製造者又は輸入者は物質の用途として下記を評価する。
  • 調剤の処方
  • 処方された調剤中の物質の用途=調剤の用途。注意:製造者/輸入者は、調剤中の”自分”の物質の安全性を評価する義務があり、そのことだけが可能である。
 次に、処方者は自分の調剤の意図した用途が、受領した曝露シナリオ(ES)によって適切にカバーされていることをチェックしなくてはならない。
  • もしカバーされていれば、処方者は個々の物質に勧告されているリスク管理措置(RMMs)を、さらに下流のサプライチェーンでその調剤を使用することにより引き起こされるリスクを適切に管理するために必要とされるリスク管理措置に統合することができる。ある場合には調剤の使用のために必要とされるリスク管理措置を統合することは全く単純にコピー作業になるが、他の場合には、特にその調剤が危険な物質を含んでいる場合には作業はもっと多くなる。いずれにしても、ひとつ以上の安全データシート(SDS)と暴露シナリオの場合に処方者は、調剤の使用のリスクが統合されたリスク管理措置によって適切に管理されるということをチェックしなくてはならない。化学物質安全報告書(CSR)を要求しない危険物質に対しては(製造又は輸入量が10トン以下の物質)、処方者がさらなるリスク管理措置を必要とする場合には、製造者/輸入者の安全データシート(SDS)に含まれる安全使用のための危険情報と指針を利用することができる。
  • もしカバーされていなければ、処方者は自身の調剤の用途を物質の供給者に明らかにするか、あるいは、処方者は自身で調剤のため又は調剤の分類に寄与する物質のための用途をカバーし、暴露シナリオ及び分類に寄与する調剤中の全ての物質についての川下ユーザーへの通知を含む、化学物質安全報告書(CSR)を作成しなければならない。
 処方者は、調剤の安全データシート(SDS)の中に、処方者が勧告する更なる川下サプライチェーンで実施されるべきリスク管理措置を文書化しなくてはならない。
 しかし、調剤中に存在するArt. 13(2)で参照されている濃度限界以下の物質に対しては、処方者はなんら義務を負わないことに留意する必要がある。

 年間10トン以上製造/輸入される物質に対しては、製造者/輸入者によって作成される化学物質安全報告書(CSR)及び川下処方者によって実施される追加作業(異なる暴露シナリオからの情報を統合すること又は自身で化学物質安全報告書(CSR)を作成すること)は、 Dir. 98/24の要求を順守する雇用者を支援するに十分な品質を備えた安全データシート(SDS)でなくてはならない。
(問い)
2.4.5. Article 13によれば、分類と表示(C&L)の基準に該当すれば、年間10トン以上製造される物質に対して、完全な化学物質安全評価(CSA)が、実施されなくてはならない。Annexes VII 及び VIII によれば、直接的又は間接的な曝露が起こりそうもなければ、環境毒性テストのあるものは免除されるかもしれない。このことは、例えば、生体蓄積、陸上生物への影響(短期的及び長期的)、鳥類への影響、などに関わることである。
 曝露評価をせずに曝露が起こりそうもないと文書化することはできず、曝露評価は(分類と表示(C&L)の基準に該当する)有害物質だけに求められ、有害物質でないものには求められない。このことは、これらのテストは有害物質に対しては免除されることがあるかもしれないのに、非有害物質に対しては常に要求されるということを意味するのか? そのようなテストは要求されないと暗示的に意味すると理解することができるが、データ要求についてこのように解釈すべきとはどこにも述べられていない。

(答え)
 テストが免除されるためには免除の正当性/説明が必要である。したがって、その物質の使用がなぜ曝露を引き起こさないのか(例えば密閉系)、又は選択されたリスク管理措置により曝露は起こりそうにないと言えるのかが示されなくてはならない。有害物質に対しては、このことは化学物質安全評価(CSA)での曝露評価によってカバーされる。もし、この質問が有害性に関するデータ収集に向けられているのなら、この時点では”非有害性物質”という言葉には意味がない。もし登録者が物質が有害であることを示すデータを持っていないのなら、彼は、テストの免除を正当化する曝露評価を実施するか、又はテストそのものを実施するか、どちらかを選ぶことができる。もし、テストを実施して有害性がないことを示せるならば、曝露評価を実施する必要はない。本質的なことは、登録者はテスト実施/免除の問題をどのように扱うかについて営利的選択を行うことができるということである。
(問い)
2.4.6. 化学物質安全報告書(CSR)と安全データシート(SDS)の違いは何か?
(答え)
 化学物質安全報告書(CSR)は、産業側に対し化学物質を安全に使用することができることを示すツールを提供する文書である。
 製造者と輸入者は、年間10トン以上の物質に対し化学物質安全報告書(CSR)を用意することが求められる。川下ユーザーは、製造者又は輸入者に対し、彼らの化学物質安全報告書の中で川下ユーザーの用途に言及するよう要求するかもしれない。あるいは、川下ユーザーは、自分たちの用途を製造者又は輸入者に明かさず、自分たち自身で化学物質安全報告書(CSR)を準備してもよい。
 安全データシート(SDS)は、物質の特性及びそれらの安全な使用方法に関する情報の概要である。それらは、サプライチェーンにおいて安全情報を伝達する方法として長年、確立されたものである。(注意:生産量の閾値はない)。REACHは現状の安全データシート要求を継承するであろう。さらに、化学物質の特性と用途に関するもっと多くのデータを確立し、化学物質チェーンにおける情報交換を促進することによって、REACHは安全データシート(SDS)の品質を向上することが期待される。この品質向上はまた、欧州化学品局の公開討論(the Forum of the Agency)によって推進される加盟国レベルでの施行に依存する。物質を市場に出すことに責任ある人は、危険性分類の基準に該当する物質又は調剤の安全データシート(SDS)を用意することが求められる。注意:安全データシート(SDS)は現状の要求と同じく、生産量に関係なく要求される。
(問い)
2.4.7. 化学物質安全報告書(CSR)中の全ての報告はサプライチェーンに届かなくてもよいのか?
(答え)
 ある場合には多くの情報が関連するので、常に完全な化学物質安全報告書をサプライチェーンに送ることは実際的ではないであろう。安全に関する情報は安全データシートによって供給され、それについては産業側はすでに熟知している。しかし、すでに今日、多くの製造者/輸入者は彼らの化学物質の安全使用に関する情報を法律で厳密に求められる以上に彼らの顧客に提供しており、このことはREACHが発効した後も歓迎されるべきことである。
(問い)
2.4.8. 安全データシートについて、今日批判されていることは何か?
(答え)
 今日、安全データシート(SDS)に向けられる批判の多くは、物質の有害特性に関する情報が得られないということである。年間10トン以上製造又は輸入される物質の安全データシートを化学物質安全報告書の情報の基礎とすることで、REACHは、高品質の安全データシートを作成する前提条件を著しく改善することになるであろう。年間1トン〜10トン、製造又は輸入される物質に対して、その最小のデータ要求も、データ品質の標準レベルを確保するものでなくてはならない。安全データシート(SDS)の品質はまた、欧州化学品局の公開討論(the Forum of the Agency)によって推進される加盟国レベルでの施行に依存する。
(問い)
2.4.9. 物質の登録段階で提出された情報の所有権に関する懸念。曝露シナリオは安全データシート(SDS)に付属すべきものであり、したがって公開されるべきである。
(答え)
 曝露シナリオは安全データシート(SDS)の付属書でまとめられなくてはならない。その所有権はそれを書き、曝露シナリオを記述した化学物質安全報告書(CSR)を所有する人に帰属する。このことは、製造者/輸入者の顧客ではない(又は、もはや顧客ではない)川下ユーザー(DU)は、曝露シナリオを法的には使用できないことを意味する。
2.5. 登録の優先度

(問い)
2.5.1. 人間の健康と環境に対する化学物質のリスクは必ずしも生産量に比例するわけではない。なぜ登録要求は量に基づいているのか?
(答え)
 物質の危険性を特定するためにはに、なんらかの最低生産量情報が必要であると我々は信じる。生産量は曝露を代表するものとして使用される。それにより、法的確実性を伴う登録のための、明確で強制力のある優先度の設定を行うことができる。REACH手続きにおける登録以降の段階では、必ずしも生産量によらないことに留意すること。例えば、有害性が疑われるものの評価、非常に高い懸念のある物質の認可。
(問い)
2.5.2. なぜ、もっと多くの優先度設定がないのか?
(答え)
 優先度はREACHのシステム全体を通じて設定されている。例えば、登録は生産量によって(曝露を代表するものとして)優先度が設定されている。全ての発がん性・変異原性・生殖毒性物質(CMR)は、年間1,000トン以上の物質とともに、REACH発効後最初に(3年以内に)登録することが求められる。この様に、産業側の作業は、リスクに基づく基準を用いて優先度が設定され、それは強制力があり、登録に法的確実性を持たせる。
 物質評価は欧州化学品局によって開発される基準に従って優先度が設定される。これらの基準は、生産量とともに有害性と曝露データを考慮しなくてはならない。物質評価はまた、人間の健康又は環境に対するリスクが存在すると疑われる物質にも適用される。このように当局の作業は、ある生産量の範囲の中で、全ての物質に関する完全で比較可能な情報に基づいて優先度が設定されている。
 認可は非常に高い懸念のある物質にのみ適用されて、優先度が設定される。さらに欧州化学品局は、ある基準を考慮に入れて、(REACHシステムが、同時にある数の非常に高い懸念ある物質に対応できるよう)認可対象となる物質を提案しなくてはならない(残留性・生体蓄積性・有毒性物質(PBT)、高残留性・高生体蓄積性物質(vPvB)、広範囲拡散物質、高生産量物質)。ある用途又は用途のあるカテゴリーは、将来の優先度設定を可能にしつつ、免除されるかもしれない。
2.6. テスト結果の相互承認

(問い)
2.6.1. 国内ではどの試験所又は研究所がテストデータ又は情報を提出するために認定又は指定されているのか? 欧州委員会は認定又は指定され試験所又は研究所の詳細リストを作成しようとしているのか?
(答え)
 REACHは適切な情報を提供する責任は産業側にあるとしている。どのような試験所も認定又は指定されることはない。新たなテストと分析は検査機関における業務管理基準(GLP)にしたがって実行される必要がある。
 REACHはテストプログラムとしては意図されていない。入手可能な情報は可能な限りどこのものでも利用すべきである。登録者は登録に使用するために何が合理的なデータであるかについて決定しなくてはならない。Annex IX はどのようなデータが受け入れられるのかについての一般的なルールを設定している。さらなる情報要求に関するガイダンスが作成される。物質IDに関するガイダンスも作成される。ガイダンスの作成に関する詳細:http://ecb.jrc.it/REACH/
(問い)
2.6.2. REACH体制の下では、既存の有毒物質と生体毒性情報、及び疫学的評価結果は十分に考慮されるべきことが規定されている。どのような情報が受け入れられるのか?
(答え)
 Annex IX が使用することができる情報について詳しく述べている。登録者は入手可能な情報を評価し、それが適切なら、その使用を決定する。さらなる情報要求に関するガイダンスが作成される。ガイダンスの作成に関する詳細:http://ecb.jrc.it/REACH/
2.7. 完備性チェック

(問い)
2.7.1. 欧州委員会はデータの完備性チェックをどのように行うことを考えているのか?
(答え)
 これは要求される全ての情報が提出されていることを確認するための登録書類の完全な自動チェックであるが、品質のチェックではない。これは、例えば、情報があるかどうかの簡単なチェックであり、テスト提案、derogation statement 又は waiving statementが存在するか、又は Annexes IV から VIII までの全ての情報要求が満たされているかどうかのチェックである。完備性チェックの結果は欧州化学品局によって登録予定者に送られる。欧州化学品局による登録拒否の決定は上訴手続きの対象である。拒否の決定がなされたら、加盟国によってそれが実施される。
2.8. 費用

(問い)
2.8.1. 製品が第三国の貿易会社を通じてEUに輸入される場合には、費用はどのように分担されるのか?
(答え)
 輸入される物質の登録に責任があるのは輸入者か非EU製造者の代理者だけである。物質自身なのか、あるいは調剤又は成形品中に含まれているのかは関係ない(Article 6 成形品中の基準を参照のこと)。提案されている規制案では、登録費用がサプライチェーンでどのように回収されるべきかについては記述されておらず、このことは市場によって解決されるべきことである。
(問い)
2.8.2. コンソーシアムのメンバーである登録者は費用の3分の1を負担しなければならない。しかし、コンソーシアムに3者以上のメンバーがいる時にはコンソーシアムの合計負担はひとつの登録分以上になるが、それは合理的であるのか?
(答え)
 個々の登録者は、団体としての情報に加えて個別にも情報を提出しなくてはならないので、欧州化学品局の作業量はひとつの登録者による登録の場合よりも多くなる。もし、コンソーシアムのメンバーが2者なら、全体の負担額は通常の登録より少なくなる。我々は、このやり方は、コンソーシアム形成の推進と欧州化学品局の作業のための十分な収入とのバランスを適切にとるものであると考える。
(問い)
2.8.3. 登録済みの化学物質に対し、後続の登録者は最初の登録費用を分担しなくてはならないが、この分担の割合はどのくらいなのか?、そして川下ユーザーに関しては、初期の登録費用の分担はどのようになるのか? ひとつの化学物質のひとつの用途について数百、数千、あるいはそれ以上の川下ユーザーがいるであろうが、もし、彼らがそれぞれ初期費用の半分を負担しなくてはならないとしたら、それは明らかに不合理であり、欧州化学品局と最初の登録者は莫大な利益を得ることになる。
(答え)
 他の会社によってすでに登録された物質を登録しようとする会社は、最初の会社に登録費用の分担金を支払う必要はない。個々の登録会社は登録時に欧州化学品局に登録費を支払わなくてはならない。しかし、いくつかの会社がコンソーシアムを形成するなら、各メンバー会社は登録費の3分の1を支払えばよい。川下ユーザーは物質を登録するわけではないので、このシステムに直接は関係ない。
備考:川下ユーザーは物質の届出を求められるかもしれない。しかし、そのような届出は費用とは関係ない。
2.9. 成形品

(問い)
2.9.1. ”成形品”はどのように定義されるのか? 例えば車、又は車の個々の部品がひとつの成形品と見なされるのか? もし一人の輸入者が何種類かの車を輸入するとすれば、個別の車種毎に物質毎の合計量を算出するのか?、又は全ての車種の合計として物質毎の合計量を算出するのか?
(答え)
 暫定的戦略の下に作成中のガイダンスがこの問題をカバーするであろう。(ガイダンスの作成に関する詳細:http://ecb.jrc.it/REACH/)。我々は、健康及び環境の保護と、産業側に及ぼすコストとの間の適切なバランスを求め、その要求がWTOのルールに整合することを確実にしなくてはならない。
(問い)
2.9.2. 何が放出され、人間の健康又は環境に悪影響を与えていると考えられるのか? これはどのように定量化され、特定されているのか?
(答え)
 ”放出されていると考えられる”ことは製造者又は輸入者がよく知っていることであり、又は、ある物質が成形品から放出されるかもしれないということを、たとえそれが意図されていなくても、例えば衣料品を最初に洗濯した時に染料が滲み出ることなどが、(NGO等によって)知らされることもある。物質の分類と既知の影響、及び放出が予想される量を考慮しつつ、製造者又は輸入者は欧州化学品局に届けるかどうか、すなわち、製造者はこの決定に説明責任があるかどうか、に関して自身で判断することが必要である。このようなことがらに関し、製造者及び輸入者の意思決定を支援するためのガイドラインが作成されるであろう。(ガイダンスの作成に関する詳細:http://ecb.jrc.it/REACH/)。
(問い)
2.9.3. 成形品の輸入者は成形品中の物質が危険分類の基準に該当しているかどうか評価しなくてはならないのか?
(答え)
 成形品要求(Article 6)が適用されるREACH発効後11年3ヶ月後までには、ほとんどの危険な物質は登録されているので、分類と表示(C & L)目録は今日よりもはるかに完全になっているであろう。これらの分類と表示(C & L)目録への登録の多くは調和しているであろう(CMRと呼吸器系刺激物質)。もし、ある物質が分類と表示(C & L)目録上に存在しなければ、輸入者は、(現在、指令67/548/EECの下で実施されているように)、入手可能なデータに基づき、その物質が危険かどうかを評価しなくてはならないであろう。
注:一般に輸入者が成形品中にどのような物質が存在するかについて確認する必要はない。
(問い)
2.9.4. 成形品中の新規物質の届出に関する指令67/548/EECの下で、既存の要求に関連する成形品中の物質に対する要求はどうなっているか?
(答え)
 ”決定のためのマニュアル”(http://europa.eu.int/comm/environment/dansub/mdeurolook.pdf)に記述されている成形品中の新規物質の届出に関する指令67/548/EECの下でとられるアプローチは、次の2つの設問に目を向けている。
 (1)当該品の使用中に物質の放出はあるか? もしあるのなら
 (2)ユーザーの曝露を防護する対策があるか? もしなければ、届出が必要。

 成形品中の新規物質の届出が必要な実際的な(”決定のためのマニュアル”からの)例:
  • インスタント写真フィルムの裏にある密閉容器中の液体は、通常の使用中又は廃棄処分中に容器が壊れて人がその物質(液体)に接触するかもしれない。
  • プリンター用インクカートリッジ。カートリッジそのものは成形品と考えられるが、そこに含まれる化学物質に曝露する可能性があるということはだれでも認めることである。したがって、インクカートリッジ中の新規物質は届出がなされなくてはならない。
 REACHの要求は、成形品から意図的に放出され(例えばカートレッジからのインク)、成形品毎に合計1トン以上含まれている危険物質の登録義務だけであるから、実際には上記よりも煩わしくはない。もし、放出が意図しないもの(例えばインスタント写真フィルム)であれば、簡単な届出でよい。欧州化学品局が登録が必要かどうか決定する。意図しない放出に対しては下記の基準が適用される。
 ・その物質は指令67/548により危険である。
 ・放出される物質の量は人間の健康又は環境に有害な影響を与える。
 ・その物質は成形品の種類毎に1トン以上製造又は輸入される。
 もし、放出が意図されたものなら、その物質が危険であり、成形品の種類毎に1トン以上製造又は輸入される場合に、登録が求められる。
2.10. ポリマー

(問い)
2.10.1. REACHではポリマーはカバーされているのか?
(答え)
ポリマーは、登録と評価から免除されるが、やはり認可と制限の対象である。
(問い)
2.10.2. 指令67/548/EEC (Art. 13(2))とREACHの違いは何か?
指令67/548/EEC (Art. 13(2)):
 欧州既存化学物質目録(EINECS)にない物質の2%以上の結合した形を含むものを除くポリマー
REACH:
 2%重量以上のモノマー又はその他の物質からなるポリマー

(答え)
 同じものを指しているが、法律は異なる方向からこの問題にアプローチしている。指令67/548/EEC は欧州既存化学物質目録(EINECS)にない2%以下のモノマーを含むポリマーの届出を免除している。REACHは、ポリマー中に2%以上含まれているモノマーの登録を要求している。
(問い)
2.10.3. 実際には登録されるべきは、物質及び/又はポリマー?
(答え)
 モノマー及び/又は物質は登録される必要があるが、ポリーマーは必要ない。登録されるべきは条件が合致していればポリマーを生成するモノマーである。ポリマーに含まれる他の物質もまた、条件が合致していれば登録される必要がある。このことの大きな利点は、一度モノマー(及び他の物質)が登録されれば、その登録によって有効にカバーされる多くの(様々な分子量をカバーする)ポリマーがあるということである。
(問い)
2.10.4. モノマーの登録に責任があるのは誰か? ポリマー製造者/化学物質供給者?
(答え)
 もし、モノマーがEUで製造されるなら、モノマー製造者が登録に責任がある。もし、モノマーが単体又はポリマーの一部として輸入されるなら、輸入者が登録に責任がある。しかしポリマー製造者又は輸入者は、ある条件下でのみ(すなわち、そのポリマーが未登録のモノマーを2%以上含んでおり、年間生産量が1トン以上の場合)、モノマーを登録しなくてはならない。2.10.7.も参照のこと。
備考:すでに登録済みのモノマーを使用しているEUのポリマー製造者は、用途がモノマーの安全データシート(SDS)に添付されている曝露シナリオ(ES)によってカバーされているかどうかチェックしなくてはならない。
(問い)
2.10.5. 未登録のモノマーについて、サプライチェーンの中で登録者が特定されていない。これは誰かがすでに登録したモノマーは登録義務から免除されるということを意味するのか?
(答え)
 ポリマーの製造者又は輸入者は誰でも未登録のモノマー物質の登録を提出しなくてはならない。たとえ他の誰かがすでに同じモノマーを登録していても免除はない。
(問い)
2.10.6. なぜ、ポリマー及び”不純物”を含む多くの化学物質について、特定の概念があるのか? (答え)
 そのほとんどが比較的リスクの低い、数千種のポリマーの登録を要求することでシステムが動かなくなることは望まないので、ポリマーに対しては特定の要求が存在する。ポリマーは不純物を含んでいるので免除はされない。不純物は、年間1トン以上製造又は輸入されるなら、化学物質として登録される必要がある。
(問い)
2.10.7. ”からなる(onsists of)” という用語は、ポリマー製造で2%以上使用されるモノマーを意味するのか、又は、モノマー単体として2%以上ポリマー中に存在するモノマーを意味するのか?
(答え)
 2%限度は最終ポリマーに含まれるモノマーを指し、混合反応時に存在し、最終ポリマーには存在しないモノマーは考慮しない。この要求は、欧州既存化学物質目録(EINECS)にない2%以下のモノマーを含むポリマーは届出から免除するという指令Directive 67/548を反映したものである。
注:EUで製造されるモノマーは、もし年間1トン以上使用されるなら登録の必要がある。
(問い)
2.10.8. プラスチック産業は粒状プラスチック原料を大量に輸入している。輸入後の唯一のプロセスはそれらを溶かして最終製品にするだけである。粒状プラスチック原料は、ポリマーと様々な添加剤、着色剤などからなっている。これらの粒状原料は、ポリマーと考えるのか、あるいは調剤か、又はそれ以外か?
(答え)
 他の物質(着色剤、安定剤、等)と混合されたポリマーを含む輸入粒状原料は調剤であると見なされる。しかし、ポリマーは免除されるが、”他の物質”は登録が必要である。
(問い)
2.10.9. ポリマーの輸入者に、海外で製造された未登録モノマーを登録することを求めることは:
  • 輸入者にとって知識の点で不利がある:モノマーの詳細及び混合比はしばしば企業秘密であり輸入者は入手が困難である。
  • 非ヨーロッパ輸出者の知的所有権を危うくする
  • ポリマー輸入の意欲を損なう
(答え)
 ポリマーは登録を免除されている。REACH提案のArticle 5(3)の草稿を作成時、欧州委員会は、理事会指令92/32/EECのArticle 13(2)で述べる見解を引き合いに出した。これはモノマー又はその他の物質は、ポリマー中に2%以上結合した形で含まれ、かつEINECSに記載されていなければ、新規物質として届出られなくてはならないと要求している。
 ポリマー中の成分に関する必要な情報を輸入者が容易に入手できるよう、REACH提案のArticle 6aは、現状の新規物質共同体法規制である理事会指令 92/32/EECのrticle 2(1)(d)の同じ概念である用語を使って、”非共同体製造者の代理人”を選べることを導入した。この規定は、微妙なビジネス情報を保護するために製造者の法的利益に目を向けることを目的としている。またArticle 5(2)は、実際には非域内製造者はそうではないが、モノマーを”中間状態”であると主張する域内モノマー製造者がモノマーの登録コスト低減による利益を受けない様にしている。このようにして、ポリマー中のモノマーを登録することによる結果生ずるコストは、域内及び非域内製造者が同じ法的要求に基づくことになる。
 したがって我々は、ポリマー及びモノマーに関するREACH提案の規定は、そのような物質の輸入者に同一の土俵を提供し、Article 5(3) はそれに関連して困難を生ずることはないであろうと考える。
2.11. 中間体

(問い)
2.11.1. 非分離中間体はどのようにカバーされるのか?
(答え)
  非分離中間体(それらが製造され、使用される装置から決して離脱することがない物質)はREACHから除外されている。
(問い)
2.11.2. 現場分離中間体はどのようにカバーされるのか?
(答え)
 製造現場で使用される分離中間体は登録されねばならないが、情報要求は非常に低い。それらは評価又は認可の対象とはならない。もし、これらの物質が認可物質と同等のリスクを及ぼすという証拠があるならば、その製造現場のある加盟国の所管当局(ompetent Authority)は追加データを要求することができる。
(問い)
2.11.3. 輸送分離中間体はどのようにカバーされるのか?
(答え)
 現場に輸送され使用される分離中間体は、”通常”の物質が登録時に要求されるより低い情報が要求される。それらは評価の対象となる。
(問い)
2.11.4. 認可システムは異なる中間体をカバーするか?
(答え)
 中間体としての用途は認可対象とはならない。

3. データの共有
(問い)
3.1. なぜ動物テストのデータを共有することが義務なのか?
(答え)
 登録者毎にテストを行うことが許されたら、非常に多くの数の実験動物が不必要に犠牲となるからである。テスト結果は会社に所有権があり、テスト結果を所有する者は、そのデータに対し公正な対価を得る権利が与えられる。
(問い)
3.2. なぜ全ての結果は共有することができないのか?
(答え)
 我々は登録者に対し、それが社会の利益になるので、動物テストの結果を共有するよう義務付けることはできる。しかし、他のテストには同様な理由が存在しない。他のデータを共有することはできるし、我々は、競争法の範囲内で(例えば、生産量に関する情報は共有しない)、有効にデータを共有することを推奨する。我々は、通常、所有権を尊重しなくてはならないので、共有を強制することはできない。
(問い)
3.3. テストの費用分担は釣り合っているか?
(答え)
 動物テスト結果が共有される場合、それから便益を得る共有者は誰でも対価を支払うべきである。状況に依存して50%又は応分の比例負担となっている。登録者は要求されるデータに対応した対価を支払うべきである(例えば、低生産量製造者は高生産量の登録に必要なテスト費用を共有しないであろう)。
(問い)
3.4. ”新規物質”の潜在的な登録者が先行登録者によって主張されたコストの50%を支払うということは合理的で公正か?
(答え)
 新規物質(すなわち、非段階的導入物質)については、先行登録者が実施したテストデータを使用するという観点から、その物質の後続の潜在的登録者が先行登録者と金銭的設定の交渉を行うことが求められている。もし、交渉が合意に達しなかった場合には、欧州化学品局は、後続者は先行者が支払った金額の50%を先行者に支払ったという領収書を欧州化学品局に提出すれば、欧州化学品局はテストデータを供給する。この手順は、後続者が自身でテストを行い全コストを支払うより、はるかに安くて速いはずである。
 我々は、非段階的導入(”新規”)物質に対しては、50%は合理的であり、公正であると考える。ほとんどの場合、1又は2の登録者しかおらず、それらは数年の間隔があるかもしれない。数年にわたって同一物質の登録を厳密に等分ベースで分割することは資源の有効な活用とはならないであろう。
 段階的導入(”既存”)物質に対しては、コストは等分に分担される。したがって、このことから金を儲けるという可能性はない。
 テスト費用をどのように文書化すべきかの決定と合意はは登録者のことがらである。
(問い)
3.5. コンソーシアムが物質、ポリマー、又は中間体を登録したいと望んだら、どのようにしてコストを負担せずに登録を得ようとする”無賃乗車”を防ぐことができるか?
(答え)
 REACHは、動物テストの重複を防ぐために、動物テストのデータを共有するメカニズムだけを特定している。登録では、他の非動物テストもまた同じデータ共有メカニズムの対象となってもよい。コンソーシアムで登録者に要求される情報は広く変動するであろうということを念頭に置く必要がある(例えば、異なる生産量、用途、入手可能な情報、等)。データが”無料で入手”できるようになるのはREACHの下でそれが提供されてから10年後のことである。REACHは、現在、構築されているので、”無賃乗車”は問題にならない。

4. 川下ユーザー

(問い)
4.1. 川下ユーザーが化学物質安全報告(CSR)を実施しなくてはならない責務が生じる規定量はあるのか?
(答え)
 川下ユーザーが供給者に用途を知らせたくないと望む時には、下記の場合には、使う量に関係なく川下ユーザーは自分で化学物質安全報告(CSR)を実施しなくてはならない。
  • 供給者が化学物質安全報告(CSR)の実施を要求される場合(すなわち、製造/輸入が年間10トン以上)
  • 川下ユーザーが異なる用途でその物質を使用する場合
  • その物質が安全データシート(SDS)を要求する場合
 川下ユーザーが化学物質安全報告(CSR)を実施する責務が生じる規定量はないが、その物質を年間1トン以上使用する場合には欧州化学品局に報告しなくてはならない。
(問い)
4.2. 製品及びプロセス研究開発(PPORD)のための登録の一般責務からの免除に関し、川下ユーザーはどのように届出を行えばよいのか? もし用途が特定されていない場合、彼らは供給者からどのように物質を入手することができるのか? そして川下ユーザーは欧州化学品局への届出のために必要な情報を供給者に開示しなくてはならないのか? あるいは、川下ユーザーの研究に対する保護はないのか?
(答え)
 製品及びプロセス研究開発(PPORD)ための登録免除は、研究を行う製造者及び輸入者のためのものである。したがってこれらの用途のためのこれらの物質は登録は必要なく、商業ベースでサプライチェーンにおいて他者に供給されることはない。もし川下ユーザーが、供給者が作成した曝露シナリオ以外で供給された物質を使用しようとする場合、すなわち新たな用途の場合は、通常、欧州化学品局に(供給者ではない)届出なくてはならない。このことは製品及びプロセス研究開発(PPORD)とは関係なく、川下ユ−ザーにはPPORD免除はない。もし川下ユーザーがその物質を研究開発のために使用するのなら、その用途を供給者に対して明らかにするか、あるいは自身で化学物質安全報告(CSR)を実施しなくてはならず、もしその物質が年間1トン以上使用されるのなら欧州化学品局に届出なくてはならない。したがって川下ユーザーの研究開発は通常の川下ユーザー要求から免除されない。
(問い)
4.3. 現在、市場にある物質や調剤の非常に多くは製品安全データシート(MSDS)又は安全データシート(SDS)の精度が悪い。指令2001/58/ECの枠組みの中で、特に、購入した物質及び調剤のすでにカバーされている意図された用途を確かめるという川下ユーザーの観点で、どのような修正が期待できるか?
(答え)
 REACHは、指令91/155/EEC(及びその最新修正)2001/58/ECを廃止し、この指令の全ての規定をREACHの中に移した。川下ユーザーは物質供給者である製造者、輸入者、又は川下ユーザーから物質の用途を書面によって知らせてもらう権利を持っている。供給者は、川下ユーザーの便益のために安全データシート(SDS)に付属させるべき化学物質安全評価の中に、分かっている用途の曝露シナリオを用意しなくてはならなず、この点が安全データシート(SDS)の規定になされた修正のひとつである。
 (川下ユーザーがその用途を明かさないという選択肢を選んだために)川下ユーザーに供給される安全データシート(SDS)が彼の用途のための曝露シナリオを含んでいない場合には、Annex XI にしたがって川下ユーザーが自分で化学物質安全報告(CSR)を用意する必要がある。安全データシート(SDS)は要求されない(例えば、危険ではない)が、登録しなければならない、又はリスク管理措置が求められる物質に対しては、Article 30がサプライチェーンの中での情報交換のための情報要求をリストしている。
(問い)
4.4. どのようにして川下ユーザーはREACHが対象とする物質についての情報を得るのか?
(答え)
 彼らは主に供給者から、強化された安全データシートの使用を通じて、情報を得る。もちろん、彼らは欧州化学品局が公開している情報や、データベースや文献中の他の既存データを利用することができる。
(問い)
4.5. 川下ユーザーは彼が受領する上流の(新しい)情報を次に伝えることが求められる。したがって川下ユーザーは、同じ物質を製造している供給者1(年間10〜100トンの供給者と仮定)に、彼が供給者2(年間1000トン超の供給者と仮定)から受領したデータ/情報について知らせることが求められる。供給者1は、登録する時に、供給者2によって川下ユーザーに供給された安全データシート(SDS)を作成するために実施された調査内容を含む全ての入手可能なデータを使用する必要があるか?
(答え)
 ある物質を登録する場合には、登録者は、上位の生産量帯域でのみ要求される情報を含んで入手可能な全ての情報を使用することが求められる。他の登録者によって年間1000トン超ですでに登録されている物質を、年間10〜100トンで登録しようとする登録者は、インターネットを通じて自由に入手できる有害特性に関する情報を使用する義務がある。しかし、この生産量帯域では要求されないテストに関しては、彼はそのテスト費用を分担する義務はない。
 川下ユーザーは、供給者2からの情報を供給者1に知らせる義務はない。安全データシートの情報はインターネットで入手可能であり、更新された最新の登録情報が使用されるべきである。
(問い)
4.6. Art. 30(1)(a)によれば、安全データシートを作成する必要のない物質又は調剤のサプライチェーンの全ての当事者は、可能ならば、物質の登録番号を提供しなくてはならない。このことの厳密な解釈は、調剤中の非常に低濃度の非危険物質でも供給者はこの物質を顧客に明らかにしなくてはならず、したがって製品に関する詳細を提供しなくてはならないということになるのか?
(答え)
 その通りである。Article 30は、登録された物質(登録番号を持っている)とリスク管理に関する情報(安全データシート(SDS)は必要ない)を持っている人が、サプライチェーンの後続の当事者に示されるべきことを求めている。このことは、後続者にREACH登録物質を購入しているという確信を与える。したがって、それが危険物質でなくても、製造/輸入量が増大すればますます、証拠に基づいているという自信を持って必要な管理を実施することができるようになる。さらに、調剤中のある有害物質は規定濃度以下なので安全データシートを必要としないが、登録番号の提示は、これらの物質に関する情報がサプライチェーンの下流に渡されることを確実にする。しかし、調剤中の非危険物質の実際の濃度に関するデータを提供する必要はない。

5. 物質の評価

(問い)
5.1. 登録(完備性チェック)と書類評価との厳密な境界はどこにあるのか?
(答え)
 登録は完備性チェックを含むが、それ自身は、書類一式に要求される全ての情報が含まれているかどうかの自動チェックであり、内容の品質チェックは行っていない。評価は、Annex VII と VIII にリストされたテストのための全てのテスト実施提案を評価するために必須の、登録書類中の選定した事項の品質チェックを可能とする。
(問い)
5.2. 書類評価の期間中、テスト実施提案に関しては迅速な決定が必要である。
(答え)
 その通りである。これが、REACH提案がテスト実施提案の評価期限を見越している理由である。新規物質は120日、段階的導入物質は提出される案件数によって5〜9年である。システムは、評価の必須要素であるテスト実施提案の評価だけを行うように設定されている。したがって、この作業が常に優先される。
 登録は、登録期限以前に全てのテストを済ませてしまうことを義務付けておらず、Annex VI と VIII に示されるテストのための実施提案を提出することだけが求められていることに留意すべきである。欧州化学品局から実施許可を得た後に、改めてテストデータの提出期限を与えられる。
(問い)
5.3. 物質評価の下では、どの物質が評価されるのか?
(答え)
 欧州化学品局は、物質評価のための優先物質基準を作成しなくてはならない。加盟国(MS)は、(毎年更新が要求される)3年循環計画(a 3 year rolling plan)における物質評価のための意向を明示的に設定しなくてはならない。これは、欧州化学品局と加盟国が要員計画を作成し、物質評価が実施されていることを示し、ビジネスに対し確実性を示すことに役に立つ。2か国以上の加盟国がある物質の評価を望んだ場合の解決方法も含まれなくてはならない。
(問い)
5.4. 欧州化学品局による評価の優先度はどの基準に基づいているのか?
(答え)
 評価の優先度が作成されるが、それはリスクに基づく。 (問い)
5.5. 評価の決定:異なる組織間で期限内に決定の合意がなされなかった場合にはどうなるのか?
(答え)
 様々な当事者に対し結論を提出すべき期限が設定されている。評価の場合には、決定は情報のためのもの以上のものである。欧州化学品局又は加盟国の委員会が決定できなければ、欧州委員会が最終的に決定を下す。
(問い)
5.6. 評価手順は Art.28-30 ECT と整合性があるのか? 貿易障壁とはならないか?
(答え)
 評価は、さらなるテスト実施が必要かどうかの結論が出るまで会社に対し影響を与えない。さらなるテストが必要な場合には、他の全ての加盟国と欧州化学品局は提案草稿について協議し、もし解決することのできないコメントがあれば、最終決定に合意するために委員会手順(a committee procedure)に基づき処理される。欧州化学品局は基準を作成して整合性を確保する役割がある。
 欧州化学品局は、コメントがあった場合には、担当加盟国によって用意された決定に決着をつける責任がある。もし、その評価が、更なる措置は制限のようなREACHの他の部分でなされるべきことを示した場合には、影響を受ける会社や他の利害関係者との協議を含む他のプロセスが必要となる。このプロセスの最中は、その物質は市場において影響を受けない。

6. 認可

6.1. 認可手続

(問い)
6.1.1. どの物質が認可対象となるのかについて産業側が予測することは可能か? 基準は十分に明確か?
(答え)
 認可対象となる物質グループの特定は明確に定義される。CMR(発がん性・変異原性・生殖毒性)物質については、現状の法律(指令67/548/EEC)の中で既に確立されており、 PBT(残留性・生体蓄積性・有毒性)と vPvB (高残留性・高生体蓄積性)物質についての基準は Annex XII に含まれている。
 PBT(残留性・生体蓄積性・有毒性)や vPvB (高残留性・高生体蓄積性)物質と同様に、”同等なレベルの懸念”を予測することが難しい物質は、開かれたプロセスを通じて定義されるであろう。すなわち、その物質を含むとする決定は、コミトロジー手続きにしたがって、欧州委員会によってなされる。
 これらの物質の全ては Annex XIII に含まれるかもしれない。
(問い)
6.1.2. PBT(残留性・生体蓄積性・有毒性)物質と vPvB (高残留性・高生体蓄積性)物質はどのようにして特定され、合意されるのか?
(答え)
 PBT(残留性・生体蓄積性・有毒性)物質と vPvB (高残留性・高生体蓄積性)の基準は Annex XII に含まれる。Annex に入れる前に PBT 物質と vPvB 物質は場合毎に特定されなければならないであろう。認可システムの対象物質であるとの手続きを起こす加盟国は、PBT 又は vPvB 特性が存在するということを示す必要がある。これは合意手続きの対象であり、各国所管当局(Competent Authority)の間で合意に至らない場合には、欧州委員会決定の結論によることになる。
(問い)
6.1.3. ”同等の懸念物質”はどのようにして特定され、合意されるのか?
(答え)
 加盟国は場合毎に、”同等の懸念”物質として認可の対象となるべきと信じる物質を提案することができる。
 これらの提案は他の加盟国によって評価され、加盟国の中で”相互承認の形”によって合意される。
 もし、加盟国が全体合意に達しない場合には、欧州委員会はその物質を認可対象とするかどうかに関して最終決定を採決する。この手続は、真の優先度の特定を確実にするものである。
(問い)
6.1.4. 認可システムは、関連する物質、用途、及び企業の数が多いために、うまく機能しないのではないか?
(答え)
 多くの物質が認可の対象となるが、それらの全てが一時に処理されるわけではない。物質の優先度を決める場合、欧州化学品局は実行可能性を考慮する。
 欧州化学品局は、主にリスク(用途、量、PBT/vPvB特性)に基づいて認可の優先物質を提案するであろう。認可システムは条件付免除を考慮する。したがって、用途又は用途のカテゴリー毎の一般的免除を可能とする。このシステムはまた、ひとつ又はそれ以上の用途、物質又は申請者を許容する認可のグループ申請を考慮する。したがって産業側は、”自身の運命”をある程度、管理できる。
(問い)
6.1.5. ”適切に管理される”とは何か?
(答え)
 ”適切に管理される”という表現は Annex I , point 6 で次のように定義されている。”人間と環境の曝露は、人間に対する導出無影響レベル(Derived Noeffect levels (DNELs))及び予測無影響濃度(Predicted No-Effect Concentrations (PNECs) )を越えていなければ適切に管理されていると見なすことができる”。
(問い)
6.1.6. 認可の申請はグループ化して、一緒に提出できるのか?
(答え)
 認可申請のグループ化は申請者の判断で規制の中では可能である。グループは、製造者、輸入者、川下ユーザー、物質、及び用途、又はこれらのグループの任意の組み合わせからなる。これはコストを最小化とし、申請手続の迅速化を可能とする。
(問い)
6.1.7. 少量の高懸念物質はREACHではどのように取り扱われるのか?
(答え)
 認可は非常に高い懸念のある全ての物質を量に関係なく対象とする。このことは少量の用途もまた認可の対象となることを意味する。しかし、もし特定の物質が非常に低い生産量(年間1トン以下)のために、EUで登録されたことがなく、テストもされたことがないなら、その有害特性は知られていないかも知れず、それが発見されない可能性がある。
 登録の重量トリガーのシステムは、実行性と、全ての物質を対象とすることとのトレードオフに基づく。安全ネットは加盟国の所管当局である。もし所管当局が潜在的に非常に高い懸念ある特性を持つ物質を特定したなら、所管当局はそれらに注意を向け、それらは認可の対象となると提案することができる。
 認可は、他の基準とともに、重量に基づく優先度決定プロセスを経る。これは多くの場合、少量物質は初期の段階では認可に選定されないということを意味する。
(問い)
6.1.8. 認可の決定:関係組織間で期限内に合意に達しなかった場合はどうなるのか?
(答え)
 様々な当事者に対し結論を提出すべき期限が設定されている。欧州化学品局又は加盟国の委員会が決定できなければ、欧州委員会が最終的に決定を下す。しかし重要な点は、禁止はその決定なしには生じず、何らかの決定は常に行われるということである。期限が過ぎた場合には、Article 53(1)(d) の規定が適用される。すなわち、その物質は、決定がなされるまでは市場に出すことができる。
(問い)
6.1.9. もし申請者が社会経済的分析(SEA = Socioeconomic Analysis)を提出することを決めたら(SEAは、適切な代替物質がない場合にのみ適用)、代替分析を常に提出すべきなのか?
(答え)
 代替分析と代替計画(及び社会経済的分析(SEA))を含めるかどうかを決めるのは申請者次第である。しかし、 Art 57.3 に基づいて認可を得たいと望むなら、そのような認可をサポートするために必要な申請情報に含めることは申請者にとって有益である。
(問い)
6.1.10. 代替計画はいつ提示する必要があるのか?
(答え)
 代替計画を提示することは決して義務ではない。会社は、”社会経済的条項”の下に認可申請する時には、詳細な”代替計画”を提出することを選んでもよい(何故なら、これは期限付き認可の長さに影響を与えるかもしれない)。
(問い)
6.1.11. SEA(社会経済的分析)委員会の役目。もしSEAのための情報を得られなかった場合にはSEA委員会はどうするのか? 委員会がSEAを行うのか? もし同意できないSEAを受け取ったらどうするのか? 適切なデータ/分析が欠如している場合、SEA委員会は制限提案を拒否できるのか? 又は認可するのか? これらの疑問に答える時に、決定のために非常に限られた時間で決定しなくてはならないことを考慮すべきである。
(答え)
認可:
 SEAが認可申請に含まれている場合にのみ、SEA委員会は見解を出すであろう。申請者がSEAを用意しない限り、社会経済的要素は考慮されない。SEA委員会は当該用途に関連する社会経済的要素を評価しなくてはならないが、申請者のSEAに同意する必要はない。
制限:
 SEA委員会は、提案された制限と関連する社会経済的影響に関し、Annex XIV dossier(書類)の関連部に基づいて、常に見解を出さなくてはならない。見解を出す時に、SEA委員会は関連団体によって供給されるどのような情報をも考慮しなくてはならない。この決定プロセスのための情報を供給するかどうかを決めるのは産業側及びその他の関連団体次第である。見解を作成する時に、社会経済的議論が考慮されるなら、SEA委員会は外部からの情報に大きく依存するであろう。
6.2. 代替

(問い)
6.2.1. 代替はどのように推進するのか?
(答え)
 REACHシステムは代替に動機を与えるために、少なくとも4つの方法を講じている。
  • REACHは、化学物質が安全に管理されることを確実にする明確な責任を産業側に課している。これに関し、川下ユーザーと一般公衆が有害性情報と安全性評価を入手しやすくすることは、製造者と輸入者が高い懸念のある物質や用途をリスクの低いものに代替する動機として作用する。
  • 最も高い懸念ある物質は認可の対象とされるべきとする要求もまた代替を推進する。認可のための申請は高くつく。(もし、物質の使用のリスクが適切に管理することができなければ、会社は認可が得られるかどうかについて確信が持てない。)認可のための厳格な条件と関連するコストは、会社がそのまま認可プロセスに行くことを避けるために、より安全な代替を見つけるための研究に投資することに動機を与える。
  • また登録は代替を推進する作用がある。情報に対する要求はコスト増大につながるテスト実施を求めるかもしれない。これを避けるために、産業側は潜在的に問題ある物質の代替として安全でよくテストされた代替物を探すであろう。
  • サプライチェーンに情報を提供すべきとする強化され義務化された要求は、川下ユーザー、小売業分野、そして消費者がより安全な代替を要求することに力を与える。
(問い)
6.2.2. 代替は会社に対し追加コストを及ぼす。
(答え)
 認可対象となる物質は、がん、突然変異、先天性障害等を引き起こす物質や、環境中に蓄積し残留する物質など、非常に高い懸念がある物質である。
 もし、会社がこのリスクを適切に管理できなければ、リスクを管理できるよう、これらの物質を代替するかプロセスを変える方法を検証する必要がある。もし、代替物が現状では入手できない場合、又はリスクに関しもっと研究が必要である場合、又は代替は非常に高いコストでしか実現できない場合、申請者は申請書とともに代替計画を提出してもよい。この計画は、代替物が開発されるまで及びその使用が適切に評価されるまで、期限付きでその物質の使用が認可されることの助けになるかもしれない。代替はこれらの物質が健康と環境へ及ぼすリスクが長期的に低減されることを確実にする助けとなる。代替計画は必須の要求ではないが、もし提出されれば、認可の決定において考慮され、また与えられる検証期間の長さに影響を与えるであろう。
 代替は必ずしも長期的なコストと結びつくわけではない。代替は革新の引き金となり、新たな市場の機会をもたらすことができる。
(問い)
6.2.3. 代替の原則がNGOsの圧力で誤用されないことを、どのようにして確実にすることができるか?
(答え)
 ひとつの物質を他の物質に代替する、又はプロセスを変えるという決定は簡単にはできないということを認識することが重要である。同時に、代替は産業側が彼らの仕事の本質的な部分として行う開発の一部でもある。NGOs又はその他の団体は入手可能な代替があると指摘するかもしれないが、代替の入手可能性だけでは十分ではなく、その代替の使用のリスクに関する情報もなくてはならず、その代替が他の物質を実際に代替するために適切でなくてはならない。したがって、欧州委員会が認可又は制限手続の決定をする前に、欧州化学品局委員会は、代替に関する情報を含む全ての情報を評価し、代替することの適切性に関し彼らの見解を出す。認可を与えるかどうかの最終決定は、コミトロジー手続を通して欧州委員会によってなされる。
(問い)
6.2.4. 労働者の保護。代替は強化されるのか?
(答え)
 REACHは、職場で使用される物質の有害性についてもっと情報を入手できるようにし、よりよい安全アドバイスを提供することで、労働者の保護を向上させるであろう。もし職場で発がん性物質が使用されることとなったら、雇用主は使用する前に発がん性物質指令階層 (すなわち、除去、代替、管理) を適用すべきである。職場で発がん性物質を使用する雇用主は、もしそれが Annex XIII に含まれているなら、認可を求める、又は、その用途に対し認可が与えられたら Art. 63 の規定を使用することが必要である。
(問い)
6.2.5. 代替計画の内容は何か?
(答え)
 物質を代替するための計画は、申請者による研究開発及び提案活動の工程表(タイムテーブル)を含む。これは申請者が製品の代替に向けてとろうとする作業、目標達成に向けての研究開発、及び実現のための工程を示す。このタイミングは、例えば期限付き認可の期限の長さを設定する時に考慮されることがあり得る。

7. 分類と表示

(問い)
7.1. REACHにおける調和した分類と表示の範囲は非常に限定されている。もっと広くカバーするよう拡張されるべきである。
(答え)
 欧州委員会のREACH提案は下記の考慮に基づいている。
  • 分類と表示に関する責任は産業側にあり、当局側ではない。
  • 産業側が基準を忠実に守らないことは法規順守の問題であり、指令67/548/EEC Annex I と同等のものをREACHに設けても解決にはならない。
  • さらに、現在、Annex I には約7,000物質があるが、市場には100,000の既存物質が存在する。当局がこれらの物質のための調和した分類と表示に同意することができると期待することは現実的ではなく、それを成し遂げようとすると、リスク削減へもっと大きな効果を与えるはずの当局の活動を分散させることになる。
(問い)
7.2. なぜ評価において、全ての産業側の分類表示提案の適合性チェックを必須としないのか?
(答え)
 産業側に責任を置くことの結果として、当局の役割を変更する必要が出てくる。当局はもはや産業側の書類を系統的にチェックし応諾することはしない。それをやるとその責任を当局側に置くことになるからである。当局にとって、分類と表示を提案する提出書類中の特定項目に明らかに同意できない場合、それを評価し明示的に見解を述べることだけが必要である。物質の分類と表示は Annex IV part V にも規定されている。この情報を書類評価の対象とすることもでき、したがって分類表示の指令67/548/EEC Annex VI への適合性チェックもそこで行うことができるが、必須ではない。
(問い)
7.3. 現在の指令67/548/EEC Annex I を REACH に編入させてはどうか?
(答え)
 この点に目を向ける必要性と編入するという意見も関連部局により検討されたが、欧州委員会の部局はこれに関する見解をまだ詰めていない。検討されるべき論点は、分類と表示のための世界調和システム(GHS)を考慮して登録を更新する必要があるかということを含む。
(問い)
7.4. なぜ、分類と表示のための世界調和システム(GHS)はREACH提案に含まれないのか?
  • GHSは国連によって正式に採択されていない(欧州委員会でのREACH提案の起草時及び合意時)。
  • GHSそのものは、REACHが引用している現状のEU分類システムの代わりになるほどに成熟していない。したがって、GHSの実施には実用的で実際的なシステムを開発するために大変な努力が必要である。
  • この段階でGHSを含めることはREACH提案の実施をさらに遅らせることになる。
 欧州委員会はGHSを実施するための法律を準備している。(これがREACHから分離した法律の下でなされるのか、又はREACHの一部としてなされるのか、まだ決まっていない。)この法律は REACH 規制と同時に発効すべきである。

8. 欧州化学品局と所管当局

(問い)
8.1. 将来の欧州化学品局の業務は何か
(答え)
 新たな化学品局の役目は、REACHがよく機能し、全ての利害関係者からの信頼を確実にしつつ、REACHの技術的、科学的そして事務的側面を管理することである。
 化学品局はREACHシステムの中心である。欧州委員会、加盟国、及び専門技術を持ったその他の関係部署を支援し、IT基盤を確立して運用する重要な役割を演じる。
 専門委員会を通じて、欧州委員会に下記を勧告する:
  • 認可手続を設定するための優先度
  • 非常に高い懸念のある物質の使用の認可申請
  • 危険物質のリスク削減措置(制限)
 さらに、化学品局は加盟国の”実施の場”のレベルを均一化することを支援する。特に:
  • 評価段階
  • 実施上の問題。REACHの実施に対する共通のアプローチを推進するための実施当局のネットワークとなる加盟国代表のフォーラム
(問い)
8.2. 化学品局はどのように組織されるのか?
(答え)
 化学品局は、欧州委員会のREACH提案に関する理事会によって指名される理事長をもって設立され、欧州委員会によって推薦された6人を含む15人からなる理事会に対して責任を持つ。全ての加盟国は化学品局の委員会への委員任命のための推薦を行うために招待される。理事会は必要な能力を有するメンバーを指名する。その目的は、適切な推薦をした全ての加盟国からの委員を委員会に出席させることである。
(問い)
8.3. 会社は認可と制限の下での化学品局の決定に対し、どのように法的に異議を申し立てることができるか?
(答え)
 REACHでは、会社が制限又は認可の手続において化学品局が作成した見解草稿を見ることが許される。もし会社がその草稿にコメントがあれば、化学品局はそれらのコメントが最終見解にどのように反映されるかを示さなくてはならない。これは実際、上提訴手続である。  欧州委員会はコメント及びそれらがどのように反映されたかを見る。その後、欧州委員会はコミトロジー手続きによって最終決定を行い、その最終決定の理由を述べなくいてはならない。理由表明の中でコメントがどのように反映されたかを述べるであろう。
 会社は欧州委員会の決定を覆すために欧州司法裁判所に提訴する権利がある。
(問い)
8.4. 会社は登録と評価の下での化学品局の決定に対しどのように法的に異議を申し立てることができるか?
(答え)
 特別の提訴委員会と手続が確立されることが予想される。
(問い)
8.5. 化学品局のデータベース及び情報へのアクセスに対する許可の管理はどのようになっているのか?
(答え)
 登録者、化学品局、各国当局の連携である。Article 115 の中で、製造者は、情報公開法1049/2001に従い、非機密情報を新たな化学品局に直接通知するよう求められている。化学品局は、関連団体が商業的に問題があると宣言しない限り、要求があれば、この情報を公開する。化学品局のこの件に関する運用の詳細は、暫定期間中に発行予定のガイドラインに示される。所管当局の責任はTitle XII に記述されている。

9. 実施

(問い)
9.1. 欧州委員会は、REACHの開発時に、どのような実施のためのメカニズムを検討したのか?
(答え)
 REACHは、期待される能力を持った関係者と実施時に必要なことの両方を念頭に置いて開発されている。サプライチェーンの関係者、特に小規模企業はリスク管理の能力を持っていることを期待される(このことは現状の規制でも求められることである)が、リスク評価の能力は必ずしも必要としない。このことはまた、検査官にも求められる。化学物質の有害性及び潜在的リスクに関する知見は一般的に製造者と輸入者、及び各国機関/当局が有している。曝露シナリオは、リスク管理措置を含む使用の条件であり、実施される時には、物質の安全な取り扱いと使用を確実にするものである。したがって、サプライチェーンのリスク管理者がこれを理解し適用できるということが構成要素の一部となる。また、リスク管理の中で規定されている検査官も実施に参加できる。検査官には毒物学の深い知識が求められるわけではない。したがって検査官は、CSR/SDS 又は、実際には川下ユーザーによって展開されるCSR に記載されている曝露シナリオが実施されているかどうかチェックすることができる。各国の機関はこの情報に完全にアクセスすることができ、各国の機関は、曝露シナリオを適用することで生成される放出が十分に低いことをチェックすることができる。この概念は、現状の法規よりも容易に実施可能であり、より良い保護を実現できる。
(問い)
9.2. 欧州委員会は、REACHの分類と表示に関する規定の実施についてどのような展望を持っているのか?
(答え)
 産業界のリストは、彼らの分類と表示に基づく危険化学物質を製造又は輸入している全ての会社の名前と住所を含んでいる。供給者とは異なる分類又は表示をする全ての川下ユーザーもまた産業界のリストに記載されるであろう。したがって検査官の責任は、製品上及びSDS中の分類/表示に関し、産業界のリスト上の情報が本当に正しく会社の実施に反映されているかどうかをチェックすることである。分類と表示目録が分類/表示基準に違反していないかのチェック、登録の推進、又は調和分類の候補を見つけることが各国当局の責任となるであろう。したがって、化学品局(産業側の分類/表示のレビュー実施)と検査当局(産業側が彼ら自身の分類/表示を実施していることのチェク)の間に明確な責任分担がある。

10. 規定の見直し

(問い)
10.1.1. REACH提案によれば、1-10トンの情報要求は5年後に見直されるべきとしている。なぜこの見直しをもっと早くすることができないのか?
(答え)
 1-10トン物質の登録期限はREACH発効後11年後であり、見直しはこの期限より6年速く、また規定を見直す前に関連する経験を得るために、さらには、必要なら規定の変更を行うために、十分な時間をとることがでできる。

11. 審理される権利と提訴の権利
(問い)
11.1. REACH提案のどこで、会社は審理される権利を与えられているか?
(答え)
  • Art. 48(1) / 評価:更なる情報を要求する決定草稿についての所管当局へのコメント
  • Art. 61(5) / 認可:化学品局委員会の見解草稿についてのコメント
 さらに関係団体は下記に関するコメントが求められる。
  • Art. 55(3a) / 認可:Annex XIII に物質を加えるための勧告草稿
  • Art. 66(3a) / 制限:制限への提案
(問い)
11.2. いつ、産業側は提訴できるのか?
(答え)
 会社は、化学品局の決定に対し、特に下記の決定について、化学品局上告委員会に提訴できる。
  • Art. 7(10) / PPORD:条件に影響を及ぼす決定、又は PPORD免除の期限延長の拒否の決定
    PPORD (product and process orientated research and development) 製品及びプロセスの研究開発
  • Art. 18(4) / 登録:不完全であるとの理由で登録を拒否する決定
  • Art. 25(4) / データ共有:潜在的登録者にデータを開示する決定
  • Art. 28(2) / データ共有:SIEFメンバーにデータを開示する決定
    SIEF (substance information exchange forum) 物質情報交換フォーラム
  • 49(8) / 評価:更なる情報を要求する決定
  • Art. 115 (2) 及び( 6) / 情報公開:機密情報の申告を受け付けない決定、及び、文書への開示の全面的、又は部分的拒否
 さらに、産業側は、疑問や事務的な誤りがあれば、化学品局のどのような決定に対してもオンブズマン(行政監察官)に提訴をすることができる。さらに化学品局の上告委員会又は欧州委員会のどのような決定も欧州司法裁判所に提訴することができる。

12. REACH 及び他の共同体法令と国際条約との関係
12.1. 廃棄物法

(問い)
12.1.1. REACH の下では廃棄物はどのようになっているか?
 REACHは物質のライフサイクルをフォローしている。登録者が化学物質安全評価(CSR)を実施する時には、廃棄段階を考慮しなくてはならず、また、化学物質安全報告(CSR)の中で廃棄物管理措置に目を向けなくてはならない。これらの措置は、安全データシート(SDS)によりサプライチェーン中に伝達されなくてはならない。しかし、廃棄物処理はREACHの下では川下ユーザーではなく、したがって廃棄物処理業者は廃棄段階でその物質をどのように扱うのかに関するSDSを受け取らない。
 もし、廃棄物の回収により新規物質、調剤、又は成形品の製造という結果になるなら、REACHの規定はこの新規物質、調剤、又は成形品に適用される。
(問い)
12.1.2. プロセス廃棄物を登録する義務はあるのか?
(答え)
 ない。もしプロセス廃棄物が廃棄物として管理され処理されるなら、登録の必要はない。製造される物質が登録時にCSRを要求されるなら、その物質のCSRの中でプロセス廃棄物に起因するリスクが記述されなくてはならない。
 しかし、プロセス廃棄物が他の物質を生成するために使用される、又は、物質として又は調剤の中で市場に出されるなら、それはREACHの対象となる。
(問い)
12.1.3. 廃棄物処理からの残渣を登録する義務はあるか?
(答え)
 残渣が廃棄物である限り、すなわち、それらは廃棄され処理される(例えば、埋め立て又は岩塩鉱での保管)ものなら、それらはREACHの対象とならない。残渣が他の物質として又は調剤として使用されるなら、REACHの対象となる。
(問い)
12.1.4. より高い純度に蒸留された廃棄溶剤は登録する義務はあるか?
(答え)
 ある。物質の製造者は製造方法、又は原材料の由来に関わらず、登録を行わなくてはならない。しかし、もしその溶剤製造者が廃棄溶剤を蒸留し、その廃棄溶剤の蒸留物が彼の登録に含まれているなら、新たな登録を行う必要はない。
(問い)
12.1.5. 輸入した古紙又はスクラップ金属中の物質を登録する義務はあるのか?
(答え)
 古紙及びスクラップ金属は、REACHの下では調剤でも成形品でもなく、したがって、それらに含まれる物質は登録する必要はない。しかし、もし、その廃棄物が年間1トン以上の新たな物質を作るために使用されるなら、これらの物質はその製造者により登録される必要がある。
(問い)
12.1.6. Article 6 は、リサイクル物質から作られる成形品の製造者又は輸入者に適用されるか? 例えば、古紙からの新聞用紙
(答え)
 適用される。
注:新聞紙から物質が放出されることは意図されていないので、もし条件が Art. 6 para 2 を満たしていれば、 ほとんどの場合、Art. 6 の下に物質の届出だけが求められるはずである。
(問い)
12.1.7. 廃棄物処理業者はREACHの下では川下ユーザーか?
(答え)
 廃棄物の処理そのものは、物質又は調剤の用途ではなく、したがって、廃棄物処理業者はREACHの下では川下ユーザーではない。
(問い)
12.1.8. 廃棄物は認可から免除されるのか?
(答え)
 許可された廃棄物処理は、認可要求から免除される。しかし、変換プロセスにより生成され、市場に出され、又は使用される新規物質、調剤、及び成形品という形でリサイクルされた製品に対しては、それらに含まれる物質の量により認可が適用されるかもしれない。
(問い)
12.1.9. 制限は廃棄物に適用されるのか?
(答え)
 許可された廃棄物処理は、制限要求から免除される。しかし、新規リサイクル物質、調剤、及び成形品という形でリサイクルされた製品は、他の物質、調剤、及び成形品のように制限が適用される。
12.2. 国際条約とプログラム

(問い)
12.2.1. 欧州委員会は現在の国際的な化学物質管理体制を考慮しているか? それらは有害な化学物質の有害影響を効果的に防いでいるか? それらはREACH体制の、又はその一部の、ベースとなるのか?
(答え)
 我々は既存の国際プログラムを考慮しているし、それらから示唆も受けている。しかしそれら自身だけでは要求される保護レベルを十分に満たすことはできない。既存の体制は人間の健康と環境のために必要な保護を提供しなかった。我々は、REACHがこれらの活動に大きく貢献し、既存のシステムと矛盾しないと信じている。我々はGHSを実施し、REACH発効と時期が同じになるよう計画している。
(問い)
12.2.2. その他関連する国際的な活動があるか?
(答え)
 関連するその他の国際的活動分野としては下記がある。
  • 持続可能な発展のための世界首脳会議(WSSD)、特に WSSD 実施計画
  • 国連環境計画(UNEP):国際的な化学物質管理に対する戦略的なアプローチを展開(多分野高官会議が2005年後半に予定されている)
  • OECD:高生産量化学物質(HPV)の系統的なテスト・評価のための共同行動計画の展開
 さらに、新たなIUCLID (IUCLID 5) を OECD と共同で開発中である。IUCLID 5 は国際的に認められ、REACHと整合性があるデータ様式、及び、OECD諸国における様々な規制への報告書とともにREACH登録時にも使用されるテンプレートを含むであろう。

13. 競争力

13.1. 機密

(問い)
13.1.1. REACHは化学物質の公開リストに関わる機密をどのように確保するのか? REACHは透明性をどのように確保するのか?
(答え)
 REACHは、化学物質について、特に安全と環境への側面に関し、大幅に情報を公開する。しかし、また産業側の企業秘密保護のための合法的権利も尊重する。

 REACH提案は下記を含む。
  • 決して機密であってはならない安全性に関わるデータのリスト(例えば、急性毒性、抗原過敏性など物質の特性)。
  • 常に機密であると見なされる項目のリスト(例えば、会社毎の正確な生産量、調剤中の成分についての詳細リスト)。
  • これらのリストにない項目は原則として機密ではないと見なされるが、産業側は、もし第三者から公開の要求があった時に、それらの項目は機密であると主張することはできる。化学品局はそのような機密であるとの主張が正当であるかどうか決定する。
(問い)
13.1.2. 商業的に繊細な情報はどのように保護されるのか?
(答え)
  • 化学品局及び所管当局に提出される全ての情報は、機密情報のリストにない限り、原則として非機密である。
  • 登録者は、ひとつあるいはそれ以上の情報は機密であると要求してもよい。安全性確保に対する重要性のために、ある情報は機密とはされないかもしれない。登録者はそのような要求の正当性、例えばその情報が商業的に繊細であること、を示さなくてはならない。
  • 化学品局はそのような要求に同意するかどうか決定する。
  • REACHのITシステムは、情報は必要に応じて容易に保護できる又は公開できるように設計される。
(問い)
13.1.3. REACHは調剤の正確な処方の公開を求めるのか?
(答え)
 求めない。正確な処方は機密情報リストの一部である。
13.2. 中小企業

(問い)
13.2.1. 中小企業に対し、異なる要求が導入されることはあり得るか?
(答え)
 中小企業(SME)はEUの化学産業の重要な一部であり、その理由のために我々は提案が彼らにもまた実行可能となるよう全力を傾けた。安全は重要な関心事であるので、REACHの情報要求は会社の規模に関係なく、化学物質の生産量、用途、そして特性に関連し、会社の売上高や従業員数には関連しない。
(問い)
13.2.2. 大企業と中小企業では資金力、技術、及び人材の点において大きな差がある。中小企業はREACHの事務処理において大企業より大きな困難に直面するであろう。欧州委員会はREACH規制を立案中に、大企業と中小企業との異なる利害のバランスをどのようにとったのか?
(答え)
 多くの場合、中小企業は他の会社に比べて年間1-10トンレベルの登録が多いと考えられる。したがって、彼らはREACH発効後11年年間は登録しなくてもよい。これらの生産量に対する情報要求はもっと生産量の多い物質に比べて軽く、化学物質安全報告書(CSR)の作成も必要ない。研究開発の免除は延長されており、革新を、特に特殊化学物質分野による革新を推進している。現状の規制では新規物質は年間10kgから登録が必要であるのに反し、REACHでは年間1トン未満は登録が必要ない。これもまた、中小企業の負担を減らすことになる。
 ほとんどの中小企業は川下ユーザーである。REACHは彼らに対する負荷を軽減するよう設計されている。
(問い)
13.2.3. 中小企業が得る恩恵はどこあるのか?
(答え)
 製造者としての中小企業は多くの措置によって恩恵を得る。
  • 製品及びプロセスの研究開発に使用される物質のテスト要求の免除。年間1トン未満の研究用物質についてはもちろん、登録の必要がない。
  • 1トン未満の物質は登録不要
  • 低生産量物質に対する情報要求の軽減(登録閾値は製造者・輸入者当たり年間1トン、1-10トンの物質については、通常、試験管テストのみ)。情報要求は幅広い方法で対応できるので、中小企業がテスト費用を回避する助けになる(Annex IX)。曝露管理が登録時の情報削減を正当化するために用いられ、これもまた、中小企業のテスト実施を回避する助けになる(Annex IX)。
  • 現状法規制における数年間にわたる集計量により更なる情報が要求されるという規定は削除された。このことは長年にわたり少量の物質を製造し続ける中小企業を益する。
  • 事務的煩雑さとコストを以前に登録した登録者たちと共有することができる。
  • コンソーシアムの形成が推奨される(Art. 12)。コンソーシアムメンバーは登録料が3分の1に低減される。このことは書類作成のコストを分担することで中小企業はかなりの金額を節約することができる。
  • 1-10トンの物質については化学物質安全評価が要求されない。
  • 動物テスト・データの強制的な共有もまた、川下の中小企業登録者に有益であろう。
 川下の中小企業
  • ”判明している用途”: 各登録者は全ての判明している用途を記載しなくてはならない。川下ユーザーは、登録時に彼らの供給者が特定した用途を知る権利がある。川下ユーザーが安全評価を行わなければならない”意図しない用途”は、川下ユーザーが自分の用途を秘密とすることを選択した場合以外はほとんどなくなり、供給者が登録コストを顧客、その多くは中小企業、に上乗せすることは限定される。
  • 金と時間がかかるプロセスの回避: ひとつの企業に与えられた認可は、認可の条件が維持されるなら、彼らの顧客が使用することができる(Art. 63)。
  • サプライチェーンに伝達される情報: 業界ではすでに知られているがREACHの目的に合わせるために手間がかかる情報を安全データシートにより最適利用することができる。
 暫定戦略では中小企業がこの業務を実施するのを支援するためのガイドラインとソフトウェア・ツールを開発する。(参照:http://ecb.jrc.it/REACH/
13.3. 貿易問題

(問い)
13.3.1. REACHが発効すると、化学物質貿易に影響を与えることは必然であり、貿易不均衡をもたらし、貿易論争となるかもしれない。欧州委員会はこれらの潜在的な問題をどのように解決しようとしているのか?
(答え)
 我々は、貿易論争が生じる理由がみつからない。REACHは、完全にWTOと整合するよう設計されている。インターネット・コンサルテーションはTBT Art. 2.9.1.の下に事前にWTOに知らされている。REACH提案は、2004年1月24日にTBT 協定の下にWTOに通知されている(通知 G/TBT/N/EEC/52)。コメントに対する当初の期限は通知後90日に設定された。WTOのいくつかの国のメンバーからの要求によって欧州委員会はその期限を2004年6月21日(すなわち、150日)に延長した。アメリカ、日本、カナダ、中国、ブラジル、オーストラリア、チリー、シンガポール、台湾、タイ、キューバ、アメリカ化学産業協会(ACC)、及びアジア太平洋経済協力会議(APEC)化学ダイアローグ運営委員会からコメントがあった。欧州委員会は2004年10月28日にこれらのコメントに回答した。
訳注:
WTO 宛日本政府コメント(2004年6月21日) EUの新化学品規則(REACH)案TBT通報(G/TBT/N/EEC/52)に対する日本政府コメント
(問い)
13.3.2. REACHの実施に当たり、発展途上国に猶予期間を与え、モントリオール条約のオゾン層保護に関する規定の実施におけるように資金的、技術的支援を与えることは可能か?
(答え)
 猶予期間を与えることはできない。我々は物質の出所で差別することはできない。支援は、例えば、技術支援プログラムなどが可能かもしれない。化学品局の役割は、欧州委員会の要求に基づき、発展途上国の遂行能力という観点で支援するということを留意する必要がある。このことは今後、欧州委員会が検討するであろう。
(問い)
13.3.3. 欧州連合(EU)はREACH 規制が貿易に与える負の影響をどのように低減しようとしているのか?
(答え)
 広範なガイダンス、ソフトウェア・ツールなどが入手できるであろう。もし会社が、登録しなければならない量の物質を製造しているなら、その安全使用を示すために必要なリソースを準備すべきであると我々は考える。もしそれができないなら、彼らはそのような物質を製造すべきかどうかの疑問を呈する人がいるであろう。
(問い)
13.3.4. EUから輸出される物質はREACHの対象か?
(答え)
 対象である。原則として製造はREACHの対象範囲であり、登録は特にこれにあたる。
(問い)
13.3.5. REACH体制が発効した後、非EU諸国からEUへの化学物質の輸出に与える負の影響を取り除くアイディアは何かあるか?
(答え)
 会社は準備を入念にすべきである。サプライチェーンにおける情報伝達が重要である。REACHの展開における高度な透明性と対話がこのこにと関して役に立つであろう。
13.4. 革新

(問い)
13.4.1. REACHはどのようにして革新とより安全な発展を推進するのか?
(答え)
 産業の競争力を強化するために、REACHの目標のひとつは研究開発と革新を推進することである。
 例えば、:
  • 製品又はプロセス開発用の物質は5年間は登録を必要とせず、さらに5年の更新が可能である(医療製品に使用される物質は最大15年の免除)。
  • REACHの登録のための閾値(年間1トン)は、現在の新規物質に対する閾値である10kgよりはるかに高い。
  • 新規物質の登録コストは、現状の届出コストよりはるかに低い。
  • 登録は現状の届出より迅速であり、したがって市場に出すまでの時間を短縮する。
  • 認可のための要求は、会社がより安全な代替を探求することを奨励することになる。
  • 新規物質と既存物質の差別はなくなる。
  • 少量生産物質に対する情報要求は小さい。
  • PPORD の定義範囲が広い。
    PPORD (product and process orientated research and development) 製品及びプロセスの研究開発
13.5. 影響評価

(問い)
13.5.1. 現在、製造及び輸入されている単体物質及び調剤中の物質に関し、川下ユーザーが自分たちへのREACHの影響を見積もるために、化学物質の全ての製造チェーンにおいて関連する詳細を入手することが可能か? 川下ユーザーには不明の他の化学物質によって(EU域内又は域外で)製造される化学物質はどのようにして見積もることができるか?
(答え)
 欧州委員会は、及ぼす影響評価を全ての分野に関して実施することができる立場にはない。しかし、各分野は自身で、物質と調剤の生産量と輸入量を欧州委員会統計局(Eurostat)のデータベース、COMTEX など、多くのソースから見積もることができる。それは、商業サプライチェーン中でのより良い情報伝達を推進するためのREACH規制案の基本的な目標の一つであり、これはそのような活動が、まだとられていなければ、有用である領域のひとつである。
 欧州委員会は、産業界が高いと主張するコストを調査するために産業界の利害関係者ととも多くの更なる集中した調査を下記分野で実施中である。
  • 川下ユーザーに不可欠な物質の入手可能性と製品の市場からの撤退
  • 革新に与えるREACHの影響
  • 応諾国に与えるREACHの影響
 これらの調査の準備はすでになされており、これらの事例研究からの結果は2004年末頃に出ることが期待される。
 平行して、欧州委員会は、すでに拡大影響評価(Extended Impact Assessment)の中に含まれている便益の評価を補足する環境と人間の健康に与えるREACHの影響を評価する調査に着手した。


付属:略語と定義
A. 略語

C&L classification and labelling 分類と表示
CMR substances that are carcinogenic, mutagenic, toxic for reproduction 発がん性・変異原性・生殖毒性
CSA chemical safety assessment 化学物質安全評価
CSR chemical safety report 化学物質安全報告
DNEL(s) derived no effect level(s) 導出無影響レベル
ES exposure scenario 曝露シナリオ
PNEC(s) predicted no effect concentration(s) 予測無影響濃度
DU downstream user 川下ユーザー
GLP good laboratory practice 検査機関における業務管理基準
M/I manufacturer / importer 製造者/輸入者
PBT substances that are persistent, bioaccumulative and toxic 残留性・生体蓄積性・有毒性
vPvB substances that are very persistent, very bioaccumulative 高残留性・高生体蓄積性
RMM risk management measures リスク管理措置
SDS safety data sheet 安全データシート
SIEF substance information exchange forum 物質情報交換フォーラム
B. 定義
 REACHに対し、下記の定義が適用される。

  1. 物質とは、自然状態又は製造プロセスによって得られる化学的要素及びその化合物のことであり、その安定性を確保するために必要な添加剤及び使用されるプロセスに由来する不純物を含むが、その物質の安定性に影響を与えずに又はその組成を変えずに分離される溶剤は含まない。

  2. 調剤とは、2又はそれ以上の物質からなる混合物又は溶液のことである。

  3. 成形品とは、1又はそれ以上の物質又は調剤からなる物体であり、製造中に、化学合成物よりもはるかに大きな程度で、最終用途の機能を決定する特定の形状、表面、又はデザインが与えられる。

  4. ポリマーとは、1又はそれ以上のモノマー要素の連続により特徴付けられる分子からなる物質のことである。そのような分子は幅広い範囲の分子量を持つが、分子量の相違は主としてモノマー要素の数の相違のためである。ポリマーは下記からなる。
    1. 少なくとも他の一つのモノマーと共有結合した少なくとも3つのモノマー要素を含む a simple weight majority of molecules
    2. 同じ分子量を持つ a simple weight majority of molecules 以下のもの

    この定義に関し、”モノマー要素”はポリマー中のモノマー物質の反応形態を意味する。

  5. 登録者とは、登録書を提出する製造者又は輸入者のことである。

  6. 製造(Manufacturing)とは、自然状態にある物質からの製造(production)と抽出のことである。

  7. 製造者(Manufacturer)とは、共同体内で物質を製造する共同体内で確立した人又は法人のことである。

  8. 輸入とは、共同体の税関内への物理的導入のことである。

  9. 輸入者とは、輸入に責任ある共同体内で確立した人又は法人のことである。

  10. 市場に出す(上市)とは、有料であろうと無料であろうと、第三者に供給する又は入手を可能にすることである。共同体の税関内への輸入は上市と見なされる。

  11. 川下ユーザーとは、製造者又は輸入者以外の共同体内で確立した人又は法人であり、産業上又は職業上の活動の過程で物質を自身で又は調剤中で使用する者のことである。。
     流通業者又は消費者は川下ユーザーではない。Article 4(2)(c) で免除される再輸入者(re-importer)は、川下ユーザーと見なされる。

  12. 用途とは、あらゆる加工、処方、消費、貯蔵、保持、処理、容器への充填、ひとつの容器から他の容器への移し換え、混合、成形品の製造、又はその他のあらゆる利用のことである。

  13. 流通業者とは、共同体内で確立した人又は法人であり、第三者のために単独物質又は調剤中の物質を保管し、市場に出す小売業者を含む。

  14. 中間体とは、他の物質(以後、合成物質と呼ぶ)に変換するための化学プロセスで製造されて消費され又は使用される物質のことであり:
    1. 非分離中間体とは、合成が行われる装置から意図的に除去されることはない(サンプリングを除く)中間体である。そのような装置は、反応容器、補助機器、ひとつの容器から次の反応容器への搬送のための配管など連続流体又はバッチプロセスで物質を流す装置を含むが、製造後に物質を貯蔵するためのタンク又はその他の容器は除外する。

    2. 現場分離中間体とは、非分離中間体の基準に適合しない中間体で、その中間体及び、その中間体からの他の物質の合成物質の製造が、同一の現場で、1以上の法的組織により行われ、操業される場合。

    3. 輸送分離中間体とは、非分離中間体の基準に適合しない中間体で、他の現場に輸送又は供給される。

  15. 現場とは、単一の場所であり、1又はそれ以上の物質が製造される場合には、それらの製造のために設備や用役が共有される。

  16. サプライチェーンの関係者(actors)とは、製造者及び/又は輸入者及び/又は川下ユーザーのことである。

  17. サプライチェーンへ情報伝達とは、サプライチェーンの各関係者が物質を供給する川下ユーザーに情報伝達することである。

  18. サプライチェーンからの情報伝達とは川下ユーザーが物質を供給するサプライチェーン中の関係者に情報を伝達することである。

  19. 所管当局(Competent authority)とは、このREACH規制によって生じる義務を遂行するために加盟国によって設立された当局担当官又は当局組織のことである。

  20. 段階的導入物質とは、REACH規制の発効以前15年間にわたって、少なくと下記基準のひとつに適合する物質のことである。
    1. 共同体内又は2004年5月1日に欧州連合(EU)に加盟する国々で(に)製造者又は輸入者により製造又は輸入され、欧州既存化学物質目録(EINECS)にリストされている物質
    2. 共同体内又は2004年5月1日に欧州連合(EU)に加盟する国々で製造されたが、まだ製造者又は輸入者により上市されていない物質
    3. 共同体内又は2004年5月1日に欧州連合(EU)に加盟する国々で上市され、また、1981年9月18日と1993年10月31日の間に製造者又は輸入者により上市され、指令79/831/EEC(46)によって修正された指令67/548/EEC の Article 8(1) のfirst indent にしたがって届出たと見なされるが、指令92/32/EEC(47)指令によって修正された67/548/EECで規定されるポリマーの定義に適合しない物質
     製造者又は輸入者はこれらの証拠を文書で持っている必要がある。
    (注)
     46 OJ L 259, 15.10.1979, p. 10
     47 OJ L 154, 5.6.1992, p. 1

  21. 届出られた物質とは、指令67/548/EECにしたがって届出が提出され、上市できた物質のことである。。

  22. 製品・プロセス用研究開発とは、製品開発に関連するあらゆる科学的開発、製造プロセスを開発するため及び/又は物質の現地テストのためのパイロット・プラント又は製造試験での物質の更なる開発のことである。

  23. 科学的研究開発とは、管理された条件下で年間1トン以下の量で実施される、あらゆる科学的実験、分析、又は化学的研究のことである。

  24. 登録者自身の用途とは、登録者の産業用又は職業用の用途のことである。

  25. 特定された用途とは、サプライチェーン中の関係者により意図された、又は、文書によって直下の川下ユーザーに知らされ、及び関連する川下ユーザーに伝達された安全データシートにカバーされる、物質それ自身又は調剤中での用途、又は調剤の用途のことである。

  26. 望ましくない用途とは、登録者の勧告に反する川下ユーザーの用途のことである。

  27. 確固とした調査概要とは、調査の独立した評価をを行う上で全調査報告書を詳しく調べる必要を最小限にすることを可能にする全調査報告の目的、方法、結果、及び結論の詳細概要のことである。

  28. 年間当たりとは、特に記述がない限り、カレンダー年当たりのことである。

  29. 制限とは、製造、使用、又は上市のための条件、又は禁止のことである。


化学物質問題市民研究会
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