EU 新化学物質政策 REACH Q&A

情報源:EU MEMO/03/213 Brussels, 29 October 2003
Q and A on the new Chemicals policy REACH


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年2月11日(全訳掲載)

 質 問
  1. なぜ新たな EU 化学物質政策が必要なのか?
  2. 新たな化学物質政策の全体的な戦略は何か?
  3. REACH における登録はどのようにするのか?
  4. 登録毎にテストが必要なのか?
  5. 評価とは何か?
  6. 認可とは何か? どのような化学物質に対し認可が必要なのか?
  7. REACH の下で全ての化学物質を登録するのにどのくらいの期間を要するのか?
  8. 評価が求められる高リスク物質はどのような分類に属する物質か?
  9. 市場にある全ての化学物質に対し、登録、評価、及び認可が求められるのか?
  10. ある物質が登録、評価、認可されたなら、どのような分野の適用においても使用することができるのか?
  11. REAH から除外される化学物質はあるのか?
  12. 危険な物質の使用は制限あるいは禁止されるのか?
  13. 農薬、医薬品、及び化粧品中の化学物質は REACH の対象となるのか?
  14. 塗料のような混合物は登録が求められるのか?
  15. 日用品に含まれる化学物質は登録が求められるのか?
  16. 化学物質を含む製品には表示が求められるのか?
  17. 消費者はデータベースに登録された化学物質に関する情報にアクセスできるのか?
  18. REACH と現行の化学物質管理システムはどのように違うのか?
  19. REACH に関わることを誰が行うのか?
  20. REACH の下で EU 加盟国当局の役割は何か?
  21. 新たな”欧州化学品機構”の役割は何か?
  22. 欧州委員会の役割は何か?
  23. REACH の下で産業界はどのような責任を負うことになるのか?
  24. REACH は中小企業に対しどのような影響を与えるのか?
  25. REACH はどのように、より安全な代替物の革新と開発を促進するのか?
  26. REACH はどのくらいのコストがかかるのか?
  27. REACH の主なる利点は何か?
  28. REACH により、市場から消える物質もあるのか?
  29. REACH により、もっと多くの動物テストが必要となるのか?
  30. REACH は EU の他の法律をどのように補完するのか?
  31. REACH 採用の前に、どのような協議が行われたのか?
  32. インターネット・コンサルテーションでは、どのような人々が意見を寄せたのか?
  33. インターネット・コンサルテーションにより、どのような問題が提起されたのか?
  34. インターネット・コンサルテーションにより、どのような変更が行われたのか?
  35. 化学物質の安全性に関する既存の国際的な取り組みには、どのようなものがあるのか?
  36. REACH 提案は WTO と整合性があるのか?
  37. 新たな政策の法的根拠は何か?
  38. この提案はどこで入手することができるのか?
 用語解説と略語


  回 答
1. なぜ新たな EU 化学物質政策が必要なのか?

 現行の化学物質に関する法的枠組みは不十分である。それは人間の健康と環境に与える化学物質の影響について十分な情報を生み出してこなかったし、リスクが存在することが分かっている場合にも、リスク評価を行い、リスク管理措置をとるのに時間がかかった。これらの欠陥は潜在的に人間の健康と環境にリスクを及ぼすものである。
 現行のシステムはまた、研究と革新を阻害し、 EU の化学産業界がアメリカや日本などの競争相手国から遅れをとる原因となる。

 現行の法は、いわゆる ”既存” と ”新規” の化学物質を、1981年を境として区別している。1981年以前に市場に投入された全ての化学物質は ”既存” の化学物質と呼ばれる。1981年時点でそれらの化学物質は100,106種、存在した。
 1981年以降に導入された化学物質は ”新規” 化学物質と呼ばれている。

 現行の”新規” 化学物質は市場に出す前にテストをすることが要求されるが、100,106種の ”既存” 化学物質にはそのような規定はない。大量に製造される ”既存” 物質に関する情報を要求する欧州委員会規制(Commission Regulation)が存在するが、どの物質が検証されるべきかを決定するのは各国当局の手に委ねられており、その実施も各国当局自身が行うことを求められる。手続きに時間がかかり煩雑である。例えば、1993年以来、公式にリスク評価され(署名され)た大量製造化学物質は140種類だけである。現在までのところ、適切なリスク管理措置の合意を含めて、非常に限られた数の化学物質しか、このプロセスを完了していない。

 現行の”新規” 化学物質は、年間製造量が10kg以上の場合、届出とテストが求められ、製造量が1トンを超える場合にはさらに詳細なテストが求められる。このことは研究開発の足かせとなり、革新を抑えることとなる。また、テストが行われていない”既存” の化学物質を使い続けることが安易であり安価であるので、それを選択させることとなる。
 1981年以来、導入された化学物質の数は約3,000である。


2. 新たな化学物質政策の全体的な戦略は何か?

 2つの重要な狙いは、人間の健康と環境を化学物質の危険から保護すること、及び、EU の化学産業の競争力を強化することである。

 2001年2月に発表された 『 White Paper on the Strategy for a Future Chemicals Policy, published in February 2001 (COM (2001) 88) 将来の化学物質政策の戦略に関する白書 』 で、欧州委員会は、化学物質の登録、評価、及び、認可のシステム、すなわち REACH システムを通じて、化学物質のための高いレベルの安全性と化学産業界の競争力を確保する戦略を示した。

 この白書は、持続可能な開発の全体の枠組みの中で、バランスをとることが必要な7つの目的に基づいている。すなわち:
  • 人間の健康と環境の保護
  • EUの化学産業の競争力の維持と強化
  • 域内市場の崩壊の防止
  • 透明性の増大
  • 国際的な取組みの統合
  • 非動物実験の推進
  • WTO(国際貿易機関)の下での EU の国際的義務の遵守
 欧州委員会が2003年10月29日に提案したこのシステムは、これらの目的全てを達成するものである。従って、それは3つの領域:経済(産業競争力)、社会(雇用)、及び環境(人間の健康と環境の保護)においてこれらの目的を追求することで持続可能な開発の一つのモデルを表すものである。
3. REACHにおける登録はどのようにするのか?

 登録は REACH の基本である。製造者及び輸入者は扱う物質の性状に関する情報を収集し、中央のデータベースに登録書類一式を提出することが求められるが、これらのことは、それらの物質を安全に管理する上で製造者及び輸入者に役立つことである。
 製造者/輸入者毎に年間 1 トン以上製造/輸入される全ての物質は登録することが求められる。ヨーロッパ レベルの新たな独立機関(欧州化学品機構)が登録書類を受付け、データベースを管理する。
 情報に関する要求内容は物質の量に大きく依存するが、特定の物質についてはその物質の固有の特性と使用条件によって決定される。

 登録には下記の情報が必要である。
  • 物質毎の固有の特性と危険性(物理化学的特性、毒物学的特性、及び生態毒物学的特性など)
    これら情報を入手できないならば、コンピュータ・モデル、疫学的調査、あるいはテストなど様々な方法を通じて探し出すことができる。動物テストが必要な場合、各社が既存データを共有することにより、動物テストを最小とするようにする。これにより、関連するコストを下げることにもなる。動物テストに関する提案は、”書類評価”の対象となる。

  • 輸入者又は製造者又はその顧客によって特定される物質の用途

  • 製造者/輸入者毎に年間 10 トン以上製造/輸入される物質に関しては、用途毎の、人間の健康と環境に対するリスク評価、及びそれらのリスクをいかに適切に管理する>に関する化学物質安全性報告書(CSR)を提出する。
    10 トン未満の物質については、安全データシート(SDS)のために作成される安全データが技術書類の一部として提出される。
 大量の ”既存” 物質に対処するために、段階的アプローチが提案されている。登録期限は市場に出回っている量と危険性によって設定される。非常に大量な物質(1,000 トン以上)、及び、 1 トン以上の発がん性物質、変異原生、又は生殖毒性のある物質に対し、最短の期限が設定される。
 これらは3年以内に登録することが求められる。


4. 登録毎にテストが必要なのか?

 必ずしもその必要はない。すでに多くの情報があり、 REACH では既存の情報を提出することが許される。新たなテストは、十分な情報がなく、他の情報源が適切ではない場合にのみ要求される。登録者らは動物テストのデータを共有することが求められる。これより多くの新規テストを避けることができる。


5. 評価とは何か?

 2種類の評価がある。書類評価と対象物質の評価である。両方とも加盟国において資格のある担当官が実施する。
 書類評価では動物テストの提案についてチェックし、不必要な動物テストを回避する。登録書類も、登録要件に合致していることを確認するために審査対象となることがある。
 物質評価は、その物質が人間の健康又は環境にリスクを及ぼすかもしれないと信ずるに足る理由があれば (例えば、その分子構造が他の物質に似ている) 実施される。従って、物質評価においては、同一物質に関し他者から提出された全ての登録書類を調べ、有効な情報があればそれを考慮する。
 物質評価は人間の健康及び環境に対し最大のリスクを与えるかもしれない物質を対象とすることになる。欧州化学品機構は、物質評価の優先度決定を支援するリスク・ベースの基準を開発する。

 このシステムが効率的に機能するよう、案件ごとに、各加盟国から資格ある担当官が 1 名任命され、各国持ち回りで(rolling plans)評価が実施される。評価の結果、登録者は、登録要件に合致させるか、あるいは、リスクを明確にするための追加情報を提出しなくてはならないことがある。
 もし全ての加盟国が追加情報提出要求に合意すれば、欧州化学品機構はそのように決定する。全ての加盟国の合意ではない場合には、追加情報を提出させるかどうかを欧州委員会が決定する。
6. 認可とは何か? どのような化学物質に対し認可が必要なのか?

 非常に高い懸念がある全ての物質は認可の対象となる。認可は当該物質の個々の用途に対して適用される。認可は、製造者又は輸入者が当該物質の使用が適切に管理される、あるいは社会経済的な利益がリスクよりも重要であるということを示すことができた場合にのみ、与えられる。後者の場合には代替物質の可能性の検討が推奨されている。
 認可の決定にあたっては、例えば、産業側が代替物を研究していることを示す代替案計画を考慮に入れる。
 第三者組織もまた、可能性ある代替物質又は代替技術について欧州化学品機構に情報を提供することができる。
 認可の対象となる物質の例:
  • CMRs (発がん性、変異原生、又は生殖毒性)分類1及び分類2
  • PBTs (残留性、生体蓄積性、及び有毒性)
  • vPvBs (非常に残留性が高い、非常に生体蓄積性が高い)
  • 人間と環境に対し上記3つの分類と同等の、深刻で非可逆的な影響を与えるものと特定された物質
    例えば、ある種の内分泌かく乱物質 (これらはケースバイケースで特定され、認可対象とされる)

7. REACH の下で全ての化学物質を登録するのにどのくらいの期間を要するのか?

 すでに市場に出ている既存物質は段階的に REACH に取り込まれる。
 大量物質及び CMRs が最初に登録されなくてはならない。登録期限は本規制発効後、下記期限から逆算される。
  • 3年以内:高生産量化学物質(製造者又は輸入者当たり年間1,000トン以上)及び 1 トン以上の CMRs
  • 6年以内:製造量が100〜1,000トン
  • 11年以内:低生産量化学物質(1〜100トン)

8. 評価が求められるかもしれない高リスク物質はどのような分類に属する物質か?

 既知の CMRs が最初に登録されなくてはならないが、3つの分類に属する全ての物質が評価を求められる。詳細に関しては、登録書類を受け取るまでわからない。


9. 市場にある全ての化学物質に対し、登録、評価、及び認可が求められるのか?

 全ての物質ではない。

 製造者又は輸入者当たり年間 1 トン以上製造又は輸入される化学物質のみが REACH に登録されなければならない。このことは、市場に出ている約30,000種の物質について登録の必要があるということを意味する。これら30,000種のうち約20,000種の製造量又は輸入量は1〜10トンである。

 評価されるべき物質の数は、加盟国当局の考えに依存するが、白書では約20%の物質が評価プロセスにかけられると予測している。

 非常に高い懸念のある1,500物質位までの物質が認可の対象となる。

 約40,000の中間体は登録する必要があるが、その登録要件は他の物質に比べて著しく軽いものとなる。


10. ある物質が登録、評価、認可されたなら、どのような分野の適用においても使用することができるのか?

 そうではない。
 一つの物質は個々の用途ごとに登録、評価、認可される。他の用途に物質を使用したいと望む製造者は、その特定領域での適用に関する登録を更新しなくてはならない。もしその物質が非常に高い懸念のある物質なら、新たな分野での使用もまた新たな認可対象となる。


11. REAHから除外される化学物質はあるのか?

 非分離(non-isolated)中間体は完全に適用を免除される。中間体とは他の化学物質を製造するために使われる化学物質である。非分離中間体は、その化学系内部では他の化学物質混合物から決して分離されることはない。

 分離中間体は登録される必要があるが、そのリスクの低さに比例して登録情報要件は簡素化されている。

 ポリマーは登録と評価から免除された。しかし、欧州委員会は、健全な技術と有効な科学的基準に基づいた現実的でコスト効果のあるポリマーの危険性を特定する方法が確立されるならば、ポリマーの登録を導入するかもしれない。

 ポリマーとは、小さな化学分子単位(モノマー)がいくつも結合した大きな分子構造からなり、プラスチックがポリマーの一例である。


12. 危険な物質の使用は制限あるいは禁止されるのか?

 多くの危険な化学物質は、換気の励行、防護服の着用など正しいリスク管理措置が守られるなら、安全に使うことができる。REACHでは、非常に高い懸念のある物質は認可(Authorisation)対象となり、その他のどのような物質も制限(Restriction)対象となりうる。制限は REACH システムの安全ネットである。欧州委員会は、社会経済的要素を十分考慮したうえで、許容できないリスクを及ぼすどのような物質に対しても、 EU レベルで制限を導入することができる。
 制限には、特定製品の使用禁止、消費者の使用禁止、あるいは完全な禁止がある。


13. 農薬、医薬品、及び化粧品中の化学物質は REACH の対象となるのか?

 あるものは対象となり、あるものは対象とならない。
 REACHは、EUの法体系で補完はするが、重複はしないよう考慮されている。


14. 塗料のような混合物は登録が求められるのか?

 REACH システムは物質(成分)ベースなので、登録が必要なのは混合物(調剤)中の物質(成分)であり、調剤そのものではない。調剤が販売される時には、それに添付される安全情報は調剤全体に適用される。


15. 日用品に含まれる化学物質は登録が求められるのか?

 靴や繊維製品など、ほとんどの日用品が化学物質を含んでいる。それらの中には、もし排出されれば、環境と健康に対して潜在的に危険なものがある。その製品の使用特性からして排出することが前提となっており(例えば、カートリッジ中のインク)、その物質が危険物質と分類されるなら、登録が要求される。製造量要件と情報要件は他の物質と同じである。

 その製品の使用上の機能として、意図して排出するようには設計されていないが、排出が起きるものについては(例えば、耐火壁から放散されるホルムアルデヒド)、その物質は欧州化学品機構に報告され、同機構が登録が必要かどうかを決定する。


16. 化学物質を含む製品には表示が求められるのか?

 必ずしも必要ではない。全ての製品は化学物質を含んでおり、ほとんどの製品が安全だからである。しかし、産業側はその使用が安全であることを示さなければならず、このことが安全な使用についての表示と注意書きを要求することになるかもしれない。


17. 消費者はデータベースに登録された化学物質に関する情報にアクセスできるのか?

 アクセスできる。主要な安全情報の多くは、欧州化学品機構のウェブサイトからオンラインで入手でき、それ以上についても要求すれば入手できる。


18. REACH と現行の化学物質管理システムはどのように違うのか?

 現在の法の下では、各国当局は、市場に出ている化学物質の安全性に関する問題を特定し取り組むことが求められている。REACH は、化学物質のリスク評価とその安全な使用の責任を産業側に求めることにより、このバランスを変えることを目指している。同時に、新しいより安全な化学物質を開発するための動機を与え、結果的に EU 産業界の競争力を守るような方法がとられるよう、システムの効率改善が図られている。

 現行のシステムにおいて情報伝達のために使用されている安全データ・シート(SDS)は、 REACH においても引き続き使用される。この SDS は、よく理解されており、国際的に認められた、化学物質の危険性、リスク、及び、リスク削減措置についての情報伝達ツールである。 REACH の下で展開される情報のための主要な伝達ツールとして使用されるであろう。

現行のシステムと REACH の比較
現行のシステム REACH
ヨーロッパ市場に上市されている多くの化学物質についての知識に空白がある。 製造者又は輸入者当たり年間 1 トン以上製造又は輸入される化学物質について安全性情報を用意することで知識の空白がなくなる。
立証責任は当局にある。当局は化学物質を制限する前に、その物質が安全ではないということを立証する必要がある。 立証責任は産業側にある。当該化学物質が安全に使用されることを立証しなければならない。
サプライチェーンの全ての当事者は、彼らが取り扱う化学物質の安全性を確保する義務がある。
新たな物質の届出義務は製造量 10 kgから生じる。この製造量においても、動物テストが 1 件は必要である。 1 トンでは、他の動物実験を含む一連のテストを実施しなくてはならない。 製造/輸入量が 1 トン以上になると登録が必要である。可能な限り動物テストを少なくする。
市場に新たな物質を投入するために比較的コスト高である。そのために ”既存” のテストの行われていない化学物質を使用し続けようという意図が働き、新規物質への革新を妨げる。 REACH の下では下記により、新たな物質への革新が促進される。
研究と開発のための規制免除、新規物質の登録コスト低減、及び、認可及び制限の決定に対する代替物質の検討の必要性。
各国当局は時間がかかり煩雑な包括的リスク評価を実施する義務がある。 産業側は、製造及び市場投入の前に、特定用途での安全性評価実施に責任がある。当局は深刻な懸念の問題に集中することができる。


19. REACHに関わることを誰が行うのか?

各組織の責任
  産業側 欧州化学品機構 加盟各国当局 欧州委員会
登録 データの収集と提出
リスクの評価
リスク管理措置の特定
最新規制の把握
テスト方法の提案
登録申請書類の受理
書類の完備性チェック
データベースの維持と
公衆への情報提供
実施の推進
評価 必要な追加情報を提供 加盟各国当局との調整
評価基準の開発
全加盟国の合意で
追加情報を産業側に要求
個々の書類を検討
物質評価計画の作成と実施
追加情報の要求案作成
全加盟国の合意で
産業側に追加情報提出
の要求を決定
認可 申請書類の提出 申請内容をウェブで公開
優先度を勧告
意見案を委員会に上申
委員会の決定を支援
CMRs, PBTs, vPvBs 相当の
深刻で非可逆的な影響を
及ぼすと考えられる物質
についての提案
優先度設定(ステップ1)と
認可授与(ステップ2)の
決定
制限 社会経済的評価の作成 意見及びコメントの作成
加盟国の制限提案と委員会の
意見案をウェブで公開
提案の提出 製造、販売、使用の
制限に関する決定


20. REACH の下で EU 加盟国当局の役割は何か?

 加盟国当局は評価の実施に責任がある。加盟国当局は制限の手続き起こすことができ、また、自国内でこの新たなシステムを実施する。加盟国当局は欧州化学品機構が運営を行うことができるよう多くの専門家を同機関に派遣する。


21. 新たな”欧州化学品機構”の役割は何か?

 登録料及び認可料を主な資金とする欧州化学品機構は REACH システムの中核となる。システム運用に必要なデータベースを管理し、また評価手順を調整する。追加情報を産業側に要求するかどうかを決定する。同機構は、処理の優先度及び認可に関連した事柄について欧州委員会に勧告する。さらに欧州委員会に勧告し及び意見のドラフトを作成するための各種技術委員会を設置し統括する。


22. 欧州委員会の役割は何か?

 欧州委員会は欧州化学品機構を統括し、加盟国が合意に達しない場合には、評価提案を決定する。さらに、関連するリスク評価と社会経済的分析を検討しつつ、特定の物質の使用に関する認可と制限に関する決定を行う。


23. REACH の下で産業界はどのような責任を負うことになるのか?

 新たな規制は、製造業者、流通業者、輸入業者、及び川下ユーザーを対象としている。  製造業者は物質を製造する。輸入業者は非EU諸国から物質を輸入し、川下ユーザーは化学物質を産業的あるいは職業的用途に使用する。流通業者は市場で物質を在庫するあるいは市場に出すだけである。流通業者のある者は化学物質を混合して調剤(インクのような)を作る、物質あるいは調剤を用いて成形品(ボールペン、椅子、車など)を作る、あるいはそれらをビジネスの中で使用する(例えばCD製造者が機械を洗浄するために脱油剤を使う)ことがある。

 REACH の大部分の要求は直接、物質の製造業者と輸入業者に適用される。彼らは扱う化学物質の特性に関するデータを供給し、化学的安全評価を行い、リスク管理措置を実施する。

 川下ユーザーは購入する化学物質に関する安全情報を供給されるので、化学物質を取り扱う時にはそれに従う。また、彼らの顧客 (例えば他の産業界および消費者) が彼らの製品を安全に使用するために必要な全ての情報を提供する。化学物質が当初の登録時の意図と異なる用途で使用される時に、その量が 1 トンを超える場合には、新たな用途又はリスク削減措置を欧州化学品機構に報告する。
 流通業者もまた、彼らが販売する物質に安全情報を供給しなくてはならない。


24. REACH は中小企業に対しどのような影響を与えるのか?

 中小企業(SME)は、ヨーロッパの化学物質産業界において重要な一翼を担っている。企業の規模に関係なく、安全性は重要事項なので、 REACH 情報要件は化学物質の製造量、用途、及び特性に関連し、売上高や従業員数には関連しない。
 今回の政策提案によって影響を受ける中小企業の多くは、 ”川下ユーザー” 、すなわち、化学物質を購入し、自身の製品の成分として使用する、あるいは産業的、職業的な用途で化学物質を使用する企業である。

 付加価値を付けるという産業上の位置にあることにより、川下ユーザーが使用しようとする化学物質のほとんどは、すでに登録されていると考えられる。
 リスク評価を行う時には、製造業者と輸入業者は川下ユーザーによって特定される用途に目を向けなくてはならない。このことは川下ユーザーのために化学物質の安全性を高度なレベルに維持すること、及び彼らのコストを削減することに役立つ。
 用途を開示したくない川下ユーザーは自身でリスク評価を行うことを選択することができる。

 中小企業は、以下のようなREACH システムが生成する革新のためのインセンティブを利用することができる。
  • 製品中及びプロセス中で使用される物質のテスト要求の免除
  • 1 トン以下については登録不要
  • 少量物質については情報要件が軽減 (製造者/輸入者毎に年間 1 トンまでの製造/輸入物質は登録のみ、1〜10トンまでは通常、物質の試験管テストのみ)。中小企業が典型的に製造するこの範囲の製造量においては、コストは削減される。
  • 事務手続きの手間とコストは登録前に協議を行って、登録者間で分担して負担することができる。


25. REACH はどのように、より安全な代替物の革新と開発を促進するのか?

 産業界の競争力を強化するために、 REACH の目標のひとつは研究開発と革新を促進することである。そのために、例えば、
  • 製品中で使用する物質、又はプロセスの研究開発で使用する物質は、5年間までは登録する必要がない。さらに5年延長できる。(医療品中で使用する物質については、最長15年の免除がある)
  • REACH の登録要件( 1 トン/年)は、現行の新規物質に対する 10 kg/年よりはるかに大きい値である。
  • 新規物質の登録のためのコストは、現行の届出(notification)のコストよりはるかに安くなるはずである。
  • 登録手続きに要する期間は現行の届出より短くなるので、製品が市場に出るまでの時間が短縮される。
  • 認可要件は、企業がより安全な物質を開発することを促進する。
  • 新規物質と既存物質の区別がなくなる。

26. REACH はどのくらいのコストがかかるのか?

 テスト及び登録コスト
欧州委員会による影響評価によれば、 REACH が化学産業界に及ぼす直接コストの合計見積り金額は、11年間で約23億ユーロ(約3,000億円)であり、その中には欧州化学品機構の経費約3億ユーロ(約400億円)が含まれる。
 川下ユーザーにかかるコスト
採算性がとれなくなるという理由で物質の 1〜2%が市場から消えると仮定すると、化学物質の川下ユーザーに及ぼすコストインパクトは約28〜36億ユーロ(約3,700〜4,700億円)と見積られる。もし、サプライチェーンがもっと高いコストを採用すれば、そのコストは約40〜52億ユーロ(約5,200〜6,800億円)に増大するであろう。これらの見積り金額には化学産業企業から川下ユーザーにパスオンされる直接コストも含まれる。
 合計コスト
化学産業とその川下ユーザーにかかる合計コストは約28〜52億ユーロ(約3,700〜6,800億円)である。マクロ経済学的展望によれば、 EU の域内総生産(GDP)における減少への総合的影響は非常に限定されたものとなると考えられる。

27. REACH の主なる利点は何か?

 REACH システムの利点には2つの側面がある。一つの側面は化学物質の特性がより良くより早く特定されることによる、人間の健康へのリスク削減と環境の質の改善である。
 化学物質を使用することから生じる危険性の特定と、より良いリスクの管理は、化学物質に曝露することによって引き起こされる健康問題を防ぐことに寄与する。例えば、疾病発生や防ぐことのできる死亡発生の低減、国家の医療費の低減などである。
 その効果は物質が REACH システムに組み込まれていくに従って徐々に現れる。環境と人間の健康に与える利益は著しいものがあると期待される。欧州委員会の影響評価は説明的シナリオを描いているが、それによれば、健康に対する利益は30年間で500億ユーロ(約6兆5,000億円)の規模となるとしている。
 予想される環境に対する利益は金額では表されていない。

 もう一つの側面は、ヨーロッパ化学産業界は単一の EU 規制システム、期限を明確にした政策決定、及び、製品の高品質イメージにより受ける恩恵である。
 化学物質の川下ユーザーは購入する化学物質毎の安全使用に関する関連情報を得ることができる。彼らは供給者と密接な連絡をとることにより、作業者をより確実に守ることができる。彼らの製品は消費者と環境に対し、より安全なものとなる。


28. REACH により、市場から消える物質もあるのか?

 化学物質によっては、製造者が登録料を払うに値しないと考えて、登録されないものもあるであろう。欧州委員会は、現行市場に出ている物質の約 1〜2%がこれに該当すると見積っている。
 化学物質市場のダイナミックな特性により、本質的に重要な化学物質が代替物なしに市場から消えることは考えにくい。 企業は、放置しておくと認可プロセスを経る必要があるような物質については代替物質を開発するよう動機付けられるので、REACH システムは革新への拍車の役割を果たす。
 川下ユーザーは情報を提供することでコンソーシアムに参加し用途を特定するかもしれない。


29. REACH により、もっと多くの動物テストが必要となるのか?

 少量化学物質(1〜10トン/年/製造者又は輸入者)については、動物テストは可能な限り避けることとなる。もっと多量の化学物質については、もし既存の情報と有効な代替テスト法が十分でなければ、動物テストは必要かもしれない。ある種の多量化学物質に要求される動物テストを前提とするテスト計画については、テストが実際に行われる前に、評価手順に照らして各国当局が合意する必要がある。
 このことにより、調査項目が関連するものであること、研究の科学的有効性が十分に高いこと、及び、テスト計画が他の研究と重複しないことを確実にすることができる。テストの重複を避けるために、企業間のデータ共有が求められる。


30. REACH は EU の他の法律をどのように補完するのか?

 REACH 規制案は、他の規制と重複しないように作られている。RREACH によって生成される情報は、他の関連規制がもっと効率的に機能することを可能とする。例えば、REACHは、化学物質に関する現行の約40の指令(Directive)と規制に置き換えられるが、化学物質に関する20以上の他の規制、例えば、危険物質の表示に関する規制などはそのまま残る。REACH によって生成される情報は、この規制やその他の多くの規制へのインプットとなる。


31. REACH 採用の前に、どのような協議が行われたのか?

 新たな規制の作成プロセスの前及び最中に欧州委員会は、加盟諸国、非加盟諸国、産業界、及び非政府機関(NGO)と多くの作業部会を通じて公式、非公式に広範な情報交換を行った。
 加盟諸国
各国当局との会議を通じて定期的に接触。いくつかの加盟国は技術専門家作業部会に参加した。加盟国の多くが立場を表明する意見書(ポジション・ペーパ)を発表した。

 非加盟諸国
意見書、非公式な意見表明、及び、非加盟諸国あるいは非加盟諸国関連団体の見解をハイライトした書面などが届けられ、多くの会議や議論が行われた。

 産業界
様々な産業界の部門を代表する多くの団体が化学物質政策に関する意見書を提出した。双方向の会談及び産業界が主催した様々な会議への出席により、定例的に意見の交換を行った。様々な産業界団体から指名された専門家たちが技術専門家作業部会に出席した。

 NOGs
環境、消費者、及び動物愛護関連の NGOs が化学物質政策に関する意見書を提出した。主要な環境 NGOs とヨーロッパ消費者組織(BEUC)が各国当局者会議に招かれた。動物愛護団体は、動物テストに関する彼らの懸念を表明する機会を、実験動物を保護するための欧州理事会・加盟国当局会議を含む、様々な場を通じて与えられた。 NGOs のいくつかから指名された専門家たちが技術専門家作業部会に参加した。
 ”企業総局長及び環境総局長”によって用意された草案が2003年5月に8週間の協議(インターネット・コンサルテーション)に付された。


32. インターネット・コンサルテーションでは、どのような人々が意見を寄せたのか?

 6,000通を超える意見がインターネット・コンサルテーションを通じて、多くの個々の企業を含む産業界、勤労者、非政府組織(NGOs)、個人、各国当局、及び機関から寄せられた。意見の約半分は、主要化学会社、製造業者、化学製品調剤業者、及び多くの中小企業を含む産業界からのものであった。主要な EU 及び国際的な労働組合も意見を寄せた。多くの EU 及び国際的 NGOs も意見を寄せた。 30,000人以上の個人の署名からなる請願書が EU 及びアメリカから提出され、健康と環境の保護を訴えた。労働組合も意見を出した。EU 加盟 6カ国(イギリス、フランス、デンマーク、アイルランド、オランダ、オーストリア)はそれぞれの立場を表明し、また域内当局及び国家機関からも多くの意見が寄せられた。多くの主要通商相手国(アメリカ、日本、カナダ及び中国を含む)もまた意見を提出した。


33. インターネット・コンサルテーションにより、どのような問題が提起されたのか?

広範なコメントが寄せられたが、提起された主要な問題は以下のようにまとめることができる。
  • 提案されたシステムの範囲とコストに関する懸念
  • システムの事務手続きの煩雑さに対する懸念、特に、化学物質安全評価と化学物質安全性報告書(CSRs)
  • REACH の中で重点化を図ることの要求、特に少量物質及び懸念の少ない物質との区別
  • ポリマーをシステムに含めると、過大な負担がかかり、コストも増大するという懸念
  • データの企業秘密保護の要求
  • 化学物質のリスクについての情報への公衆のアクセス、及び製品中で使用されている化学物質についての情報へのアクセスの権利要求
  • 提案された欧州化学品機構について明確で効率的な役割への期待、特に、登録手続きに関すること、及び加盟諸国が行う評価決定の均一性と一貫性への懸念
  • 危険物質をより安全な物質で代替する原則を提案の中に含めることの要求
  • EU 域内諸国と域外諸国で製造される成形品に対し土俵のレベルを同一にすることの要求
  • 動物愛護に関する REACH の影響についての懸念及び動物テストを回避することの必要性


34. インターネット・コンサルテーションにより、どのような変更が行われたのか?

 インターネット・コンサルテーションを通じて寄せられたコメントは REACH の実行性を改善するための貴重な情報を提供した。この情報は、詳細な影響評価の作業を通じて得られた新たなデータとともに、この提案の改善に寄与したが、 ”白書” で設定されたシステムの主要な点は変わらない。
  • 製造業者と輸入業者に対する要求の大幅な簡素化、及び川下ユーザーに対する負担の大幅な削減。川下ユーザーは、化学物質安全評価又は化学物質安全性報告書をそろえることを通常は要求されず、このことは、物質の登録を行う化学物質の製造業者又は輸入業者の責任となった。登録者は全ての ”特定された” 用途に対して物質を登録することが求められる。川下ユーザーは彼らの物質の用途は供給者によって特定されていると主張する権利を有する。あるいは、企業秘密の理由から、川下ユーザー自身が化学物質安全評価及び化学物質安全性報告書を作成し、欧州化学品機構に報告することを選択することもできる。

  • 予備的な化学物質安全評価は不要である。REACH 発効後、1年以内に全ての物質に対する化学物質安全性報告書を作成する義務は削除された。

  • ポリマーに対する登録と評価は不要である。この件については、ポリマーの危険性を特定するための健全な技術に基づく実際的でコスト効果のある方法と有効な科学的基準が今後確立された場合には、見直しが行われる。

  • 欧州委員会は要件に関する必要な変更を加える権限を与えられる。生じるリスクを最小にするために、ポリマーはリスク管理措置が必要となる場合には、 REACH において認可と制限の対象となる。

  • 製造量 1〜10トンの物質に対する登録要件の軽減、テスト要件の軽減、及び、化学物質安全評価又は化学物質安全性報告書をそろえることの不要。これらの要件も、必要な要求を加える権限を与えられている欧州委員会によって適切な時期に見直される。

  • 代替物質の推奨。認可は物質のリスクが適切に管理される用途に対し与えられる。リスクを管理できない場合には、そのリスクはその物質の社会経済的利益及び代替の可能性とが勘案される。社会経済的根拠に基づき認可申請した場合には、欧州委員会の決定において考慮されるべき代替計画を示すことができる。

  • 提案された欧州化学品機構に対し、登録に関する法的側面の全ての責任権限を完全に与えることによる REACH 運営の簡素化。物質の評価のための調整は合理化され、欧州化学品機構は重要事項に専念することが可能となる。欧州化学品機構が評価の決定(evaluation decisions)を行うということは均質で一貫した運営を保証するものである。企業間でデータを共有する事に関する同機構の役割もまた強化される。

  • 注意義務の削除、秘密データの取り扱い、研究開発のための免除、及び制裁を通じて、健康と環境は守りつつ、大幅に法的確実性を備えることができる。

  • 調剤に対する要件が緩和された。化学物質安全評価は、危険調剤指令と同様に、ある濃度限界以上の物質にのみ実施される。また、調剤中の異なる物質としてではなく、調剤全体として実施される。調剤のための関連する安全情報は常に単一の安全データシート中に記載されなくてはならない。

  • より円滑な要件の適用を確実にし、不整合性を排除し、定義の改善など法的条項を明確にすることを目指して、その他多くの重要な変更が行われた。改善された事項の一つとして、どのような場合に成形品中の物質を当局に登録する又は届出る必要があるかを決定するための、より現実的な規則が定められた。排出が意図されている物質の場合は登録が必要である。化学物質の排出が起こりうる場合は、欧州化学品機構が登録を求める可能性はあるものの、簡単な届出手続きですむことを期待できる。

  • 情報へのアクセスに関する条項は、企業秘密に関し効果的な保護をさらに確実にするための調整が行われた。非機密事項は欧州化学品機構によって公開される。制裁に関する条項は、釣り合いの取れた、また健康と環境へのダメージを考慮したアプローチとなるよう簡素化された。最後に、このシステムが円滑に適用できるようにするための意思決定の権限を欧州委員会に与えることが提案されている。

35. 化学物質の安全性に関する既存の国際的な取り組みには、どのようなものがあるのか?

 化学物質は国際的に取り扱われているので、その安全性は地球規模での懸案事項であり、この分野における国際的な多くの取り組みで示されている。
 国際連合環境計画(UNEP)では、国際的な化学物質管理に対する戦略的なアプローチ(SAICM)が展開されている 。高官多分野会議が2005年に開催される予定である。2002年9月、ヨハネスブルグの持続可能な開発に関する世界会議において、2020年までに、人間の健康と環境に対する著しく有害な影響を最小とする方法で化学物質を使用し製造するということが合意された。
(訳注/参考:一世代目標−問題ある物質を2020年までになくす−どのように実現するか?/デンマーク EPA

 経済協力開発機構(OECD)は、高生産量(HPV)化学物質を体系的にテストし評価するための協力活動計画を推進している。重要なデータの欠落が判明した場合、あるいは、懸念が生じた場合には、詳細な調査、詳細な評価、または、リスク評価措置が推奨されている。

 化学物質に関連するリスクを削減することを目指して、いくつかの国際条約が採択されている。これらの中の一つに、ある種の危険物質の取引を規制するシステムを設定する ”事前通報同意(PIC)条約(ロッテルダム条約)”がある。2004年の初めには発効することが期待される。この PIC 条約は1998年に欧州共同体によって署名され、2002年12月20日に同共同体によって批准された。今日までに、加盟7カ国がこの条約を批准した。

 残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約は、12種のPOPsについて、製造、使用、輸入、輸出、廃棄、及び排出を管理することを企てている。この条約はPOPsの意図的な製造と使用及び新たなPOPsの開発を禁じており、また、新たなPOPsの開発を防ぎ、非意図的に製造されるPOPsの排出を最小とすることを目指している。POPs条約は2001年に欧州共同体と加盟国により署名され、現在までのところ加盟6カ国によって批准されている。欧州委員会は2003年6月にストックホルム条約批准のための提案と実施を採択した。

 欧州委員会は、化学物質の分類と表示のための世界調和システム(Global Harmonised System (GHS))に関し、現在行われている国連交渉において積極的な役割を果たしている。 GHS の最初の部分は2003年7月に国連経済社会理事会( ECOSOC)によって採択された。(訳注:環境省 ウェブサイト GHS ・・・

 欧州委員会は、この決定を共同体の規制に導入する作業をすでに開始している。欧州委員会は、 ”化学物質安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)” に参加している。このフォーラムは、政府と政府間組織及び非政府組織の会合である。 IFCS は化学物質のリスク評価と化学物質の環境的に健全な管理を推進することを目指している。


36. REACH 提案は WTO と整合性があるのか?

 WTO の規則では、加盟国が公衆の健康を守るための措置をとることについて、それらの予防的措置(protective measures)が他の加盟国に対し非差別的である限り、許している。WTO はまた、確立されるべき規制は、規制する対象と釣り合いがとれていることを求めている。
 REACH システムは EU 諸国と非 EU 諸国を化学物質に関し等しい扱いをしているので、輸入される化学物質に対する要求と、 EU 内で製造される化学物質に対する要求は同じである。 REACH システムはまた、化学物質に関する同等の非 EU データとテスト結果、特に国際的に承認されたテスト方法による結果を考慮に入れている。設定される要求は、欧州委員会の影響評価の中で示されたように、このシステムのコストと負荷を削減するようあらゆる努力を払いつつ、健康と安全の目標を達成するために最低限必要なものである。


37. 新たな政策の法的根拠は何か?

 欧州委員会の提案は、EC 条約第95条に基づく規制であり、域内市場の安全な保護を目標としつつ、健康、安全、消費者、及び環境保護を高いレベルに保つためのものである。予防原則(EC 条約第174.2条 及び関連条項 第6条、第95.3条)が必要な措置の実施における指針となる


38. この提案はどこで入手することができるのか?

 この提案は下記ウェブサイトで公開されている。
 http://europa.eu.int/eur-lex/en/com/pdf/2003/com2003_0644en.html
 http://europa.eu.int/comm/environment/chemicals/whitepaper.htm
 また IP/03/1477 を参照のこと


用語解説と略語

機構 Agency
REACHの日々の管理運営のために一つの機構が設置される。(訳注:欧州化学品機構と称している)
動物テスト Animal testing
動物、主にマウスとラットを用いての研究。人間又は動物における物質の有害な影響を予測するために行う。
成形品 Article
用途に関連する最終の姿をした製造品(例えば、車)
認可 Authorisation
非常に高い懸念のある物質を使用するための用途−特定許可
ビジネス影響評価 Business impact assessment (BIA)
REACHのコストを見積るために欧州委員会のために実施された調査
発がん性・変異原生・生殖毒性 物質 CMR
発がん性 carcinogenic (がんを引き起こす)、変異原生 mutagenic (遺伝子への損傷を引き起こす)、あるいは生殖毒性 reproductively-toxic (生殖能力の減少、胎児の発達障害を引き起こす)の非常に懸念が高い物質。 CMRs のカテゴリー1及び2は認可の対象となる
各国当局 Competent Authorities
REACH システムにより生ずる責任を遂行するために加盟国によって設置された当局又は機関
コンピュータ・モデリング Computer modelling
化学物質の影響を予測するためにコンピュータを用いること。通常、モデルは現実の事象から収集したデータに基づいている。動物テストを回避するために役に立つ。
川下ユーザー Downstream user
物質を職業的に又は産業的に(自身で、調剤の中で)使用する会社。例えば、異なる化学物質を混合してインクを作る製造者、又はそのインクを使ってリーフレットを作成する製造者
内分泌かく乱物質 Endocrine disrupters
ホルモン効果を模倣するあるいは禁じる非常に高い懸念がある物質。個々に特定され、認可対象となる。この物質の多くはまた CMRs である。
疫学的調査 Epidemiological studies
公衆又は職業上の健康調査。コホート(Cohort)調査は、同じ環境要因(例えば、ある化学物質)に曝露した人々のグループの健康状態をコントロール・グループと比較する。ケース・コントロール調査は、ある症状を持つ(例えば、特定の種類のがんの)人々のグループが他の人々に比べて、ある環境要因に多大に曝露したかどうかを観察する。
欧州化学物質局 European Chemicals Bureau
イスパラにある共同研究センター(Joint Research Centre (JRC) )の一部門。現行の法の下に、欧州委員会の多くの科学技術的作業を実施している。今後、新たな機構となり(訳注:欧州化学品機構)、REACH システムを管理していくこととなる。
評価 Evaluation
登録書類及び又は登録物質の定性的評価
既存化学物質 Existing chemicals
新たな化学物質を届け出る要求が発効した1981年時点で市場出ていたことが報告されている化学物質。約100,000種の既存化学物質がある。見積りによれば、そのうちの30,000種は REACH において登録対象となる。
曝露 Exposure
物質に接触すること。ある人が接触した物質の量がしばしばコンピュータでモデル化される。
世界調和システム GHS
化学物質の分類と表示のための世界調和システム(Global Harmonised System)
高生産量化学物質 HPV
高生産量化学物質 (年間1,000トン以上製造される物質)
特定用途 Identified use
登録者が承知している特定物質の全ての用途。川下ユーザーは供給者に対し、供給者が登録した全ての用途を要求する権利がある。
IFCS
化学物質の安全性に関する政府間フォーラム (Intergovernmental Forum on Chemicals Safety)
中間体 Intermediates
他の化学物質を製造するプロセスで使用される化学物質
試験管テスト In vitro testing
細胞又は組織の培養による調査 (反語 in vivo testing 生きた動物が用いられる)
新規化学物質 New chemicals
1981年以降市場に投入された化学物質。現行のEU化学物質規制の下では各国当局に届け出なくてはならない。現在、約3,400種の ”新規化学物質” が市場に出ている。
OECD
経済協力開発機構 (Organisation for Economic Co-operation and Development)
残留性・生体蓄積性・有毒性 物質 PBTs
残留性(分解しにくい)、生体蓄積性(体内に蓄積する)、及び、有毒性を持つ非常に高い懸念がある化学物質。認可対象となる。
事前通報同意 PIC
事前通報同意(Prior Informed Consent)に関するロッテルダム条約はある種の危険物質の国際取引を管理するシステムを設定している。
ポリマー Polymers
化学分子のユニット(モノマー)を多数連結してできる大きな分子構造をもつ重合体。例えば、プラスチック、2成分接着剤
残留性有機汚染物質 POPs
残留性(分解しにくい)有機汚染物質 (Persistent organic pollutants)。UNEP のストックホルム条約で禁止された。
調剤 Preparation
2あるいはそれ以上の物質からなる混合物又は溶液
製品プロセス指向研究開発 PPORD
PRORD で使用される物質は、テスト要求を期間限定で免除される。
研究開発 R & D
研究と開発
登録者 Registrant
登録しようとする製造業者又は輸入業者
登録 Registration
REACH における最初の手続き。製造業者及び輸入業者は、彼らが化学物質を安全に管理していることを示すために、標準化された書式で情報を提出する。
リスク Risk
物質が及ぼすリスクは、物質固有の特性である危険性とそれへの曝露に依存する。
中小企業 SMEs
中小企業 (Small and medium sized enterprises)
成形品中の物質 Substances in articles
成形品の機能の一部として成形品から放出される危険物質は一般的に登録が求められる。その放出が意図的でないなら、その物質は届出(notify)が求められる
代替 Substitution
他の物質(代替物)に替える又は製造方法を変更することにより危険な物質の使用を避けること
持続可能な開発 Sustainable development
将来の世代の必要を危うくすることなく現在の必要を満たす開発。持続可能な開発は、環境的、社会的、及び経済的な事項のバランスの上に立つ。
技術専門家作業部会 Technical Expert Working Groups
関連専門家たちからなる8つの作業部会が2001年/2002年の冬に召集され、技術的課題について議論し調査した。
トン数限界 Tonnage threshold
REACHでの要求における容積トン数ベースの基準で ”X トン/年/製造者/輸入業者”と定式化される。登録期限に影響する。
(訳注:容積トン:Tonnage 100 立方フィート((2.832m3)を 1 トンとした場合のトン数, 積量)
有毒性 Toxicity
人間、動物、又は植物に有害な影響を与える(例えば、がん又は死を引き起こす)化学物質の特性
UNEP
国際連合環境計画 (United Nations Environment Programme)
高残留性・高生体蓄積性 VPVB
非常に高い残留性(非常に分解しにくい)、非常に高い生体蓄積性(体内に非常に蓄積しやすい)の非常に高い懸念を有する物質。認可対象物質である。
WTO
世界貿易機構 (World Trade Organisation)


化学物質問題市民研究会
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