一世代目標−問題ある物質を2020年までになくす
どのように実現するか?

デンマークEPA
2001年10月発行
2003年12月4日改訂


情報源:Generation goal - No problematical substances by 2020
How can we achieve this? Updated on Dec.4, 2003


Danish Environmental Protectiion Agency
ACTION PROGRAMMESs

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年2月5日 (全訳)

 内 容
  1. 一世代目標とは何か?
  2. 2020年には問題ある物質をなくす
  3. どのようにそのような物質を選ぶか
  4. 予防原則が明確にされなくてはならない
  5. 国境を越えた協力−EUの役割
  6. 我々はデンマークで何ができるか?
  7. ジレンマについての議論
  8. 参 照
  9. 普遍的目標

What is the generation goal?
1. 一世代目標とは何か?
 一世代目標とは、環境や人間の健康に有害であるが、良かれ悪しかれ現代生活の一部となってしまった多くの化学物質から一世代以内に脱却しようという積極的な希望である。それらには、例えば、電子電気機器で使われるある種の難燃剤、あるいは、プラスチック製品中のトリブチルスズ(TBT)などがある。

 デンマークの市場だけで約20,000種の化学物質が出回っており、約100,000種の異なる化学物質が、1998年には世界最大の化学産業を誇る EU に登録されている。新たな化学物質が常に開発されている。

 有用な特性を持っているためにそれらの多くが使用されているが、かなりの数のものが人間の健康と環境に危険な特性も持っている。

 そのような物質が存在するという事実は新しいことではない。新しいことは一世代目標が、日常生活の中でそれらの存在に気がつかないことが多い危険な化学物質に対し、我々が受け入れることができる期限を設定するということである。
 一世代目標という概念はデンマーク及び国際政治ではあまりなじみのない概念である。将来は、一世代目標の適用が、持続可能性の概念と同じように多くの人々にはっきりと分かるようになることを望んでいる。

 我々はまた、一世代目標を化学の分野に導入することで、現在よりも、”化学の世界”の不透明さをもっと透明にし、人間と環境に対する危険をもっと少ないものに することを望む。
 基本的な問いとして、例えば、どのように一世代目標はデンマークで現実的に実施されるのか、そして正確にどの化学物質が対象とされるのか、などがある。
 デンマーク環境保護局(デンマーク EPA)は、これらの問いについて一般大衆と議論することを望んでおり、それが基本的にこのパンフレットが作られた理由である。

読者の皆さん、どうか最後まで読み、多くのことを学んでください。
2001年10月

No problematical substances in 2020
2. 問題ある物質を2020年までになくす

 一世代目標の当初の目的は次世代のためにきれいな海洋環境を確保することであった。この概念は後に拡張され、現在ではもっと一般的に、問題ある化学物質から環境と人間を守ることを目指している。我々がしたこと以下のようなことである。

 約6年前の1995年、”草の根”の市民運動の代表、環境省、及び海洋生態系の専門家が、第4回北海保護国際会議のためにデンマークのエスビエルに集まった。このデンマークの漁業産業の都で、彼らは北海が陸から船から大気から排出される問題ある化学物質によって汚染され続けることから守ることについて議論した。

 当時、何かすばらしいもの−環境政策において全く新しい概念の導入−を準備しているということについて、誰も知らなかった。すでにその時、何か特別なことをする必要があるということについてはなんとなく合意が得られていた。しかし何をすればよいのか? 有害な物質の排出の全面的停止の目標を我々自身で設定したらどうか? 問題ある化学物質をある年限以内に海からなくせないか? 多くの参加者たちは、何もしなければ何をも生み出さないということで共通の認識を持っていた。
 いろいろ議論をした末、いわゆる ”エスビエル宣言” が採択され、現在、デンマークを含む多くの国々が署名しており、初めて一世代目標として姿を現した(下記ボックス参照)。

 しかし、海洋環境の政治的目標としての一世代目標の最終採択は、3年後(1998年)のポルトガル、シントラでの大臣会議まで待たなくてはならなかった。
 しかし、海洋政策におけるこの新たな概念はその時以来急速に各方面に展開した。従って、今では単に海洋政策だけにおける目標ではない。昨年、一世代目標は、水に関わる全ての領域を含む、いわゆる”水枠組み指令(Water Framework Directive)の中でも実現した。
 しかし、最も興味深いことはやはり、1998年11月に、ノルウェー首相、環境大臣及び自治領の政治指導者たちがオスロで会合した時に述べられた概念の拡張であると考えられる。そこで彼らは、持続可能な開発のためのノルウェー戦略に向けての作業着手に関するノルウェー首相の宣言を採択した。
 ノルウェー首相の宣言は 「人々と環境に有害な物質は長期間放置することは許されない」 と述べている。この戦略は最終的に次のように定義された。「人間の健康と環境を脅かす化学物質の排出は一世代以内にやめなければならない」。

 これに基づき、もちろんデンマークを含むノルディック諸国全体の化学物質分野の目標として、一世代目標が確立された。

デンマークの一世代目標
一世代目標によれば、海洋環境における[汚染]濃度を、自然に発現する物質についてはバックグランド・レベル近くまで、人工物質についてはゼロ近くまで最終的に下げることができるよう、環境的に危険な化学物質の海への排出あるいは漏洩を2020年までにやめなくてはならない。

一世代目標はまた、デンマーク政府が2001年夏に出版した『分別ある開発−責任を分かち合って (Prudent development - a shared responsibility)』にも含まれている。”化学物質”とタイトルのついた章に、次のような言葉がある。

 ”2020年までに、人間の健康と環境に深刻な問題ある影響を与える化学物質を含む製品(商品)をなくす”

 これはデンマークの化学物質政策の要としての一世代目標を設定するものであり、我々全てがこれに従わなければならない。

トリブチルスズ(TBT)−廃止されつつある問題物質

 我々が、エスビエル会議の当日、そして今日でも目標としている完全に我々の身の回りから取り除きたいと願っている物質は、食物連鎖中に蓄積する発がん性物質、分解が遅いあるいは極端に遅い物質、又は、内分泌かく乱物質である。さらに、環境中に自然に存在する鉛、水銀、カドミウムなどの物質もある。同時に、多数の合成物質、すなわち人工の物質がある。

 一つの例として、現在、完全に廃止されようとしているトリブチルスズ(TBT)がある。これは銅と共に長年、藻、甲殻類、その他小さな生物が船底に付着するのを防ぐ ”防汚塗料” の成分として使われてきた。現在、ヨーロッパでは25メートル以下の船体への TBT の使用は禁じられている。そして国際的に2003年までに全ての船への使用を禁止し、2008年までに完全に禁止する働きが行われている。
 この物質を禁止する理由は、この物質が海洋の多くの小生物に対して非常に有害であることが証明されているからである。例えば、それは、1リットル当たりナノグラムという微量であっても巻貝の性的発達をかく乱させる。この量は33×10×3メートルの水泳プールに1滴たらす量である。雌雄両性の巻貝がデンマークの海のいたるところで見出される。
 TBT はまた、食物連鎖中に蓄積し、我々はこの物質が人間と動物に対しても長期の健康リスクを与える恐れがあると危惧する。

 このようにして、防汚塗料の TBT は海洋環境の一世代目標として廃止されるようとしているが、将来は他の多くの問題物質にもこの目標が適用されるであろう。この廃止は、他の有害性がより少ない代替物質の開発があったために可能となった。しかし、ここにいたるまでに20年かかっており、 TBT に関連する問題は未解決のままである。これは、 TBT が当初想定していない状況で使用されたこと及びその有害な影響の全てについては分かっていないという不確実性のためである。

 このようなことからも、1995年のエスビエル会議で形成された目標がいかに野心的なものであるかが分かる。


How substances are selected
3. どのようにそのような物質を選ぶか

 高度に問題がある物質とは何か? それらはどのように定義されるのか? そして、それらの物質が2020年までに確実に廃止されるようにするためにはどのような基準に従えばよいのか?  困難な、しかし答えなければならない疑問がいくつかあるが、それらに関しては、すでに一世代目標を課題として設定している国際的ないくつかの委員会が作業を進めている。

 一世代目標を実施する時に解決しなくてはならない問題の中には、完全に廃止すべき物質を特定すること及び関連する物質を見つけることなどがある。一世代目標の基礎をなす化学物質を選択するための基準案を作る作業を最初に行ったのは海洋環境に関するOSPAR委員会の専門家たちであった。彼らはこの分野の専門家としてこれらの問題を自らに問うた。

 多くの物質については疑問の余地はなかった。問題が長期間にわたると考えられる化学物質は確実に含まれなくてはならない。すなわち、残留性、生体蓄積性、有毒性、又は、これら3つの特性をあるレベル以上持つ化学物質である(下記ボックス参照)。もし、ある物質がこれら ”PBT” と呼ばれる基準を満たすなら、その物資は優先的に廃止リストに挙げられる。

 物質をリストに挙げるかどうか決定するために、それぞれの基準に対する標準テストがある。例えば、ある物質が ”分解が遅い” と特性付けられるのは、その物資の半分以上が水中環境で15日以上分解せずにとどまらなくてはならない。”有毒性” と呼ばれるのは、水中で 1mg/l 以下の濃度で魚あるいは他の水生生物に急性毒性を及ぼすもの、あるいは、例えばラットでのテストで遺伝的な遺伝子損傷をもたらすもの、発がん性があるもの、生殖能力を傷つけるものなどである。
 この基準により、人間の健康と環境に最も問題ある物質の多くが該当することとなる。

海洋では400物質が優先リストに

 設定作業の終了後、PBT 基準は、データが入手可能な物質−通常 ”EINECS” と称されるヨーロッパ既存商用化学物質目録(European Inventory of Existing Commercial Chemical Substances)にある概略100,000種の化学物質に適用された。全ての化学物質についてデータがあるという状況ではないが、結果として約400種の化学物質がリストに挙げられた。
 もし産業界が特定の化学物質について不公平にリストされていると証明しない限り、これらの物質の環境への排出は2020年までに廃止されなくてはならない。

 この OSPAR リストは最終的なものではないし、またそうあってはならない。全体としての考え方は、新たな物質が該当すると分かった場合にはリストに加えることができるし、詳しい調査の結果、当初考えられたほど有害性がないと判断されるものはリストから外すことができるというものである。

 深刻さについての理由があれば、従来の基準では危険ではないとされていた物質をリストに挙げることができる。例えば、雌雄両性(半陰陽)や不妊をもたらす物質、あるいは人間に対し内分泌かく乱物資として作用する物質などである。これらの物質についての難しさは、これらの影響に関し日常的に実施する調査のための標準テスト方法がまだ確立されていないことである。そのために潜在的な内分泌かく乱物質に注意が向けられる時にはいつでも特別の専門的な評価を必要となる。

 概略400物質のうち、22物質が内分泌かく乱物質の疑いがあるものとして選択された。このリストに挙げられた問題ある物質には多くの殺虫剤、多くの産業用化学物質、及びある種の医薬品が含まれる。

 最後に、与えられた基準には該当せず、従って実験室でのテスト基準の全ては満たさないが、問題がある物質として証明されているために、リストされている、あるいは将来リストされるであろういくつかの物質がある。例えば PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸塩、ボックス参照)と呼ばれる物質及びある種の金属である。
(訳注:参考資料/地球を汚染する過フッ素化合物類 PFCs (当研究会訳)

 OSPAR 委員会は約400種の物質をランク付け、最も有害な物質を上位に置いた。委員会は35物質を選択し、それらは現状では最も有害性があり、最初の廃止目標とされるべきものとしている。

EU 水枠組み指令では24物質を選択

 EU 水枠組み指令は比較的新しいが、専門家たちはすでにいくつかの物質を遅くとも2020年間でまでには廃止すべきものとして選択している。

 第一段階は優先度の高い物質を選択することであった。それらはすでに問題あるものとして知られている物質に関する様々なリストの中から選ばれた約600物質の中から選択された。物質を選択するに当たってはその直接的な危険性、特に水環境における毒性及び水環境を通じて接触する人間に危険な毒性が記述された文書が必要である。そしてその環境で生じることについてそれがどのように広範であるかを示す方法で定量化されなくてはならない。あるいは、その他の文書で、例えば、製造あるいは使用されている量、その使用に関する情報、が記述されていなくてはならない。

 これらの基準に基づき、EU (環境)大臣理事会及び議会は33の優先物質あるいは物質のグループのリストを承認した。このリストには、定義により有毒な、そして多くの場所の水環境中で検出される殺虫剤を含む。

 優先リストの作成作業に続く第二段階は、危険性優先度の高い物質を指定することであり、これらの物質は一世代目標の一環として廃止されるべき物質である。10種類の物質が選択された。すなわち、カドミウム、水銀、トリブチルスズ(TBT)、ポリアロマティックハイドロカーボン類(PAHs)及び有機塩素系化合物のあるものなどである。しかしこのリストもまた、最終的なものではない。

 現実的な廃止の方法はいまだに結論のでない問題であるが、欧州共同体の委員会はその草稿を提案する予定である。その後、理事会及び議会に諮られて特定の戦略に関して合意に至ることとなる。最終的には、現実的にそれを実施するのは加盟国自身ということになるであろう。

PBT 基準とは何か?
OSPAR の作業は、いわゆる”動的手順(dynamic procedure)”に基づくものであり、それは下記のPBT 基準を含む。
  • P:残留性(persistent)を表し、その物質は分解速度が遅いので環境中にとどまることを意味する
  • B:生体蓄積性(bioaccumulable)を表し、その物質は動物又は人間の体内に蓄積することを意味する
  • T:有毒性(toxic )を表し、その物質は魚や他の(水生)生物に非常に有毒である、あるいは、哺乳類に対し、生殖障害、遺伝子損傷、あるいは発がん性を引き起こす慢性的な影響を与えることを意味する


The Precautionary Principle must be clarified
4. 予防原則が明確にされなくてはならない

 どのように予防原則を適用するかということが、一世代目標に関する事柄を明確にして行く上で必要となる最も重要な問題の一つである。予防原則の適用については、今日、まだ議論が続いている。

 問題ある化学物質を定義し特定する正確な基準に関する主要な問題の一つは、特定の物質が人間あるいは環境に対し、ある有害な影響を直接的に引き起こすという事実を科学的に文書化することが、不可能ではないが、しばしば、途方もなく困難であるということである。

 一つの問題として、例えば、科学者は明らかに必要なテストを人間で行うことはできないということがある。他の重要な問題は、化学物質はしばしば他の物質との複合的な作用があり、人間と環境は同時に多くの異なる物質によって影響を受けているということである。

 しかし、多くの人々は、然るべき疑い(justified suspicion)があればその物質は問題ある物質と考えるに十分であり、従ってそのような物質については措置がとられるべきであると考えている。当初、予防原則の概念が環境に関する議論に導入されたのは、まさにこのような考え方からであった。

 今日、この原則はデンマーク及びヨーロッパの環境政策の基礎をなすものと考えられており、有害化学物質を克服するために適用され、また、多くの重要な協定や指令、例えば海洋協定、などに引用されている。
 欧州共同体の委員会は、この原則に関するいわゆる ”説明のためのノート(explanatory note)” と呼ばれるものを2000年12月ニース・サミットで発表し、欧州委員会はこの原則の適用に関する決議を採択した。
 この原則は広く受け入れられているにも関わらず、デンマーク及び他の国々でまだ議論がなされている。

予防原則概要
 予防原則は基本的に、我々がある環境問題、例えば、ある問題化学物質に取り組むためにある政策を決定する時、我々がその決定に対し、どれだけ確実であることを望もうとしているのかということに関わる。言い換えれば、疑わしい物質に対する措置をとる前に、その物質が乳がん、あるいは精子の質劣化の直接的原因であることを示す明白な証拠を必要とするのどうか、あるいは、然るべき疑いを立証べきかどうかということである。

 予防原則は、その名前は記述されていなくても、すでにデンマークの環境立法に取り入れられている。法律では、我々は ”汚染が周囲に引き起こす可能性ある影響に対し重要性を置くべきである” と述べている。あるいは、化学物質及び製品法では、 ”人間の健康と環境に危険であると考えられる化学物質に対し、措置をとることが可能でなくてはならない” としている。

 3年前、デンマーク EPA は予防原則に関する専門家の議論を促進する意図をもって会議を開催した。しかしその現実的な適用についてはいまだに結論が出ていない。

 当分の間、状況は変わりそうにない。それが、一世代目標に関わる予防原則の適用を明確にしようと試みる理由である。最終的な分析において、もっと詳細な予防原則の定義が、多分問題あるであろう物質を廃止するかどうか決定する上で、重要となる。

”汚い12の化学物質”は予防原則なしには廃止することはできない
 予防原則は、2001年5月にスットクホルムで開催され92カ国によって署名された、いわゆる ”POPs(残留性有機汚染物質)条約”において、重要な位置を占めた。このPOPs条約では、人間の健康と環境に最も有害な12物質を ”汚い12化学物質(Dirty Dozen)” として挙げた。この中には悪名高い DDT、PCB、そしてダイオキシンなどが含まれ、これらは全て残留性有機環境汚染物質であり、それらは食物連鎖中に蓄積し、非常に長距離を、例えば、北極まで広がっている。

 この条約の目標は、1995年のエスビエル会議に基づくノルディック諸国の動きを原点とするもので、これらの物質の使用、製造、輸出入をやめようとするものである。その後も、 DDT のような物質は限られた範囲ではあるが多くの発展途上国においてマラリアに対し最も威力があり安あがりな武器として使用されている。

 しかし、我々は30年以上もの間、これらの物質のうちのあるものの潜在的な有害影響について知っているのにもかかわらず、このような条約を実施するためになぜこれほど長い時間がかかるのかが疑問である。
 その理由は、予防原則の適用がいまだに認められていない中で、証拠が十分でないこと及び、いまだに重要な目的をもって使用されている DDT のような物質を廃止しようと試みる時に直面するジレンマである。


Collaboration across national borders - the role of the EU
5. 国境を越えた協力− EU の役割

 デンマークにおける一世代目標の実施は国際的な協力に大いに依存する。特に EU に依存するところが大であり、 EU は現在、新たな化学物質戦略を実施するために働いている。この戦略は化学物質の安全性に対し産業界に責任を求めるものである。

 ほとんどの人々は、化学物質が環境を介して広がることについては知っているが、それらはまた、他国からの商品や製品によって 広がるということを知っている人は少ない。例えば、デンマークの近隣諸国において、デンマークでは使用されていない化学物質を含む製品を製造することができる。従って、我々全ては、いずれ環境中にそれらの物質を見つける可能性がある。同時に、デンマークで売られている最もポピュラーな消費者製品の多くは他の国で製造されている。例えば、子どものおもちゃ、繊維製品、コンピュータなどである。それらの製品のあるものは、EU で製造されるだけでなく、かなりの部分が EU 域外で製造されている。  一世代目標のような野心的な目標の成就には国際的な協力が必要である。EU域内だけでなく、地球規模のものが必要である。しかしそれは難しい仕事である。製品中の化学物質の問題についてはEUの管理の及ばぬことであるからである。グリーンランドの北極熊の体内からPCBが見出されたという事実は、世界のある一部で禁止されている化学物質も非常に長距離を、例えば大気を介して運ばれ、かつてそのような物質が存在したこともないような世界の他の場所で見出されうるということを示している。

 EU はすでに化学物質の分野で重要な役割を演じ、一世代目標が最も最近の環境理事会及び欧州理事会における化学物質に関する結論に含まれるよう力を注いでいる。このことにより、EU が正しい方向に動いていると信じることができる。

 そのような一世代目標政策はヨーロッパの化学産業界にとって決定的に重要な事柄である。産業界にとっては、多大な経済的な利益がかかっており、一世代目標の実施に当たっては新たな思考及び産業界と当局との協力が必要である。
 ヨーロッパの市民と消費者にとっては、問題のない製品、よい環境と作業環境を確保できるかどうかが問題である。これが、将来市場に出される化学物質に対する責任を産業界側に求めることが重要であることの理由である。このことは現在、草稿として準備されているヨーロッパの新しい化学物質政策で提案されようとしている。  今日、よりクリーンなプロセスにより、よりクリーンな製品を製造しようとする自主的な努力の例が、特に大企業の中に見られるが、これは彼らが環境によいことをするが結局は彼らに競争力を与えるということを感じ始めたからである。同様に産業界が問題ある特定の化学物質を廃止することに同意する事例がある。例えば、デンマークのクリーニング業界は1980年代に全ての洗剤から問題ある化学物質であるアルキルフェノールエソキシレイトを廃止することについて自主的に合意した。この目標は約10年後に達成され、今日、デンマークの市場にはこれらの物質を含んだ洗剤はなくなった。
 もっと最近の例としては、アメリカの 3M 社グループは2000年5月、人間と環境に対し非常に有害な PFOS (パーフルオロオクタン・」スルホン酸塩、下記ボックス参照)の製造をに自主的に中止した。
(訳注:参考資料/地球を汚染する過フッ素化合物類 PFCs (当研究会訳)

 EU がこの分野における全体的な指導力を発揮する一方、個々の EU 加盟国は彼ら自身の施策を打ち上げることができる。例えば、デンマークは世界で初めて、2001年3月1日に鉛化合物の生産と製品中の金属鉛を禁止した。このデンマークの施策がこの分野におけるヨーロッパ共通の規制となることが期待される。スウェーデンとオランダもまた、最近、積極的に一世代目標を取り入れた化学物質分野における施策を採択した。逆に、 EU 共通の化学物質規制は多分、いくつかの加盟国における緩い国家規制を強化することになるであろう。
PFOS (パーフルオロオクタン・」スルホン酸塩)とは何か?
 PFOS には、残留性と生体蓄積性がある。実験室での研究では多くの警戒を要する結果を示した。例えば、この物質に曝露した2代目のラットには生殖障害が現れることが示された。この研究の結果は、この物質が集団全体に対し懸念を与えるというものであった。この知見はこの物質の製造者であるアメリカの 3M 社を説得し、世界規模でその製造を廃止させることとなった、この合意はこの物質に対する国際的な関心をひきつけることとなり、ここデンマークではデンマーク EPA がデンマークにおける製品中と環境中の PFOS に関する詳細な調査を開始することとなった。

EU によって規制される化学物質

 デンマークの店で消費者として買い物をするにあたって、 EU に対して意見を言う人はあまりいない。しかし 、EU 諸国の現在の化学物質政策において、特定の製品中の化学物質について使用できる/できない−ということを決める数多くの EU 指令がある。
 例えば、化粧品に関する共通の規制として、化粧品中の全ての成分は常に容器に表示されなくてはならない。そして殺生物剤(biocides)指令では、長期間使用には承認が必要であり、今日、デンマークでは一つの体系として、殺虫剤に適用されている。また、ある種の危険な物質と調剤については販売と使用を制限する指令もある。
 EU 諸国にはまた、化学物質の分類と表示に関する共通の規制がある。

 最後に、EU 諸国には化学物質に関する共通のリスク評価システムがある。これは1993年に始まったもので、多数の問題ある物質の調査に関し、お互いに支援しあうこととなった。しかし、その後、リスク評価の進捗は非常に遅く、140の高優先物質のうち、このシステムで評価が完了したものはわずかである。
 しかし EU は完全に新しい化学物質政策を準備中であり、古い政策はこれによって置き換えられ、従って現在のリスク評価システムも置き換えられることとなる。

EU の新しい化学物質政策

 ほとんどの人々は EU は日々の生活に関係することについては重要ことを特にしていないと感じるかもしれないが、 EU の新しい化学物質政策によって、我々は今後、今日ほどには問題ある化学物質に曝露しないですむようになる。これが、2001年2月に発行された委員会の 『将来の化学物質政策の戦略に関する白書』 に見られる提案の真髄である。

これが白書の提案である
 EU 化学物質政策は、化学産業の域内市場における効率的な機能と競争力を確保するとともに、 EU 条約に見られるように現在及び将来の世代のために、人間の健康と環境の高度の保護を確実にすることである。
 これらの課題を達成する基礎は予防原則にある。

 既存の EU 化学物質政策と比べると、この指令には特に 二つの革新がある。
 一つは化学物質のための ”REACH” の導入であり、これにより問題ある化学物質の使用が難しくなる。もう一つは、物質の安全性に関する立証責任を産業界に負わせるということである。

 新しい EU 化学物質政策の全体的な目標は、 ”持続可能な発展” である。 EU 委員会によれば、そのような発展には、一見同時に満足することは難しそうに見えるいくつかの条件が伴う。
 一方で我々は有毒物質をなくして、消費者により大きな透明性を持たせ、動物を使用しないテストを推進しつつ、人間の健康の保護と環境の促進を行う。
 他方で、 EU 化学産業の競争力の改善と、不必要な貿易障壁は設けるべきではなくまた輸入物質に対して差別があってはならないとする世界貿易機関 (WTO) に従い、 EU の国際的な責務への要求がある。

REACH : 新たなシステムは全ての物質を対象とする

 EU の新しいシステム、化学物質の登録、評価、及び認可 (REACH 下記ボックス参照)が実施されると、環境当局は、汚染源を把握し、予見される適用が安全であると証明されない限り問題ある化学物質は使用しないようにすることとなり、現在よりやりやすくなるであろう。
 また EU は、全ての化学物質、すなわち既存及び新たな化学物質に対し移行期間を通じて同じ厳格さの手続きを実施し、2012年からは同等に扱う。
 今日の状況は、多数の既存化学物質は、たとえ人々と環境に与える影響が調査されていない、あるいは評価されていなくても、製造者がそれを使うことはなんら妨げられない。

 しかし、来るべき REACH システムには不明な点が一つある。すなわち、物質が高度に問題あるというのはどのような方法で定義するのかとい疑問である。そのような方法で定義された物質のみが将来、上市する際、当局の認可を必要とすることになるので、このことは非常に重要である。
 EU の白書は、いわゆる CMR 及び POP (下記ボックス Point A 参照) のような物質の定義を設けている。
 他にも、承認手続きを必要とす他の問題ある物質のグループとして挙げられているものがある。例えば、2001年6月のルクセンブルグ会議の後、環境委員会は EU 委員会に対し、PBT 物質、内分泌かく乱物質、及び VPVBs、 すなわち、非常に残留性があり非常に生体蓄積性がある物質を加えるよう主張した。
 環境委員会は、このことは、それらを特定するために必要な基準が入手できるようになったら直ぐに実行されるべきであると考えている。

製造者の情報提供義務
 2001年6月にルクセンブルグで開催された環境委員会会議で、もし、製造者が決められた期限までに特定の物質に関する必要な情報を提出しなかった場合には、その物質の使用に関する市場禁止を発行する方法が準備された。

産業界が立証責任を

 誰が化学物質の懸念について立証し文書化すべきなのか? 特定の物質が危険であるあることを証明するのは当局なのか? あるいは製造者が物質の健康及び環境に対する特性は許容できることを示すべきなのか?
 新たな EU 白書は現在の立証責任の所在を変える方法を用意している。現状は、当局が被害が起きた後にその物質が問題ある化学物質であることを立証しているが、将来は、産業側が上市する前にその化学物質が安全であることを立証しなくてはならない。
 この責任は製造チェーンを通じて物質の使用に対し適用される。すなわち、製造者が予想した以外の方法で化学物質を使用したいと望む職業ユーザーもまた、製造する物質が安全であることを示すために調査あるいはリスク評価を実施する責任があるということである。
 このように、産業界は物質の予備的リスク評価の責任を負うだけでなく、製造する物質に関する全ての関連データを提示する責任が求められる。

 白書はこれら物質に関するリスクの調査に関する要求はそれらの物質の販売量よると提案している。製造量が多ければ 調査も多く必要とされる。
 しかし、新たな化学物質政策は輸入する製品中の化学物質は対象範囲外としている。2001年6月のルクセンブルグにおける環境委員会の結論は、作業部会を設置し、そこで子どものおもちゃや繊維などの製品中の化学物質成分について調査するよう提案している。
 この分野は優先度が高いので、デンマークは積極的にこの作業に参加するつもりである。

 それでは、次のステップは何か? 2001年6月のイエテボリ(スウェーデン)で開催された欧州理事会の結論によれば、新化学物質政策は遅くとも2004年までには提案したいとし、その内容は一世代以内に化学物質は健康と環境に重大な影響を与えないやり方でのみ製造され使用されるようにしたいとしている。

世界規模での努力が必要

 問題ある化学物質の国境を越えての汚染が進み、化学物質と製品の国際的な取引が増大しているこの状況は、世界規模での努力の強化が必要であることを意味する。高度に問題ある化学物質を廃止するという目標は、世界中が参加することによってのみ達成することができる。新たに署名された POP 条約がそのような物質を廃止する地球規模の合意としての、一つのよい事例である。

化学物質に関する新たなEUの体系
R = registration 登録
 製造者又は輸入者は、製造量又は使用量が1トンを超える物質に関し、予備的リスク評価と表示(ラベリング)提案とともに、予見する使用における多くの情報を提出する責任がある。

E = evaluation/assessment 評価
 当局は、製造者当たりの製造量、あるいは輸入業者当たりの輸入量が年間100トンを超える、あるいは問題ある物質については全て、提出された情報を評価しなくてはならない。

A = authorisation or approval of highly problematical substances (called chemicals, "CH")
  高度に問題ある物質(CHと呼ばれる化学物質)の認可あるいは承認

 どのような状況にあっても高度に問題ある物質は当局からの特定の承認がないと使用することができない。製造者/下請け業者/輸入業者は予見する使用において安全であることを証明しなくてはならない。
 EUの白書は高度に問題ある物質を次のように定義している。
  • CMR 物質 : 発がん性、突然変異性、及び生殖毒性物質
  • POP 物質 : 残留性有機汚染物質。DDT、PCB、ダイオキシンなど12の環境有毒物質が2001年5月のストックホルム条約で挙げられた。


What can we do in Denmark?
6. 我々はデンマークで何ができるか?

 化学物質分野は、EU の政策、主要産業界の利害、及び国境を越えた取引などと密接に関連した主に国際的な事柄であり、デンマークは、一世代目標を実施するために実際どのような選択があるのであろうか?

 上記の問いに対する答えは、デンマーク一国だけでなく、ノルディック諸国、EU、及び世界の共同体が全てこの課題に向かって取り組まなければならないということである。
 一方で、デンマークは他の環境先進国と共に、EU が一世代目標に向かって進み、個々の加盟国の目標達成を可能とする強力で拘束力のある規制を採用することができるようにしていかなくてはならない。
 他方、我々は自身で問題ある化学物質を廃止するよう、ここデンマークで取り組んでいかなくてはならないし、我々にはそれを成し遂げる力がある。
 我々は、まず最初に廃止すべき問題ある化学物質のために基準を定義しなくてはならない。次に、我々は、いかにしてそれらを排出し、製造し、消費することをやめることができるかを、決めなくてはならない。

望ましくない物質リスト

 デンマークはすでに化学物質政策をもっているが、それは1999年1月の政府による ”デンマーク、EU、及び世界の化学物質分野における努力戦略” に部分的に基づくものである。現在のデンマークの化学物質戦略は危険化学物質の消費を可能な限り削減し、それらの製造、使用、及び廃棄が人々と環境に対し許容できいない影響を引き起こすことがないようにすることである。
 政府の戦略の中で重要なことの一つは、”望ましくない物質リスト List of Undesirable Substances (LOUS)”である。LOUS は,企業、仲買人、及び職業的使用者に対し、その使用が長期的には削減又は廃止さえるべき物質について勧告するものである。
 LOUS はまた、もしある物質がもはや脅威を及ぼさないことがわかった時にはいつでもリストから削除し、逆にある物質に関し問題あることを示すあらたな情報が出てきた場合にはその物質をリストに加えるという ”動的(ダイナミック)リスト” である。
 従って、それは、一世代目標を化学物質に関する将来の作業に統合する上で確固とした基礎をなすものである。
 目標を達成するために我々が用いることができるそして用いるべき方法論について議論することは、作業の着手に当たって望ましいことである。

自主的な取り組みが成功する

 多くの人々は恐らく信じないかもしれないが、有害性がより少ない物質を開発することができるという条件があれば、産業界が自主的に取り組んで、問題ある物質を廃止することが効果的な方法の一つとなりうる。
 一つの成功事例は、石油産業が2001年春に自主的に低オクタン価ガソリン用の MTBE の使用を廃止し始めたが、それは MTBE の問題が明らかになったからである(下記ボックス参照)。MTBE はデンマーク EPA の望ましくない物質リスト(LOUS)に含まれている。今日、 LOUS には約70の物質あるいはグループが含まれる。産業界と小売業界は、LOUSは法的には拘束力はないが多くの問題ある物質を避けるために自主的に適用している。

 物質がLOUSに記載されるかどうかは、例えば、危険な特性を持つかどうか、EUの危険物質リスト(約7000物質)に含まれているかどうか、などによるが、しかしまた、年間の国内消費量が100トンを超えるかどうかにもよる。他の状況もリストに加える要因となる。例えば、強力な温室効果ガスであるかどうか、などである。

高度に問題ある物質の禁止

 廃止するための有力な方法の一つは、部分的な認可、又は全面禁止とする規制である。 LOUS の中で優先度の高い物質のいくつかについて、当局はその規制の必要を公衆の健康などを考慮して決めることができる。一つの例として、ヒ素を木材の防腐剤として使用することが1998年に禁じられたが、その使用が人間の健康と環境に対し非常に問題ある物質であることが理由である。その結果、ヒ素は LOUS から削除されたが、それはその使用が現在は規制されていることが分かっているからである。

 もう一つの事例は、子どものおもちゃのフタル酸塩の禁止である。3歳以下の幼児用おもちゃでフタル酸塩を0.05%以上含むものの販売は2000年4月1日から禁止されている。その理由は、幼児がこれらのおもちゃをかんだりなめたりすると幼児の体内にこれらの化学る物質が取り込まれる恐れがあるからである。

 この禁止は、これらの物質が幼児や胎児に対し特別に有害な影響を及ぼすかどうか詳細に調査した結果からなされたものではない。しかし、子どもに対する潜在的なリスクへの対応は今日の多くの化学物質の規制にはなく、それは幼児たち以外の、特に病人や老人など、常に保護を必要とする過敏な集団にへの対応についても同様である。
(訳注:参考記事)
 デンマーク政府 年長幼児用おもちゃでのフタル酸使用を規制 ENS記事2002年11月5日(当研究会訳)

ガソリン中の鉛とMTBE − どのような違いがあるのか?
 MTBE は、過去15年間、有毒な鉛の代替として非加鉛ガソリンに添加されていた。 MTBE に関する調査で、その使用により直接的なリスクが健康に及ぶことはないが、残念ながら極微量の MTBE の特性が他の不都合を生じることが分かった。一つの問題は極微量な濃度であっても飲料水の味を悪くするということである。また、例えば給油所での漏洩で地下水を通じて容易に汚染が広がるので、飲料水供給に脅威を及ぼす。
 デンマークの石油業界は自主的にオクタン価98以下のガソリンについては MTBE の使用を廃止し、 MTBE を含む98−オクタン価ガソリンを販売する給油所の数を減らすこととした。この取り組みはデンマーク EPA に歓迎された。
 MTBE に関連する問題は、危険な化学物質を他の物質で代替すると、新たな予見していなかった問題が生じることがあるということの難しさを示している。

高度に危険な物質を確実に回避する承認体系

 高度に問題ある物質グループの場合には、承認体系を選択することが可能である。このことは、今日、農薬に適用されている。すなわち、デンマークにおいては農薬は、輸入される、市場に出される、又は使用される前に、デンマークEPAによって承認されなければならない。これは、”化学物質及び製品法” に基づくものである。農薬の承認体系により、高度に問題ある農薬は承認されない。

問題ある物質の使用をいかに制限するか
以下に、すでに着手された事例のいくつかを示す。
  • PVC 可塑剤としてのフタル酸化合物の使用削減のための行動計画
  • 臭素化難燃剤などの難燃剤の使用削減のための行動計画
  • 特に危険なある種の農薬の禁止
  • 製品中の鉛化合物及び金属鉛の禁止
  • 小さな船(レジャー用ボート)用の防汚塗料中のある種の殺生物物質の禁止
  • 塗料及びラッカー含有溶剤の個人的使用の制限
  • いわゆる HFCs、PFCs、及び SF6 など産業関連温室効果ガスの使用に関する制限についての法案の作成
  • フタル酸化合物及び産業関連温室効果ガスへの課税の導入
  • ダイオキシン生成の地理的分布把握とダイオキシンを生成する可能性のある木材燃料炉での廃棄物の個人的焼却に反対するキャンペーンの実施

税の導入が問題ある物質の消費を削減する

 その他の措置として、問題ある化学物質の使用へ課税するという方法がある。これは、プラスチックに可塑剤として添加されるフタル酸化合物に適用された。これらの物質を使用することを望む製造者は化学物質税を払わなくてはならない。
 同様に、”グリーン”税が産業関連温室効果ガスに課税された。この税はそれらのガスのCO2効果に対応する。このような問題ある物質への税は、製造者、企業、小売業者、あるいは消費者に対し、他のより問題の少ない物質/製品の使用(購入)を促し、あるいは当該温室効果ガスの使用あるいは排出を削減することに有効である。

 問題ある物質をより問題の少ない物質で代替する、あるいは、例えば、いわゆる ”よりクリーンな製品を支持するプログラム”などを通じて新たなクリーンな技術を導入する取り組みも重要である。このプログラムは多くの代替物質を促進するプロジェクトを支援している。例えば、フタル酸化合物、PVCプラスチック、鉛製品、産業関連温室効果ガス、及び臭化難燃剤などをより有害性の少ない物質で代替することなどである。

情報キャンペーンが役に立つ

 デンマークEPAはまた、多くの情報キャンペーンを立ち上げたが、それらには当局から認定された、ノルディック・スワン(白鳥)、あるいは、EUの花などのエコラベル製品の認知を拡大するキャンペーンなどがある。2001年の春に実施されたこのキャンペーンの第一期が完了して直ぐに行われた独立機関の評価によれば、エコラベルに関する消費者の知識は4倍になり、より多くの人々がエコラベル商品を購入し始めた。

 2001年のもう一つのキャンペーンは家庭から塩素の使用を削減しようというものであった。このキャンペーン後の評価によれば、約8%の消費者が塩素の使用をやめ、それより多くの人々がやめることを考慮中であり、その他の人々は消費量を削減した。従って、全体として、デンマークEPAはこのようなキャンペーンは目標とする人々に対し有効に知識の拡大に寄与すると認識した。

適切な分類が必要である

 デンマークでは、製造業者と輸入業者は扱う商品中に使用されている化学物質を調査し、分類することを義務付けられている。この作業は、物質の科学的知識が十分ではないので、いつも簡単というわけではない。そのために、分類が不正確、あるいは不適切であり、危険物として分類されるべきものがそのように分類されなくても、誰もその危険性について気がつかない。

 この問題を解決するために、デンマーク EPAは 『危険物質を自分で見分けるための助言リスト (Advisory List for Self-Classification of Dangerous Substances" in February 2001)』 を2001年2月に発行した。このリストは、全く新しい先進的な ”QSAR” と呼ばれるコンピュー・タモデルを開発しての精力を注いだ作業の結果であり、新たな時代を切り開くものである。このモデルは化学物質の人間と環境に対する可能性ある影響を評価するために使用することができる。

 このモデルは ”画期的な新しいツール”として称された。それは我々が、物質の影響について予測しようとする時に、最早、無数の、恐らく不必要な動物実験、あるいは、その物質による実際の経験だけに頼る必要がなくなったからである。この助言リストは約20,000の物質を含んでおり、それらは、急性毒性物質、遺伝子損傷を引き起こす物質、発がん性物質、皮膚接触によるアレルギー物質、あるいは水環境に危険な物質などである。

 この助言リストは国際的にも、ここデンマークにおいても、よく受け入れられている。そしてこのようなコンピュータを駆使した評価は、我々が一世代目標を達成しようとする時に、もっと多量の情報を必要とする多くの既知及び未知の化学物質に関し、より多くの情報を得る上で重要な役割を果たすということは疑いない。

他の諸国への支援

 デンマークは発展途上国や中央・東ヨーロッパ諸国に対し、環境問題に関する多くの支援を行っている。これに関し、これらの国々に対する支援を継続するために特別の努力を払い、これらの国々が自身の環境法を確立し管理することに役立ち、化学物質の分野での国際的な条約の下でこれらの国々がその義務を果たせるようにすることが我々にとって重要である。


Dilemmas for discussion
7. ジレンマについての議論

 多くの曖昧な脅威、矛盾する利害、及び矛盾は一世代目標を達成する過程で克服されなくてはならない。これに関してデンマークEPAが議論したいと望んでいるいくつかの疑問をを以下に挙げる。

 いくつかの化学物質は明らかに製品の機能にとって決定的に重要である。例えば、ガソリンとディーゼルオイルは今日、自動車を動かすのに必要である。その他、難燃剤は、コンピュータ、テレビ、その他電子機器で火が急速に燃え広がるのを防ぐ。そのような物質が人間の健康と環境に問題ある影響を与えるという理由で廃止される、あるいはをの排出が止められるなら、我々はより有害性の少ない代替物質を開発することを余儀なくされるであろう。同様なことが機能や安全性に関してはそれほどは重要でない物質にも適用されるが、我々は審美的理由でそれらをやめたくないものもある。例えば衣料品の染料や家屋の塗装としての塗料などである。

 販売促進だけのために加えられるような、明らかに不必要な問題ある物質に関しては、状況が異なる。それらには、赤ちゃんのオムツや粉石けんに含まれる香水、あるいは皿洗い機のアクセサリーとして売られている脱臭剤などがある。それらが問題ある物質であるために廃止されるべき物質なら、それらは最終製品に何も技術的な便益をもたらしていないので、それらががなくても何も困難は生じない。

 最後に、農業における農薬の使用のように、その使用についてすでに激しい議論がなされているものがある。今日、我々はこれら承認さた、あるいは合法的な農薬なしにやっていけるかどうか、あるいは、遺伝子技術など他の方法の助けを借りて農薬の消費を削減することができるかどうかに関し、広い範囲で反対の意見がある。これらはなかなか結論の出ない問題である。
 それらはまた、デンマークが一世代目標を達成するために、解決しなくてはならない問題とジレンマの例である。

 下記のリストは10の重要な問いからなる。デンマークEPAはこれらは産業界、輸入業者、小売業者、”グリーン(環境)”団体、そして消費者と議論しなければならない問いの一部であると考えている。

  1. なぜ伝幕の産業は問題ある物質を含む製品を製造するのか? そして、産業界に問題ある化学物質の使用をやめさせるために何が必要か?
  2. どのようすれば輸入業者は彼らの商品が問題ある化学物質を含んでいないことを確実にすることができるのか? なぜ彼らはそのような問題ある化学物質を含まない他の製品を選ばないのか?
  3. なぜ消費者は問題ある化学物質を含まない製品ではなく、それらを含む製品を買うのか? なぜ問題ある物質を含む商品が市場からなくならないのか?
  4. 情報を与えられずに消費者は製品中の化学物質成分を知ることができるのだろうか? そのような情報を提供することが最も適切なのは誰か? 、当局?、(環境)団体?、小売業者?
  5. 消費者はクリーン製品のコストを払うことに同意するであろうか?もしそうなら、どこまで払えるか?
  6. グリーン(環境)団体は一世代目標の達成にのために、地域及び全世界で、どのように役立つことができるか?
  7. どの化学物質が最も高い優先度を与えられるべきか?
  8. 我々は ”望ましくない物質リスト” のようなリストを使用すべきか? あるいは一連の基準を用いるべきか?
  9. 経済的負担を負うことになる企業らはデンマークにおいて一世代目標を実施することを少しも望まないのであろうか?
  10. どの方法を我々は採用すべきか? それらは強制的になされるべきか、または、合意によるべきか? 我々はどのようにして現実的に目標達成を確実なものにすることができるか?


References
8.参 照

■デンマーク、EU、及び世界における化学物質分野の注力すべき課題に対する戦略/デンマーク政府 1999年
A strategy for intensified efforts in the field of chemicals in Denmark, in the EU and globally / The Government, 1999
http://www.mst.dk/chemi/01030100.htm

■化学物質−デンマークの優先事項/デンマークEPA 2000年12月
Chemicals - a Danish Priority / Danish EPA, December 2000
http://www.mst.dk/chemi/01020000.htm

■慎重な開発−責任の共有/デンマーク政府 2001年
−持続可能な開発のためのデンマーク国家戦略
Prudent development - a shared responsibility / The Government, 2001
-Denmarks National Strategy for Sustainable Development
http://www.mst.dk/udgiv/publications/2001/87-7944-872-0/html/default_eng.htm

■予防原則−予防原則に関するデンマークEPA会議からの抜粋/コペンハーゲン1998年5月29日 デンマークEPA The Precautionary Principle - print-outs and abstracts from the Danish EPA conference on the Precautionary Principle / Copenhagen, 29 May 1998 Danish EPA
http://www.mst.dk/udgiv/Publications/1999/87-7909-203-9/html/default_eng.htm

■農薬散布の承認(デンマーク語)/デンマークEPA 1999年
Godkendelse af sprojtemidler (PDF)("Approval of spray products," Danish-language only) / Miljo-Tema No. 21, 1999. Danish EPA, 1999.
http://www.mst.dk/udgiv/Pjecer/tema.pdf

■よりクリーンな海洋環境/デンマークEPA 2001年
Towards a cleaner marine environment / Miljo-Tema No. 22. Danish EPA, 2001.
http://www.mst.dk/udgiv/Publications/2001/87-7944-507-1/html/default_eng.htm

■将来の化学物質政策のための戦略に関する白書/欧州委員会2001年
White Paper on the Strategy for a future Chemicals Policy / Commission of the European Community, 2001 http://europa.eu.int/comm/environment/chemicals/whitepaper.htm

■望ましくない化学物質(デンマーク語)
Flere uonskede kemiske stoffer ("More undesirable chemical substances," Danish-language only) / Theme, MiljoDanmark, No. 4, 2000.

■不必要な化学物質/デンマークEPA 1999年
Unnecessary chemicals / Danish EPA, 1999
http://www.mst.dk/news/06150000.htm

■鉛よ さようなら(デンマーク語)
Farvel til bly ("Farewell to lead," Danish-language only) / Article, MiljoDanmark, No. 1, 2001

■あなたの健康への影響(デンマーク語)
Pavirkning af din sundhed ("Effects on your health," Danish-language only) / MiljoDanmark, No. 1, 2001

■接触皮膚炎の原因となる数千の化学物質(デンマーク語)
Tusindvis af kemiske stoffer giver kontaktallergi ("Thousands of chemical substances cause contact dermatitis," Danish-language only) / Article, MiljoDanmark No. 1, 2001

■化学物質に関する追加情報/デンマークEPA
Additional information on chemicals / Danish EPA
http://www.mst.dk/chemi/01000000.htm


Generation goal
9.普遍的目標

普遍的目標

 2020年までに問題ある化学物質をなくす−いかにして実現することができるか?

 普遍的目標は、一世代以内に、我々を取り巻く最も問題ある化学物質を我々から取り除きたいとする切なる願いを表明するものである。基本的な問いは、例えば、デンマークで一世代目標をいかに現実的に実施することができるか、そして正確にどの化学物質が該当するのかである。
 デンマークEPAは一般大衆とこの問題について議論をしたい。そのことが、このパンフレットを書いた理由である。

 このパンフレットはフロントライネンで無料で入手できる。

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化学物質問題市民研究会
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