国際化学物質事務局(ChemSec) 報告書
労働者を保護し革新を促進せよ
持続可能な発展への意義深い貢献
ジョエル・デカリオン ETUC(欧州労働組合連合)事務局

情報源:The International Chemical Secretariat
http://www.chemsec.org/
Protect workers and foster innovation
A significant contribution to sustainable development
by Joel Decaillon, Confederal Secretary, ETUC
http://www.chemsec.org/documents/What%20we%20need%20from%20REACH.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

掲載日:2005年3月14日
更新日:2005年8月31日

ETUC (欧州労働組合連合)

 ETUC (欧州労働組合連合) は全ヨーロッパの6,000万人の労働者を代表している。その会員は、35か国の77労働組合連合に加えて、全ての産業分野を含む11のヨーロッパ産業連合からなる。したがって、ETUCは特に、現在、展開されているヨーロッパの化学物質政策の再構築(REACH)に関心を持ち、積極的に関与している。

化学物質の危険性:ヨーロッパの労働者の重大な死亡原因

 無数のヨーロッパの労働者が、化学物質製造産業だけでなく、建築、木工業、自動車、繊維、農業、環境・健康サービス、コンピュータなどの産業現場で毎日、化学物質に曝露している。

 危険な化学物質への曝露は、多くの職業病(がん、呼吸器及び皮膚アレルギー、神経系障害、等)及び多くの死亡の原因である。ヨーロッパでは3,200万人の労働者が、安全と考えられるレベルを超えて発がん性物質に職業的に曝露していると推定されており、年間、35,000〜45,000人が職業関連のがんで死亡している(1)。

 化学物質の危険性は今日、産業国における労働環境に関連する深刻な死亡原因のひとつである。

既存の法律では労働者の危険物質への曝露を防げない

 現在までのところ、職場における労働者の危険物質への曝露を防ぐ法律としては、1980年発がん性物質指令(2)と1998年化学物質指令(3)がある。この2つの法律は、雇用者はリスク評価を行い、必要な予防及び保護措置(除去、危険の少ない物質への代替、曝露レベルの低減、職業曝露限界値を超えないこと、等)をとるよう要求している。

 しかし、調査によれば、職場におけるこの法律の実施においてはまだ問題があり、多くの場合、特に中小企業においては、適用されていないケースが多い。
 明らかな大きな理由のひとつは、化学物質の固有の特性に関するデータが欠如していることである。このデータがないと、労働者保護法によって求められる調査と予防措置を実施するための、適切なリスク評価を行うことができない。

市場のルールが労働安全衛生の鍵

 化学物質の製造者と供給者は彼らが市場に出す製品が危険かどうか記述しなくてはならず、もし危険なら、ある情報(ラベル表示、リスク警告文、絵文字、及び専門家用安全データシート、等)を提供しなくてはならないので、これらのデータは化学物質の取引に関する法律に直接的に依存する。

 しかし最近の調査によれば、危険な化学物質の危険性の特定がなされていないケースが非常に多いということが指摘されている。現在、市場に出されている調剤の約3分の1のラベル表示、及び40%の安全データシートが規制を守っていない(4)。いくつかのヨーロッパ諸国にまたがって実施された調査で、多くの中小企業が安全データシートの存在すら知らないことが判明した(5)。情報の不備そのものだけでなく、製造チェーンからのデータ供給の仕方にも問題がある。これらのことが、規制システムの再構築を必要とする理由の一部である。

ETUC (欧州労働組合連合) はREACH提案を支持する

 提案に関する議論が沸騰しており、REACHが与えるかもしれない雇用への影響が懸念されている。しかしETUCはこの遠大な再構築をコストと雇用の問題だけとして捉える立場をとることはできない。産業界、労働者、一般大衆、そして環境のための潜在的な利益は平等でなくてはならない。2004年5月17日に執行委員会で採択された宣言(6)で、ETUCは、REACHを支持することを断固として決定しており、そのことは、EU加盟国によって公約された持続可能な発展に対して大いに貢献すると信ずる。

 ETUCは、REACHは革新を促進すると主張しており、そのことは、環境への優しさと社会的責任の基準に基づく将来のための現代的な解決を提供することにより化学産業にとって極めて重要な意味がある。

 とりわけ、REACHにおいては、関連する様々な分野で危険物質に曝露する労働者を保護するよう設計された既存の法規制の問題点を下記によって、大幅に改善すべきである。
  • 物質の特性で欠けている情報を供給すること
  • 知る権利に基づき、化学物質安全データを公開すること
  • 職業疾患のリスクをなくすために川下ユーザーとその職員に効率的に情報が流れるようにすること
  • リスクを最小にするという観点から、制限と認可の手続きにより、最も危険な物質を危険の少ない物質に代替することを推奨すること
ヨーロッパの労働組合はREACHの議論に踏み込む

 ヨーロッパの労働組合は、防止と予防原則が製造システムを改善するための中心にならねばならないということに同意する。彼らは欧州連合(EU)に対し、世界での競争における公平さを確保するために、世界的レベルでREACHの諸原則を認知させるよう積極的に活動することによって2002年ヨハネスブルグ宣言の約束を果たすよう要求している。

 彼らはまた、REACHの議論に完全に関与したいと望み、提案されている再構築案の下記の要素について、それを改善するという観点から深く検討するために内部に作業部会を設置した。

1. 注意義務

 製造者と輸入者は、川下ユーザーと消費者に対し全ての関連する安全情報を適切な方法で文書化し伝える責任がある。
 製造者と輸入者のこの責任を規定する一般原則が、全ての製造又は輸入される化学物質に関し、REACHに再度、導入されるべきである。
訳注:当初のREACHには、注意義務が一般原則として記述されていたが、その後、後退して消えた。)

2. 登録

 登録対象となる物質と調剤が、製造、輸入、及びサプライチェーンの川下での使用にあたり、安全に管理されることを確実にするために、化学物質安全報告が要求されなくてはならない。

 このことは危険物質として分類された物質について特に重要であ。それは、危険物質の安全データシートは全ての特定された用途に対する人間と環境の曝露をいかに管理するかについての関連情報が多いからである。

 年間1〜10トンの範囲で製造される物質に対しては、現状の規制に比べて分類やリスク評価の状況をもっと改善するために、急性毒性や生物分解性テストのような、もっと基本的な情報が要求されるべきである。

3. 評価

 製造者や輸入者から提供される情報の質を確保するために、品質の劣る書類の提出を認めないような措置がなされるべきである。加盟国当局は、最低限の数の書類について任意抜き取りで要求に合致しているかチェックすることが求められるべきである。

4. 認可

 認可手続きの目的は、発がん性物質について欧州の法律が規制しているように(7)、最も危険な化学物質の効果的な代替を促進することであるべきである。

 したがって、認可は、適切な代替物質が存在しない、社会的便益が人間と環境へのリスクに勝る、そして、その物質は適切に管理されるということが示された場合にのみ、付与されるべきである。認可は、代替計画を促進するために、期限付きとすべきである。
 認可手続きはまた、深刻な、あるいは、不可逆的な影響を示す非常に懸念の高い他の物質にも拡張されるべきである。

5. REACHと労働者保護に関する法との関連

 REACHに盛り込まれている義務は各種の労働安全衛生指令と一貫性を持たせることに注意が払われるべきである。

 この問題に関して社会のパートナーとの対話が持たれるべきである。これは職場の”安全衛生に関するルクセンブルグ3者審議会”の枠組みの中で行うことができるはずである。ロンドン・ワークショップ(8)の成果は、ひとつのよいスタートポイントである。同様に、分野毎の社会対話の主題となるべきである。

 また、双方の法律間の矛盾を避け、相乗効果を増すために、産業側がREACH規制を順守することを支援するための実際的な指針を作成するにあたって、労働者の代表が協議に招かれなくてはならない(9)。

6. 川下ユーザーと中小企業

 川下ユーザーと中小企業は、既存のメンバー協議会及び欧州産業連合の中で、彼らの代表により支援されなくてはならない。このことは、新たな運営団体やプログラムを設立するための余分なコストの発生を防ぐことになる。

7. 雇用、健康、及び環境への影響

 新システムの効果と雇用と健康への影響を評価するために、コストと便益の双方に関し、社会、環境、及び経済の、3つの視点から検討されるべきである。

 REACHが実施される期間を通じて関連する異なる分野での雇用に与える可能性のある影響(良いものも悪いものも)をよく理解する必要があることは明らかである。このことが、ETUCに下記の取り組みを実施させることとなった。

 ・欧州産業連合との協力を、特にREACHの影響評価について、を強化すること。

 ETUCは、欧州委員会−欧州産業連盟(UNICE)/欧州化学工業会(CEFIC)作業部会に積極的に関与し、サプライチェーン、革新、及び加盟国に及ぼす”REACHビジネス影響評価”に関わる今後の作業を分担するつもりである。

【訳注】
 欧州委員会が合意した枠組みの中で産業界が委託したREACHのビジネス影響に関するKPMGが2005年4月に発表され、KPMG 調査の結果について、EU高官協議団が検討した結果がEUが プレスリリース 2005年4月27日で発表された。
  EU プレスリリース 2005年4月27日 産業界によるREACH 影響評価についてのEU高官協議
   http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/eu/05_04_eu_press_assess_new_impact_studies.html

 ETUCは、皮膚及び呼吸器系の職業疾患に関するREACHの影響を評価する最初の研究に着手した。

 ETUCHは下記を目指す第2の研究にも着手した。

 ・REACHの実施を、特に中小企業及び川下ユーザーのために、促進するための措置を特定し提案すること。

 ・REACH再構築の課題(例えば、研究、訓練、・・・)達成に何らかの影響を与えるかもしれない他のヨーロッパの政策を分析し、REACHがその目的を達成することを支援するために、これらの政策の中長期的方向性を提案すること。

 これらの研究成果及びそれらの内部作業部会での検討は、ETUCによって企画された2005年3月のREACH会議で発表される。この会議ではヨーロッパの労働組合が参加し、議論が行われることとなっている。
詳細:http://tutb.etuc.org/

【訳注】
REACH会議プログラム http://tutb.etuc.org/uk/newsevents/files/Programme-EN.pdf


(注):
1. Kogevinas et al: Estimation of the burden of occupational cancer in Europe - Study funded by Europe against cancer (contract SOC 96-200742 05F02), 1998.

2. Council Directive 90/394/EC on the protection of workers exposed to carcinogens. See also the recently codified version of this directive: Directive 2004/37/EC.

3. Council Directive 98/24/EC on the protection of workers exposed to chemical agents.

4. ECLIPS Project (European Classification and Labelling Inspections of Preparations, including Safety Data Sheets),, final report; June 2004

5. Assessment of the usefulness of material safety data sheets (MSDS) for SMEs: Geyer et al, Linz: PPM, Research + Consulting 1999.

6. http://tutb.etuc.org/uk/dossiers/files/reach-ces-en.pdf.

7. Directive 2004/37/EC

8. London workshop final report (http://tutb.etuc.org)

9. REACH implementation project RIP 3.2



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