ChemSec News 2018年8月21日
ハザードベース・アプローチと化学物質のグループ分けは
どのように循環経済のための道を開くことができるのか?

イェルケル・ライトハート
ChemSec 上席化学物質顧問

情報源:Chemsec, August 21, 2018
How a hazard-based approach and grouping of chemicals can pave the way for circular economy
By Jerker Ligthart, Senior Chemicals Advisor, ChemSec
http://chemsec.org/how-a-hazard-based-approach-and-grouping
-of-chemicals-can-pave-the-way-for-circular-economy/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2018年8月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/ngo/180821_ChemSec_
How_a_hazard-based_approach_and_grouping_of_chemicals_can_pave_the_way_for_circular_economy.html

 優先順位付けは、化学物質管理でよく使われる用語である。それは、製品中及びサプライチェーン中の全ての有害化学物質に同時に対処するのではなく、最悪の化学物質にまず焦点を当てるべきとする考えに立つものである。

 これは、完全に同意することができる賢明なアプローチであり、とりあえずはこれでよい。

 問題は、化学物質規制に関係している多くの専門家らが、優先順位付けに力を入れ過ぎることである。彼らは、有害化学物質に対処するという最終目標に目を注ぎ続けるのではなく、彼らの時間を永久に優先順位付けに費やしている。

 例えば REACH では、物質は、候補リストに含めるために加盟国及び欧州化学物質庁(ECHA)によって評価される。10年以上の間にかろうじて 200物質が同リストに含められた。

 未知の又は有害特性を持つらしい 3,000物質中 2,000物質が規制という観点から対応されていないということを知った時、このペースは満足のいくものであろうか?

 もし素人の観点から有害化学物質の問題にアプローチするなら、ほとんどの人々が次のように問うであろうと私は思う。”もしある化学物質が有害なら、なぜそれらをすぐに禁止しないのか?”

 この問いは、実際に大いに納得がいくが、有害化学物質は多くの日用品の製造に重要な役割を果たしているので、それらをすぐに明日、禁止するというわけにはいかない。

 製品を再構築するためには時間がかかり、したがって望ましくない化学物質の廃止は徐々に実施する必要があり、そのため優先順位付けが必要になる。しかし、優先順位付けはある化学物質が使われなくなるということを決して意味しないということを認めることも、同じく重要である。

 厳密な工程表が必要である。これを達成するために、優先順位付けられた物質を実際に取り扱うために確保するリソースは、プロロセスそのものより大きい必要があるが そのことは、信じようと信じまいと、いつでもそのようになっているというわけではない。

 もう一度、異なる展望からそれを見てみよう。進歩的な川下ユーザー、小売業者、及びブランドは、どのように有害化学物質を扱っているのか?

 これまでに何度も、彼らは異なる規制について気に掛けることはなく、むしろ彼らは、もうけが多く、持続可能であるようにするために、繰り返し法的要求以上のことをする。

 しかし彼らがそうする根拠は何か? それは、長い目で見れば、実際により容易で、より安価で、良いビジネスモデルだからである。

 ハザードベースに基づき、有害物質とそのグループの使用を完全に禁止し、それらの物質の応用領域で直ぐには代替物質が存在しない少数の物質に努力を注ぐことの方がはるかに容易である。

 このアプローチは多くの利益がある。
  1. 供給者と連絡をとり合い、適合性を確認することが容易である。
  2. 消費者及び顧客と連絡を取り合うことはもっと容易である。
  3. 最後になるが、大事なことに、それは循環経済を可能にする。
 循環経済は、環境問題とともに、資源不足に取り組む方法として推奨されてきた。しかし、真の循環経済を達成するために、人は有害化学物質を考慮する必要がある。本来はそのような物質は、再使用、再利用又は高級再利用(up-cycled)されるどのような製品中にも存在してはならない。

 真の循環経済では、化学物質が今日使用されている場所を決して単純に見ることはできない。それは、化学物質が次の再使用サイクルの中で、明日はどこにたどり着くのか人は決して知ることがないからである。

 化学物質のリスク評価の概念は、実際には循環の世界ではあまり重要ではない。それは終わることのない将来の暴露の可能性を決して予測することはできないからである。遅かれ早かれ、人間と環境は暴露することになる。

 したがって、規制当局がするように、ある化学物質への暴露の可能性と現在の使用だけをただ見るのではなく、人は本来備わっている物質の本質的な特性を見なくてはならない。

 特別の優先順位が、残留性又は生物蓄積性のある物質に与えらえるべきであり、さもないと我々は、かつて使用された多くの領域でまだ問題を起こしている PCB 類のように、決して終わりのない物語に再び行き着くことになるであろう。

 このことをなす時には、一時に二つ以上の物質に対応するために物質のグループ分けを始めるべきである。デモ用途に我々はそれらを二つの異なるカテゴリーに分けることができる。
  1. 同定及び迅速な行動のためのテストデータ又は確認されたリードアクロス(訳注:有害性の類似性に基づきデータギャップ補完を行う方法)戦略を持っている非常に重要な物質(VIP 物質)
  2. VIPs と同じ特性を恐らく共有するが、完全なリードアクロス・データが足りない構造に基づくもっと大きなグループの物質(ハングアラウンド物質)。 QSAR (定量的構造活性相関)モデルによって多分問題があるとして同定された物質も同様にハングアラウンド物質に加えることができる。全てのハングアラウンド物質は、問題となっている特定評価項目で有害性が小さいことが証明されるまで、VIP 物質と同じ方法で扱われるべきである。
 この示唆は議論があるとみなされるかもしれないが、それは実際には拡大転換立証責任(an extended reversed burden of proof)ということである。ハングアラウンド物質は有害性がないことが証明されるまで、有害であるとみなされるべきである。

 もし我々が真の循環経済を達成したいなら、その答えは、第一に有害物質の除去を優先付けることであり、どの物質が最も緊急であるかを議論することではない。

 リソースは適切な問題に費やされるべきであり、それは、もちろん問題に対処するものであり、それらを分析しすぎることではない。


訳注:当研究会が紹介したハザードベース・アプローチ関連記事


化学物質問題市民研究会
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