IPEN 2017年10月
POPRC13 に関する
IPEN の見解へのクイックガイド


情報源:IPEN October 2017
Quick Guide to IPEN Views on POPRC13

http://ipen.org/sites/default/files/documents/
Quick%20IPEN%20Views%20POPRC13%20%20Oct%202017.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年10月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/POPs/IPEN/
October_2017_Quick_Guide_to_IPEN_Views_on_POPRC13.html

参考:
POPRC13(2017年10月17日〜20日)Provisional agenda(訳注1
POPRC12(2016年 9月19日〜23日)での決定事項の概要(訳注2
■ジコホル(訳注:別名ケルセン、有機塩素系農薬、日本では第一種特定化学物質)

 ジコホルは、果実、野菜、綿花、お茶、ラン(花)等に使用されるDDTに関連する殺ダニ剤である。ジコホルは水生動物に高い毒性があり、鳥類の生殖系に損傷を与える。哺乳類では、ジコホルは脳、甲状腺、肝臓、及び副じんに損傷を与える。ジコホル及び/又はその代謝物は、牛乳、調合乳、卵、果実、野菜、人間の母乳、初乳、及び血液中に見いだされている。様々な地理的及び気候的条件の下に様々な作物を栽培する多くの国によるジコホルの製造、販売、及び使用の禁止は、技術的及び経済的に実行可能な代替が存在することを示している。農業生態学的及び総合的病害虫管理手法は、ジコホルに対する代替手法が発展途上国を含んで多くの国で様々な作物に対する代替として有効であることを示している。

▼ジコホル は、特定の免除なしに附属書A(禁止)へのリストが勧告されるべきである。

■PFOA(パーフルオロオクタン酸)訳注1

 PFOA は、極めて残留性が高く、人間の高コレストロール、潰瘍性大腸炎、甲状腺障害、精巣がん、腎臓がん、及び妊娠高血圧症に関連しているので、付属書A(禁止)へのリストが勧告されるべきである。リスク管理評価の起案者は、PFOA を含むフッ素化合物を製造する、又は製造プロセス中で PFOA を使用する会社を含む顧客リストを持つ産業側のコンサルタント会社(脚注1)なので、利益相反についての懸念がある。提案されている PFOA 規制の適用除外の多くは正当化できない。(訳注2

脚注1:BiPRO 社の顧客リストは下記を含んでいる。
CEFIC, Saint-Gobain, Dow Europe GmbH, Bayer AG, 3M, RAG Aktiengesellschaft, Daimler AG, Robert Bosch GmbH, H.C. Starck, TIMCAL AG, Federation of Europena Producers of Abrasives, Silicon Carbide Manufacturers Assocation, Association of German Abrasive Manufacturers, Deutscher Industrieverband Keramische Fliesen und Platten e.V. http://www.bipro.de/en/referenzen/auftraggeber/
  1. 半導体製造機器、予備品、インフラストラクチャ
     この適用除外の根拠は、EU での”低”排出、及び”厳格な”実施、ということに基づいている。文書(提案)は、より高い PFOA 使用の可能性又は EU 以外の世界での異なる条件の可能性に言及していない。提案は、何が適用除外なのか具体的に述べておらず、ノルウェーの適用除外は2016年に失効した。 POPs 検討委員会(POPRC) は、特に証拠がないのに、きちんと定義されていない世界的適用除外を勧告すべきではない。

  2. 半導体又は化合物半導体
     半導体中の PFOA の機能、その普及、又はその用途の代替についての情報は与えられていない。実際、文書は、 EU とカナダが適用除外を許可したという事実以外、提案された除外の根拠を示していない。 POPRC は、きちんと定義されておらず、根拠さえない世界的適用除外を勧告すべきではない。

  3. 半導体又は写真平板法処理又はエッチング処理
     産業側は、”いくつかの会社”はこれらの処理に PFOA を使用し続けていることを明らかにしている。このことは、いくつかの(又は大部分の)会社は PFOA の使用を段階的に廃止していることを暗示している。既に PFOA の使用を止めた会社はその使用に関する世界的禁止の経済的利益を得るべきである。どのような適用除外も正当化されない。

  4. 特殊技術繊維製品
     ドイツの産業界は、 PFOA は性能を発揮するのに必要であると主張するが、市場で 60 億ユーロを失うという懸念を告白している。提案は、適用除外される具体的な製品について、又は有害な化学物質含侵の繊維製品に頼らずに労働者の保護を達成できるかについて言及していない。もしそれらが定義されず、性能の主張又は必要性の独立した検証がないならば、適用除外は勧告されるべきではない。

  5. 医療用繊維製品、水処理ろ過、製造プロセス、及び排水処理のための膜組
     EU がそれを許可したという事実以外、文書はこの適用除外を考慮するための正当性を示していない。文書は何が具体的に除外されるのかを述べていない。水処理施設は、広範な環境中に PFOA を拡散させている最も PFOA 汚染の大きい領域として特定されているのだから、この用途は適用除外されるべきではない。医療用繊維製品の使用にはフッ素を使用しない代替がある。どのような適用除外も正当化されない。

  6. 水成膜泡消火薬剤
     PFOA 及びその他のフッ素化合物を含有する泡消火薬剤は、訓練実施を含んで、あちこちで使用されており、世界中の多くの場所の水汚染及び土壌汚染の主要源である。PFOA 又はフッ素化合物を含有しない代替物質は入手可能であり、PFOA 含有の泡消火薬剤と同様な性能を示している。PFOA のあちこちでの使用は飲料水の広範な汚染をもたらすので、特に深刻であり、炭素フィルターによっても除去することができず、したがって PFOA 汚染水の浄化は非常に困難で高くつく。技術的に実行可能なフッ素化合物を含有しない泡消火薬剤の利用可能性と PFOA 改正の発効(2020年)の時間枠は、適用除外が許可されるべきではないことの根拠となる。

  7. 医療機器
     EU は、ある一社の要求に基づき、PFOA 規制の中でこの適用除外を2032年まで許可した。文書は、どの医療機器が PFOA を使用しているのか、又はどの機器が適用除外を許されたのかを明かすことをしなかった。実際に、EU とノルウェーがその適用除外を許可したこと、及びカナダがこの用途は規制しなかったという事実以外に、その正当性の理由を示していない。もし具体的な製品が明らかにされないなら、そして代替についての情報が示されないなら、世界的適用除外は勧告されるべきではない。

  8. 埋め込み式医療機器の製造
     文書は、どの医療機器が PFOA を使用しているのか、又はどの機器が適用除外を許されたのかを明かすことをしなかった。実際に、EU とノルウェーがその適用除外を許可したこと、及びカナダがこの用途は規制しなかったという事実以外に、その正当性の理由を示していない。もし具体的な製品が明らかにされないなら、そして代替についての情報が示されないなら、世界的適用除外は勧告されるべきではない。

  9. フィルム、紙、又は印刷板への写真コーティング
     PFOA の利用は、ディジタル画像により本質的に置き換えられているので、時代遅れである。リスク管理評価ドラフト版は、”ディジタル画像は写真映像における PFOA の必要性を置き換えるであろうし、その移行が急速に起きている”と言及している。ディジタル技術により置き換えられているのにこの古風な PFOA の使用を継続する根拠は存在しない。

  10. 他の場所で再処理を可能にするための中間体の輸送
     この提案された適用除外は、”再処理”という名目で、開発途上国と経済移行国への廃棄物投棄にドアを開くことになる。多くの国で、EU 実施手法として記述される”厳格な措置”は効果的に実施され、または施行されることはないであろう。この適用除外は、 PFOA の著しい更なる放出をもたらすので、許可されるべきではない。

  11. 医薬品のためのパーフルオロオクチル臭化物を作るためのパーフルオロ・ヨウ化物
     この適用除外は、ある一つの会社(ダイキン(日本))のために提案された。2015年、100か国以上の政府が、環境残留性がある医薬品は、世界が懸念する新規の政策課題であることに同意した(訳注:第4回ICCM)。 POPRC は、一社だけが要求した適用除外なのだから、それを世界的な適用除外として勧告すべきではない。環境残留性がある医薬品の世界的適用除外は勧告されるべきではない。
▼PFOA は、提案された適用除外はその正当性を示す十分な情報が提供されていないのだから、適用除外なしで付属書A(禁止)へのリスティングが勧告されるべきである。適用除外のどのような検討も、具体的であり、代替についての主張のための独立の情報源を含み、 POPs から人の健康と環境を保護することを優先するという条約の目的と一貫性がるあるべきである。

■パーフルオロヘキサンスルフォン酸(PFHxS)

 PFHxS は、PFOS の残念な代替物質である。それは、光によっても分解せず、構造的には PFOS に類似しており、加水分解が起きることも予想されない。 PFHxS は BMF (Biomagnification Factor 生物拡大係数)が1以上で、北極圏における食物連鎖で生物濃縮する。人間がそれを蓄積すると排出は非常に遅く、半減期は約 8年である。 PFHxS は北極や南極を含む遠方の地で検出され、それらの地域の環境中や人間を含む生物相中で見いだされる。研究によれば、 PFHxS は、海流に乗って、また恐らく、いずれ PFHxS に分解する揮発性前駆体の形で大気流に乗って、極地まで環境中を長距離移動する。PFHxS は、PFOS や PFOA とともに最もしばしば人間の体内で検出される PFAS (パーフルオロアルキルスルホン酸類)の一種である(5つの国際的なコホート調査で98%以上に検出)。それは人間の臍帯血、血清、及び母乳中から検出されている。 PFHxS は、脳の発達、甲状腺ホルモン系、及び代謝系に有害影響を及ぼす。

▼PFHxS は付属書Dのスクリーニング基準に合致しており、付属書Eのそのリスクプロファイル特性の評価に向けられるべきである。

訳注:2017年7月7日、REACH 規則が定める「認可候補物質リスト」にパーフルオロヘキサンスルホン酸およびその塩(PFHxS)が追加された(カケン)。

■PFOS 評価

 POPs 検討委員会(POPRC)は、PFOS の現状の許容できる提案と具体的な適用除外を評価するために、会期間作業グループを設立すべきである。POPRC 代替ガイダンスは作業のベースとして使用されるべきである(UNEP/POPS/POPRC.5/10/Add.1)。その評価は、機能的な必要性と、どのように代替がこれらの機能に対応することができるのかに焦点を当てるべきである。代替は化学物質だけを検討するのではなく、製品、産業プロセス及びその他の実施の設計における革新的な変更を含むべきである。COP8 がスルフルラミド(sulfluramid)の使用に対する代替に関する情報を求めており、特にPFOS は環境への直接的な放出なのだから、アグロエコロジーの専門家に相談すべきである。条約事務局は、適用除外とこれらの使用の代替の進捗を調べるために許容可能な用途を登録した締約国と直接話し合いをすべきである。

▼他の POPs と同様に PFOS の極めて高い残留性のために、許容可能な用途を終わらせるか、又は時限の特定適用除外のカテゴリーに移すことができるよう、その評価は代替を特定するためのあらゆる努力をすべきである。


訳注1
  • POPRC13(2017年10月17日〜20日(ローマ)Provisional agenda
    Technical work:
    (a) Consideration of draft risk management evaluations:
    (i) Dicofol;
    (ii) Pentadecafluorooctanoic acid (CAS No: 335-67-1, PFOA, perfluorooctanoic acid), its salts and PFOA-related compounds;
    (b) Consideration of a proposal for the inclusion of perfluorohexane sulfonic acid (CAS No: 355-46-4, PFHxS), its salts and PFHxS-related compounds in Annexes A, B and/or C to the Convention;
    (c) Process for the evaluation of perfluorooctane sulfonic acid, its salts and perfluorooctane sulfonyl fluoride pursuant to paragraphs 5 and 6 of part III of Annex B to the Stockholm Convention.
訳注2
訳注3
訳注:ストックホルム条約付属書
「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)の概要/経産省
  • 附属書A 意図的な製造及び使用を原則禁止。環境上適正な処理を行う等の場合を除き、輸出入を原則禁止。
  • 附属書B 意図的な製造及び使用を制限。環境上適正な処理を行う等の場合を除き、輸出入を原則禁止。
  • 附属書C 非意図的生成物の排出を削減
  • 附属書D (情報の要件及び選別のための基準)に掲げられた情報を記載した物質追加提案書を提出
  • 附属書E (リスクプロファイルに関する情報の要件)に関する情報の提出
  • 附属書F (社会経済上の検討に関する情報)に関する情報の提出



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