Environmental Health News (EHN) 2020年6月18日
BPA 暴露とホルモンの変化は年配の男性にとって
危険な組み合わせである

ブライアン・ビエンコウスキー
研究者らは、若いころの BPA への暴露は、後年のホルモンの変化とあいまって、
男性の泌尿器系及び全体的な健康に実害を及ぼす可能性があることを発見


情報源: Environmental Health News (EHN), June 18, 2020
BPA exposure and hormone changes are a dangerous combo for aging men
By Brian Bienkowski
Researchers find that early exposure to the chemical, along with hormone changes
later in life, can bring real damage to men's urinary system and overall health.

https://www.ehn.org/prostate-bpa-2646167213.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年6月23日

このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/200618_EHN_
BPA_exposure_and_hormone_changes_are_a_dangerous_combo_for_aging_men.html

Credit: Donald West/flickr
 おしっこをするのは、心地良くない、しばしば恥ずかしい気持ちにさせる問題であり、排尿し終わっても開放感がない。

 年配男性の場合、この問題はますます一般的になり、ぎこちなさを超えて、膀胱または腎臓に実際の損傷を引き起こす可能性がある。 極端な場合には致命的となる可能性がある。

 今月の新しい研究が、閉塞性排尿障害の原因として、化学物質への暴露と年を取ってからのホルモンの変化の危険な組み合わせを明らかにしたかもしれない。これは、”排尿の緊急性及び頻度の増加、尿流圧の低下、膀胱排出の不完全性を意味し、急性腎障害につながる可能性がある”と、著者らは、5月に発表された International Journal of Molecular Sciencesに掲載された研究で書いた。

 男性は年をとるにつれて、前立腺が大きくなる良性の前立腺肥大を発症する。ほとんど全ての男性は十分長生きするとそれを発症し、”もしチェックしないままに放置すると尿閉の問題”が発生する可能性があるとウィスコンシン大学オブライエン校研究センターの良性泌尿器科教授、研究者、ディレクターであり、その新たな研究の共著者であるウィリアム・リッケは EHN に述べた。

 ”泌尿器科医のチェックを受けずに放置すると、急性尿閉により尿は腎臓に逆流する可能性があり、マウスモデルでは、これらの腎臓はもうひとつの膀胱のようになり始める”とリッケは述べた。 ”腎臓がなくなるので、死んでしまう”。

 実験用マウスの新しい研究で、リッケらは、至る所にある化学物質、ビスフェノールA(BPA)への出生時の曝露と、成獣になってからのエストロゲン・レベルの上昇の組み合わせを、尿路障害、腎臓の問題、前立腺と膀胱の肥大に関連付けた。

 マウスでの研究は、BPA(女性ホルモン「エストロゲン」を模倣する化学物質)が、男性が加齢に伴って経験する体内天然エストロゲンのレベル上昇と相まって、前立腺、膀胱、および腎臓の問題を誘発する可能性があることを示した最初の研究である。 生殖器の発達中の暴露とホルモンの年齢による変化の連続パンチは、男性に尿の問題と前立腺肥大をもたらし、それが健康に大きな打撃を与える可能性がある。

 BPA はポリカーボネート・プラスチックの主要な成分であり、プラスチックの耐久性と強度を大幅に高める。食品や飲料の容器、缶詰、店のレシート、そして私たちの体内にも広まっている。 米国人の 90%以上が BPA を体内に持っている。 そして、最近の調査で連邦政府の科学者が使用したテストは BPA やその他の化学物質への暴露を”劇的に”過小評価していることが判明したため、それは過小評価である可能性がある。

訳注:EHN 2019年12月6日 連邦政府のテストは BPA とその他の化学物質への暴露を著しく過小評価している(当研究会訳)

 BPA は、がん、糖尿病、肥満、不妊症、行動障害など、さまざまな健康上の問題に関連している。 以前の研究では、BPA が男性生殖器の適切な発達を妨げることも示されている。 医療専門家は、男性が年をとるにつれて、ホルモンのテストステロン(男性ホルモン)のレベルが低下し、エストロゲン(女性ホルモン)のレベルが増加することを大分前から知っていた。

 エストロゲンのレベルの上昇は、男性の前立腺肥大を促進する可能性があり、これは尿の問題の主要な原因である。 しかし、尿の問題を経験している全ての男性が前立腺肥大であるわけではない、と新しい研究の責任著者であり、ミズーリ大学コロンビア校の生物学教授であるフレドリック・ボンザールは EHN に語った。

 しかし、年齢とともに増加する天然ホルモンであろうが、合成のエストロゲン模倣 BPA であろうが、過剰なエストロゲンが尿の問題をもたらしているように見える。

 ボンザールらは、胎児の発達中に一部のマウスを BPA に曝露し、その後、マウスが成獣となり、ホルモンのバランスが変化した後に、マウスの膀胱、腎臓、前立腺、尿の問題を調べた。

 ”周産期の発達中に BPA にさらされた動物は、陰性対照(訳注:明らかに陰性を示すと予想される対照)よりも尿の流れ/腎臓の問題、膀胱の肥大、及び前立腺の肥大を起こす可能性が高かった”とボンザールと共著者らは記している。

 ボンザールは、発達中の BPA への暴露により、”これらのホルモンへのその後の暴露のについてシステム全体が過敏となった”と述べた。 したがって、オスのマウスが加齢するにつれてエストロゲンのレベルが自然に増加し始めると、胎仔や赤ちゃんの時に BPA に曝露したマウスは、尿や健康の問題を生じやすくなる。

 ”これらの重要な暴露期間[発達中]は、これらの個体に残りの人生におけるこれらのホルモンに対する感受性を準備している”とボンザールは述べた。

   ”あなたがさらされている全てのエストロゲンは組み合わされ、加齢とともにこの疾患の重症度に影響を与える”とボンザールは述べた。 ”そしてエストロゲン様活性の最も豊富な外部源は BPA である”。

 リッケは、新しい研究が人間の前立腺と尿の問題の発症について私たちにどれだけ情報を提供するかは”時が告げる”と言った。 しかし、ヒトでの以前の研究は、追加のエストロゲン暴露が後の前立腺問題に関連している可能性があることを確認している、と彼は言った。

 ”我々は、母親の胎内で発達中のアフリカ系アメリカ人の男児に、より高いエストロゲンレベルがしばしば発生することを見てきた。エストロゲンレベルは循環系で高く、男性では前立腺がんがはるかに攻撃的であり、発生率が高い”とリッケは述べ、 次の研究ステップには、彼らが使用したマウスモデルが人間にとって何を意味するかをさらに理解しようとすることが含まれると付け加えた。

 彼はまた、米国のほとんどの男性が研究で特定された問題に対処できる医療にアクセスできるが、一方、ほとんどの世界でこれらはまだ潜在的に致命的な問題であると付け加えた。

 ”我々は、西洋の世界に住んでいることが幸運である。世界中の多くの男性、特に開発途上国の男性にとって、泌尿器科医へのアクセスは難しい”。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る