Scientific American 2014年8月11日
BPA フリーのプラスチック容器は
やはり有害かもしれない


情報源:Scientific American, Aug 11, 2014
BPA-Free Plastic Containers May Be Just as Hazardous
By Jenna Bilbrey
http://www.scientificamerican.com/article/bpa-free-plastic-containers-may-be-just-as-hazardous/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年8月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/140811_S_American_BPA-free_plastic_containers.html

 2012年、米・食品医薬品局は、プラスチック中でしばしば見いだされる化合物ビスフェノールA(BPA)を含む赤ちゃん飲用容器の販売を禁止した。この禁止は、BPA がエストロゲン様の作用をし、胎児、幼児、子どもの脳と生殖機能の発達を阻害することがあり得るということをいくつかの研究が見出した後に、BPAの安全性について消費者が懸念していることに対する製造者らの対応を受けたものである。それ以来、店の棚には、赤ちゃん用はもとより成人用にも BPA フリーの容器が並ぶようになった。しかし、最近の研究が、BPA の一般的な代替物質であるビスフェノールS(BPS)も有害かもしれないということを明らかにした。

 BPA は、ポリカーボネート・プラスチックを作るための出発物質である。反応に消費されなかった残りの BPA は、内容物中に浸出すし、そこから体内に入り込むことができる。BPS は、浸出しにくいと考えられたので、好都合な代替物質であると考えられた。もし人々がこの化学物質の消費を少なくすれば、危害はなくなるか、又は最小になるかも知れない。

 ところが、BPS は浸出している。アメリカ人の81%近くがその尿中に検出可能なレベルの BPS を持っていた。そして、それが体内に入り込むと、BPA に匹敵するやり方で細胞に影響を及ぼすことができる。ガルベストンにあるテキサス大学医学部のチェリル・ワトソンによる2013年の研究は、BPS はピコモルの濃度(1ppt 以下)であっても細胞の正常な機能をかく乱し、潜在的に糖尿病や肥満のような代謝障害、ぜんそく、出生障害、さらにはがんすらもたらすことがあることを発見した。”製造者らは、’BPA フリー’とラベルに記載するが、そのことは真実である。しかし彼らがあなたに告げないことは、彼らが BPA の代替として使用しているものが、BPA が引き起こすことを示した同じ種類の問題についてテストされていないということである。それは少しずるいやり方である”と、ワトソンは言う。

 環境健康展望(Environmental Health Perspectives)で発表された2011年の研究は、テストされた455の商業的に利用可能なプラスチックのほとんど全てがエストロゲン化学物質を浸出したことを発見した。この研究は、イーストマン化学社(Eastman Chemical Co.)と、研究の著者であり、オースチンにあるテキサス大学の神経生物学教授であり、非エストロゲン・プラスチックをテストし、発見するよう意図された二つの会社、CertiChem と PlastiPure の創設者であるジョージ・ビットナーとの間に激しい法廷闘争をもたらした。

 ビットナーは、ピアレビューされたその報告書の中で、完全にエストロゲン浸出フリーであるして販売されているイーストマン社の製品トリタン(Tritan)が浸出を示したと主張した。これに対して、イーストマン社は訴訟を起こした。連邦陪審団はビットナーのテストは、生体内(in vivo)、すなわち生きた動物ではなく、生体外(in vitro)、すなわちシャーレ(ペトリ皿)中でなされたので不適切であると述べて、イーストマン社に有利な判決を下した。

 この出来事以来、独立系科学者らは、彼らの研究を生体内(in vivo)テストに注力するようになった。カルガリー大学のデボラ・カーラッシュは、BPS の胎芽の発達への影響を調べるためにゼブラフィッシュを使用した。ゼブラフィッシュの脳発達は人の発達と似ているが、追跡がとても容易である。近くの川で見いだされるのと同様な濃度で BPS がこの魚に投与されると、神経細胞の発達が激増し、BPA に暴露した魚は170%上昇し、BPS に暴露した魚は240%と大きく上昇した。魚が成長すると、暴露していない魚に比べて、水槽の周りをより早く、より迷走的に勢いよく動き回った。研究者らは増大した神経細胞の成長が多動をもたらしたらしいと結論付けた。”内分泌かく乱物質の問題の一部は、それらが通常、U字型の’用量−反応特性’を持つということである”とカーラッシュュは言う。”非常に低用量でそれらは活性であり、用量を増やしていくと活性が下がる。それから高い用量で再び活性になる”。彼女は、非常に低い用量、すなわち人に対して勧告される1日当たりの量より1,000倍低い用量がゼブラフィッシュの神経系成長に影響を与えることができることを発見した。

 もうひとつの研究では、シンシナティ大学の准教授ホンシェン・ワンは、BPA 及び BPS の両方ともラットに心臓不整脈を引き起こすことを発見した。彼は50匹近くのラットをテストし、人に見出される濃度に類似した用量でこの化学物質を投与した。そのような低濃度でもラットの心臓は疾駆し始めたが、奇妙にもメスのラットだけに起きた。彼らは、雌ラットだけに見出されるエストロゲン受容体を BPS がブロックし、そのことが、人間の心臓不正脈の一般的原因であるカルシウムチャネル(訳注1)のかく乱をもたらすことを発見した。

 これらの生体内(in vivo)研究は、BPS は有害であるとする生体外(in vitro)研究と一致する。しかし、ビスフェノールAでなされたように、ビスフェノールSを市場から撤去することで問題は解決しない。カーラッシュュによれば、問題は産業側の規制の欠如にある。現在、連邦機関は市場に出すことを許す前に新たな物質の毒性をテストしていない。”我々は、安全でないかもしれない製品にすら、より安全のために保険をかけている”と、カーラッシュは言う。 多くの種類のビスフェノールがあるので、公衆の責任の一部は、”製造者がBPAからBPSへ、そしてBPFへ、あるいは次のものがなんであろうと、安易に変えていくことがないようしっかり見張っていくことである”。


訳注1カルシウムチャネル/ウイキペディア
 カルシウムチャネルは、カルシウムイオンを選択的に透過するイオンチャネルである。カルシウムチャネルには、イオンチャネル内蔵型受容体も含まれるが、単に電位依存性のカルシウムチャネルを指して使われることがある。

訳注:関連情報

Huff Post Green 2014年1月25日 有害化学物質の中で BPA は医療費コストを押し上げていると専門家は言う
 現在、”BPAを使用しない(BPA-free)”製品中で広く使用されているビスフェノールSは、”有罪が証明されるまで無罪”であるとする政府の規制戦略によって潜在的な問題を有している。BPSは化学的にはBPAと同様な構造であり、それはBPAと同じ位、もしかするとそれ以上危険な特性を持っているかもしれない。

最新健康ニュース:ビスフェノールSもビスフェノールAと同様に人体に有害

Huff Post GreenToxic Chemical BPA Under Attack, But Alternatives May Not Be Safer, Experts Say
posted 02/23/2012 by Lynne Peeples


EHN 2010年11月12日 BPA の代替品は何か?

研究テーマ:ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールSの環境挙動に関する研究 担当:D4 Danzl Erica, M2 原 昇司, M1 野本 直樹



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る