内分泌学会プレスリリース 2017年2月14日
欧州委員会の修正提案は
内分泌かく乱化学物質から公衆を保護する能力を制限する


情報源:Endocrine Society Press Releases February 14, 2017
European Commission's revised proposal limits ability
to protect public from endocrine-disrupting chemicals
https://www.endocrine.org/news-room/current-press-releases/
european-commissions-revised-proposal-limits-ability-to-protect-public-from-edcs


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年4月7日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/170214_END_EC's_revised_proposal_on_EDCs.html

【ワシントン DC】 内分泌学会は本日、欧州委員会の内分泌かく乱化学物質(EDCs)の定義と同定に関する規制基準の修正提案は、規制当局が非現実的に高い立証責任を満たすこと、及び有害な化学物質から公衆を保護することを、ほとんど不可能にする不必要に狭い基準であるとして、失望の意を表明した。

 修正された提案中のある条項は、作物に害を及ぼす昆虫や動物のような有害生物の内分泌系をかく乱する化学物質について広範な適用除外を設けることにより、規制行動をさらに複雑にしている。もしそれらが規制されないなら、EDCs を同定するための基準の中に重大な齟齬を生み出し、EDCs に関する科学の状況を反映しない規制システムを生成し、危害を引き起こす EDCs の同定に混乱と遅延を引き起こすであろう。

 EDCs は、脳の発達、生殖、代謝、及び成長を含む、人間と動物の重要な生物学的機能を調節するホルモンを擬態し、妨げ、又は干渉することができる。ビスフェノールAとその他の EDCs は、食品容器、プラスチック、化粧品及び農薬を含んで、日用品中に見出すことができる。

 内分泌学会の2015年の科学的声明(訳注1)によれば、1,300 以上の研究が EDC 暴露を、不妊、糖尿病、肥満、ホルモン関連のがん及び神経系疾病のような重大な健康問題に関連付けている。

 欧州連合は、これらの公衆健康の懸念によりよく対応するために重要な措置をとってきた。欧州連合は、EDCs に特化した規制をもつ最大の単一経済機構である。これらの規制を実施するために、欧州委員会は EDCs を同定するための基準を提案することを求められている。最新の提案は、以前の提案(訳注2)の改善になっていない。それは、内分泌かく乱物質について非現実的に高い科学的証拠を求めており、またある化学物質について、直接的又は間接的に内分泌系の機能を変更する能力を無視する適用除外を求めており、その結果 EDCs を同定し規制する能力を制限している。

 本学会は、この提案は内分泌系を干渉する化学物質の能力を無視する広範な適用除外を含んでいるので、この提案に反対する。科学の状況に矛盾しないやり方で EDCs を効果的に同定するために、内分泌学会は、どのように特定の化学物質が EDCs として作用するかを示す既存の証拠の量に基づき複数のカテゴリーを設けることを支持する。このアプローチは発がん性物質のために使用される分類スキームに類似するであろう。あるカテゴリー系を使用することは化学物質を評価と規制のために優先づけるのに役立つであろうし、もっと多くの研究が発表された時に新たなデータを組み込むことを可能にするであろう。欧州委員会の最新の提案は EDCs を同定するためのカテゴリーを含んでいない。

 効果的に EDCs を規制できなければ高いものにつく。最近の調査は、欧州連合における EDCs 暴露による1年間の有害健康影響は医療費及び生産性損失で 1,630 億ユーロ(約20兆円)に達することを発見した(訳注3)。

 欧州委員会と加盟国が EDC 基準の最終文言を検討するので、本学会は科学の現状を反映する基準を主張し続けるであろう。
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 内分泌学者は、糖尿病や肥満から不妊、骨の健康問題、及びホルモン関連のがんなど、現在最も緊急を要する健康問題を解決する中心にいる。内分泌学会は、ホルモン研究に専念する科学者とホルモン関連の病気をもつ人々を診る医師の世界最古で最大の組織である。
 本学会は、122か国からの科学者、医師、教育者、看護師、そして学生を含む18,000 人以上の会員を擁する。本学会と内分泌学の分野についてもっと知るためには、我々のウェブサイト www.endocrine.org を、またツイッター @TheEndoSociety 及び @EndoMedia をフォローいただきたい。


訳注1
内分泌学会プレスリリース 2015年9月28日 化学物質への曝露は糖尿病と肥満のリスク上昇に関連する 内分泌かく乱化学物質に関する科学的声明(EDC-2)

訳注2
内分泌学会プレスリリース 2016年6月15日 欧州委員会の策を弄した決定は公衆の健康を保護しない

訳注3
内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用 EU で年間 1,500億ユーロを越える


訳注:Chemical Watch の記事の要点紹介 (参考)
Revised EDC criteria proposal sent to EU member states Industry, NGOs say amendments fail to address concerns / Chemical Watch, 10 November 2016
  • 提案の最も重要な変更は、現在それが、内分泌かく乱作用を引き起こすことが知られているというより、”人間に有害影響を引き起こすかもしれない”内分泌かく乱物質の禁止に言及していることである。

  • いくつかの加盟国は、禁止のために必要な証拠のレベルが高すぎるとして、当初の言い回しについて懸念を示していた。

  • PAN Europe は、修正はされたが、証明のレベルは非常に高いままであると述べ、NGO coalition EDC-Free Europe は、この最新の提案は、法の意図通りに市民の健康や環境を守らないと述べている。

  • EDC の禁止を実施するためには、規制当局は、有害影響、作用機序、及びこれら二つの間の関連を示さなくてはならないであろう。PAN Europe は、情報、特に作用機序が入手できないので、これは”立証することがほとんど不可能”であろうと述べている。

  • 欧州作物保護協会(ECPA)は、修正は産業界にとって不確実性が加わるものであると述べている。効力(potency)のようなハザード特性化要素の欠如と共に、この基準は、”規制当局が、真の懸念を引き起こす物質を、引き起こさない物質からどの様に同定するのかを予想することを不可能にする”と述べた。

  • 他の修正の多くは化粧品に関するものである。



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