タイ日FTA署名への反対声明
自由貿易地域協定を調査する市民の会(FTAウォッチ)
仏暦2549(西暦2006)年12月22日

原文(タイ語):http://www.thaingo.org/cgi-bin/content/content3/show.pl?0719

訳:土井利幸 (タイ・マヒドン大学大学院博士課程在籍)

掲載日:2007年1月7日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/JTEPA/061222_JTEPA_FTAWatch.html


 スラユット・チュラノン大将が率いる内閣は、タイ日経済連携協定(JTEPA/Japan-Thailand Economic Partnership Agreement)の交渉結果を受けて、関係各省に協定内容の実施のための準備を進めるよう指示しています。仏暦2547(西暦2004)年から継続的にタイ政府による自由貿易地域協定締結のための交渉を監視してきた「自由貿易地域協定を調査する市民の会」(FTAウォッチ)は、以下のさまざまな理由により、タイ日FTAの署名と本日の公聴会開催に反対の意思を表明します。

  1. 前政権による正当性を欠いた協定案を現政権が引継ぐべきではありません。

     タイ日経済連携協定(JTEPA)はタクシン・チナワット前政権の下で推進・実施されてきた貿易協定の一つで、不透明なやり方で進められ、市民の参加は不十分で、利権もからんでいるとの批判を受けてきました。前政権によるFTA交渉の結果は、タイ・中国間のFTAやタイ・オーストラリア間のFTAでも見られるように、何百万世帯もの農家に影響を及ぼしてきました。タイ・チェンマイでのタイ・米国間FTA第6回交渉は、1万人もの市民の激しい抗議行動で交渉場所の変更を余儀なくされました。タイ日FTA交渉もまた、政権に近い実力者が利権をむさぼるために進められ、大多数の市民は悪影響を受けるとして監視の目にさらされています。

     スラユット・チュラノン政権は、不透明さを理由に前政権を打倒した政変によって指名された政権であり、FTA署名に向けて手続きを進める根拠も正当性もまったくありません。現政権がまず行わなければならないのは、国家経済社会審議会や国家人権委員会の提言にしたがって、タイ日FTAの合意事項をあらためて全面的に見直すことです。

  2. 政府は署名に先立って協定の全文を公開せず、タイの一般市民や研究者が十分な時間をかけて隅々まで検討できるようにしていません。

     署名期限を仏暦2550(西暦2007)年3月末としてタイ日FTAの準備をすすめる政府は、協定が署名間近で全国の人びとに関係するにもかかわらず、一般市民・学識経験者・各分野の専門家・研究者に全文を公開しようとせず、一連の文書も非公開にしています。スラユット・チュラノン政権のこうしたやり方は前政権とまったく変わるところがなく、政権を担当した際に市民に対して発表した透明性や正当性を重んじる方針とも相容れません。わたしたちFTAウォッチは政府に対して、協定をタイ語に翻訳し公式な文書として無条件で一般市民に公開し、署名をする前に全国にいる各方面の研究者や専門家も含めた関係者が隅から隅まで十分に検討・分析できる状態にするよう要請します。

  3. 十分な審議を行う議会が存在しない暫定政権には正当性がありません。

     現政権は、国民が真に参加する民主主義国家を確立させる行政改革を使命として暫定的に国家運営を担当している点を自覚すべきです。将来的にすべての国民に制限や影響を与える他国との協定に国民の選挙で選ばれた議会の審議なしに署名するためには、内閣や法制評議会は、他のいかなる問題にもまして慎重かつ広範に議論する課題として取り扱わなければなりません。私たちFTAウォッチは、他国との協定内容への署名は国民の選挙によって成立した政府が、真に民主的な議会での審議と承認を経た上でなすべきだとする中立の立場に立つ多数の研究者の意見を支持します。

     現政権に課せられた緊急の課題は、利権の介在、透明性の欠如、市民参加の不足、議会での審議の不在などといった批判を受けないように、特に他国との協定交渉に関する法案を作成して、貿易交渉ならびに諸外国との協定締結の手続きを改善することです。タクシン・チナワット政権下において最大の利権となり最大の被害を国家にもたらした汚職行為は、CTX爆発物検知器にまつわる汚職でもなければ、パラ・ゴムの苗やシン・コーポレーション社株に関わる脱税の件でもなく、政策によってなされる不正行為、とりわけ外国との貿易協定から発生するものです。

  4. 外務省は欺瞞に満ちたやり方で市民参加と公聴会を取繕っています。

     タイ日FTA交渉団団長に任命されたピサーン・マナワパット外務補佐官は、私たちFTAウォッチをはじめ関心のある人びとに交渉に対する意見を表明する機会を与えているとの文書を折々作成し、内閣に対して報告し、メディアにも発表してきました。しかし、外務省のやり方は真の意味で市民参加の機会を提供するものではなく、単に人をたくさん招待して広報用の証拠写真を撮るために懇談させるといったもので、一方で協定内容や情報の公開を拒み、そのためFTAウォッチは当初より参加しないようにしてきました。

     また、今回開催した会合を「公聴会」と呼ぶには、国家経済社会審議会など、公式・非公式は別として、政府に提言を発した中立機関や一般市民に対する協定内容の公開を受付けなかった、会合の進行をたった半日につめ込んだ、市民の意見を聞くより市民に情報を提供することに終始したなど、公聴会の原則に照らして無理があります。こうした性格の会合を公聴会と呼ぶことはまったく不可能で、協約への署名に根拠を与えるための儀式でしかありえません。さらに、こうした行為は、政府の署名の障害となることを恐れて外務省が広く一般市民に知らせたくない内容が協定に存在することを確信させます。

 私たちFTAウォッチは報道を通じて、スラユット・チュラノン大将指導下の政府がタイ日経済連携協定(JTEPA/ Japan-Thailand Economic Partnership Agreement)への署名に向けた手続きを即座に停止し、上記の不当性の四つの根拠に対する立場と回答をおおやけに示すことを要請します。また、この声明に加えて、FTAウォッチはJTEPAへの署名反対の書簡を首相に対して正式に提出いたします。

 私たちは、外務省が課した条件と限られた時間の中でタイ日FTAの内容を調査する機会を得ましたが、協定内容には国家主権に大きな影響を及ぼし、国民の健康管理、国家の資源の取得、核廃棄物なども含めた有害廃棄物の投棄のための国土の提供を左右する傾向が認められました。

 私たちFTAウォッチは、報道関係者と一般市民に対して、とりわけ今から三ヶ月間の政府と外務省の動きをしっかりと監視し、これまで簡単に述べてきた観点からタイ日FTAの影響を明らかにする目的で研究者や住民団体のネットワークおよび中立組織などと協働するFTAウォッチの動きと情報に注目して下さるよう呼掛けます。

仏暦2549(西暦2006)年12月22日


編者注:(関連記事)
2007年1月1日タイ・バンコク/日タイ経済連携協定(JTEPA)バンコク「公聴会」についての報告



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