challenge.1

ジェンダーの痛みや苦しみを
ゲームで表現するのは難しい

今月のテキスト
『片想い』 東野圭吾・文藝春秋/1714円
「オレは男だったんだ。ずっと前から。」女友だちの衝撃の告白。身近に迫る性同一性障害問題が主人公を事件に巻き込んでいく。

 

 

 


 

 

麻野 ボードゲームの「スコットランドヤード」みたいなゲームにするのはどうかな。
小説中の「逃げるほうのジェンダーがわからない」という設定をルールに組み込む。
追い掛ける役が捕まえても、その時の相手のジェンダーを当てられないとダメという。

米光『片想い』のドラマそのものをゲ−ム化しようとする時難しいのは、
男女というジェンダーのスイッチをゲーム性として扱っちゃうと、
作者が書きたかったものが失われてしまうことなんだよね。

麻野 まさにそう。
「スコットランドヤード」だと、
「ジェンダーがわからない」ということをルールとして使ってしまった時点で
そこにある悲しさや苦しさを利用してしまうことになる。

米光 それはできないことだって言ってるのがこの本なわけだから。

麻野 捕まりそうになってジェンダー変えられるの3回までにする?  HP下がるとか(笑)。
でもそうやっていくとどんどんゲーム臭くなるし、
だったら最初から「変装の達人ゲーム」にしたほうが素直に面白そう。
ドラマ性を活かして
アドベンチャーやサウンドノベルにしてもそれなりのものにはなるだろうけど。

米光 テーマ部分だけを切り取って、
例えば「シムシティ」みたいなシミュレーションゲームにしちゃうのはどうかな。
小説でも大きなテーマになっている
「男女のジェンダーは2つにわかれているのではなくメビウスの帯状に存在する」
というのを核にする。
「シムシティ」は都市だけど、これは人間関係のシミュレーション。
プレイヤーは先生で、20人のクラスを受け持っている。
で、パラメータの1つとして
メビウスの帯状のジェンダーが設定されている。
生徒たちの肉体のジェンダーと心のジェンダーは違っていて、
先生の接し方によってパラメータが変化し、人間関係にも影響していく。

麻野 で、最終的には文化祭を成功させると(笑)。
パラメータはジェンダーだけ?

米光 いや、ほかにも必要でしょう、
「ときめきメモリアル」みたいに。「魅力」とか。
ほかはなんだろう。

麻野「すばやさ」とか。なにがすばやいの?(笑)

米光 まあよくあるヤツが入ってて。
先生として生徒をどこに配置するかをシミュレートする。
文化祭で演劇をやるとしてお姫さまを誰にしようかと。
女の子の心をもっているために抑圧を感じている男の子にやらせてみると文化祭は大成功……って
テーマ出てないじゃんって感じだね。

麻野 クラス全員が性同一性障害なの?

米光 それはいろいろかな。
20人のうち1人だけで、キーポイントになってるとか。

麻野 先生はその子をうまく指導しなくてはならない。

米光 本に出てくるおとうさんがそうじゃん。
じぶんはずっと娘の性をコントロールしてきたかもしれないって言って、
ある精神科医の研究例を出す。
小さい時に双児の片方のペニスが切れちゃって……。

麻野 割礼に失敗して燃やしたんだっけ。
で、それからずっと女として育てる。

米光 研究発表の時には、女として成長してたんだけど、
その後で手術して男に戻ってしまった。
その話をおとうさんが語って
「わたしも娘に同じことをしてしまったのかもしれない」と。
そういう気持ちをゲームで味わえ!

麻野 エンディングは「私は取り返しのつかないことをしてしまった」
……なんてアイロニカルな(笑)。
あなたはこれをやってていいんですか、 人としてどうですか
と突き付けるゲーム 。
買ったことを後悔するかも。

米光 いつも思うんだけど、
ゲームの限界ってプレイヤーがなんの痛みもなく行動を選択できてしまうこと。
例えば主人公が崖にぶらさがってるとして
「耐えますか/落ちますか」で簡単に「耐える」選択ができてしまう。
現実では苦しみを伴うようなことを表現するのが難しい。
だから『片想い』のようなテ−マは本当はゲームにしづらいよね。

麻野 今は少なくなったけど、
戦争でも何でもドラマにすること自体が不謹慎という考え方があるじゃないですか。
ゲームって未だそれが濃い。
人が苦しんでいる話をゲームにして楽しむなんてふざけんなっていう。
気にし過ぎると言葉狩りになって行くんでそれもイヤだけど。
『片想い』をゲ−ム化するのなら、
登場人物たちがやって、面白いと思えるものをめざしたい。

米光 ネットワークに繋ぐのは? 
プレイヤーは生徒としてゲームに参加する。

麻野 ああ、それはいいね。
当事者として男になったり女になったりするのはゲームとしても面白いかも。

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『鳩よ!』2001/7月号掲載 

 

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