challenge.10

どうしようか。そのまま素直に
RPGになりそうな話なんだけど

今月のテキスト
『愛のひだりがわ』筒井康隆 岩波書店/1800円
筒井康隆の児童文学。左手が不自由な少女が不幸な日常を抜け出し、行方不明の父を探す旅に出る。空色の髪の少年、人生を教えてくれる御隠居、犬たちの援護などファンタジックな展開満載。筒井マニアを自認する三人ですが、この新作に戸惑ってるようで?。

 

 

 


 

 

 

米光『わたしのグランパ』もそうだったけど、
なんか遺書みたいだよね。
孫たちに伝えたいシリーズ第二弾。

飯田 村上龍の『希望の国のエクソダス』への解答とも読める。
これから若い人はどう生きていったらいいかという。

米光 真面目な話だよねえ。
戦後直後に生まれた幻の児童文学の傑作だと
言われても信じそうだもん。

麻野 どこでめんたまを剃刀で切ったりするんかなあ
と思いながら読んでたけど、
マトモなまま終わってしまった。

飯田 いいお話なんだけど……。

麻野 いや、ちゃんと面白かったんだけど……。

米光 みんな戸惑ってる?

飯田 そういう訳でもないんだけど……。
TVゲームに求められているプロットってちょうどこのくらいの感じだよね。
お話として簡潔で面白くてちょっとタメになる。
今のゲームに欠けてるものがこの本にはちゃんとある。

麻野 不幸な生い立ちの少女が父を探す旅であり、
成長する物語であり、
そのままRPGゲームになってしまう。

米光 キャラも立ってるしね。
犬のことばを解する美少女、空色の髪の少年……。
ゲームにしやすいぶん、難しい。
読んだほうが早いし、
面白いよってことになってしまう。

麻野 途中でいきなり三年経過するのにはびっくりしたけどね。
「中学三年生になった。……そしてわたしは、美しくなった」って。

米光 文章上で時間が飛んでも
「その間にいろいろあったんだなあ」と思わせることができる。
小説だったら「多数の敵を蹴散らしてどこどこに辿り着きました」って数行で済むところを、
今のゲームの、RPGの文法だと
「多数の敵を蹴散らす」のを全部プレイヤーにやらせて、
辿り着くまでに流れた時間を実感させるようにつくんなきゃなんないから。
途中で手強い怪物なんかを出したりして。

麻野 書かれていない三年間の何もないところも
ゲームだと表現しなきゃなんない。
愛ちゃん、ずっと勉強ばっかり?(笑)。
プレイ時間で考えると、
ゲームの波乱万丈は旅立ちの最初と最後だけになってしまう。

米光 それはできないよね。
あと、文章の力ってでっかいなと思うのは、
ハマグリが歌うシーンがあるじゃない? 
幻想的ですごく好きなんだけど、
これをそのままRPGで表現しちゃうといかにもチャチになってしまう。
こういうシーンをちゃんと成り立たせる世界観を確立させるのは
並み大抵のことではない。

麻野 想像の余地という点では、
確かに小説には適わないところがあるかもしれない。

飯田 オレはゲームつくるときはビジュアル先行で考えるんですけど、
犬26匹にバイカ−集団
それを率いる首領が美少女っていうのはすごくゲーム映えすると思うんですよ。
それは生かしたいな。

麻野「ピクミン」みたいな感じ?
集団で現れてどんどん街を荒らしていく。

米光 荒らすんかい(笑)。

飯田 素直にRPGにしても
糸井重里の「MOTHER」を超えるようないいゲームになりそうなんだけど、
ここは敢えてアクションゲームにするのはどうだろう。
ビジュアルインパクトを重視して
犬とバイカー集団を率いた美少女愛ちゃんを引っぱり出して。

米光 横スクロールアクションでね。
愛ちゃんは左手が不自由だから片手で戦う。
ステージ2くらいから犬がついてきて、
いじめっ子や暴徒たちをなぎ倒していく。
点数はリアルにお金で表示。
背景にたまに自動販売機があって、
愛ちゃんは小銭を探ってお金を稼いだりできる(笑)。

麻野 空色の髪をした少年サトルが
宙に浮いて助けてくれるステージがあったり。

飯田 サトルは髪が黒くなると空中浮揚できなくなる設定でね。
ステージ数は章立てそのまま、7章構成。
ステージクリアすると短いドラマが挿入される。
最後の「父」の章がいちばんツライ。
父は敵が金をばらまくとすぐにそっちに行っちゃって、
愛ちゃんの足を引っ張るから。

米光 父が最後まで反省もせず、
ダメなまんまなのはすごいよね。
そのへん容赦ない。

麻野 情けない父は、
ぜひ実写で見せたいなあ。
そうだ、ゲームの表現を進化させていくのは面白いかも。
第一章は荒いドットで、ファミコン版のカニ歩きのキャラで、
成長するにつれて色数とか画素数が増えていって画面がリアルになっていく。

飯田 最後の方でいきなり3Dになって、
キャラがポリゴンになる。
なるほど、ゲーム史を入れ込むんだ。

麻野 ポリゴンキャラで犬とバイカー軍団を連れて敵を倒すステージが
ゲーム中でいちばんカタルシスがあるんだけど、
最後は平板な実写になる。
魔法がとけたように、普通の少女と犬が歩いているだけの映像になってエンディング。
結局現実なんてこんなもんだよなあという。
小説の内容とも合ってるんじゃないかな? 
リアリティがないから夢ももてるんだというところを
映像をどんどんリアルにしていくことで、夢をつぶしてしまう。
その展開は正しい気もする。

飯田 いいゲームだなあ。
しびれるかもしれない。

麻野 でも、売れそうもないなあ(笑)。

米光 じゃあ、オレ『霊長類南へ』をゲーム化する。

飯田 オレは『七瀬ふたたび』かな。

麻野 それだったらオレも……
(以後えんえんと好きな筒井作品談義で盛り上がる)

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『鳩よ!』2002/4月号掲載 

 

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