十兵衛が女の子になって花月と電撃結婚する。
──という衝撃的な大ニュースはあっという間にVOLTS全体に広がった。
「ということは、今までは内縁関係だったというわけか」
「同棲じゃないのか」
「オレ…もう結婚してるんだと思っていた──」
「花月さん、白無垢を着てくれるのだろうか──似合いそうだなぁ」
「やっぱ、あの2人なら『結婚式』より『祝言』だよな!」
「でもウェディングも捨てがたい…花月さん、美人だし」
「ん?嫁に行くのは十兵衛さんらしいぞ」
「え!!??」
部屋に祝辞を言いにかけつける花月のグループ及びVOLTSの面々と届く前祝いの品々。ペアパジャマにペアマグカップ、フリルのついた真っ白なエプロンといったお約束プレゼント以外にも奇をてらった品々がいくつか。
プレゼント品の整理と見世物パンダ状態に少々疲れていた十兵衛は部屋の奥に無愛想に腰掛けたまま、花月が1人1人に丁寧に対応していくのに任せていた。
「花月さんが女の子じゃなかったのですね…」
「十兵衛さん、美人じゃないか!」
嘘つけ。
十兵衛は漢方茶をすすりながら心の中で悪態をつく。
花月の方がよっぽど美人だろう!
貴様ら、どこに目をつけているんだ!!
「あ、銀次さん。いらっしゃーい」
「うん、カヅッちゃん達が結婚するって聞いたから」
「すいません、わざわざこっちにお運び頂いて。さっき銀次さんところに挨拶に行こうと思ったんだけど、十兵衛が…」
「あれ、そういえば十兵衛は?」
「ちょっとお腹が痛いって寝てます」
「ふーん、珍しいね」
「──月のものが始るのかも……」
「………」
「………」
もしそうだとするとちょっと可哀想だなぁと、花月は銀次のためにお茶を入れながら思う。
せっかく午後からの朔羅さんの特訓に心弾ませていたようだったのに。筧の針には、その手の血流を整えるものとかないのかなぁ。絶対ありそうなんだけど。
「で、相談って何?結婚式のこと?」
「あ、ええ、そうなんです。銀次さんに結婚式の司会を頼みたいなって思って」
「司会?うん、いいよ、任せて!お嫁さんがお婿さんとこに歩いてきて、病める時も健やかなる時もショーガイの愛を誓いますかって聞いて、指輪の交換して誓いのキスをっていうアレのことでしょ?」
「………」
あれ?結婚式って高砂の〜って謡って三々九度をして、じゃなかったっけ?
花月は少しだけ疑問に思うが、自分も結婚式というのに出たことがないからよく分からなかった。
まぁいいや、銀次さんがそれでいくっていうのなら。
迷うことなんてないよ。
お任せお任せ。
「詳しくはよく知らないからマクベスに調べてもらっておくよ。あと何かない?カヅッちゃん達にはいつも助けてもらってるから何でもするよ」
「そうですか?ありがとうございます。うーん、じゃあ、まだ聞きたいことがあるにはあるんですけど…」
「何なに?」
「ドレスのこと」
「ドレス?」
花月がゼクシィ(超有名結婚準備雑誌)をめくりながら答える。
「十兵衛にどれが似合うか困っちゃって」
白無垢姿にも心惹かれているようだが、レースやリボンがひらひらしたウェディングドレスにも興味津々で、これもいいと思うのだけどこれも可愛らしいと見せていく。
ウェディングドレス、と一概に言っても色々な型がある。Aラインのすっきりしたデザインのものや裾がふわりと広がったプリンセスライン。素材だってレースやサテン、チュールにシルクと布が違うだけでずいぶんと感じが違うのだ。
「十兵衛が決めればいいじゃないか」
「どれも歩きづらそうでずるずるしていてイヤなんだって」
「我が儘だね」
──ほっといてくれ──
もしも式の最中にベルトラインの連中に襲われて、ドレスに足をひっかけて転んで、花月を守れないなんて事があったらと考えると、とてもじゃないがそんな格好できやしない。
うう。それにしてもお腹がシクシクする。イライラする。
「こける前にカヅちゃんが助けてあげればいいんだし、襲撃があればオレが退治してあげるから、何の心配もせずドレス着ればいいのに」
「ねー、こんなに綺麗なのに…教会結婚式なわけじゃないから肌見せてもいいんだよなぁ」
「この裾のながーいの、お嫁さんって感じでよくない?」
「あ、やっぱり銀次さんもそう思います?そう、こういうトレーンが長いのって綺麗でいいなーオフショルダーだし、可愛らしいなぁ」
花月、そんなに気に入ったのなら貴様が着ればいいじゃないか!
雪のような白い肌に白いドレスで、たわわな黒髪を結い上げてティアラを飾って白のベールを落とせばそれはそれは綺麗で素敵な可愛いお嫁さんに──違った、花月はお婿さんだ。
──ああ、ダメだ。花月に当たるなど…本当に機嫌が悪くなっている。
オレには女の子生活なんて出来るわけがない。
月に1回、花月に当たりかねないなんて生活はイヤだ…
「『素敵なお嫁さん』になりたいんじゃなかったのかなぁ…」
しょぼーん、と花月が言う。
(ああ!しまった!!花月がしょんぼりしている!!いかん、いかんぞ、筧十兵衛!腹が痛かろうと裾を踏んづけて転がろうと花月を守るという気概を忘れるようでは!!)
「花月……」
枕に向かって声をかけると、耳聡い花月はちゃんと聞きつけて後ろに声をかけた。
「なぁにー、十兵衛?」
「なんでもいいから、貴様がこーゆー『素敵なお嫁さん』をもらいたい、と思うようなのを適当に見繕って構わないよ」
「そーお?」
「オレには何が『素敵なお嫁さん』なのかよく分からん」
「うん、分かったー。そうだよねー、大事な夢って本人はきちんと形に出来ないものだもんねー。風鳥院花月の名と将来の十兵衛のお婿さんの名誉と責任にかけて1番似合うすっごく可愛いの選んであげるー」
よぉし!頑張って選ぶぞー、と気合を入れている声が聞こえる。
オレはとりあえず、衣布術を身につけながらドレスの着こなしでも勉強せねば。
結局花月は、ふっくらリボンとふりふりフリル、丸くふうわり広がるオーバースカートのついた大変愛らしいドレスと、シンプルイズベストというに相応しいすっきりしたAライン、しかしながら少々首周りの露出が高く、トレーンとヴェールの非常に長いドレスとを選んで用意してきたが、前者は180センチ以上という十兵衛の背丈の前にあえなく却下されてしまった。
「十兵衛…僕、どちらかというとこっちのフリルの可愛い方が良かったんだけど………──強烈に似合わないね」
「すまない」
ドレスも決まり、あとは式場を整えるばかり。
 |
 |
|