カヅたん、じゅーべーをもらう――第4話





「花月、姉者。──どうしてオレは急に女の子になったんだろうか?」
十兵衛の質問に、花月と朔羅は手をとめて真顔で十兵衛を見た。
「ああ、そう言えばその話だったね。3人よれば文殊の知恵。考えようか」

3人、朔羅の淹れた温かな緑茶を前に改めて話を仕切りなおす。

「十兵衛…違った、トーコちゃん、僕、考えてみたんだけど──」
「十兵衛で構わん。何だ?」
「十兵衛、もしかして赤ちゃんが欲しかったの?」
「は?」

赤ちゃん?
赤ちゃんだって??
どうしてそういう発想になるんだ?

「『神様の気まぐれ』ってことでなければ、やっぱり『十兵衛に女の子になりたい願望があったから』って考えるのが自然でしょ?」
「それはもっともだが。しかしそうは言っても、オレは別に女の子になりたいなどと露ほども思ったことはないぞ」
「だよね。だからここは直接的に女の子になりたい、というよりは女の子になったら出来るようになること、を考えるのがいいと思うんだ」

結果が直接的な原因ではなく、原因は別のところにありこの結果はその原因を間接的に具現化しているだけ、というわけか。
さすが花月。理路整然としている。

「うん、それで?」
「で、男の子に出来なくて女の子に出来ることとくればやっぱり妊娠、出産でしょ。だから赤ちゃんが欲しかったのかなぁって」

赤ちゃん。
赤ちゃんねぇ……

いや、そういうことは特に思ってないはずだが──

花月のことは好きだし、花月も有り難いことにオレのことを好きでいてくれるからこんな関係になってはいるが、別にだからと言って赤ちゃんが欲しいとか、赤ちゃんの名前をどうしようかとか、やはり最初は女の子がいいとか、赤ちゃんが生まれたら筧の跡取に育てたいとか、そういうことは思ってない──はずだ。

はずだ、はずなのだが。

でも実際女の子になった自分がここにいる。
そうか、もしかしたら確かに赤ちゃんが欲しかったのかもしれないと刷り込まれつつあるところに、今度はもう1つの意見が出た。

「あら、花月さん。それだけじゃないわ、女の子はスカートもはけるという特権もあるのよ」
「あ、なるほど。十兵衛、もしかしてピンクハウスみたいな格好をしたいなぁって思ってたの?」
「それなら、木綿を用意してピンタックをふんだんにあしらった方が良かったかしら?」
「それは遠慮しておく。だいたい、男でも着ようと思えば着られるではないか…スカートやワンピースくらい」
「確かに。僕も振袖着ていたし」
「でも、男性の姿のまま着ていたら似合わなくてよ…特にあなたの体格では」
「今のままでもフリルもレースも要らん。邪魔だ」
「そう…残念だわ」

朔羅は手元に引き寄せ掛けていた『SO-EN』を片付ける。金子功特集、と表紙に書かれ小花の散った赤いワンピースを重ね着した女性が映っている。
ピンクハウスを着たいのは実は姉者なのでは…?(※カネコイサオとピンクハウスが別物ということを十兵衛さんは知りません)と、ツッコミたい衝動にかられたが、また話が明後日の方向に行きそうな気配を感じ、何も追求せず服装が遠因である、というのは却下、ということで話を切る。

「朝から、品のない話になってしまうけど──実はたまには下がいい、とか思ってたとか」

ちょっとだけ頬を赤らめながら告げる花月。
オレは話題そのものよりもその直接話法をどうにかして欲しいのだが…

下。
下ねぇ…

「花月…言葉を返すようだが、別に男のままでも出来るよ──実際、やってるじゃないか」
「そうだけど─やっぱり女の子の方が気持ち良さが違うんじゃないかなって」
「………──もしかして、まだずいぶんとお前に負担をかけているのか?」
「別に負担とは思ってないけど!──ちょっと…やっぱり………」

少しずつ小声になる。

「……」
「……」
「…身体にキツイということであればオレが別に下でも」
「ううん、そんなことは全然!十兵衛にしてもらうの、好きだし……でも、ほら……」
「でも……?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「あなたたち、話の続きは2人だけでしてちょうだいな」
「ごめんなさい」
「すまん」
同時に頭を下げる。

しかし気になることを聞いてしまった。
やはり男同士でああいう行為に及ぶということは自然の摂理に反すること。抱く側のオレはともかく抱かれる側の花月にとって、本来、男を受け入れるような体ではないということはどんなに──(以下自主規制)
──今まで花月の言葉を信じて、求めるままにしてきてしまったが、本当に身体に負担がかかってないかまでに気をまわさなかったとは、気がつけなかったとは何たる不覚。

十兵衛が先の話題から離れずにいるところ、しかし花月は話題をチャキッと切り替えた。

「あ、分かった」
「………」
「十兵衛!聞いてる?」
「あ?──ああ、すまない。どうした」
「これだ!これしかないよ!!」

花月は自信満々に続ける。

「十兵衛、お嫁さんになりたかったんでしょ」
「はぁ?」
「女の子の夢と言えばやっぱりこれでしょ!『素敵なお嫁さん』」
「……」
「何、十兵衛。図星だったの?」

考えているだけだ。

お嫁さん。
お嫁さん。
お嫁さんねぇ……
お婿さんになりたい、とも思ってないのにお嫁さんになりたい、などと思ったことが未だかつてあっただろうか。
いや、ないような気がするが。

「そうだね、やっぱりこれだよ、十兵衛。『素敵なお嫁さんになって可愛い赤ちゃんが欲しかった』んでしょ?」
「確かにそれは説得力がある原因ねぇ…」

朔羅も頷く。

何かが違う。
何かが違うという気は確かにする。
しかし何度も言われるとだんだんそんな気がしてくる自分がイヤだ。

だって、他にこの状態をどう説明できるというんだ?

考えてみようじゃないか。
素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん。
素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん。
素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん。
可愛いお嫁さんで素敵な赤ちゃん。
あ、違った。
素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん。
素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん。

確かに、幸せそうでいいかもしれない──

素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん。
素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん。



そう、何か、形になる幸せなものを求めていたのかもしれない。
沈黙のままどんどん刷り込まれていく十兵衛を、さらに花月が力いっぱい加速した。

「大丈夫だよ、十兵衛。その夢なら簡単に叶うよ!僕がお嫁さんにもらってあげるから」
「花月……」
「ねっ!」
小首をかしげ、にこっと微笑む。
「……」
「それとも、僕が旦那さんじゃ十兵衛はイヤ?──大丈夫!僕が筧花月になってあげるから!!」

何と答えてよいか分からずぼやっとしていると、花月は急に顔を雲らせた。

「イヤなの…?せっかく勇気を出してプロポーズしたのに…やっぱり自分より背の低い旦那さんはダメ?」

え?プロポーズ?
そうだったのか??

「い、いや!そんなことはない!ただ…」
「ただ?」
「オレは、結婚願望があるのかとか、自分ではよく分からなくて──」
「年頃の女の子はそんなものじゃなくて?」

年頃…、年頃なのか、オレは。
「年頃」という表現にちょっとショックを受ける自分が少しばかり悲しい。
しかしそう言われてみればそうなのかもしれない。母上は数え二十歳で姉者を産んだ。そうか、すでにオレの年ですでに1人の子持ち。立派な母になっていたというわけか。

「そうだ、姉者。姉者をおいて先に結婚するなど」
「あら。私は相手がイイ男になるのを待っているだけだからいいのよ」
「十兵衛は僕が好き?」
「ああ」
「僕も十兵衛が好きだよ。それだけじゃ結婚の理由にならない?」
「そうよ、十兵衛。そもそもあなた達のような関係にありながらどうして躊躇することがあるの?」
「十兵衛、もう1度だけ言うよ。これが最後だから…本当にイヤだったら断ってね」

花月は今までになくきりっとした表情をし、Tシャツの裾を改め十兵衛の正面に膝をついて頭を下げた。

「風鳥院花月、筧十兵衛様に妻問い申し上げます」