カヅたん、じゅーべーをもらう――第1話





今自分が認識していることが自分だけの勘違いではないとあっさり肯定されパニック寸前の十兵衛をよそに

「その胸、ほんもの?」

まったくそれを意に介さない様子で花月はぷにっと指で胸をつついた。

「あ、ほんものだ」

Bカップかな。Cくらいあるかな。とふにゅふにゅ人の胸を揺らしながら、花月は独り言を言っている。
何の話だか十兵衛には全然分からない、というよりも正確にはすでに自分が置かれている状況を理解できないから思考は完全にそこでストップしており、花月のなすがままだ。

「下もほんものかなぁ──わ、ほんものだ。ごめんなさい、はしたないことして」

ちらっと布団をめくった後、花月はぱっと顔を赤らめて再度布団をかぶせた。

「花月」
「なに?」
「オレはどうすればいい?」
「朝だし、とりあえず顔洗って服を着ようか」

いや違うんだ花月!そういう意味じゃなくて!!
19年間男として生き、なにゆえこんな事態に陥ったのか、その理由とかその原因解明とか男に戻る方法のあるやなしやとか。

だいたい、これからどうやって女として生きろと…?

殆ど泣きそうな十兵衛の前に、女の子用の下着なんてないからとりあえず晒し巻いて普段通りのカッコウでいいよね、とポンポンと服が投げてよこされる。

のんびりした花月の様子に、徐々に十兵衛も落ち着いてくる。
そうか、もしかしたら無限城ではこういうことも日常茶飯事なんだ。
花月ほどの情報網の持ち主なら、このような前例も見知っているに違いない。よし、あとでその原因と解決方法について花月から教授してもらおう。

そう、花月の言う通りとにかく身支度を整えないことには話が進まないではないか。

─とんでもない方向に落ち着き始める2人の、非日常的な朝が再開した。





部屋着に袖を通し、いつものように洗顔しようとすると花月から鋭い待ったの声がかかる。

「十兵衛、何やってんの!」
「そりゃあ、ヒゲを剃ろうと…」
「何言ってるの、女の子はヒゲなんか生えないんだよ。鏡をよく見てよ」

だからこんなの塗らなくていいんだってば、と、手にとっていたシェービングクリームをじゃーーーーっと洗い流される。

ああ、勿体無い。

せっかく3本セットの特安品をセール期間まで待って買ったのに…心の中で3枚ほどの5円玉が時計回りに流しに消えていくのが目に見えるようだった。いや、それよりもこれからしばらく女の子だとするとあと1本残っている缶ももしかしたら無駄になるということか…?

それはいかん。

母上は常々物を粗末にするな、粗末にすると勿体無いお化けが出るとおっしゃっておられた。
誰かに売りつけ、いや、良品安価で買って使ってもらわねば…と筧流エコライフの算段をしている十兵衛の足元で、花月は洗面台の戸棚からマツモ○キヨシと書かれた薬局の袋をひきづり出してくる。

「女の子のみだしなみはコレだよ、コレ」

花月はドラえもん宜しく、つい、と柄が桃色の薄いカミソリを出す。

「その儚げなカミソリは何だ?」
「産毛剃り。僕の買い置き、1本あげるよ」