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(00/2/29掲載)

[EMI-あるレーベルの物語] [図解!EMIの歴史] [参考文献]


HMVとは?

 これまでの話の中に何回も「HMV」という名前が出てきましたよね。蓄音機から聞こえてくるご主人さまの声(His Master's Voice)に耳を傾けるニッパー君を描いたイラストは、英グラモフォンのトレードマークとして有名になり、HMVというのは、ほとんど英グラモフォンという会社の代名詞にまでなっていました。しかし、「これってCDショップの名前じゃん」とおっしゃるかた、あなたの感覚はまともですよ。EMIという社名が一般的になった現在では、渋谷センター街にあるピンクのCD屋さんの屋号が"His Master's Voice"に由来しているなんてことは、バリバリの業界人でも知らないことなのですから。
 ショップとしてのHMVは、英グラモフォンが自社製品を販売するために1921年にロンドンでオープンしたものが最初です。初代店長は作曲家のエドワード・エルガーという、由緒正しいもの。本国では上のようにちゃんとニッパーのマークがついてますよ。
 さて、「本国では」と言いましたが、このマークについてはなかなか複雑な事情があるのです。
 英グラモフォンでは、最初は天使(レコーディング・エンジェル)のイラストをマークに使っていました。 
そして、1907年からこのニッパーマークを使うようになったのです。で、もともとこのイラストはフランシス・バロウという画家が1899年に描いたもので、そもそもはシリンダー型の蓄音機の宣伝用にと、コロムビアに売り込んだものなのです。(左)
 コロムビアで門前払いをくらったバロウは、蓄音機をディスク型に書き替えて(右)、それがめでたく英グラモフォンにポスター用のイラストとして採用されたのでした。これを見て気に入ったエミール・ベルリーナは、一足先に1901年に創立されたビクター・トーキング・マシーンのトレードマークとしました。さらに、1927年にビクターの子会社として設立された日本ビクターでも、このマークを使用します。
 時は移り、英グラモフォン、米ビクター、日本ビクターの三者間に何の提携関係がなくなっても、このマークの権利だけはそれぞれの会社が持っていましたから、EMIとしてはアメリカや日本国内ではニッパーマークを使うことはできません。そこで登場するのが、先祖帰りであるエンジェルマークです。日本とアメリカではEMIという名前よりも「エンジェルレコード」の方が通りがよかったはずです。
 余談ですが、EMIの日本での合弁会社「東芝音楽工業」(「音楽工業」ってのが、EMIに由来しているのでしょうね。)が作っていたLP盤は「エバークリーン」といって、赤くて透明でした(エンジェルマークにマウスをのせると見えます)。帯電防止剤が大量に配合されていたため、すぐ針先にゴミが着いてちっとも「クリーン」ではなかったという感慨にひたれるのは、私よりもはるかに上の世代の人たちです。

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