(11/2/5作成)
(11/2/1掲載)
[ 交響曲第4番の版 ] [交響曲第7番の版]
[8番のハース版とノヴァーク版との違い] [第8番の4つの出版譜の比較] [チェリビダッケの8番] [独語和訳]
今年の秋の創立30周年記念定期演奏会の曲目は、ブルックナーの「交響曲第8番」に決まりました。彼の交響曲の中でも最高傑作といわれる長大な曲で、まさに記念演奏会にはふさわしいものでしょう。
ところで、この曲を演奏するにあたって、指揮者の末廣さんからは、「ハース版で」という指定がありました。同じ曲なのにいくつもの形態を持つのが、ブルックナーの作品の特徴です。それでは、「ハース版」とはいったいどういうものなのか、検証してみましょう。
■交響曲第8番の成立過程
交響曲第8番が完成したのは、1887年のことでした。これが「第1稿」と呼ばれるものです。しかし、自信を持って作ったにもかかわらず、スコアを送った指揮者のヘルマン・レヴィからは拒絶されてしまいます。そこで、仕方なくブルックナーは改訂を行うことになるのです。それは、主に長すぎると思われる部分をカットすることと、一部のオーケストレーションの手直しでしたが、第1楽章の再現部の始まりとエンディング、さらに第2楽章のトリオや第4楽章のエンディングなどは全く別のものになっています。そのような作業の結果、1890年には「第2稿」が完成します。さらに、1892年には、弟子のヨーゼフ・シャルクによって第4楽章に若干の手直しが施され(6小節カットして、2小節追加)カール・ハスリンガーから出版されました(初版、いわゆる「シャルク版」)。
■原典版(批判校訂版)の作成
20世紀に入って第1次批判校訂版の作成に着手したロベルト・ハースは、このシャルクの改竄を修復するだけでなく、独自の裁量で第3楽章と第4楽章にブルックナーがカットした「第1稿」のパーツを適宜加え、1939年にいわば「第1稿」と「第2稿」の折衷案のような「ハース版」を作りました。しかし、ハースの仕事を引き継いだレオポルド・ノヴァークによって1955年に作られた第2次批判校訂版、いわゆる「ノヴァーク版」では、あくまで「原典版」の方針を貫き、「第2稿」そのものが再現されています。さらに、それまで出版されることのなかった「第1稿」も、ノヴァークの校訂により1972年に刊行されました。
![]() |
第1稿(MWV) |
![]() |
第2稿シャルク版(HASLINGER) |
![]() |
第2稿シャルク版(DOVER) |
![]() |
第2稿ハース版(KALMUS) |
![]() |
第2稿ノヴァーク版(音友@MWV) |
■印刷譜の種類
したがって、現在では「第1稿」、「第2稿初版(シャルク版)」、「第2稿ハース版」、「第2稿ノヴァーク版」の4つの印刷譜が存在しています(厳密には、第3楽章にだけは経過的な稿も存在しますが、それはまだ出版されていないので、この際無視)。もっとも、「シャルク版」に関しては、もはや完全に過去のものとなっています。それぞれの小節数で比較してみましょう。
|
■それぞれの版の録音
◇第1稿:1982年に録音されたインバル盤を皮切りに、現在ではティントナー盤(1996年)、デイヴィス盤(2004年)、ヤング盤(2008年)などが容易に入手出来るようになりました。
![]() |
Dennis Russel Davies/ Bruckner Orchester Linz ARTE NOVA(Recorded in Mar. 2004) |
![]() |
Simone Young/ Philharmoniker Hamburg OEHMS(Recorded in Dec. 2008) |
◇第2稿シャルク版:フルトヴェングラー(ハース版を元にした、彼独自のバージョンで演奏しているものもあります)やクナッパーツブッシュの他に、ワルターの録音も残っています。
![]() |
Hans Knappertsbusch/ Münchner Philharmoniker WESTMINSTER(Recorded in Jan. 1963) |
◇第2稿ハース版:朝比奈、カラヤン、ヴァントを始めとした50人以上の指揮者の録音が残っています。
![]() |
Kurt Masur/ Gewandhausorchester Leipzig RCA(Recorded in Jun. 1978) |
![]() |
Günter Wand/ Berliner Philharmoniker RCA(Recorded in Jan. 2001) |
◇第2稿ノヴァーク版:ベーム、チェリビダッケ、テンシュテットを始めとした70人以上の指揮者の録音が残っています。ヨッフムなどは、ハース版、ノヴァーク版双方の録音があります。
![]() |
Stanislaw Skrowaczewski/ Saarbruchen Radio Symphony Orchestra ARTE NOVA(Recorded in Oct. 1993) |
![]() |
Nikolaus Harnoncourt/ Berliner Philharmoniker TELDEC(Recorded in Apr. 2001) |