TopPage  Back


(06/3/28作成)

(06/7/11掲載)


リイシュー(英:reissue) 
 まず、これは一体なんでしょう? よく見て下さい。おいしそうなお菓子が見えてきませんか?

 スウィーツには目のないあなた、最近はこのようにシュークリームにもヴァリエーションが増えて、選ぶのにも迷うようになってきたのではないでしょうか。定番のカスタードシューに加えて、チョコシュー、ストロベリーシュー、バナナシュー、アップルシュー、チーズシュー、果ては抹茶シューですからね。そのうち、ご当地の名物「ずんだ」を使ったシュークリームだって出てきますよ。ずんだは「ソイ・クリーム」だから「ソイシュー」ってね。あれ、「ソ」じゃなくて「リ」でしたね・・・。

 「リイシュー」というのは、そんなこじつけのお菓子ではなく、「リ(再び)」と「イシュー(発行)」が一緒になった言葉、「再発行」という意味ですね。音楽の世界では、一度発売されたCDなどが、ある時期を経てもう一度(あるいは2度、3度と)発売されることを言います。
 リイシューされた時に、そのアイテムがどのような扱いを受けるか、というのは、ひとえにメーカーの裁量にかかっています。逆に言えば、その扱いを見て、メーカーがその商品にどれだけの思いを持っているか、という事も判断できることになるわけです。

 RCAの看板アーティストであったフルーティスト、ジェームズ・ゴールウェイの場合は、まさに「稼ぎ頭」なわけですから、リイシューも頻繁に行われました。もっとも、それはよく売れるアイテムでは熱心に行われてはいましたが、地味な曲目では一度市場から姿を消したらそれっきり、というものも多かったはずです。それは、「商売」ですから致し方のないことではありますが。
 彼のRCA時代のごく初期、1976年に録音されたアルバムのジャケットを、初出のLPと、1992年にリイシューされたものとを並べてみました。アーティストの写真が、「最新」のものに変わっているのが、いかにも「専属」という勢いを感じさせられます。
RCA/09026-60918-2(CD)   RCA/LRL1-5131(LP)
 そのゴールウェイ、最近は「専属先」がRCAからDGに変わりました。とは言っても、彼はベルリン・フィルの団員としてこのレーベルの多くの録音に参加して来たのですから、「古巣に戻った」という言い方が出来るのかも知れません。事実、1971年には木管五重奏団の一員としてこんなアルバムも出しているのですからね。ヒゲのないゴールウェイの写真など、今となっては貴重なものです。
ポリドール/MG-2280
もちろん、これが出たのはまだLPの時代でした。これが、LPの最後期、1970年後半にリイシューされた時には、こんなジャケットに変わっていました。この頃はもはやゴールウェイはRCA専属でしたから、アーティストの写真を使うことははばかられたのでしょうか。
ポリドール/MGW-5241
さらに、別のアーティストの録音を加えて2000年にCD化されたときのジャケットが、これです。
DG/469 582-2
 DGに移籍後、2006年にそのアルバムの一部の曲を含むコンピレーション・アルバムが発売されました。その時には、晴れて秘蔵のアー写を使うことが出来た、というわけですね。
DG/00289 477 6077

 ここで見てきたように、リイシューされる時には、ジャケットが変わるというのはよくあることです。中身は同じでも、外見を変えれば間違って買っていく人がいるのでは、というさもしい商魂が働いた結果なのでしょうか。しかし、中には、全く同じジャケットにこだわって、「復刻」という形で購買意欲をそそるという手に出るところもありますから、リイシューの様相はいろいろです。例えば、この小泉浩の2枚組のソロアルバムなども、初版と全く変わらないジャケットで発売されて、マニアを喜ばせてくれました。しかも、1997年の初版(DENON/COCO-80448/9)では6000円もしたものが、2005年にはリイシューされて(DENON/COCO-70817/8)なんと四分の一の1500円という価格になってしまったのですから、こたえられません。
 ただ、いずれの場合でも、その商品の固有の品番というのは、確実に変わっています。たとえ中身は変わらなくても、ジャケットや価格が変わるのですから、これは当然の措置です。もちろん、一度出したものであれば同じままで出し続ける、というのも、一つの見識です。BISのようなごく一部のマイナー・レーベルでは、決して廃盤にはせずに、カタログに載っているものは全て製造し続けるという、驚くべきことを行っていました。ですから、品番はしっかりリリースの順番に「BIS-CD-1」から「BIS-(SA)CD-15○○」まで整然と並ぶことになります(実際はいくつかは抜けていますし、順番の変動もありますがね)。
BIS/BIS-CD-1 BIS/BIS-CD-1560

 しかし、世の中にはいろいろなレーベルがあるもので、カタログにこだわるあまり、内容が変わっているにもかかわらず、同じ品番のままでリイシューをする、という、信じられないようなことを堂々と行うところもあるのです。それは、アメリカのMODEという現代音楽を中心にしたレーベルです。ご覧下さい。「MODE 80」という品番を持つCDが、このように2種類存在しています。「X」という文字の左上にある曲名が、2006年盤では1曲多くなっていますが、それは余程注意しないと分からないこと、この2つのジャケットは、まず同じものと認識できるはずです(色の違いは、印刷上の誤差ということで)。
MODE/MODE 80©1999 MODE/MODE 80©2006
 実はこのアルバム、もともとは1999年にリリースされたこのレーベルの「クセナキス・エディション」の第4巻、「ピアノ曲全集」でした(確か、現在は第6巻までが出ていたはず)。このようなレアなアイテムの常で、程なくこのCDは在庫切れとなって、入手不可能な状態になってしまいました。一方、リリース直後の2000年に、今まで知られていなかったクセナキスの1950年頃のいわば「習作」のピアノ曲が出版されます。こうなるともはや「全集」にはならないので、このレーベルは2005年に同じアーティストで追加の録音を行い、晴れて「Complete」として2006年にリイシューすることになるのです。普通はその段階で新たに品番を設定するものなのですが、なぜか、その際に品番を変えるということを、このレーベルはしませんでした。従って、同じ品番でも内容が異なるものが2種類存在する、という不思議なことが起こってしまったのです。それよりも重大なのは、新たに世界初録音されたものも含まれた非常に貴重なCDだというのに、これを扱っている輸入業者は「長らく入手不可能だったものが再発されました」程度の情報しか流さなかったため、本当の価値が消費者には伝わらなかった、という事です。さすがに、自らのサイトではしっかりと断っていますが、きちんと品番さえ変えてくれていれば、そんなことでせっかくの貴重な新録音を聞き損なうこともなかったでしょうに。これは、何とも不可解な形のリイシューです。


 TopPage  Back

Enquete