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(08/1/7作成)

(08/1掲載予定)

[ 改訂版(「のだめ」ネタ1) | 劇伴(「のだめ」ネタ2) | 誤訳(「のだめ」ネタ3)]


人名表記
 外国の演奏家の名前を日本語で書き表そうとするときには、いろいろな問題が発生します。そもそも英語なりドイツ語なりの発音を正確に日本語に置き換えるのは不可能だ、という点はひとまず置いておくことにして、その綴りからは想像も出来ないような発音を要求される人がいる時に、その問題は大きなものになります。例えば指揮者のLorin Maazelという人の名前が「ロリン・マゼール」と呼ばれるなんて、普通では考えられませんよね。実際、彼が日本にデビューした頃は「ロリン・マーツェル」と呼ばれていました。フルーティストのJames Galwayだって最初のうちは「ガルウェイ」と呼ばれていたのですから、それは仕方がありません。

 最近では、Zdenek Macal(正確なスペルは、下記参照)という、2003年から2007年までの間チェコ・フィルの首席指揮者を努めていた人の名前が注目を集めています。チェコ出身の人ですから、チェコ語で発音すれば「ズデニェク・マーツァル」あたりが最も本来のものに近い日本語表記になるのですが、この方はアメリカに帰化しているために「マーカル」もしくは「マカル」、時には「マカール」といった英語的な表記も見られるというような混乱ぶりです。

 この「マーツァル」さん、実はチェコ・フィルの首席指揮者に就任した時点でも、殆どの人が知らなかったという極めてマイナーな指揮者です。例えば、2002年に音楽之友社から発行された、かなり知名度の低い指揮者まで網羅してあるムックにさえも掲載されていないほどの地味な存在だったのです。
 それが、突然その顔だけが全国の人に知れ渡ることになります。2006年9月に人気マンガ「のだめカンタービレ」の実写版のドラマが作られたときに、最初にその画面に登場したのが、この「マーツァル」さんだったのです。このマンガの登場人物である「セバスチャーノ・ヴィエラ」という指揮者の役で、なんと本物の指揮者がキャスティングされていたのです。ドラマのエンドロールでは、この方は「マカル」と表記されていました。なにしろ、小さい頃の千秋真一を相手に堂々と演技をしているのですから、普通の人は「指揮のうまい、外国の役者さん」だと思ったかもしれませんね。
 このドラマ自体はその年の12月に終了しましたが、2008年の1月には、スペシャル版として、2日連続で「ヨーロッパ編」が放送されました。その時にもこの「マカル」さんはしっかり重要な役どころを演じていましたね。

 そんな具合で、外国の人の名前を日本語で書き表すのは、並大抵のことではないのです。しかし、その逆のケースも存在することが、その「のだめカンタービレ」によって明らかになりました。もちろん、「東海林」さんがなぜ「しょうじ」さんなのか、とか、どこを読んだら「百目鬼」さんが「どうめき」さんになるのかといった次元の話ではありません。「のだめカンタービレ」には外国の人も登場しますが、それらの人の名前は日本語で語られています。例えば、先ほどの「セバスチャーノ・ヴィエラ」とか、「フランツ・フォン・シュトレーゼマン」です。ここで判明したのは、これら名前を彼らの母国語で表記したときに、いったいどのような綴りになるのか、ということを考えたときに生じた問題点です。
 その答えは、原作の単行本の冒頭にある「登場人物の紹介」で明らかになっているかにみえます。第2巻には、確かに、それぞれの登場人物が、アルファベット表記付きで紹介されています。その中でのさっきの2人はこのようになっています。
【原作】

 ちょっと待って下さい。確かにドイツ人であるシュトレーゼマンのファーストネームは「Franz」と、いかにもドイツ人っぽいスペルですね。ところが、「フォン」が、「Fon」ですって?! さらに「シュトレーゼマン」は「Shutorezeman」! これって、そのまんまのローマ字ではありませんか。ヴィエラ先生の場合も「Sebasutiano Viera」と、なんか余計な母音がくっついていますね。
 これではお話しになりません。そこで、おなじみ「英語版」の登場です。
【バイリンガル版】

【英語版】

 シュトレーゼマンに関しては、「Franz von Stresemann」で決定のようですね。しかし、ヴィエラ先生の場合は微妙に異なっています。しかし、「バイリンガル版」は日本で作られたものですから、こちらの表記「Vieira」が正しいスペルということにしておきましょうか。

 実は、そのヴィエラ先生のスペルについては、「ヨーロッパ編」の中に解答が潜んでいました。しかも2ヶ所も。最初は、そのヴィエラ先生が指揮をしているコンサートの場面。会場のホールの前にはポスターが掲げられていますが、その中にはしっかり先生のお名前が。

 そして、もう1ヶ所。コンクールに優勝した千秋が、ライバルだったフランス人から受け取った、その先生の電話番号のメモです。

 これはいったいどうしたことでしょう。ポスターでは「Viella」、メモでは「Vieira」。スペル自体が違っているなんて、「ヴィエラ」さんはもしかしたら二人存在しているのでしょうか。「マーツァル」と「マカル」みたいに。いやぁ、本当に人の名前は難しい。

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