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冬の足袋....渋谷塔一

(00/12/5-00/12/18)


12月18日

Bagpipes from Hell
Vittorio Ghielmi(Gamba)
Luca Pianca(Liuto)
W&W/910 050-2
ヒエロニムス・ボスの「地獄」を使ったジャケ、タイトルが「地獄よりのバグパイプ」、しかも、これがユリ・ケインでお馴染みのWINTER & WINTERレーベルとくれば、何か特別な仕掛けのあるCDだと思わない方が不思議です。このレーベルには裏切られた事がないので、いったい誰が演奏しているのかとか、曲目などというものは全く見ないで、買ってきました。
1曲目に針を下ろすと(うそ)、聞こえてきたのはまさにバグパイプ。ドローンが響く中で、リュートがリズムを刻んでいます。でも、よく聴くと、このドローンは弦楽器のようです。そこで初めてライナーを読んでみたら、このCDはヴィオラ・ダ・ガンバ奏者とリュート奏者のデュオアルバムだったのです。ドローンを鳴らしていたのは、おそらくヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のギエルミなのでしょう。彼は、曲によっては「リラ・ヴィオール」という楽器も弾いています。もしかしたら、この楽器にハーディー・ガーディーのように、持続音を出すような機能がついているのかなと思って、調べてみましたが、これはヴィオール族の中で、テノールの音域をカバーする楽器で、形はヴィオラ・ダ・ガンバと同じ。ごく普通の弦楽器で、特別な装置がついているような形跡はありませんでした。そうなると、このドローンはいったいどうやって出しているのか、思い切り興味が湧こうというものです。
こんな感じの「バグパイプ風」の曲があと2曲、収録されています。作曲家はすべてあの「アノニマス」。ご存知ですか?この、決してファースト・ネームをつけて呼ばれることのない大作曲家のことを。彼の名前は、この時代の音楽史には、大変幅広く登場します。驚くべきことに、活躍した年代は数世紀(!)にわたっていますし、国籍も多種多様。ということは、これは1人の作曲家ではなく、「アノニマス一族」とでもいうような人たちの総称なのでしょう(こんなことは信用しないでくださいよ。「アノニマス」というのは「作曲者不詳」ということ。)。
で、その他の曲というのが、意外とまとも。ロビンソンの曲のように、リュート伴奏の歌曲だったものをガンバとリュートで演奏しているものもありますが、あとは殆どオリジナル曲。アルバムタイトルとはちょっと違和感のある、しかし、この時代の音楽が好きな人には間違いなく喜ばれるようなまっとうな選曲とまっとうな演奏です。
リュートを弾いているピアンカは、「イル・ジャルディーノ・アルモニコ」の創設者。ここでは、低音用の楽器「キタローネ」も弾いています。この楽器を演奏するときには、ちゃんちゃんこを着て下駄を履くと似合います。

12月17日

SOUVENIR
竹内まりや
MOON/WPCV-10080
今年の初めに大々的に報道されたEMIとワーナーの合併話ですが、ヨーロッパの経済界からの横槍が入ったりして、どうやらお流れになってしまったようですね。
アイドル時代はRVC(現BMG)に所属していた竹内まりやですが、結婚とともに退社(というのかな)、のちにカムバックしたときには、夫の山下達郎が役員を務める、ワーナーの日本法人、ワーナーミュージック・ジャパンのレーベル「MOON」のアーティストとなっていました。私としては、アイドル時代にNHKの「みんなの歌」でやっていた「アップル・パップル・プリンセス」をぜひもう一度聞きたいと思っているのですが、それは無理な注文のようです。
移籍してからのまりやの活躍ぶりには、目を見張るのもがありましたね。すべての曲と詞を自分で書いて、アレンジはすべて山下達郎という姿勢を貫き通して、今までにオリジナルアルバムを3枚、CMやドラマとのタイアップで、シングルヒットも数え切れないほど。ただ、その間にライブ活動はあまりやっていませんし、テレビなどのメディアに登場することもほとんどありませんでした。
今回のアルバムは、今年の7月に、実に18年7ヶ月ぶりに聴衆の前に姿を披露したもののライブ録音です。当初、CDを発売する予定など全くなかったそうですが、あまりの反響を多さに、急遽リリースが決まったとか。CDを出したくても出せなくて悶々としているアーティストは掃いて棄てるほどいる中、なんともうらやましい話ですね。
バックミュージシャンは殆どCDと同じメンバーですし、ライブアレンジも達郎ということで、サウンドは聞きなれたものですが、もちろん、ライブならではの盛り上がりも。「Plastic Love」のエンディングでの達郎のシャウトはききものです。アイドル時代の「セプテンバー」にあった筒美京平風のフルートのオブリガートがなくなっていたのが、ちょっと物足りないぐらいですか。昔から歌のうまい人でしたが、公開の場でもその歌唱力にはいささかの衰えも感じられません。「駅」の深みのある陰影に富んだ歌には、思わず引き込まれるほどです。ブックレットの写真を見ると、外見も若いこと。テレキャスターを抱えた姿など、ほとんど10代のヤンキーで通りますよ。
同じ世代で、歌はどうしようもなく下手で到底他人に聞かせるレベルではないのにもかかわらず、毎年性懲りもなく派手なライブを繰り返している、もし合併していたら同じレコード会社になってしまっていた、恋愛相談しか能のない歌手など足元にも及ばない、とても感動的なライブです。

12月10日

BACH
Lutheran Masses
The Purcell Quartet
CHANDOS/CHAN 0653
またまたバッハですみません。バッハ好きの私は、ついに病が昂じて、バッハ研究のもっとも基本的な文献である「BWV」を手に入れようと思い立ったのです。車ではありません。「Bach-Werke-Verzeichnis」、バッハ作品目録という、シュミーダーという人がバッハの作品を整理して、番号を振ったものです。これさえあれば、私もバッハ学者の端くれ、一介のライターでは終わらないぞという、21世紀へ向けての意気込みとでも取っていただきましょうか。いろいろ手違いがあって、まだ現物は手にしてはいないのですが、その内容は有名ですから、もう分かっています。例えば1番から200番までは教会カンタータ、1001番から1040は室内楽曲といった具合に、全作品がジャンル別に分類されているのです。
このCDでパーセル・クヮルテット(編成はVn2本、Vcまたはヴィオラ・ダ・ガンバ、CemまたはOrg)が演奏している「トリオ・ソナタ」には、BWV529という番号がついています。ところが、BWVでは、525番から771番までは「オルガン作品」。これは、以前にも書いたことがありますが、元は合奏のためのトリオソナタをオルガン用に編曲したものなのです。ここでは、それがさらに2つのヴァイオリンと通奏低音のために復元されています。
CDの最初に収められているこのトリオソナタ、自然な息吹に支配されたとても爽やかなバッハの演奏です。バロック・ヴァイオリンは暖かい音色ですし、通奏低音に用いられているヴィオラ・ダ・ガンバも、ちょっと軽めでなかなかいい味を出しています。
しかし、これはあくまで前座。本番はそれに続く2曲のルター派典礼用のミサ曲です。「キリエ」と「グローリア」だけのこれらのミサ曲、本来は合唱と独唱が交互に出てくるのですが、ここでは4人の独唱者だけで全編歌われています。聴く前はちょっと不安だったのですが、これがなかなか良いのですよ。特に、全体の音色を支配しているソプラノのナンシー・アージェンタの声がとても素敵。彼女はフォーレのレクイエムなども歌っていて、その時はあまり印象になかったのですが、ここで聴かれるバッハには完全に魅了されてしまいました。アルトパートがちょっと弱いので、アンサンブルとしては問題があるのですが、アージェンタの突き抜けるような声を聴けば、そんな細かいことはどうでも良くなってしまいます。彼女がソロで歌っているヘ長調ミサの「クイ・トリス」は、まさに絶品。また1人、楽しみな歌手が見つかりました。アー写は別嬪ですし(使いまわしおやぢ)。

12月7日

LEOPOLD HOFMANN
Flute Concertos

瀬尾和紀(Fl)
Béla Drahos/
Nicolaus Esterházy Sinfonia
NAXOS/8.554747/8
音楽史の上では、後世に残る作曲家というのはほんの一握り。同じ時代の大作曲家に埋もれてしまって、名前すらも残らなかった人は数限りなくいたはずです。今回ご紹介するレオポルド・ホフマンは、そんな中でも幸運にも生き残っている珍しい例です。「幸運にも」というのは、彼のフルート協奏曲が長い間ヨーゼフ・ハイドンの作品として伝えられていたためです。最近になって、このニ長調の協奏曲はハイドンの作ではないことが明らかになり、それ以来ホフマンは「実は、ハイドンの協奏曲を本当に作っていた作曲家」という一点だけで有名になってしまったのです。はい、どんなにがんばっても、大作曲家の人気には勝てません。
ハイドンと同時代を生きたホフマン、さまざまな楽器のための協奏曲を60曲ほど作っていますし、フルート協奏曲だけでも13曲は存在しています。今までは「伝ハイドン作」の1曲を除いては楽譜すらも出版されていませんでしたが、最近になってアラン・バッドリーという人が体系的に校訂を行った演奏譜が出版されました。このCDはその楽譜を用いた世界初の録音で、1、2巻あわせて8曲のフルート協奏曲が収録されています。以前BON GIOVANNIからも3曲入りのものがリリースされたことがありますが、もちろん、これだけまとまってフルート協奏曲が収められたアルバムはこれが初めてですから、資料的にも大変貴重なもの。
フルート独奏は瀬尾和紀。まだあまり知名度はないでしょうが、いくつもの大きなコンクールを制している若手のホープです。最近リサイタルが開かれたようで、マスターのページでも紹介されていましたが、この人は間違いなく世界へ向かって羽ばたける逸材ではないでしょうか。彼のデビューアルバムとなるこのCD、透き通るような音色と揺らぐことのない確かなテクニックで、ホフマンの作品に見事な光を与えています。このようなレアな曲を単に資料としてではなく、極めて完成度の高い作品として聴かせてくれるあたりは、やはり並みの才能ではありません。曲の本体はもちろんですが、素晴らしいのはカデンツです。瀬尾さん自身の作かどうかは分かりませんが、時代様式をきちんと踏まえたうえでの、テクニックを駆使したとても雄弁なもの。どんな速いパッセージでも、すべての音に細かい神経が行き届いている演奏には、好感が持てます。
なんでも、最近ERATOとも録音契約を交わしたとか。NAXOSERATOといえば、あの佐渡裕のパターンではありませんか。これで、瀬尾さんのブレイクは決まったようなもの。
オケの指揮を務めているドラホシュは、フルーティストとしても有名な人ですね。ここでも、ソリストの意図に沿った、確かなバッキングを聞かせてくれています。

きのうのおやぢに会える、か。


(since 03/4/25)

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