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山村腐乱蕎麦....渋谷塔一

(00/11/23-00/12/4)


12月4日

FROM YESTERDAY TO PENNY LANE
Göran Söllscher(Guit)
DG/459 692-2
(輸入盤)
ユニバーサル・ミュージック
/UCCG-1016(国内盤)
今年はバッハイヤーであると同時に、「ビートルズイヤー」なのですね。いったい何の記念年なのかと思ったら、「解散30周年」ですって。いろんなことを思いつく人がいるものです。とにかくそのお陰で、このところのビートルズ関係の盛り上がりには凄いものがあります。超豪華な写真集が出版されたり、初の公式ベストアルバムがリリースされたり、モーむすのつんくが完コピアルバムを作ったり(これはちょっとすごいですよ。コーラスなんかオリジナルよりきれいにハモっています。)。
セルシェルのこのアルバムは、別にそんなことは意識していない企画なのでしょうが、妙にグッドタイミングです。彼のビートルズはこれが2枚目。5年前の第1作では、武満徹が編曲したものなどを演奏していましたっけね。今回は、ソロのほかにバンドネオンや弦楽オケと共演しています。「ビートルズはタンゴだった!」と1人で盛り上がっているだけあって、バンドネオンのペル・アルネ・グロルヴィゲンにサポートされた「Come Together」は熱演。ただし、オリジナルへの義理堅さのあまり、思わず失笑を禁じえないのはご愛嬌。
ただ、イェテボリ交響楽団の弦セクションが参加している後半のトラックは、出来ることなら聴かずに済ませたかったという後悔の念にかられてしまうことは覚悟しなければなりません。特に、ジョージ・マーティンのオリジナル曲からは、この爵位を持ったプロデューサーが、いかにビートルズから遠いところにいた音楽家であったかが、はっきり分かってしまいます。それだからこそ、逆説的な意味で彼の存在が、4人の創造力をかきたてる源となったのだとさえ思えてきます。
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口直しという意味からも、チャートのトップを制した27曲を集めたアルバム「1」はお勧めです。最初の「Love Me Do」を聴いただけで、今までのCDとは音が全く違うことが分かります。今録音されたばかりのような新鮮な響きに包まれて全27曲を聴き通してみれば、ふやけた弦楽オーケストラを使ったレオ・ブローウェル(大萩康司のアルバムにも登場)の編曲には、ロック・ン・ロールの片鱗すらも存在していないことを見破るのはわけのないこと。このような安易な企画に加担したセルシェルは、真のビートルズフリークからは、永遠に蔑まれることでしょう。

12月2日

RUTLAND BOUGHTON
Flute Concerto etc.
Emily Beynon(Fl)
Ronald Corp/New London Orchestra
HYPERION/CDA67185
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席フルート奏者エミリー・バイノンは、先日来日した折のインタビューが各方面の雑誌に掲載されたこともあって、このところ、かなり知名度が上がってきています。おそらくネット上ではもっとも早く彼女のCDを紹介した「まだむの部屋」の担当者の勇気は、末永く語り継がれることでしょう(勇敢まだむ)。
そのバイノンの最新のCDがこれ。やはり、間違いなくどこよりも早く紹介されているはずです。
とは言っても、これは、イギリスの作曲家ラトランド・ボートンの作品集。全4曲、76分のうち、バイノンが吹いているフルート協奏曲はほんの15分足らずなのですがね。
1878年生まれのボートン、ディーリアスの一世代下、ホルストやヴォーン=ウィリアムスなどとほぼ同世代の作曲家です。と書けば、おおよその作風が想像されようというもの。実際のところ、まったくその予想が裏切られていないため、今ではほとんど知られることのないマイナーな地位に甘んじてしまっているのでしょう。
ここに収録されている弦楽合奏のための曲には、どれも、伝承曲に由来するような懐かしさをもったモチーフが使われていますから、1回聴いただけですんなりと入っていくことはできます。しかし、響き自体は常に誰か別の作曲家が使ったものの二番煎じ。ある時代の様式を逸脱していないといえば聞こえは良いのでしょうが、ボートン自身の個性といったものはほとんど感じることは出来ません。
弦楽合奏とフルートのためのこの協奏曲も、全体は牧歌的な雰囲気に覆われたとてものどかな作品です。しかし、まあ、言ってみれば、この曲を聴いたから人生観が変わるとか、生きる喜びがわいてくるとか、そんな種類の音楽ではありません。別に、この曲を聴かずに一生を終わっても、何の悔いも残らないようなものです。だから、このCDが存在価値を与えられているのは、まさにバイノンがソロを吹いているからに他なりません。鳥のさえずりでも描写しているのだろうと誰にでも分かるような、第2楽章の陳腐なアルペジオも、彼女の手にかかるととても豊かな音楽性が与えられます。まるで意味のない高度なテクニックの見せびらかしも、一音一音ていねいに吹かれれば、それだけで生き生きとした表情を主張してくれます。
芯のある男性的な響きから、とろけるようにソフトでセクシーな音まで、自由自在に操ってこの駄作に光を与えているバイノンさえ聴ければ、残りの1時間などちっとも無駄には思えないほどです。

12月1日

VIVALDI
The Four Seasons
Giuliano Carmignola(Vn)
Andrea Marcon/Venice Baroque O
SONY CLASSICAL/SK 51352
(輸入盤)
ソニーミュージック
/SRCR2577(国内盤)
ヴィヴァルディの「四季」といえば、名曲中の名曲、今ではクラシックに興味のない人でもそのタイトルぐらいは知っているという、超有名な作品です。かつてこの曲ばかりを弾いていた「イ・ムジチ」という団体があって(今もあるか)、そのレコードが大ヒットしたために一躍有名になったのですね。
その後、新しい演奏スタイルが登場するたびに、この曲はまるで演奏家にとっての名刺代わりという感じで録音されてきました。基本的にこの時代の音楽は何をやっても許されるところがありますから、ちょっとでも目立ちたい音楽家にとっては、比較対象が山ほどあるこの曲は格好の「課題曲」なのですね。
最近ではなんといっても「オリジナル楽器」でしょう。今回のCDもこのオリジナル楽器による演奏です。とは言っても、ヴァイオリン独奏のカルミニョーラはもともとはモダン楽器の演奏家。最近はこのように、モダン、オリジナルの両方で活躍している人が増えているようです。
しかし、何事も中途半端は嫌われるもの。この演奏も、楽器自体は「オリジナル」なのでしょうが、ピッチも奏法もモダン。おそらく、カチカチのオリジナル派からはブーイングが出されてもしょうがないでしょう。
でも、そこは何でもありの「四季」。やかましいことを言いさえしなければ、これほど楽しく聴けるものもありません。ダイナミックスやフレージングは思いのまま。それから、例えば、春の冒頭、鳥の声が出てくるくだりでパウゼを置いたりするのは、とても新鮮なアイディアです。通奏低音にテオルボを使っているのも見逃せませんよ。ちょっとしたブレイクに入るおかずがとってもおしゃれ。広告などには「新校訂版を使用」などとありますが、この辺は楽譜には関係ない、演奏家の解釈の問題だということは、容易に察しがつきます。
カルミニョーラも、バックのヴェニス・バロック・オーケストラも、バリバリのテクニシャン揃いですから、思い切りテンポをあげた「夏」の終楽章などは、爽快そのもの、まさに晴れ渡った夏空のよう。一糸乱れぬアンサンブルとはこのことを指し示す言葉なのでしょう。そんな彼らの余裕が、「冬」の緩徐楽章です。ここではソロヴァイオリンが思い切りテンポをはずしまくって、まるで演歌歌手のルバートのよう。
「四季」なんて、しきあきた(「聴き飽きた」と「弾き飽きた」両方かけてます。)などとおっしゃる方には格好のCDです。

11月24日

THE SPIRIT OF ST. LOUIS
The Manhattan Transfer
ATLANTIC/83394-2
ティム・ハウザー、ジャニス・シーゲル、アラン・ポール、ローレル・メッセという4人のメンバーで1972年に結成され、1975年にデビューアルバムが発表されたコーラスグループ「マンハッタン・トランスファー」。リーダーのハウザーが、実際にニューヨークでタクシーの運転手をしていたことから、こういうグループ名になったとか。その後1979年にメッセからシェリル・ベンティンに代わっていますが、その後は同じメンバーで20年以上、常にジャズコーラス界のトップを走りつづけてきたグループです。
略して「マントラ」などと言ったりしますが、なんかヒワイじゃありません?
彼らのデビューアルバムは、とても衝撃的でした。グレン・ミラーのレパートリー「タキシード・ジャンクション」での冒頭のミュートをかけたホーンセクションのフレーズが4人の肉声で再現されたのを聞いた瞬間、新しい可能性をもったコーラスグループの誕生を確信したものでした。その後も、アルバムを出すたびに革新的な手法を導入して、常に期待を裏切られることはありませんでした。
そんな彼らが行き着くところまで行き着いたと感じられたのが、1985年のアルバム「VOCALESE」です。ジャズコーラスには、ヴォーカライズといって、インスト曲に歌詞をはめ込んで歌うという手法がありますが、このアルバムは全編これで押し切ったもの。ボビー・マクファーレンやフォア・フレッシュメンといった大物と共演もしているという豪華なものでした。
しかし、これ以降の彼らのアルバムは、すべてをやり尽くしたという虚脱感からか、目に見えてクォリティが下がってきました。デビュー以来所属していたATLANTICを離れて、COLUMBIA(SONY)からリリースしたオリジナルものなどは、目を覆いたくなるような駄作だらけ。
ところが、いつのまにか古巣ATLANTICに戻ってきてからは、また昔のようなテンションが戻りつつあります。やはり、彼らにはカバーもののほうが似合っています。
今回の新作は、ルイ・アームストロングに捧げられたもの。アコーディオンなどの素朴な楽器を使ったとても暖かい肌触りのアレンジです。コーラスも、とても自然な感じ。年輪を重ねて、余計な力が抜けてきたなというのが、率直な感想です。しかし、腐ってもマントラ、最後の「星に願いを」で、あっと驚くようなアレンジを披露することも忘れてはいませんでした。

きのうのおやぢに会える、か。


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