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交響詩「膿」....渋谷塔一

(00/10/8-00/10/18)


10月18日

CLASSIC ELLINGTON
Lena Horne(Vo)
Simon Rattle/City of Birmingham SO
EMI/CDC 557014 2
(輸入盤)
東芝
EMI/TOCP-65470(国内盤)
はたち前にデビューしたとか(それは19エリントン)、冗談が好きだとか(それはジョーク・エリントン)、何かとエピソードの多いスィング・ジャズの王者、デューク・エリントンが生まれたのが1899年ですから、去年が生誕100年。このアルバムもそれにあやかって昨年録音されたものです。
ほとんど「A列車で行こう」ぐらいしか聴いたことのない私には、エリントンやそのまわりのおかかえ作家の曲に、これだけの多様性があることははじめて知りました。「ハーレム」や「極東組曲」などは、ガーシュインばかりでは物足りないオーケストラの演奏会には、そのまま使っても一向に差し支えないほどです。
とは言ってみても、やはりエリントンはジャズ、ここでも主役はあくまでもリードをとるジャズマンたちです。エリントンと一緒に仕事をしてきたルーサー・ヘンダーソンのアレンジをもってしても、というか、そういう人だから当然というべきなのか、サイモン・ラトル指揮のバーミンガム市交響楽団は完全に添え物に終わってしまっています。だから、これはもう前から分かっていたことなのですが、シンフォニー・オーケストラだけでジャズを演奏することほどつまらないものはないという事を、改めて確認させられてしまいました。弦楽器が艶やかな響きを、表情たっぷりに奏でるほどに、これはジャズとは相容れないベクトルの音楽だと思えてしまうのです。
ただ、私にとっての収穫は、ヴォーカルのリナ・ホーンが聴けたこと。じつは、1975年に録音された「Lena & Michel」という、彼女とミシェル・ルグランが共演したアルバムは、長年の愛聴盤(RCA/74321-55455-2)。バックをスティーヴ・ガッドやリチャード・ティーといった「スタッフ」のメンバーが固めているとても豪華なものでした。その当時でもかなりの年齢だったはずですし、そのために、逆にとてもいとおしいという感じで楽しめたアルバムでした。
今回の録音の時点では、彼女は82歳だったはず。そんなこと、とても信じられない活き活きとしたヴォーカルです。驚くべきことに、先ほどの20年以上前の録音よりずっと若々しい表現が感じられるものも。一筋に生きてきた人が持つ充実感。そこには、ベルリン・フィルの次期音楽監督といえども、片手間に手を出したぐらいではとても歯が立たないような、圧倒される力が存在するのです。録音の段取りから言っても、彼女が参加したトラックは、先にニューヨークで歌とコンボを入れたものに、あとからバーミンガムのセッションでオケの音を加えるというもの。主従関係はすでに決まっているのですから。

10月16日

FEED
Make Every Stardust Shimmer!
De-I/Recordings IDR-53003
「インディーズ」というのは、「独立レーベル」という意味ですが、「メジャー」に対して使われる言葉ですね。大きな販売網をもたないレコード会社のことで、今をときめく大物バンドも、かつてはインディーズでごく限られたファンのためにCDを作っていたのです。明日のスターを夢見るバンド、あるいはメジャーではなかなか扱えないようなユニークな音楽性をもった数限りないバンドが、このインディーズの世界で活躍しているのです。売れなくなると「普通の女の子」になってしまいますが。(それはキャンディーズ
今回は、たまたま店頭で見かけて、音も聴かないでゲットしてしまったこのCDを紹介してみましょう。まず気になったのが、ジャケットのデザイン。この画像で分かるかどうか、いわゆるスリーブというのは入っていなくて、CDの表面に手書きの文字が印刷されています。で、透明のカバーの表面に、水滴みたいなボツボツがたくさん付いていて、それを通してCDを見ると、ある種工芸品のような趣があります。こんなところからも、パッケージを含めてのトータルな表現にこだわるインディーズアーティストの心意気を感じないではいられません。
形としては、いわゆるミニアルバム。5曲入って25分程度の長さですか。
FEEDというのは、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスという4人組のバンド。ヴォーカルのマヤの声を聴けば、彼らの方向性が分かるような気がします。クランベリーズに見られるようなケルト的な歌い方、フレーズの最後の音をさりげなくファルセットにするという独特の発声法からは、ワールドミュージックにつながるような自然な感じが伝わってきます。そう思って聴くと、1曲目の「As You Like It」あたりのリフには、琉球旋法に似た響きが。
サウンド的にはかなり考えられているのでしょうが、それを感じさせない熟達感があります。4曲目の「Nowhere Town」などは、アコースティックでシンプルな音の背後では相当手の込んだアレンジのストリングス風のシンセ音が聞こえていますし。
3曲目の「Yellow」のようにアップテンポで決めてみたり、6曲目の「Find Me」のように徐々に盛り上げてみたりと、キャッチーな曲作りにも抜かりはないようですね。
マヤの持つある種物憂げな倦怠感がよく出ている、2曲目の「Laughing」にも聴かれるのですが、ベースの何気ないフレーズが、ちょっとした懐かしさを誘うきっかけになっているのかもしれません。
「スマッシング・パンプキンズ」の武道館公演で前座を務めたとのこと、メジャーデビューの日は案外近いのかも。ねっI田さん。(って誰なんだ)

10月15日

BRILLIANT BACH EDITION
Various Artists
BRILLIANT/99360-99374
「ばっはいや〜ん」もいよいよ押し迫ってきましたね。
ところで、このところバッハファン(これが3回続けて言えればアナウンサー。そのうち「バッファハン」と、ペルシャ絨毯の産地みたいになってしまいます。…それって、「イスファハン」ですかぁ?)にはちょっと気になるバッハ全集が店頭に並んでいるのをご存知ですか。BRILLIANTという廉価盤専門のレーベルから出ているボックスセットで、全部で15ボックスぐらい。私はもっぱら声楽曲をチェックしてみましたが、殆どの曲が網羅されています。教会カンタータも全曲録音を目指しており、今の段階で40枚ありますから、6〜7割はカバーしているはず。中にはペルゴレージの「スターバト・マーテル」を編曲したBWV1083(!)などという珍品や、「ルカ受難曲」や「マルコ受難曲」みたいなとんでもないものまで混じっていますが。
価格が、1枚あたり400円、お店によっては300円台と、殆どタダ同然の値段なのですが、内容はといえばびっくりするような充実ぶり、どうしたらこんな値段が可能になるのか、信じられません。カンタータこそ自前のプロダクションなのでしょうが、このオランダ少年合唱団を中心としたメンバーというのがなかなかのものなのですよ。オケもソリストも上手いし、何よりも録音が去年から今年にかけてという新しさ。
で、他の大きな曲は、いろいろなレーベルとライセンス契約でリリースしたものなのですが、これがもう、なんと言ったら良いか、よだれが出そうになるほどのアイテムばかりなのですよ。
たとえば、「6つのモテット」がミシェル・コルボ指揮のローザンヌ・ヴォーカル・アンサンブル。95年録音のCascavelle盤ですが、こんなものはいまでは市場には出ていないはず。通奏低音がちょっと凝っていますが、長年のバッハ演奏の積み重ねがにじみ出た、暖かい演奏です。世俗カンタータは、BERLIN CLASSICSで出ているシュライヤー盤。旧東独の名盤が、こんな値段で全曲手に入るのですよ。もっとすごいのは、COLLINS盤によるザ・シックスティーン。「ロ短調ミサ」や「マニフィカート」を担当していますが、今の時代のある種スタンダード、それがこの値段ですから、マニアにはたまりません。しかも、このレーベルは潰れたかどこかに吸収されたかで、現在は存在していませんから、これも貴重なもの。
「マタイ」、「ヨハネ」は、クロウベリー指揮のケンブリッジ・キングス・カレッジ聖歌隊。ごく最近の録音で、Vanguardからレギュラー盤として出ていたはずです。エマ・カークビーなどのビッグネームががソロを歌っています。
というわけで、値段からは想像できない宝の山、おそらくこれから店頭で見つけるのは困難かもしれませんが、もし目にしたら迷わずお買いになることをお勧めします。○○ジン・○○ストアあたりが穴場かも。

10月11日

JOHANN STRAUSS II
Simplicius
Franz Welser-Möst/
Oper Zürich
EMI/CDS 5 57009 2
(輸入盤)
東芝
EMI/TOCE-55178/9(国内盤)
ヨハン・シュトラウス2世といえば、もちろん「ワルツ王」として有名。で、その他にも「こうもり」とか「ジプシー男爵」といった、軽妙なオペレッタの作曲者として知られていますね。そのシュトラウスに、「シンプリチウス」という本格的なオペラの作品があったというのは始めて聞きました。なんでも、最近シュトラウス自身が破棄したと思われていた楽譜の一部が発見され、それを復元したものが上演されたのだそうです。
簡単にあらすじをご紹介しておきましょうか。旅回りの一座の男優と女優が結婚することになりましたが、それを妬んだやさ男が、花嫁を奪い取ろうと女優にキスをしたために、男優が怒ってやさ男を殺してしまうという深刻な物語です。事件の発端が「新婦にチューす」だって。…ご、ごめんなさい。これもうそです。
ほんとはね、実の兄を殺してしまったために、世捨て人となった父親によって小さい頃から人里はなれた森の中で育てられた主人公シンプリチウスが、森にやってきた軍隊に連れ去られ、その中で生活するうちに次第に成長し、やがて ほんとうの愛にめぐり合えるというお話なのですよ。
このCDは、1999年にチューリッヒ歌劇場で行われた初演(「再演」ということになるのでしょうか)のライブ録音。実は、だいぶ前にテレビでこの上演のビデオを放送したのを見たことがあるのですが、とても奇抜な演出で、かなり荒唐無稽なところがある物語に確かなリアリティーが与えられていました。もちろん、さっき書いたような単純な筋ではなく、さまざまな人間関係が入り組んでいるものですが、その辺のところは音を聞いただけではわからなかったことでしょうね。この間は「オペラはスコアを見ながら聴く」などと申し上げましたが、やはり、映像にはかなわないと思ってしまいました。
序曲の始まり、なにやらおどろおどろしい響きで、あのシュトラウスにもこんなシリアスな面もあったのかな、と思わされてしまいましたが、5分もしないうちに聞こえてきたのは、いつもながらの軽快なポルカやワルツ。やはり、シュトラウスはシュトラウスでした。
ウェルザー・メストは、この、言ってみれば物語の内容に全くそぐわない能天気な音楽の中からも、見事なまでのドラマ性を引き出して、オペラ全体を統一感のあるものにしています。
歌手は殆ど知らない人ばかりですが、世捨て人のミヒャエル・フォレと、シンプリチウスの兄のピョートル・ベツァーラが、なかなか良い味を出していますね。メルヒオールのオリヴァー・ヴィトマーも注目の新人です。そこへ行くと、主人公のマルティン・ツィセットは、最後まで自然児のままで進歩がなく、これはちょっとです。

10月8日

ORAZIO VECCHI
L'humore Musicale
Anthony Rooley/
The Consort of Musicke
ASV/CD GAU 202
ルーリーと「コンソート・オブ・ミュージック」という、ルネッサンスからバロック初期にかけての膨大なレパートリーを誇るグループは、昔はL'OISEAU-LYREの看板アーティストとして、ダウランドあたりを集中的に録音していました。で、次にモンテヴェルディを体系的に始めたなと思っていたら、こことはすっぱり縁を切って、VIRGIN CLASSICSDHMHYPERION、はてはBISなどのさまざまなレーベルから、節操なくCDを出すようになってしまいました。
そのうち、MUSICA OSKURA(ムジカ・オスクラ、なんだか暖かくなりそうなレーベル名。…それは押しくら!)という自分のレーベルを立ちあげたという噂を聞きました。メジャーレーベルでは絶対にやらせてもらえないような本当にマニアックなものを録音するためには、そこまでしなければいけなかったのでしょうね。その頃雑誌で紹介されたものを見ると、たしかによそでは聴くことの出来ない貴重な掘り出し物がいっぱい詰まった、非常に魅力のあるレーベルでした。しかし、なぜか、なかなか店頭では見つかりませんでした。そのうちに、某大型店で、このシリーズが投売りされているのを発見、迷わず全アイテム揃えましたが、このあたりから、あまりのマニアックさがたたったのか、経営的には思わしくなくなり、最近では殆ど休眠状態と聞いています。
そんな折、ASVの「Gaudeamus」という古楽のシリーズから、彼らの録音が新譜で発売されているのを見つけ、また新たな活動の場を見つけたなという思いで、うれしくなりました。実際は89年に録音されたものですが、これからは新録も出してくれるといいですね。
さて、このCD、「マドリガル・コメディ」という、オペラのさきがけのような声楽曲を数多く作ったイタリア・ルネッサンスの作曲家、オラツィオ・ヴェッキの無伴奏のマドリガルが2曲収められています。マドリガルといっても、いずれも物語性を持ったかなり長いもの。
タイトル曲は、資料では「音楽のユーモア」と訳されていますが、実際は「音楽の気分」とでも言ったほうがあたっているでしょう。「愉快な気分」とか「憂鬱な気分」といったさまざまな気分を、さまざまな様式の作曲技法を駆使して表現した、16曲からなる大作です。400年以上も前の人でも、音で何かを表現するときには基本的に私たちと変わりがないのだなあと、おかしなところで感心してしまいました。
さっきも書いたように89年の録音ですから、エマ・カークビーを中心としたコンソート・オブ・ミュージックの絶頂期。作曲家の意図したことが手にとるようにわかる、配慮の行き届いた素晴らしい演奏です。

きのうのおやぢに会える、か。


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