その骨董屋に彼はいた。
彼は机に腰掛けて、その上に置いてある小さな絵を見ていた。
とても愛しそうに・・・・・・・・
彼が悪いものではないのは、一目でわかった。
勿論、驚かしたり怒らせたりするといけないから、すぐに話しかけたりはしなかったけれど。

ぼくも彼の見つめている絵を見た。
その絵は、金色の髪に青い瞳をした、少し怒っているようなきついまなざしの女の子が描かれていた。
本当にすごい美人だったから、ちょっとびっくりして
『すごい!正真正銘の美少女だ!』と心の中で叫んでしまった。
相手の力が強い場合は、しっかり遮蔽していないと全部のぞかれてしまうことがわかっていたのにね。
彼にぼくが見えているのが気づかれてしまった。
いくら悪いものではないとはいえ怒らせると厄介だから、ぼくは急いで謝った。
『ごめん・・・邪魔するつもりじゃなかったんだ。あんまり綺麗な人だったから・・・』
すると彼はとても優しげな笑みを浮かべ
『気にしなくていいよ』と言ったんだ。

「母さん、おれ、思うんだけれどさあ・・・・」
「何?」
返事をしたものの、同業者達と挨拶を交わすのが忙しく、おれの話などうわの空の母に少し強い口調で言った。
「なんでとうさんが書いたノートを渡してくれないんだよ。」
「コピー渡したでしょ?」
「そうじゃなくて、なんで少しずつ渡すのかってこと!それにノートに貼っていくなんて面倒だよ」
「渡したコピーをノートに貼って調べたことを書いて、感想を書く!わかった勇?
もう少ししたらオークションが始まるんだから!敵情視察という今は一番大事な時なのよ!」
「・・・それじゃあ、おれ先に戻って・・・」
「待ちなさい!もう少しの辛抱よ、勇。すぐ始まるから。」
母はにっこりと笑った。
やっぱり!絶対そうだと思ったんだ!ちくしょう!
「母さん、おれ嫌だからな、絶対に嫌だ!」
「あら?一体だけよ。これはね非常に珍しいビスクドールなのよ。ちょっとだけ変な噂があるけど・・・・だから!ね?ちょっとだけでいいのよ。」
母は再び微笑んだ。
「人形なんだね!人形なんだね!帰る!やだ!絶対にやだ!おれは・・・」
「ほら始まるわよ!」
母は逃げようとするおれの襟首をしっかり捕まえて言った。

「思ったより安い額で落札されたわね。残念だわ、予算の範囲内だったのに・・・・」
そうしておれの方を見ると
「買わなかったからいいじゃない。もういい加減に機嫌直しなさい。」
と言ったが、買わなかったからいいっていう代物じゃないんだ!!!
「おれがいなかったら絶対買ってたんだ・・・そうして家に持って帰って・・・・」
そこまでいうとおれは身震いした。
「もう少しで、おれが見えてるのを、向こうに気づかれる所だったんだぞ!・・・あの髪あれは・・・・
と、とにかくむちゃくちゃ怒ってた・・・・自分に触ったやつはみんな・・・・」
「みんな?」
母は興味ありげに聞いた。
これだから見えない人間は嫌なんだ!
「・・・もう話したくない!とにかく買ったら一生後悔するんだ!・・・・日本へ帰りたい!もうやだ・・・・・」
「何言ってるの、まだ今日で2日目よ。いい年してホームシックなんて情けないわね。」
あんたがこんな気分にしたんだろうが!と心の中でおれは叫んだ。